2019年01月07日

熟年超人の日 stage3 65

老人の屋敷から帰って2週間ほど経った
私はまだアパートに居たが、大家には夏が終わる頃に引っ越そうと思っていると根回しをしていたし、不動産屋に頼んで、今住んでいるK市の北の、山間地にある中古の別荘を何軒かリストアップしてもらっていた
妻には、T電から一部振込みがあったから、家を探していると言ってある(本当は老人からもらった金だが、通帳に振り込まれた額に、妻は上機嫌になり貴方の好きなように考えて、と言っていた)

また、T電のH本部長から昨日連絡があって、取り敢えず1億の半分は用意できたので、会社の口座に来週にでも振り込むことになっていると伝えてきた(老人の援護射撃があったからかも知れないが…)
様々な懸案が、やっと良い方向に向かい始めている感触に、私は少々楽観的になり過ぎていたらしい
その夜、久しぶりにジュブブの睡眠通信があった
前回の通信は、なんとなく私の行動に釘を刺していたような印象だったので、私としてはもしやご機嫌を損ねたのかと、ずっと心に屈託したものが澱のように沈んでいた

『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である』お馴染みのご挨拶とともに夢に現れた姿(夢が覚めた後には決して思い出せない姿)は、いつもの通りに感じられる
*お久しぶりです、ジュブブさん
『今回の通信は、この惑星における君の現在までの行動が、承認されたことの連絡である。すなわち、現在進行しているこの惑星固有の地域主義を受け入れつつ、超人活動を行おうという君の主張が承認されたということだ。ただし、君は当初我々が予定していた、この惑星における超人活動を極一部のみ履行すれば良いという訳ではない』
*ということは、F原発以外の事案にも積極的に関与せよ、ということでしょうか?
『その際忘れてはいけないことは、この惑星の特定勢力との連携活動は禁止されているということだ。当然、特定の人種、宗教、政治的配慮は、極力回避すべき活動と判断される』判断、とは誰が判断するのだ

*おっしゃっていることは、漠然とは理解している積りですが…、そもそもジュブブさん以外のどなたかが、私が超人になったことを把握しているということですか?
『それは当然である。官が名乗っている官職名からも、この件が当該宇宙を管轄している組織の一員であることが用意に推察できるはずである』…やっぱり
*では、承認して下さったのはジュブブさんの上位者ということでしょうか
『君の言う上位者という概念は我々の組織にはない。例えば官のみが、この太陽系を含む100光年ほどの球状域を観察していて、なおかつ現時点で活動している超人は2体で、候補体が8体であり、その管理観察記録は、官のみの職務になっている』
*その宇宙を管轄している組織って、どのくらいの規模なんですか?

『君が理解できるレベルでは数千体だが、この惑星の支配種族のカウントの方法なら数百億と認識してよい。それは、この惑星の生命体のように、分裂―結合-分裂型と異なり、宇宙文明種族の大多数が、融合―分裂―融合型か、純融合積層型であるところからきていると理解せよ』私のSF的思考が、かろうじてジュブブの意識を理解する
*ということは、私たちが珍しいタイプなので、観察してみようか的なことなんでしょうか
『その理解は、56.7%の問題把握力を示している。さらに付け加えるのなら、君がその理解力を持つことを、我々が認識したことが、今回の決定に繋がったと示しておこう』その意識を最後に、ジュブブの睡眠通信は消えた

なにやらお墨付きのようなものが与えられた気がするが、要は、このまま様子見だけしていれば良いのではなく、もっと超人らしい表立った働きもしなさい、それができなきゃライセンス返上になるよ、と伝えていたんだろうと、このところとみに柔軟度を増した私の頭脳が、そう解釈した
と言っても、普通に超人活動をするとなると、あの会社やらあの組織やら、あの国やらに対して、曲がりなりにも取り繕ってきた、私が有料受付の唯一の代理人である、という設定に齟齬をきたす恐れがある
なにせ、普通にスーパーマンが人助けするなら、無料活動に決まっているではないか
有料と無料の違いを設定してなければ、今後の超人活動によっては、一般人である私が世間の評価の対象にされるだろうし、場合によっては家族や親類縁者にまで、累が及ぶかもしれない
そう考え始めると、一気に私のテンションは下がってしまう
posted by ミスターK at 14:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年12月20日

