2019年03月11日

熟年超人の日 stage4 06

破裂した水銀灯は計6個、監視カメラの排除には使えないかもしれないが、なにかの役に立つかもしれない
それにしても、両の掌に感じた衝撃は、超人になって初めてのもので、今後この技を使う時には、その点を留意しておかないといかんなぁ、と心に留め置いた私であった
まあ、テストはこれくらいにしてそろそろ出かけないと。腕時計を見る(影スーツも透視可)と、いつしか10時過ぎになっている

それからは、N市方向に向かって、飛び上がってはグライダー的な飛行を繰り返しながらの進行。そんな飛行では、当然スピードが出ない(時速100q程度か)
ただし、ぐんぐん飛ぶ感じのGスーツに比べると、すぃ〜っと滑空するこちらは、なかなかいい気分で飛行できる。その間、結構暇なのでGスーツと影スーツの違いを、つらつら考えを巡らせながらのお気楽飛行

なにせ、宇宙に飛び出せるし、マッハ4でも5でもスピードアップが可能なGスーツに比べると、この影スーツのアナログ感は半端ない。まるで、ジェット戦闘機と複葉の戦闘機だ。同じ宇宙人が用意してくれたとは、思えないような性能の差である。きっと、耐熱性や耐衝撃性も劣っているに違いない
二つのスーツのこれほどの違いは、一体なんのためなのだろう(あれほど合理的な考え方をするジュブブや、その上部組織が、ただの無駄をするとは思えない)いずれ、その用途の違いに思い当たることがあるのかも

Gスーツで飛行する場合は、地を蹴って飛び上がった次の瞬間には、安定した飛行が可能になる。対して、影スーツがムササビ的な滑空以外、そのまま強引に超人力で飛行すると、軌道が安定しないのは、慣れとかではなくスーツの根本的特性によるものだろう

超人になった今では、スーツなしでも宙に浮けるし、そこそこの早さで飛ぶこともできるのだが、初期の頃はともかく、この頃はスーツなしはなにか心許なく、まして宇宙になど行く気にはならない
というより、スーツなしではいかに超人と言えども、宇宙空間に飛び出せないだろう
…などと考えているうちに、下方の状況は灯りの少ない住宅地から、工場や倉庫の暗い影が並ぶT市の工業地帯に変わっている(遠くにひときわ明るく輝いているのがN市の中心部だ)

監視カメラの件にしても、P連合を潰しに行く積極的な理由の有無にしても、グリーンマンと私の関係に影忍者までからませたら、この先の私と私の家族の一般人の生活に、支障を及ぼすであろうことも、全て解決せぬまま、こうして無軌道に行動している私
定年を迎えた60才になる自分が、ブレーキをかけることができない現状に、なかばあきれ、そしてそれ以上に興奮している私もいるのも事実だ(超人化による若返り現象なのか!)

そんなことを考えながらも、目指すP連合のアジトがあるという灯りの無い2階建ての倉庫があったので、その屋根にふわっと降りる
倉庫の屋根と言えば、雨風だけ防げれば良いようなレベルの簡易な強度だが、影スーツは重力コントロールが得意らしく、みしっともいわない

耳を澄ませると、中にいる人物が観ているらしきテレビドラマの声が聴こえる
他には、いびきをかいて寝ている者が二人、麻雀らしきじゃらじゃらさせている音(つまり四人か)がする
監視カメラは、倉庫屋根の四隅と、1階のメイン入口と裏口、鉄製の非常階段で上がれる2階入り口の上、鉄条網で囲われている柵の四隅、そして隣接している別の倉庫の屋根から、この倉庫を監視・録画していると思われる1台。合計12台と、大盤振る舞いの設置数だ(それだけ警戒していないと、具合の悪いなにかがあるのだろう)
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2019年03月06日

