2019年10月19日

熟年超人の日 stage4 18

「AとAの家族のフォローですが、上にはもう離れろ、と言われているんですが、私としてはこの国のために、繋がりは残すべきだと判断しました。そちらからご覧になって、復活の芽はあると思われますか」
「あるだろうな。今回の件は、A国さまの大統領選挙が、どうやら共栄党候補のディック・ボスマン氏が、ここにきて優勢になっていることへの配慮なんだ」
「本命視されていた民進党のアイリーンさんは、あの問題で失速しちゃいましたもんね」

「今回の大統領選は、いろいろあって着地点が見えにくいんだよ」そこまで言ったとき、店員がコーヒーを運んで来たので、M原もD田も口をつぐんだ
「うん、旨いね、ここのは。これぞ珈琲ってやつだな」軽く鼻先にカップを寄せてから、ぐびっと飲んでM原が、満足げにうなづく
「私も、ここのを飲むと、庁舎のが不味くなって困ります」D田が相槌を打つ

「さっきの件だけど、どうもお山の大御所さまが押してるらしいんだ、彼を」
「A、…ですよね」分かり切ったことにも、念には念を入れておくのがD田だった。M原は大きくうなづいている
「あっちはあっちで、もしもボスマン氏になったら、A国優先主義の彼だから、スーパーマンが日本に居るなんて許せん!みたいに、本気でクレームをつけてくるだろうって、消息筋のご託宣があったらしい」
「そこを忖度、ですか…」D田は、2個目のコーヒーシュガーを入れながら、控えた方がいいかな、と逡巡した

「どうも、彼の、いや彼なのかどうかはまだ不明だったな、まあいい、彼の能力を真剣に調べたらしいんだ、やっこさんたちは」
「それで、これはモノホンのスーパーマンだ!って、なったんですね」
「そりゃそうだろう、なんせ1万トンもあるメガフロートを持って空を飛ぶは、超高度の放射線で溢れ返ってる原子炉内で動き回れるは、だろ。空を飛べることだって、理論的な解明が無いんだから、そりゃ日本なんかに任せちゃ置けんだろ、俺だって放っとけんと思うよ」

「彼が、我が国に居てくれれば、かの人物を介して、いろいろ伺える可能性がありますし、F原発以外にもお手をお借りしたき件は、山積みですもんね」
「おっと、次の会議があるんだ、俺はこれで失礼するよ。一言助言するなら、しんどいことの先に楽しいことがあるってぇのは、お互いボートで味わったよな。お山の大御所さまとコネクトとっておくのもアリかな」それだけ言うと、じゃぁと片手を挙げて、クラシック音楽の微かに流れている席から立ち上がった

自席に戻るとT垣がやって来て、15時に第4会議室にお集まりくださいますよう、O原参事官から連絡がありました、と伝えてくれた
さっきのM原さんの言っていたことに、からんだお達しが出たのかな、と思いながら、ごく普通に「ああ、そうですか」と返答する
「先ほど、B場課長が慌てて参事官に内線してから、部屋を出て行かれました」小声でそう付け足すと、失礼します、と大きな声で言ってから、T垣は自分の席に戻って行った

3時の会議は、いよいよ共栄党のボスマン候補がテレビ討論で優勢になって来たので、案件Gについては政府の見解が、ほぼ一本化されて、関わりを強化するという方針に転換するというものだった
「関わりを強化すること、すなわち重要人物Aへのフォローを再開せよということだ」日頃、内閣方針についてやや斜めに見ている感の強いO原参事官の、思いがけずポジティブな語調に、公安二課、外事第二課のみならず、日頃はあまり同席しない第一課長、第三課長、外事第一課長、外事第三課長も合わせての会議参加者たちに緊張が走った
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2019年09月29日