熟年超人の日 stage3 64

I倉さんが店主と話をしている間、私は日本人同士の会話に入れず、店主が出してくれたYAKITORIを食べていたが、これがなかなか旨い。酔わないようにビールをちびちび飲っていると、I倉が話しかけてきた
『ここのマスターは、夜露のやり方が嫌いで、いつか警察に挙げられればいいのに、と思っていたらしいから、1軒おいた隣りの夜露で、物が壊れる音やら(や)のチンピラの喚き声が聞こえたとき、様子次第で警察にタレ込もうと耳を澄ませてたらしいんだ。じきに店の騒ぎは収まったみたいで、なぁんだと思っていたら、ドアが開いた音がしたんで、どんな奴が出て来たんだと思って、店の戸をちょっと開けて覗いてみたら、背格好は全く普通のおっさん(日本では中年以上の、ぱっとしない男性をこう呼ぶ)が出て来たそうだ』
『そこにYAKUZAの援軍到着で、その男は闘ったんだな』

『いいや、そうではない。その男は薄暗い路地に逃げ込んで、代わりに全身黒タイツの男が現れて、(や)達と闘い始めたそうだ。ここのマスターが言うには、喧嘩は割とよく見てるが、あんなに手際よく一方的に相手をやっつけるのは、初めてだそうだ』ワンサイドゲームか。それにしても、ある程度は喧嘩慣れしているはずのYAKUZA相手に、その手の訓練をした俺でも素手では、ちょっと難しいぞ、と思った
『日本には、そうした忍者がまだいるのか?』真顔で私が訊くと、I倉はいいや、という風に首を横に振った
『我々がよく知っている忍者は、もういません。しかし、どこかに隠れ住みながら、シュギョーしている者がいたとしても、おかしくはありません。この国には長い歴史がありますから』歴史ある国だということを、ことさら強調しているのはなぜだ

『そんなことはどうでもよい。それよりそのキーパーソンは、今どこに居るのか、君は知っているのか』肝心の質問の矢を放った
『K市に住んでいるらしいのですが、場所までは把握していません。ただ、県警内に親しくしている刑事がいるとか。県警でも夜露の件で、その人物を呼んだらしいのですが、上の方から指示があって、今では野放し状態らしいです』県警に親しい刑事がいるという重要情報が手に入った
『その刑事さんの名前とか、分かっているのですか?』単刀直入に訊ねてみる
『どうも、私に話をしてくれた人の部下のようですが、教えてはもらえませんでした。ところで、あなたは今回の事件を誌面でどう扱う積りなのですか』逆に質問された

『それについては、社の方針もあるので私の一存では答えられない。ただ、いろいろ親切に情報提供して頂いたので、私の個人的見解を明かすなら、どうやら日本人のある人物が、スーパーマンと忍者のコネクションを持っていて、そのことを把握している日本政府が、なにごとかを画策して、隠ぺいしているように思う』話しているうちに、それは確信に変わったが、そのことをそのまま本国に報告すれば、どのような事態に発展するかも知れないので、確証を得るまで、私の中に伏せておくべきだと、目の前の生真面目な日本人を見ながら、そう心の中で思った
『やはり、あなたは雑誌記者ではなく、A国の調査員なのですね。私も、同じような懸念に基づいて取材をしているので、本当の政府の狙いと、その日本のキーマンについてのより詳しい情報を集めますので、お国への報告は、今しばらくお待ち頂けないでしょうか。これは、お国のあの機関の庁舎の近くで学んだことのある、私のお願いです』なんと、このローカルペーパーの記者の見立ては、ほぼ正鵠を得ている。私は改めて、I倉という男の顔をまじまじと見た