熟年超人の日 stage4 05

キックボクシングジムを訪ねてから1週間ほど、ブックオブで購入した格闘技関連本(ボクシング、空手、ジークンドー、合気道等)を読破して、街の腕力自慢たちと同レベルくらいには格闘技を理解できた(ジムでの実戦が大いに役立った)
これで、格闘技を多少齧っていそうな連中を、できるだけ安全に倒すことができそうだと確信できたので、いよいよK刑事が教えてくれた、N市中区のP連合の隠れ事務所訪問(襲撃かな)の決行日と、影スーツ着用を決めた

このところずっとアパート近辺は平穏至極と認識していたが、念のための周囲偵察で、張込みらしき反応が皆無なことを確認した上での作戦開始であった

最近は影スーツの着用にも慣れてきて、二、三新しい機能も見つけていたのも、決行決定の一因だった
まず、ムササビのような滑空グライダー機能がスーツにあったこと(Gスーツに比べると飛行能力は劣るが、隠密性に優れている)と、着用時に体が触れている物体の表面と、視覚的に一体化(材質感もあるカメレオン的な能力)できること、もうひとつは腹話術のように、手近な場所から声を出すことが出来ることだ
どうやら私がスーツを使いこなせるレベルになったからなのか、明らかにGスーツに比べると、一般社会での汎用性が高い

今回は、車を移動手段とはせず(そもそも移動速度が遅すぎる)、在室のカモフラージュも兼ねて駐車場にそのまま置いておくことにした
電車での移動も有り得ないので、影スーツで地上を走るのかと思ったが、どこで誰に見られるか(走行中は、ぼやっとした影のように見えると思うが、路上の監視カメラを精査されれば、発見されるリスクがある)、分からないので、100mほどの高さにジャンプするか、高層ビルを利用して、その高さから滑空を繰り返しながらN市に向かうことにした

そのうち、夜も9時を過ぎたので、さあ出かけよう、とダイニングの椅子から腰を浮かせたとたん、携帯が鳴った。電話は妻からだった
「パパ、家に居るの?明日か明後日、パパの都合が良かったら一緒に“山の別荘”見に行こうかと思うんだけど」声の調子からは、機嫌が良くてかけて来たのか、意に染まなくて電話をくれたのか、どうも分からない
「あ…、うん、明日は用事が入るかも。だから、明後日がいいかな…」
「明後日は、お天気悪くなるって天気予報、出てたわよ」例によって、結論は出ているのだ
「そうか、それなら明日行けるように、調整してみるよ」…調整はP連合次第なんだが

妻にはほとんど相談せず、購入を決めてしまい、さらに非常時(どんな時に必要になるのか分からないが、富士の老人は熱心に勧めてくれた)の退避シェルター工事に取り掛かろうとしている今ではあったが、やはり妻には見せておかないと思っていたところでもあった
電話が切れた後、ちょっと出鼻をくじかれてしまったので、ついでに今夜のP連合襲撃の手筈をもう一度検証してみることにした(どうも最近、深く考えもせず行動してしまう…若返っているからか)

今回の動機は、やはり超人活動が思うに任せていないので、そろそろ成果を出したいというのが第一。そして、外国人の犯罪組織なら、手荒にぶっつぶしても、そんなに物議を醸さないだろうというのが二点目
もうひとつ引っかかっているのが、P連合が私を探している、というK刑事の話で、もしかするとこれは彼の作り話で、私経由でグリーンマンを動かして、P連合を潰してしまいたいから、なのではという疑念がある

そうなると、影スーツで動くのはどんなものか。どっちみち誰も死なせないようにやるからには、影が対戦している目撃情報が警察に伝わるだろう。すると、私とGマンと影という関係が明らかになってしまう。
それでは、今後の超人活動に差し障りはないか?いやいや、それよりむしろ一般人Aとその家族の社会生活になんらかの支障が生じるのではないか
と、考えると、今回の影は、あくまで影のごとき存在でなければならない。そこに注意して行動しよう、要は目撃情報を残さなければ良いのだから

