2019年07月20日

熟年超人の日 stage4 13

A県警捜査第四課第二係刑事のKは、4階の廊下の窓の外にふと目をやり、秋の日差しに敷地内の樹木が紅葉していることに気付いて、心が和むのを感じた
あと1ト月もすれば、俺も親父になるんだなぁ、と思わず笑みが浮かぶ
その笑みを確かなものにしてくれたAには、借りができちまったなとも思考が走ってから、その裏に感じたある疑いが膨らむのを、押さえるように打ち切って、自分の席に戻って行った

Aから携帯に連絡が入ったのが、13日の昼休み時。カップヌードルが伸びるのも気にせず、携帯で話し込んでいるKを、上司のM野が気にしていると、やっと会話を終えたKは「係長、Aからタレコミがあったんで、ちょっと行って来ます」と言い残すと、返事を待たずに上着を持って飛び出した
AにP連合のアジトの話をしていたので、きっとその件だろうと思ったが、署内的には本庁重要人物Aとの接触は禁じられていたので、個人的な裏のつながりについては、公安2課のD田警視だけの報告に留め、あとは自分一人で対応する積りであった。それに、Aのグリーンマンとのコネクションは、きっと今後も自分の役に立つだろうという打算も生まれていた

Aとは、以前も利用したN駅ビルのカフェレストランで逢ったが、その時のAの醸し出していた違和感が忘れられない。なにが、と言えば根拠もないのだが、以前のAに比べて明らかに若くなっているような気がしてならないのだ
単に若づくりというのではなく、もっと“若い活力”が綻び出ているような、(や)の下っ端というより、売出し中の若頭が発散しているような、妙な活気が身体から立ち昇っているような感じなのだ
そのことはそれ以上Kの関心を惹かなかった、それよりAが持って来た物のインパクトが大きかったからだ
持って来たPCバッグを開け、自分を守ってくれている忍者が居て、その男がKの教えたP連合のアジトに潜入して、持ち帰ったラップトップと、その場に居たボスらしき人物が、大事に持っていたというUSBメモリーと、なんらかの方法でアジトのボスから訊き出したという、パスワードをメモった紙を渡してくれたのだ

この場で、それらのブツを調べたくなる気持ちを押さえて、Aに礼を言いながら一言付け加えた
「P連合の支部を襲ったのは、忍者だって言うんだな。そいつも、なぜかあんたを守ってくれている…」
「まあ、忍者ってのは不確かですけど、なにしろ私がいろいろめんどうに巻き込まれてるってグリーンマンに話したら、その忍者みたいなボディガードを寄こしてくれたんです」
ボディガードを宇宙人が寄こしただと…このAという男は、何を言ってるんだ、とKは思った。その忍者という奴は、あのぼったくりバーで、このAとからんでS会の連中と揉め事を起こした、あのマスクマンのことなんじゃないか(俺がそのことを知らないと思っている?話の前後も合っていないし)
ますます膨らんでくる猜疑心を隠すように、コーヒーの残りを一気に飲み干して、それじゃ出ようかとAを促してN駅ビルのカフェレウトランを出た(なんと言っても今は、パソコンとメモリーのチェックが最優先だ!)

結局Aから提供されたパソコンとUSBメモリーはビンゴ!で、その資料の解析によりA県警捜査四課は、新興勢力のP連合A県支部を一斉検挙でき、その成果は本部長表彰ものだゾ、という課内の評価に胸が膨らむのを押さえられなかった
同時にそれは、来春の警部補への昇任試験に明るい道筋を示すものであり、同時に生まれてくる子の未来も、自分たち夫婦の将来にも有難いことであった
そのことは、Aとマスクマンの関係をこれ以上追及できない、という刑事魂に束縛を強いるものでもあった

そんなときKのスマホに、このところすっかり忘れていた男からのメールが着信した
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2019年07月03日

熟年超人の日 stage4 12

連中が手に持っているのは、ライフルではなさそうだ。そんなに大きくはない
しかし、ピストルより大きめなサイズに見える。そうだ、ハリウッド映画でよく出て来る小型の機関銃、ウジーとかいうやつか
となると機関銃並みに、ばりばり乱射して来る可能性がある。どのみち、あんな弾には当たらない自信がある(富士の老人の屋敷で狙撃された銃に比べれば、なんてことはない)が、流れ弾がここにいる連中に当たれば、命に係わる場合もあるだろう
…ということで、こちらから打って出てやることにした

普通の人間は、どうしても入口からの侵入になることを避けられない(当たり前だ)
従って、アクション映画でお馴染みの、ドアに誰かが貼り付いて中の様子を窺い、しかる後にドアを蹴破るかして、室内になだれ込むあのシーンになる
ところがあいにく、こっちは透視眼のお蔭で、壁の向こう側の廊下に展開している連中の様子は、丸見えである。ただ、めんどうなのは、外階段に待機して、中に飛び込む機会を窺っている奴の方だ
まずいことに扉は外に向かって開いた状態のままなので、廊下組をやっつけている間に、挟撃される可能性がある

そんなことを言っている間にも、廊下の奴らはじわじわ接近中だし、さっきノシた連中だってもぞもぞし始めている。…となれば、くよくよ考えるのはやめて、まずは先手必勝、廊下に面している壁をぶち抜いて、一気に廊下を制圧することに決めた
安普請の倉庫のことだから、壁はどうせ石膏ボードみたいなものだろう。まさか防弾構造なんてありえない
それでも慎重を期して(というより、影バージョンの想定能力からすれば、Gスーツみたいなパワーは発揮できない)、壁内部を透視して見ると、軽量鉄骨の間柱が沢山入っていて、そう簡単に突き破る訳にはいかなそうだ
やむを得ず、連中が扉に達する前に扉を開けて、廊下に飛び出す作戦とする。それなら、外階段組が飛び込んで来ても、束の間視界から消えることになる
そうと決めたら素早く行動、とばかりにまず、さっき跳ね飛ばしたダガーナイフの男の腕を捻って、骨折させる。動けないのを確認して、素早くドアを引き開けて、廊下に飛び出す(ありえないくらい低い姿勢で!)