熟年超人の日 stage4 17

Aは少々あせりを感じていた
奥三河の別荘では、TM工務店の補修工事が始まっていて、シェルター工事と併せると、最終的な費用見積もりは1500〜2000万くらいになるだろうということだった
富士の老人からもらった2千万と、5月から7月にかけて、T電のH本部長から(株)グリーンリィへの振り込まれた3千万円があるものも、車の購入費や生活費ほかの諸々で、先行きはやや心細くなっている
そもそもシェルター設置については、全く考えていなかったのだが、富士の老人から「おぬしが日本人として自由にふるまう為には、家内の安全確保が必要なのじゃ」と言われて、なるほどと思い当たったからであった。老人は、外国諜報機関の関与はこの先必ずある、と言い切り、わしも気にかけているが、と言い添えた

5月にあった連絡の際、H本部長が約束してくれた5千万円の一括振り込みは、その後のT電の社内監査の都合で、5ケ月間に渡って毎月末に1千万円ずつ振り込まれることになったと、メールの連絡があったのに、7月末を最後に、8月、9月と振り込みがなかった
この調子で、10月末にも振り込まれないようなら、H本部長にこちらから催促をしなければならなくなりそうだが、この先の自身の立ち位置を考えて、鷹揚に連絡を待つべきか、気持がさだまらない

H本部長の連絡も、途絶えたままの状態だが、そのほかにも以前は身辺を離れなかった公安の監視体制にも、変化が見え始めているように思える
自分、いやグリーンマンの存在は、今の日本にとって必要で無くなりつつあるのか、他にも気になると言えばジュブブの睡眠通信も途絶えたままだ。なにかと指示のような提言のようなことを言ってくるジュブブは、煩く感じられる時もあるが、超人人生においては、まだまだ頼りにしたい存在だったことを、このところのAは痛感しているところだった

なり初めの頃の、何でもできる天下無敵の超人のイメージはどこへやら、なにかにつけて世間のしがらみの強靭さを思い知った今、それこそ“こんなはずではなかった”という気分だった
それもこれもみんな、自分の選んだ道に起きていることであり、あの日あの男から委託された“超人”という生き方が、まだ数ヶ月しか経っていないことを思い返し、この先の99年と何ヶ月かの行く末が思いやられた

*

同じ時間帯の中で、そんなAとは立場も生き方も異なる人々が、様々な場所で、ある意味似たような心境に陥っていた

*

「待ったか?」屈託のない声をかけて来た人物は、D田の大学時代の先輩であり、内閣情報調査室 国内部門1課課長のM原だった
T大漕艇部エイトクルーのバウ(船首部)クルーだったM原と、ストローク(船尾部)クルーだったD田とは、真に呼吸の合ったクルーとしての互いの存在感が、こうして年月を経て、権謀術策渦巻く中央官庁のキャリア官僚となった今も、心の拠り所になっていた
「お忙しいところ、すみませんでした。ここのコーヒーは、先輩と飲むときだけにしてるもんですから」
「そうか、僕もだよ。気が合うなあ、お互い」気心の知れた者にだけ見せる、魅力的な笑みを浮かべて、長身を軽やかにたたむように腰かけるM原の着席を待っていた店員が、注文を取って去るのを待って、D田が口を開く

「あの件ですが…。726の様子見令が出てから3ヶ月、その後の動きはどうなってるんでしょう?」
この大型喫茶店M屋は、警視庁からも内閣府からも近い霞が関ビル内にあり、高い各ボックス席の仕切りと、中央官庁街らしい客層による密談向きな落ち着きが、二人とも気に入っているので、こうした込み入った会話を時々していた
「それは、アチラさんの選挙結果が気になってるアノ方のご意向なんだから、1108の結果次第ってところだ。分かるだろ、共和党政権になったら、きっとあれやこれや言って来るだろうな、ってびびってるんだ」興味を失ってしまうと、この人はすぐ態度に出してしまうのが、数少ない欠点だな、とD田は理解していた
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2019年08月24日