襲撃相手の方は、超人力全開で素早くやれば、分からないうちに片付けることは可能だろう。そうなると後は、各所に設置されているであろう様々な監視カメラだ。それを無力化する方法がないか、私は改めてこの問題に、真剣に取り組むことにした

いずれにせよ、電気で動かしている監視(防犯)カメラは、どのようなタイプでも私の周囲偵察で感知できるから、位置の特定は簡単だ。問題は、P連合が設置している監視カメラのほかにも、市内の至る処にある防犯カメラと、最近多くなった車載カメラに映ってしまう可能性があることだ

そう言えば、なにかの本で読んだが、高高度で核爆発があるとかなりな範囲の通信・情報機器が機能停止するらしい。また、GPSの位置測定の誤作動の一因に、重力波の異常で起きたプラズマバブルが影響しているという記事も読んだ覚えがある
私の超人力には、重力のコントロール力が関わっているようだから、その力を応用して、監視カメラの無力化ができないものだろうか

これまでの超人力を発揮できた場面を顧みると、鉄属製品には大小問わず、力が発揮できていた。逆に、海の中や、地面に直接埋め込まれている物体や、木製のデスクなどを持ち上げたりする場合は、腕力勝負で切り抜けざるを得なかったことが、印象に残っている
エフワンの原子炉にもぐり込んだときには、ジュブブの助けもあって指先を高温にしたり、重力波を振動させて破損した扉を開けることが出来たが、あれはGスーツだけの特性だったのか、検証してみようと思いついた
と言って、この安普請のアパートで試してみる訳にもいかないだろう。N市に向かう途中にある、川べりでやってみることにした

夜のA川には、堤防道路を走る車が数台いるだけで、当然人影は無かったが、ムササビ滑空をしながらの周囲偵察と、超人眼に、カップルらしき人影が見える車が2台、河川敷に停まっているのが視える
それを避けて、少し下流に向かうと今度は完全に人けが無い場所があった
いっそ、と思ってさらに河口ちかくまで行くと、波消しのテトラポッドがあるので、これでなにか試してみるか、という気になった
まずは、指先に気を込めて、発熱を試みたがこれは変化なし。続いてテトラポッドを振動させてみたら、ピシッと深い亀裂が入った

超人眼で透視してみると、鉄製の型枠が入っているようで、コンクリートはその型枠からはがれるように、崩れ落ちている
コンクリート製の建物や、塀を破壊するのには役立ちそうだが、監視カメラの機能排除には結び付きそうもない
続いて、想像力を逞しくして、掌に重力波を集めるイメージをして、その両掌を激しく打ち合わせてみた。パーンという強い音が川面に響き渡り、川に架かっている橋の水銀灯が、ポンと破裂した
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2019年02月12日

熟年超人の日 stage4 04

ジムの中にいる、全員の眼つきが変わった。それまでの少し私を下に見ていたような視線が、食い付くような肉食動物の目になっている
「スパーリングは、ジムの会員で、一定レベルに達していると認定されてからやれるんだ。だから、まず入会手続きをしてもらわないと…」無理に自らに言い聞かせるように、インストラクターのO木が声を絞り出す
「ですから、ここがその入会に見合っているのか、そこを確かめさせて…」言いかけている最中に、スパーリングをしていた二人の、背の高い方がリングの上から大声を出した
「O木イントラ、俺その人のお相手しますよ!そこのAさんっていう人、スパーリングするなら、最低限ルール知っててもらわんといかんけど、大丈夫なんだよねぇ、その辺りはー」

「ああ、大丈夫ですよ。キックボクシングのルールは詳しくは知らないけど、相手に殴らせずにこちらのパンチやキックを入れられればいいんですよね」随分偉そうな物言いになったけど、こうでもしないと初対面でスパーリングなんてさせてもらえないだろうと、せいぜい演技する
「いいのか、T沢、来週試合あるんだろ」そう言いながら、O木氏はT沢という選手を止める気はないようだ
「じゃあ、上がって」相手をしていたスパーリングパートナーをリングから下りるよう促しながら、私をリング上に招き入れる
「どうもすみません、お相手よろしく。この格好で大丈夫ですか」O木氏に確認する(手には、さっきはめてもらった12オンスの練習用グローブ、足元はキックボクシングなので裸足だ)