『なるほど、あなたが言うように、もう少し詳しく調べたいのだが、あいにく私は、そろそろ帰国しないといけないことになっている。もし、あなたが私を信頼できるなら(…そして私もこの男を信頼するなら)、この件は今後お互いに連絡を取り合う、ということにしたらどうだろう』そう言って、私は右手を差し出した
彼は、その私の手を握り締めると『もちろんです!』と、きっぱり言ったのだ
posted by ミスターK at 14:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年12月16日

熟年超人の日 stage3 63

明らかに私が警戒心を顕わにしたのを見て、男(I倉)は屈託のない笑顔でさらに話しかけてきた
『私はK市で起きたある事件を追っています。そこで起きたことに関わる人物が、もしかするとこの辺りで起きた事件にも関わっているのではないかと、そんな予感に従ってこの辺りを調べているのです。あなたの雑誌社は、なにかオカルト的な事象を扱われているのですか?』なるほど、関わりがありそうな人物が向こうからやって来た訳か
『私がここの警察から聴き込んだ話では、ある人物が宇宙人のYAKUZA事務所襲撃に関わっているとか』まずは、魚が隠れていそうな辺りにルアーを放り込んでみた

『そうですか。実は私は、あのスーパーマンが県警本部にS会の金庫とデスクを運び込んだ時、あの現場に居合わせたのです。しかし残念ながら、スーパーマンが飛び去るところで、カメラを使う間もなかったのですが、何人かの目撃者から取材することはできました。ただ、KOANだと名乗る人物に口止めされたので、社にも報告できてない状態です』KOANがなんなのか、そのときは分からなかったが、後で調べると、日本のFBIのような性格を持った警察組織のようであった
『そのような重要なことを、なぜ私に伝えようとしているのですか』なにかのトラップだといけないので、自制して話しかけた

『そうですねぇ、なんで外国人の貴方に話したのかなぁ。王様の耳はロバの耳ってやつですかね』童話を引用して話すローカルペーパーの日本人記者とは!そこで、こちらから誘いをかけてみた
『英語がお上手なんですね。どちらで学ばれたのですか』
『若い時、A国に留学したことがあるんですよ。V州です』
『V、V州のどこの学校?僕もV州に住んでるんで。どこの大学?』
『ティームズ・マディソン大学、アリソンバーグの』思わずひゅ〜っと口笛が出てしまった。こんな異郷の地で近くの大学で学んだ人物に出会うなんて!
身長は6フィートに足らないが、体重は恐らく187、8ポンドくらいのその男が、急に好人物に見えて来た

『そうか、あそこはなかなかレベルが高いんだろう。なにを学んだんだい』親しみを込めて、そう尋ねた
『主に政治とマスコミの関係性ですが、こちらに帰って来てから、大手の新聞社やテレビ局を訪ねて就職を頼んだんだけど、結果は今の地方新聞社ですよ。でも、今回の事件に公安がからんだということで、僕は逆にファイトが湧いたんです』なかなか熱い男のようだ
『ということは、例のスーパーマンについて、日本政府は国民に隠しておくべきと判断したと思ったんだね』いいぞ、こんな男と出逢えるなんて、俺はついてる、と思った
『そこに、貴方も言っていた男が、スーパーマンと懇意らしいという話を4課の係長から聞いて、その上、以前この辺りであった、暴力バーで起きた事件とも関わっていそうだという話も匂わせていたんですよ』
ビンゴ!だっ。この記者からもっと大事な話が聴けそうだ

当然、このI倉と名乗った男もジャーナリストだから、ただでそんな情報を外国人の私に漏らす訳はないだろう。その隠された意図を探るべく、私は店主が持って来たスナックを食べ、もっとなにか料理を出してくれとオーダーし、ビールをI倉のグラスに注ぎ、続いてチューハイという酒を店主にオーダーした
『その男がからんだ事件、というのはYOTSUYUという店で暴れた話しかい。なんでも店をぶち壊して、その後応援に来たYAKUZAを、忍者みたいな男と一緒に撃退したとか聴いているが』ルアーを投げる
『そうらしいんだけど、忍者みたいな奴が現れたときには、その男は姿をくらませていたらしいんですよ』チューハイのジョッキを見つめながら、I倉が声を低めてそう言った
「俺も見てたけど、すごい奴でしたよ。黒装束で、ホント、ディスイズニンジャって感じで、S会の連中を、ぽんぽん放り投げたり、すっ飛ばしてね」店主が興奮した口調で、話に割って入って来た(もちろん、その時は話の内容はわからなかったが、I倉さんが後で教えてくれたのだ)
posted by ミスターK at 11:47| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年12月12日