熟年超人の日 stage4 16

同じ日、M代は夫のAと二人で、奥三河と呼ばれているA県東北部にある別荘を訪ねていた
この別荘は、夏の終わり頃に突然購入したいとAが言い出したもので、秋を迎えた今、良い物件が見つかったから、とにかく見て欲しいと連れて来られたもので、家族が安心して暮らせる家だということだった
別荘とは言うものの、14〜5年前に、夫の事業の借金の穴埋めに、それまで持っていた家を手放してから、アパート暮らしの夫と、息子の家に同居させてもらっているM代にとっては、久しぶりに持つかも知れない我が家の話に、心が高揚してくるのを押さえられなかった

その別荘に、夫が新しい仕事先から得た報酬で購入したスバルの中古車で、夫のアパートのあるK市の北にある、T市の山間部の現地に着いたのは、そろそろ昼食どきになる頃だった
中古の別荘だと聞いていたので、もう少し古ぼけた家を想像して来たのだが、駐車した場所から見上げた処に建つ家は、すっきりしたコテージ風の外観が特徴の、鋼板屋根のウッデイハウスと言ったところだ
ここからが別荘の敷地だと告げているように二本の丸太が、門代わりに立っている
そのまま車で敷地に入って、適当な処に車を停めて眺めると、雑木林を背景に、家は緩い傾斜地の陽だまりに、寛ぐように建っている
山荘らしい高床式の構造で、8段の木の階段を上がると、玄関と2mほどの奥行のウッドテラスが、建物を囲むように広がっていて、この家の住み心地の良さを物語っている。M代は、この家がいっぺんに気に入った

階段下で待っていた不動産屋と工務店の担当者に勧められて、家の中に入ると微かにカビっぽい臭いがしたが、先に室内に入った不動産屋の若い担当者が、勢いよくカーテンを開けると、二間続きの木の床のリビングに秋の陽光が流れ込む
窓から見えるのは、ウッドテラスとその先に庭とは言えないような空き地と何本かの雑木と、その先には秋の里山の景色が広がっている
10mほどの間隔をおいて、お隣さんになる別荘が並びで2軒あるだけだが、そんなに遠くない距離に集落があり、そこから国道を30〜40分走れば、T市の市街地まで行けると、運転中にAが言っていた

「建物は15坪ちょっとですが、敷地全体の広さは413坪ありますので、将来的には充分増築が可能ですし、なによりこの恵まれた自然環境がウリなんです。売主さんも家庭菜園をやられたり、バーベキューなどで別荘ライフをエンジョイされておられましたが、あいにくご主人様のお仕事のご都合で、手放すこととなりまして…」不動産屋の担当者がぺらぺら喋っている間、工務店の担当者は技術屋らしく生真面目な表情で立っている
「それで、ここに年間通してちゃんと住めるように、こちらのTM工務店さんが、リニューアルしてくれることになっているんだ」夫のAが補足する
それにしても手狭な家だわ、と思ったM代だが、1階のリビングとキッチンダイニング、化粧室・バスルームが整っていて、寝室とユーティリティルームになる2階の板張りの2間は、清潔感があり、なにより光溢れる明るさが嬉しかった

不動産屋が「それでは、奥様もお気に入られたということで、よろしいでしょうか」と念押しをしてくるので、M代は夫のAの、鄙びた山村に引っ込みたいという気持ちを汲んで、笑顔で頷いて見せた
それから、夫が工務店の担当者となにやら話し込んでいるので、M代は手持無沙汰になっている不動産屋に話しかけてみた
「それで、この別荘はおいくらなんですか?」
「この物件は800万円ですが、ご主人のおっしゃるように改築すると1400〜1500万円くらいになります」

そんなにするの、と思うのと同時に、一体夫にそれが払えるのか、と不安になる
いつも夫はこんな調子で一人で決めてしまう、と出そうなため息を呑み込んでおいて、にこっと微笑む
「そう言えば、そんなこと言ってました。年とったせいか、忘れっぽくっていけないわねぇ」
「しかし、ソトチカを頼まれる方は、最近増えているらしいですね。ウチは今回初めてのお取扱いなんですが、TM工務店さんはT自動車さんの発注で大型のも含めて、大分実績がありますから、きっと安心できるものになりますよ」
「あの…ソトチカって、主人は家の外に地下室でも造る気なんですか?」