「ええ、いいと思いますよ。さっきのお宅のパンチが打てるなら問題ないよ」ということなので、私はリングに上がった
O木インストラクターが、レフリーを務めてくれるようで、練習スパー用のヘッドギアもくれたが、とっても汗臭くて、着ける気にならない
「これ要らないんで」と言って断ると、相手のT沢選手もヘッドギアを外して、リングの下にいる後輩らしき人物に放り投げた。一気に雰囲気が険悪になった
O木氏が試合の注意をいくつかすると、ゴングが鳴り、はいっと私とT沢選手を試合わせる

T沢選手は、オーソドックスにグローブで顔をガードしながら、前かがみに私に迫って来る
一方、私と言えば、格闘技マンガからヒントを得たノーガードスタイルで、リング中央に突っ立っている
シュッと右足が私の左足を狙って蹴り出され、ほとんど同時に左ジャブが私の顔面に3発繰り出される
なかなかのスピードと迫力だが、超人の私にはさほどのスピードには見えなかったが、その攻撃をどう捌くかが難しい
いっそここは、老人の屋敷でB東さんに対したときのように、その足と手を払いのけようか、とも思ったが、それではわざわざキックボクシングジムに来た甲斐がない。そんなこんなで、ちょっと迷いながらの応戦になってしまった
それが良くなかった。一撃必殺の空手系のB東とは違い、キックボクシングは手数足数が多くて、どんどんくるから避けるのに手一杯になってしまい、試合の流れをリードできない。一、二発もらってみるのもアリかとも思ったが、なんとなく踏ん切りがつかない。そんなことを考えながら捌いているうちに、流した左足キックの後から、くるりと廻った相手の裏拳が飛んできて、右側頭部に被弾した

そのとき私の超人力が全開になり、この打撃を受け止めるべきか、受け流すべきかを判断する余裕が生まれて、一般人が観戦している中で、普通なら吹っ飛ぶほどの打撃を平然と跳ね返すのは不自然なので、受け流す方を選択、裏拳がヒットする寸前に頭を逃がして、後ろに重心を移動、結果、私は裏拳で後ろに大きく跳ばされた形になった
その手応えの無さは、相手のT沢選手だけが分かるが、周りで見ている者たちには分からなかっただろう
とにかく、これは良い経験になった。一定のルールに則って闘うスポーツ格闘技に、まともに付き合うには、ちゃんとした練習をしておくべきだが、その必要はない(競技を極めたい訳ではないので)
そもそも今回のチャレンジも、P連合をつぶしにかかる際に、暴力系の連中と渡り合うのに、うっかり相手を死なせないような手加減を覚えるために、というのがテーマだったのだから

ということで、ちょうど2分のゴングが鳴ったのでコーナーで小休止、相手のT沢選手を観察すると、いわゆる攻め疲れ状態で、呼吸が荒く、心拍数も相当上がっている
特に聴力感度を上げなくても、コーチ役の後輩が「最後のバックハンドブローは効いてますよ」と言っているのも、それに対して「いや、スウェーされてる」と返事を返しているのも聴こえてしまう
昔、格闘技マンガを読んでいた頃、こうした道場破りみたいなものに憧れていたが、そもそも超人と、鍛えているとは言え普通の人間との闘いなんてフェアじゃない、そう思うともうここはさっさと終わらせてしまうのが得策だと思った
次のラウンドが始まってすぐ、今度はこちらからささっと動いて、相手の顎先を狙って(ここに衝撃を加えると、脳が激しく振動して脳震盪を起こす、とマンガにあった)素早く右フックを放つと、的確にヒットし、相手は一瞬なにがあったんだ、と目を剥いてそのまますとんと後ろに倒れてしまった