熟年超人の日 stage3 62

L.C.から教えてもらっていた日本語は「YOTSUYUというバーを知っていますか?私はA国の科学誌の記者です。英語を話せますか?」の3つと、「スミマセン」「ドウモ」という言葉だけだった
随分心許ない話だが、その日私が探索する地区は、治安の良いこの国でも、相当YABAI(この日本語は応用性が高いということで、私のお気に入りだ)目に遭いそうな場所だと、L.C.が言っていたから、反って私の本来のやり方で情報を得られるだろうと、判断しての行動だった
もし重要な人物を見つけたら、L.C.に連絡して至急合流してもらい、件の人物からAという男の情報を入手するという、どう考えても乱暴なやり方だが、離日期限が間近に迫る中では、これしか打つ手が無かったのだ

酒を飲む人間でなければ酒を飲む場所を知らないのは、A国でも日本でも一緒だろう。まして、怪しげなバーで起きた喧嘩沙汰なら、この辺りで飲み屋を経営している者なら見てもいるだろうと、そう踏んでまだ薄明るいこの時刻に開けている店に飛び込んだ
「スミマセン、YOTSUYUというバーを知っていますか?」早速習った日本語を使ってみた
「よつゆ?知らんなぁ」カウンターの奥で、なにやら店を開ける準備をしていた男がぶっきらぼうに答えた
「英語を話せますか?」と訊ねてみると、首を横に振った後、ビール瓶を手に持って「飲む?」のジェスチャーをしてきた(ある程度英語は聞き取れているらしい)ので、うなづいてみせた

「YOTUYU知ってますか?」カウンター席に腰を掛けて、運ばれてきたビールをぐっと飲み干してから、もう一度訊いてみた
すると、なんだか分からない日本語で答えたが、こちらが分からないと両手を広げてジェスチャーすると、今度はものすごく聞き取りにくい英語が返ってきた
『知らない。そのバーこわれた。わたし、知らない』こんな感じだ
『こわれた、って破壊されたのか、それともつぶれた、と言っているのか』と英語で訊ねると、男(恐らく店のマスターだ)は『私、分からない』と英語で返事をした
そして、逆に『あんた、どこから来た。あんた誰?』と、たどたどしく質問を返して来た。これは分ったので
「私はA国の科学誌の記者です」と日本語で答える(これで覚えている日本語は出し尽くしてしまった)

「記者さん?ほんと記者さん。A国のマスコミの人?」これは、なんとか理解できたので、うなづいて「イエス」とやったら、それで勢いのついたマスターが喋り始めたので、話の内容は全く分からなくなった
困っていると、新たな来客があった
店のマスターが、その客(顔見知りのようだ)に、なにか話しかけてから、カウンター内の小さなキッチンで(恐らく)スナックを作りにかかった
『A国の雑誌社の方ですか』かなり聞き取り易い英語で、新参の客が私に声をかけてきた
『はい、そうです。私はパラノーマル・ライジング誌のレグマンをやっています』少しほっとして、思わず警戒心を解いてその客に返答をしてしまった
『そうですか、私はローカルペーパー西三新聞の、I倉と言います』よりによって、新聞社の者だと、その男は名乗ったのだ
posted by ミスターK at 11:32| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年11月18日