「あ、いやいや、例のいざってとき用のシェルターですよ。まあ防災用なんで、大地震とか津浪、火災くらいまでなら耐えられるようですよ。まあ、津波は無いか。普通、家の地下に埋めるんですが、こちらはご覧の通りの高床造りなんで、下に置いてコンクリートで固めようか、って言われてましたよ、ご主人」そんなことまで、もう決めてるんだ、と思うと同時に、それが安心して家族が暮らせる家ということかと、腑に落ちた
でも、そんなもの造るより、もう少し広く出来ないのかしら、とも思ってしまうM代だった
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2019年08月14日

熟年超人の日 stage4 15

「Kさんは、なんだかどっしりしてきましたねぇ」
「いやぁ、もうじき親父になるんで、貫録アップ中なんだわ」
「そうか、そう言えば以前お会いしたときに、年内くらいにパパになるっておっしゃってましたよね」如才なく話を続けるDの面持ちにも、なにやら余裕が垣間見えることにKは気付く
「Dさんも、いいことあるんじゃないの?」さらっと、カマをかけてみる
「いやぁ、分かっちゃいます?僕も、そろそろ幸せになっても良いかな、なぁ〜んて思っちゃったりしまして、ですね」

「そうか、ご結婚のお相手を絞り込んだ、ってとこかな」
「ピンポーン、当りです。さっすが、推理力も半端ないっすね」会話でじゃれあうばかりで、お互い本題に入れない二人ではあった
「ところで、どうですか最近のA氏とグリーンマン氏の動向は?メールの行間から読み解くと、進展があったと判断したんですが」
「当りだわ、それ。新顔、と言うか、また出たんだ『夜露』事件の忍者野郎が。しかも、今度はAの用心棒役ってことなんだわ」一気に結論まで喋ったK刑事の様子に、Dは驚いた。
なぜ、秘密じゃないんだ、そんな重要な話が

「そうなんだ、あのときのなんとかレンジャーのことでしょ、忍者って」
「本人が“忍者”って、言ってるんだよ、にんじゃだって」
「本人のネーミングか。ちょっと古いな、語感が…」
「そりゃ、定年退職者の言うことなんだから、いま風のネーミングって訳にもいかんだろう」
「しょうがないっすよね、本人曰くなんだから。それで、その忍者が…」
「今度は、外人マル暴の事務所をひとつ、ぶっつぶしてくれたんだわ」
「そりゃすごい。県警、大助かりってとこですね」

「まあな。その忍者さんが気が効いていて、いろいろ大事なモノを、持って来てくれたんで、ウチらも助かったことは事実だよ」
「で、その忍者さんは、Aの相棒ですか、家来なんですか?」
「その辺はよく分からんが、ご本人さん曰く、Gが寄こしてくれたボディガードなんだそうだ」
「ボディガード?宇宙人がボディガードを付けてくれたって!…それ、ホントですか」
「まあ、本人はそう言ってたよ。なんだか話が、変になってる気がするけどな」目の前のコーヒーを見つめて、そう言うKの声が少し沈んでいる

「それは、Aさんが話を作ってる、ってことですか」
「う…ん、じゃないかと俺には思えるんだ。だってそうなると、宇宙人のGが事故ってたとこを、Aが助けてやったから、Gがその恩を返そうとAの頼みを聞いてくれるという話も、裏があるんじゃないかと…」
「…疑いたくなる、ってことですね」
「まあ、嘘は吐いてないにしても、後出しだってことが、引っかかるんだな、どうも」
「すると、A氏の話も若干、か多めか分からないけど、その忍者さんが一体どこから湧いて出たのか、そいつが問題なんですね」