その後、インストラクターのO木氏が懇願するのを何度もお断りして、ジムを後にした私は、真正面から真剣に闘おうとしていたT沢選手に申し訳なく、かなり気持ちが落ち込んでいた
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2019年02月08日

熟年超人の日 stage4 03

そうそう、こんな雰囲気だよな格闘マンガの出だしは…などと思い出し、ふっと口元が緩んだ
それが火を点けたのか、先輩格の男が私をじっくり眺めると「じゃぁ試したろか」と言う
若い方の男が先輩を見て「用意しますか」と答えた。リングの二人もサンドバッグとパンチングボールもこちらを興味津々で見ている
「お宅、なにか格闘技やってるの?」
「まあ、グレーシー柔術を少々」以前見た格闘技マンガの知識から答える
「ほぉ、そりゃ素人じゃないってことだ」眼つきが少し険しくなるが、私の外観からの印象がまだ作用している

「リングの上の方と、スパーリングできるんですか」すっとぼけてみる
「いやいや、そんなこと急には出来ないよ。まあ、やってみたいんなら、あそこのサンドバッグを叩くか蹴るかしてみてくれや」大分態度が横柄だが、怒らせたのがこっちだから文句は言えない
「じゃあ、この格好でいいんでしょうか」ちなみにその日の私は、秋らしさが増したその日の季節感を反映して、ダークグリーンのコーヂュロイパンツに、イエローオーカーの薄手のセーター、こげ茶のツイードジャケット(実のところ気温は全然気にならないので、服なんてどうでも良いのだが、大都会のN市に合せてちょっとお洒落したのだ)といういでたち
そして手にしたダッフルバッグに、着慣れた紺のジャージの上下が入っている

「その格好で?」先輩のあきれたような顔
「いやいや、持ってますよ、ほら、これに着替えますから」
「なら、さっさと着替えて。それと、これでお宅のレベルに納得いったら入会手続きの説明があるから」おいおい、まだ入会するなんて言ってないんだが、まあいいか、とその時の私は自分の超人力の調節を、どう乗りこなすかに気がいっていた
若い方がロッカールームを教えてくれたので、そこでジャージに着替え、皆のいるトレーニングルームに戻る
「自分は、インストラクターのO木です。お宅さんは?」客になるかも、と気付いたのかやや丁寧な応対になった
「Aです。Aと申します」簡潔に答える

「じゃあ、そっちのぶら下がってるサンドバッグを、Aさんが思うように叩くか蹴るかしてみて」そう言うと、若い方が持って来たクリップボードに鉛筆でなにやら書き込む
サンドバッグは、天井のレールから5本、太い鎖で吊り下げられていて、黒い表皮は革なのかビニールなのか、とにかくずっしりぶら下がっている
一応、後で古武道をやっていた、という種明かしをしたいので、サンドバッグを前にして、ちょっと腰を落とした格好で、それらしく構えてみる
それを見ても、インストラクターのO木氏は特に関心を示さず、じっと見ている(格闘技好きの中年のおっさんに見えているのだろう)

すっと息を吸って詰め、腰をきれいに回しながら右足で、かなり思い切り(超人力60%解放で)サンドバッグを蹴った。バシッと破裂音が響いて、サンドバッグが大きく揺れた
見ていたジムの全員が息を飲んだのが判った
続いて、左足で同じようにサンドバッグを蹴ると、前の衝撃と揺れるタイミングが合って、さらに振幅が増す
「ちょっ、…すみません、貴方、経験者ですね。キックじゃないと思うけど」思いがけないものを見て、O木氏が思わず、といった風で弾んだ声を出した
「古武道を少々学びました」そう、こういう応答を、してみたかったのだ
「今度は、リズミカルにやってもらえますか」古武道、には、さして関心を示さず、O木氏が真顔で言う