熟年超人の日 stage3 61

日本では、いろいろあったな、と飲みかけのマグカップをぼんやり眺めながらマシューは、あえて報告書に記載しなかった出来事の回想に浸っていた

あのビルの管理人に会った翌日、キーマンのAを探すため、L.C.は彼が住んでいた(いる?)というK市に向かい、私は、昨日警察本部の廊下ですれ違った二人の刑事が交わしていた会話(むろん日本語の)からL.C.が聞き取ったAについての不確かな情報を検証すべく、N市の歓楽街の調査に向かった
二手に分かれたのは、我々の調査日程が本局の都合で短縮されたことにあった。本国では、いよいよ大統領選もたけなわになってきていて、人手が足りないというのがその理由だった

キャッスルという名のホテルは、その名の通り日本的な大きな城(しかしコンクリート製だ)の近くにある。朝食を済ませた我々(どちらも自制していて、相変わらず別室だった)が、今日の調査の段取りを確認していたところに、大使館のジョナサンから連絡が入った
『こちらで入手した情報によると、Aという男はあの事件の前に、N市のYOTSUYUという暴力バーで騒ぎを起こしていたそうだ。そのバーの経営には、例のS会が関わっていたそうだ。重要なのはこの後だ。その騒動の途中から、忍者が現れてS会の増援部隊を蹴散らかしたそうだ。ネットに上がっていた動画があったんで、君のスマートフォンに送っておくから見てくれ』
そして、我々はAを救うために(そうとしか思えなかった)、忍者が現れたことを知った

Aという男(ジョナサンの報告では60才を過ぎた5フィート半くらいの小男らしい)が、キーマンなのは確かになったが、日本のマフィア・YAKUZA連中とことを構えているとなると、その調査をする我々にもなんらかのトラブルが生じることは避けられそうもない
L.C.は、わたしも結構強いのよ、と言っていたが、やはり彼女には昼間K市に行ってもらい、私もできるだけ日中にN市のYOTSUYUという店と、その周辺を探索することに決めた
その後、各々の部屋で報告書を作成して時間をつぶし、ホテルのレストランで早目の昼食を摂ってから、それぞれの目的地に向かった

L.C.が地下鉄JRを乗り継ぎ、K駅からタクシーでAの住むアパートメントに着いたのは、14時過ぎだったという。Aが昔A国で女性と付き合ったことがあって、その時出来た子が、はるばる父を訪ねて来たというストーリーで、まずアパートの周辺から聴き込み、少したどたどしい日本語を話す彼女は、親切心と好奇心がミックスしている地方都市の住民に大いにアピールしたのだが、肝心の詳細な情報はなかなか得られなかった
それでも、Aがよく近くのMANGAカフェ「It's-ZUKE」に行くという聴き込みを得て、訪ねたその店のスタッフからAと警察の人間がときどき会っていたという重要な情報を得た
その店を出たL.C.は、もう一度アパートメントに向かったところ、途中で二人の男に尾行されていることに気付く。歩調を変えた途端、もう一人別の男が前方を塞いだ

「ちょっとお待ちを、外人のお嬢さん」前方の男の、日本語の問いかけを無視してすり抜けようとすると
『待ってくれと、言ってるんだ』今度は流ちょうなA国語が後ろの人物から発せられた
『わたしには、あなた達に用は無いわ』と言っておきながら、バッグの中のベレッタを指先に感じたとき、別の一人が仲間をたしなめた
「おいおい、お前たちが物騒なムードを出すから、お嬢さんがテンパってるじゃないか」…『すみません、貴方がどなたかなんて気にしてはいないのです、我々は。恐らくA国の情報局の方なんでしょうが、あの人はここに居ませんよ。我々は命を受け、あの人を陰ながらお守りしている者で、まだ外国の方との接触は避けるように命じられておりますので、どうか、お引き取り下さい』丁寧ではあるが、有無を言わせない口振りは、決してYAKUZAなどではなく、ちゃんとした組織の一員であることが明白だった

『そうなの、あなた達は日本の公安の人たちね。なにを言っているのか分からないけど、わたしはA国の科学情報誌の記者なの、わたしはただ信じられないものを見たという人から、話を聞きたいだけなのよ』
『そういうことならそれで結構ですから、とにかくお引き取りを』その迫力に押され、L.C.はその場を離れた
友好国の官憲とはトラブルを起こさないのが鉄則だから(この時は日本の警察の人間だと思い込んでいた)