「じゃあ、いい手があります。今度、ウチの局で“巷のウワサを掘り下げろ!”って番組がスタートするんで、そこにAさん、呼んじゃいましょう」Dの語り口が熱っぽくなった
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2019年08月03日

熟年超人の日 stage4 14

メールは、TテレビのリポーターDからのものだった
〈おひさしぶりです 今日の企画会議で久々に黒レンジャー(N市の飲み屋街で暴れた怪人)を取り上げることになりましたので お伺いしたいのですが、ご都合はいかがですか?〉
背の高い、快活なDの笑顔が思い浮かび、明日の夜ならOK、と返信しようとして、ふと指先が止まった
Dに教えたいことがあるにはあるが、今のタイミングでマスコミ関係者にリークするようなことになって良いのか。公安のD田警視とAのことが脳裏を過ぎる

マスコミの連中は、一旦知りたいネタの匂いが嗅げれば、すぐに走り出す習性があることは、Kも先刻承知だったが、グリーンマンがエフワンで大きな力を見せたことを知っているKから見ると、その後すっかり立ち往生している現状に、憤懣やるかた無いところでもあった
恐らく、政治やカネやの利権争いで、にっちもさっちもいかなくなっているのだろうが、困っている現地の人たちのことを思うと腹が立つ。所詮一地方公務員の、それもぺいぺいの自分にはどうすることもできないと、このところ切歯扼腕状態になっていたKにとって、Dからのメールは天の啓示にも思えるものだった

このタイミングで、グリーンマンとの連絡役のAに“忍者”というもうひとつの影の力があることが判明すれば、今回の原発廃炉の一挙解消を妨げている複雑な利害のベクトルに、なんらかの変化が起きるのではないか
ただ、このことをD田の耳に入れれば、間違いなく極秘扱いにするようにと、命じられてしまうだろう。いやそれより、Aとマスクマン(黒レンジャーはないな…)のつながりについて、より詳しい報告を求められるのは必至だ
そのことと、俺から“忍者”の存在が漏れたと知ったら、Aはどう思うかも気がかりだった
いや、なぜAは俺に“忍者”というガーディアンがいることを教えたのかも、ひっかかっている

もしやAも、進まぬ現状に苛立ち、新たな突破口を与えるべく、その役を俺に振ったのだろうか
すると、“忍者”がP連合の存亡に関わる重要機密の奪取を、いとも簡単にやってのけたことこそが、F原発の廃炉をめぐる様々な組織や黒幕の存在についても、好きなときに白日の下に晒し得るぞ、というAからの警告なのではないだろうか
もし、そうでないとしても、脛に傷持つ者たちには、大いに脅威として受け止めるに違いない。と、そこまで考えを巡らせたKは、もう躊躇することなく、Dのメールに返信すべく、スマホに『明日の夜8時、例のマンガ喫茶で…』と打ち込み始めた

DがKからの返信メールに気付いたのは、翌週の『昼報ですよ…』の企画会議が終わってからの、ノミニケーション(メインMCのO倉がこの呼び方をする)会場・焼き鳥屋『こけ結構』で、トイレに立ったときだった
文面を読んで、よし!と思わず声が出た
急いで番組スタッフが飲んでいる小部屋に戻り、2杯目のチューハイに手を伸ばしかけたO倉に耳打ちをする
「そうか」と言って、Dのスマホのメール画面に目を通すと「うまくやれよ」と言って、Dの肩を叩いた
この仕草は、O倉が機嫌の良いときにしか出て来ない動作だと知っているDは、嬉しそうに頭を下げ、テーブルの向かい側に座っていたサブキャスのT場絹代も、さりげなくその様子をチェックしていた

K刑事が漫画喫茶と呼んでいるネットカフェ『It's-ZUKE』にDが着いたのは、約束の時刻の8時より10分ほど早目ではあったが、Kはもう先に待っていた
「お久しぶりです」挨拶して、向かいの席に腰を下ろす
「おお、この前会ってから、半年ぶりくらいになるんだなぁ。こっちは、テレビでときどきあんたを見てるけど、なんだかカッコよくなったなぁ」
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2019年07月20日