「フットワークをからめて、ということですね」こちらも一応調べてはきたので、そう答えてステップを踏みながら、サンドバッグに立ち向かう
動きながらとなると、ちゃんと練習してないのが分かってしまいそうなので、スピードも超人力開放度60%くらいで動きながら(残念ながらリズミカルにはできないが)、シュパッ、シュパッという感じで、左右のキックをサンドバッグに浴びせる
ピシッピシッという音が響いて、サンドバッグの表皮が弾けるように打撃が加えられているのが、その場にいた者の目にも見える。そして、動いている私のスピードが並大抵のものでないのが、誰にも判ったようだ

「すごいなぁ、お宅さん。こりゃ、こっちのレベルが知りたい、って言うの分かるわぁ」O木氏が心底驚いたという表情で声を出した
「スパーリングって、今やれるんですか?」誘いをかけてみる
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2019年02月05日

熟年超人の日 stage4 02

私の心の中の若返っている部分が、それを聞いて敏感に反応する
この国で、やっつけても問題が無さそうなのは(や)関係だろう。まして、外国人のギャング組織なら、後でどうだこうだと言う連中なんてのは、ほぼ皆無だろう
ちょっと世間様を気にし過ぎな超人だなと思うが、ま、仕方ないだろ。なんってったって、妻子がいる間は、いろいろ気にかけてやらなくっちゃぁいけない
任期は100年だとか言っていたから、妻があの世に逝ったらどこかに姿を隠して、息子と娘が亡くなったら、もっと遠くに行って、本当になにかあったとき以外は、全く自由に活動できるだろう。そう50年くらいかな
(そう考えを進めていると、不意に寂寞感が私を包み込む)

それでも、ジュブブに心配(?)されるほど仕事をしていない私は、K刑事からP連合について情報を聞き出した(Kは「俺の仕事をあんまり増やさないでくれよ」と言いながら、N市の隣りの市にある彼らのヤサを教えてくれた)。察するに、KとしてはP連合にS会事務所と同じ運命を辿らしたい、と思っているようだ
それで、P連合のアジトを片付けに行く気になったのだが、私としては影スーツや、素の私で暴れる際には、もう少し格闘技を習っておくべきではないか、と考えた
かの老人邸で、武術を極めた者が超人に対しても侮れない力量を示したことが、心に引っかかっていたからだ
それに、相手が素人だったり、血気盛んな乱暴者だったりしたときこそ、格闘技の技が活きるのではないかと考えていたからだ

早速PCの蓋を開けて『N市 格闘技ジム』でググってみる
いろいろあるが、ここは“総合格闘技”を謳っている道場と決めた。なんだかわくわくしてくる自分がいる
ところが、行ってみるとブラジリアン柔術という関節技主体(キックボクシングもあったが)の健康的なジムで、格闘技マンガに出てくる凄味のある門下生や師範と言うより、あくまで明るい接客だったので、道場破りなんて出来ないとあきらめた
続いてもうひとつの候補[SDキックボクシングジム]を訪ねると、こちらはビシビシいけそうな雰囲気で、若くて強そうな(以前だったら目を合わせたくないような)のが5〜6人、激しく体を動かしている

そこで、普通に「ごめんください」と声を掛けたのだが、ちらっと私を見て、なんだ中年(最近は40代くらいに見えるようだ)のおっさんか、といった感じで、木で鼻をくくったような返事が返ってきた
「今、コーチ居ないし、ウチはエクササイズ系じゃないから」
「すみません、入門するかどうか、この事務のレベルを知りたくて伺ったんで…」ちょっと刺激してみる(新規訪問の会社でよく使った手だ)
「はぁ?なに言ってるの。お宅さん、言ってる意味分かって言ってるの」俄然ピリピリムードが、その若い男から発散され始めた