一方、私の方と言えば、夕暮れを待ってそれまで時間をつぶしていたデパートメントを出て、N駅の西側に散在する酒場の中から問題のバーを探し始めていた
posted by ミスターK at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年11月04日

熟年超人の日 stage3 60

「お宅ら、本当にA国の雑誌の記者さん?名刺かなんか持って無いの?」背が低いので下から上目づかいに見上げる目は、臆病そうではあるが油断のならないイタチの目だ
「そうです。わたしは、A国の科学情報誌パラノーマル・ライジングの通訳助手のアリス・デイヴィスと言います。彼は、取材記者のロジャーで、日本語が話せないので、わたしが代わりに質問したり、答えたりしてます。そして今日は、少し前にこのビルであった事件のことを調べに来ています」

そこまで聞くと、管理人の男は「はぁーん、こないだの事件って、上の階の?」と言うと、「お宅ら、ホントP連合から来た人じゃないだよね」と言って「ここじゃなんだで、まぁ中に入ってちょ」と手招きして、室内に招き入れてくれた(一部L.C.も分からない言葉だったが、録音音声に忠実に再現します)
部屋に入ると、ダイニングテーブルの椅子を我々に勧め、管理人自らヤカンに湯を沸かし、日本の茶を淹れてくれた。案外、好い人物のように思えてきた
「で、お宅らはA国のマスコミの人?」マ、ス、コ、ミ…ってなんのことだ
「そうね、マガジンリポーターは、マスメディアの一員ですね。わたしたちは、あの夜になにが起きたのかを調べています。貴方は、あの夜、その事件を目撃されましたか?」

「この取材は、謝礼があるのかね。なにも無いんじゃあ、話すことも出てこないんだなぁ」お茶を入れた持ち手のないカップを我々二人の前に置きながら、にまっと笑ってL.C.の顔を見る。私の方には視線が来ない
『この男は、金をくれと言っているのか』思わずL.C.に訊いてしまった
「イエス、わかってるわ、取材費の中に謝礼金も含まれているから。貴方のお望み通り、とはいかないかも知れないけど、話の内容によっては充分お支払する積りよ」L.C.が答えた
「あの晩、俺はこの部屋でビールを飲みながらテレビのくだらない番組を観てたんだ。そのうち、揺れを感じたんで地震だ、って思って廊下から外に逃げたんだ」

「外に出たのね」それじゃあ部屋で起きたことは見ていないんだ。当然、中の奴らとGの話も聞けてない訳だ
「それで、外に出て周りを見ても地震があったように見えなかったんで、部屋に戻ろうとしたら、3階辺りで大きな音がしたんだ。俺はてっきりP連合のカチコミだと思って、警察に電話しようと思ったんだが、ケータイを置いて来ちまってた。仕方ないんで、部屋に戻ろうとしたら階段の方から、なんだとー!なんだぁ!ってどなる声が聞こえてきたんだ。耳を澄ますと、あのおっさん知ってるのか、とか聴こえて、それからまた物がぶち壊されたようなどえらい音が響いて、なんかぼそぼそ喋る声がして、それからハジキ(拳銃)の音がして、ちょっとしてまたどえらく物がぶっ壊される音がしたんだ」
「それで、貴方は部屋に戻って警察に電話したのね」
「いんや違う、俺は少しだけ聞こえてくる話し声が気になったんで、こわごわ階段を上ったんだ」