熟年超人の日 stage4 13

A県警捜査第四課第二係刑事のKは、4階の廊下の窓の外にふと目をやり、秋の日差しに敷地内の樹木が紅葉していることに気付いて、心が和むのを感じた
あと1ト月もすれば、俺も親父になるんだなぁ、と思わず笑みが浮かぶ
その笑みを確かなものにしてくれたAには、借りができちまったなとも思考が走ってから、その裏に感じたある疑いが膨らむのを、押さえるように打ち切って、自分の席に戻って行った

Aから携帯に連絡が入ったのが、13日の昼休み時。カップヌードルが伸びるのも気にせず、携帯で話し込んでいるKを、上司のM野が気にしていると、やっと会話を終えたKは「係長、Aからタレコミがあったんで、ちょっと行って来ます」と言い残すと、返事を待たずに上着を持って飛び出した
AにP連合のアジトの話をしていたので、きっとその件だろうと思ったが、署内的には本庁重要人物Aとの接触は禁じられていたので、個人的な裏のつながりについては、公安2課のD田警視だけの報告に留め、あとは自分一人で対応する積りであった。それに、Aのグリーンマンとのコネクションは、きっと今後も自分の役に立つだろうという打算も生まれていた

Aとは、以前も利用したN駅ビルのカフェレストランで逢ったが、その時のAの醸し出していた違和感が忘れられない。なにが、と言えば根拠もないのだが、以前のAに比べて明らかに若くなっているような気がしてならないのだ
単に若づくりというのではなく、もっと“若い活力”が綻び出ているような、(や)の下っ端というより、売出し中の若頭が発散しているような、妙な活気が身体から立ち昇っているような感じなのだ
そのことはそれ以上Kの関心を惹かなかった、それよりAが持って来た物のインパクトが大きかったからだ
持って来たPCバッグを開け、自分を守ってくれている忍者が居て、その男がKの教えたP連合のアジトに潜入して、持ち帰ったラップトップと、その場に居たボスらしき人物が、大事に持っていたというUSBメモリーと、なんらかの方法でアジトのボスから訊き出したという、パスワードをメモった紙を渡してくれたのだ

この場で、それらのブツを調べたくなる気持ちを押さえて、Aに礼を言いながら一言付け加えた
「P連合の支部を襲ったのは、忍者だって言うんだな。そいつも、なぜかあんたを守ってくれている…」
「まあ、忍者ってのは不確かですけど、なにしろ私がいろいろめんどうに巻き込まれてるってグリーンマンに話したら、その忍者みたいなボディガードを寄こしてくれたんです」
ボディガードを宇宙人が寄こしただと…このAという男は、何を言ってるんだ、とKは思った。その忍者という奴は、あのぼったくりバーで、このAとからんでS会の連中と揉め事を起こした、あのマスクマンのことなんじゃないか(俺がそのことを知らないと思っている?話の前後も合っていないし)
ますます膨らんでくる猜疑心を隠すように、コーヒーの残りを一気に飲み干して、それじゃ出ようかとAを促してN駅ビルのカフェレウトランを出た(なんと言っても今は、パソコンとメモリーのチェックが最優先だ!)

結局Aから提供されたパソコンとUSBメモリーはビンゴ!で、その資料の解析によりA県警捜査四課は、新興勢力のP連合A県支部を一斉検挙でき、その成果は本部長表彰ものだゾ、という課内の評価に胸が膨らむのを押さえられなかった
同時にそれは、来春の警部補への昇任試験に明るい道筋を示すものであり、同時に生まれてくる子の未来も、自分たち夫婦の将来にも有難いことであった
そのことは、Aとマスクマンの関係をこれ以上追及できない、という刑事魂に束縛を強いるものでもあった

そんなときKのスマホに、このところすっかり忘れていた男からのメールが着信した
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