「いや、だからこちらさんのレベルがどれくらいか、試させてもらってですね…」
「あんたぁ、いくら格闘技マニアさんかも知らんけど、そんな口きいてると、思いっきし痛い目みるよぉ」随分怒り易い奴だ
「あなたは、こういった場合、レベル見せてくれられるレベルなの?」すっとぼけて、もっと煽ってみる
「おいおい、なに揉めてんだよ」目の前の若いのより年上(30手前?)の男が、こちらに歩み寄ってくる。リングの上でスパーリングしていた二人も、動きを止めてこちらを見ているし、サンドバッグを蹴っていたのと、パンチングボールらしきものを、叩いていたのも手を止めている

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2019年01月27日

熟年超人の日 stage4 01

あの時から、7ヶ月が経っていた
巷のクリスマス音楽に促されるように、私も妻の巧妙な根回しと息子夫婦のお誘いで、Y市にある息子のマンションでイブの夜を祝っている
ほんの2日前には日本海側の地方都市で、大規模な昼間火災事件があって、私もK市のアパートからGスーツ装着で飛んで行ったのだが、街の上空には何機も報道ヘリや消防ヘリが飛んでいるし、そもそも火事になっている場所では、消防関係者が果敢に火災と闘っていて、どこをどう手伝えば良いのか戸惑うばかりだった
そして私は未だに、衆人環視の中で超人として活躍することに、躊躇するものを覚えていた

その大火災の前にも、二度ばかりGスーツ向きの出動のチャンスがあるにはあったのだが。一度目は、近県で開催されたG7会議に出席している、各国指導者を狙ったテロに備えて、会場近くでスタンバイしてはみたが、別に何も起こりはしなかった(まあ、広範に展開される警備体制の実態を観察できたことは、今後の役に立つかも、くらいの微小な成果はあった)
二度目は8月に日本に接近して来た台風に備えて、あらかじめ予想コースを先回りしてみたときで、強大な自然の猛威の中に身を置いていては、いかな超人と言えども、至る処で同時に発生している種々の破壊状況を、ただ傍観するのみでしかなかった
結局こういった自然災害には、私の超人力では対処できないと悟った(仮に、なんでもありだとしても、超人力が発揮できるところに居合せようがないではないか)

それでも、なにか超人として人助けをしなければならないと、影スーツで夜のパトロールなど始めてみたのだが、そうそう事件にぶつかるものではない
かと言って、以前知り合ったマスコミ関係者のDという男も、あれからなんの連絡もない
そうなると、なにかこちらからアクションを起こさねばと、人の心理としてはそうなってしまう
それで思い出したのがあのぼったくりバーのことだ
あの店は、どうなっているのだろうと、素の私が思いついた

夏の頃は昼間、普通人のAとして不動産屋が送って来る中古別荘情報を元に、現地まで車(購入したばかりのスバルの中古車)で出かけて、別荘周りの環境(なるべく周囲に人が住んでいないこと)や、シェルター設置の改造に適した物件かどうかを、チェックするのに意外に時間がかかり(超人なので疲労はしないものの)、精神的な切迫感をひしひしと感じていた
いっそ国外の紛争地にでも出かければ、超人的らしい働きも出来ようが、そこから波及していくであろうトラブルの連鎖に、自分が耐えられるか(仮に、一般市民を独裁者や暴力組織から救ったとしても、それでことは済まないことは、これまでの経験で熟知している)、常識人としては気が重い

それから、週3のペースでN市の飲み屋街に出向いたが、酔っ払いの喧嘩を2〜3回収めたくらいで、そうそう(や)にも出くわさず、まして凶悪事件にも遭遇しないまま、夜の街にもいつしか秋風が吹き始める
それでも、K市から50q程度の山間地に、格好の別荘が見つかったので、斡旋してくれた不動産屋の紹介してくれた地元の建設業者と、シェルタールーム設置の交渉に入ってはいた

そんな頃、久しぶりに県警のK刑事から電話があって、S会の上部組織のT組の対抗勢力のP連合(パシフィック連合=中国+東南アジアギャングの連合マフィア)が、私を探しているらしいと告げて来た
posted by ミスターK at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説