「3階に着いたところで、通路廊下に顔だけ出して、耳を澄ましたらS会の兄貴分の奴の声と、もう一人声のいい奴の話し声が聴こえてきた。びびってたんだが、それでも気になってしょうがなかったんで、廊下通路に出ると、S会の若い衆が二人、部屋の方を見てるのが見えた。俺はあいつらに気付かれたくなかったんで、慌てて階段の方に戻ったら、ふっ飛ばされるみたいな音がして、それからメキメキっと物を壊す音が聴こえて来たんで、もう一度廊下通路を覗いたら、若い衆が二人でよろよろ逃げてくとこだった。部屋の中からは、音は聞こえてなくなったんで、恐る恐る部屋の方に歩いて行ったんだけど、部屋の中はぐっしゃぐしゃで、窓の所がぽかっと空いていて、S会の兄貴分のTとかいう奴が日本刀持って、ぼやっと立って窓の抜けたとこを眺めてやがった。あいつに見つかるとおっかないんで、俺は慌てて階段に戻ると、パトカーのサイレンが聴こえてきた、っというのが俺の体験談だ」

「ありがとう、じゃこれ謝礼ね」L.C.がバッグから封筒を出して管理人に渡すと「おっありがと。なんだ、これだけか、まあいいや」という声が聞こえた
「じゃ、部屋の方を見せてもらいたんだけど」とL.C.が言うと、「ああいいよ」と管理人は我々をエレベーターに案内して、3階に移動した
「あの部屋も随分ぶっ壊れちまって、S会の組本部も知らん顔かと思っていたら、どうやらオーナーんとこにその上の超大物から連絡があったそうで、近々修理が入るらしいんだが、今はご覧の通りだよ」
鉄製のドアは蝶番の部分で引きちぎられていて、ドア枠に立てかけられていて、我々はその隙間を通り抜けて室内に入った

室内は、3日前の夜に壊された状態のままで(警察からできるだけそのままに、と言われているそうだ)、ガラスの破片やきゃしゃな応接机が転がったままになっていて、日本刀や拳銃が落ちていたところには、テープで印が付けられていた
『こいつはすごいな』
『相当な力持ちみたいね』二人がA国語で喋っていると、管理人が気を揉んで話に加わって来た
「ひどいことになってるけど、結構丁寧に壊してるんだ」
「ていねい…、ああポライトリィね、ブロークンポライトリィと言ってるのね」この男にはそう見えるのか、と私は改めて破壊された室内を見廻した

引きちぎられかかっている鉄扉、そして室内を間仕切っている薄い壁に付いている、きゃしゃなガラス扉、その先にある安物の応接セット、までが一直線に破壊されている
応接セットのある方の部屋の壁は、他の部屋とは段違いに頑丈そうな造りになっているのだが、それにぽっかり四角な穴が残っている状態だ
警察本部にスーパーマンそっくりに、この部屋にあった大型金庫と執務デスクを運んだそうだが、その跡なのだろう。デスクの方は当然無くなっていて、その後ろの窓ガラスが枠ごと外されて、部屋の中に置かれている。そう、丁寧に、だ

ここまでのGについての調査を、以下にまとめてみた
1)Gは空が飛べる→方法は不明
2)Gは怪力である→N市の事件では非常に限定的
3)Gは日本語を話す→他国語については不明
4)Gは丁寧に物を壊す→繊細と言える
5)Gは人を殺さないようにしている→YAKUZAの攻撃を封じつつ負傷する程度に反撃している
6)Gは日本人のAという男を守ろうとしているかのようである→YAKUZAとの会話に登場している
7)Gは非常に冷静である→この事件全体を通しての印象
8)Gは拳銃の弾丸を跳ね返す→つぶれた弾丸が日本の警察に保管されている
9)Gは緑色に見える(それ故かグリーンマンと呼ばれている)
10)Gはフルフェイスのマスクをしているように見える(顔を見た者はいない)
補足→木製の大型デスクと金属製の大型金庫の運び方が、微妙に異なっていたという日本警察官の印象が我々の注意をひいた(詳細調査の必要を認む)

結論として、N市の事件ではGはマーヴェルコミックのスーパーヒーローそのものに思える
ただし、その行動はA国製でなく日本製と言えよう
デスモンド・ブライト調査官のF原発におけるGの行動軌跡とのコンシステンシーを至急図る必要を認む
以上
posted by ミスターK at 14:33| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説