その少し前のこと、黒い影がものすごい速さで、部屋に居た皆を片付けていく様を見て、もっと強力な武器と援軍を求めるべく廊下に出たミゲルは、寝室から出て来た日本人ギャング二人に、武器庫に行こうと手振りで伝えることに成功した
日頃は、言葉も通じず、自分たちをあからさまに見下す態度の日本人どもとは、一線を画しているミゲルだったが、この時はありがたい援軍に思えた

自分が持っている武器庫の鍵を使って、扉を開けると日本人たちは我先に中に飛び込んでいって、銃器を物色し始める。何丁か手に取って結果、弾は沢山出るが命中率の悪いウジーを両手に持って、廊下に出て行く
ミゲルは、この連中は銃器の扱いに慣れていないと見て、援軍としての期待ランクを一段下げることにした。それどころか味方に銃弾をぶちまけるのではないかと危ぶんだが、緊急事態だから、と首を振り方をすくめる
自分もこうした荒事には慣れていないが、それでも命中率が高いとカルロが言っていたコルトガバメントを選んで、二人に続いて廊下に出た

そのときミゲルが見たものは、後に仲間に語ったように、廊下を滑って来た(スケートボードかと見えた)黒い影が、二人の日本ギャングの足元を払い、転倒したところを正拳突きで仕留めていく姿だった
軍隊経験のあるミゲルには、黒い影は匍匐前進のように腕を使って這って進んでいるようにも見えたが、それにしても、まるで腹部にローラーでもあるかのような、滑らかさで滑っているそのスピードに驚愕した
そして、さらに印象深かったのが、腹這いの姿勢を保ったまま、左右に立っている日本人の脚を払った技であり、流れるように転倒した二人の男にとどめを刺した突き技だった

その脅威が自分に迫ったとき、かろうじて構えたコルトが一瞬で弾き飛んで、低い体勢から素早く伸びあがった黒い影の頭部が、自分の顎に炸裂したところで、ミゲルの記憶は途切れてしまった
翌朝、やってきたP連合の仲間が、廊下で気絶していたミゲルと日本人二人を蘇生させるまで、自分が気絶させられていた間に、残ったメンバーが、階下で一人待機していたガルシアに至るまで、全員が戦闘力を奪われ、支部長のK松以下の幹部連も、重傷を負って動けないか或いは、失神させられていたことは、後で知ることになり、さらに数日後、A県警の捜査が入って、P連合のA県組織は壊滅した
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2019年06月09日

熟年超人の日 stage4 11

大声でその場をけん制しておいて、影スーツの自分と背丈の変わらない支部長(K松)の背後に回り込み、肩越しに左腕を巻き付け、顎の先を持って、ぐいっと軽く捻ってみる
「痛っ、いた、た、たーっ。やめろ、やめるんだー」強がって言ってる積りでも、周りにはそうは聞こえていないのが私にもわかる。心配そうな表情は、やっと起き上がった日本人らしいボディガードだけで、東南アジア系の連中とC国人らしい連中は、ボスが苦痛にもがいているのを見ても、少しも意に介ず殺気を放っている

日本語と英語で威嚇しても、そもそもこの連中に通じているかどうか分からないが、とりあえず警告はしたということで、次の行動に移った
つまり、人質として大して役に立ちそうもないこの男は放り出して、残りの連中を全員のしてから、改めてパスワードを訊くことに決めたのだ(こういう連中なら、骨折くらいさせられても文句は言ってこないだろう)
方針が決まったので、押さえていた首根っこを掴むようにして、さっきは顎にヒットさせたのに、気絶しなかった大男(一番強そうな)に直接ぶつけるという乱暴にでる。で、間を置かずに、跳ね飛ばしたナイフの代わりに腰ベルトから拳銃を引き抜きかかっている男の鳩尾に、右ストレートを叩き込んだ

ううっ、と息を吐き出してかがみこんでしまった男はそのままに、その後ろで拳銃を両手で構えようとしている男の足元に滑り込んで、腿の付け根辺りに手をかけて、思いっ切り上に跳ね上げる
天井にぶつかった男が、その衝撃で銃を暴発させたが、天井の蛍光灯が爆発したくらいで、人には当たらなかったようだ(銃は男の手から吹っ飛んでしまい、男は床に激突して動かなくなる)
このあたりまでは、私も慣れないアクションの連続で、かなり大慌て状態だったが、受話器を持ったまま硬直している男の間抜け面を見て、一気に緊張がほぐれる
そうだ、ほぼ100%の力で動いてしまったので、多少訓練しているとは言え、常人である連中には、とてもこのスピードには付いていけないのは当然なのだ

とりあえず、全員のしてしまう、という方針に立ち返って、受話器を持って放心状態に陥っているメガネの男の顎先を、素早く擦り打って失神させる
と、その束の間の動きの停滞を見てとったか、大男が再度大型ナイフで私の脇腹目がけて、鋭い突きを繰り出して来た
影スーツの様々な機能を把握し切れていなかった私だが、このナイフ攻撃の直前にハッと感じるものがあった
恐らく攻撃される予感のようなものだろが、私自身が反応するより早く、スーツが反応してくれて、大男の必殺の刺突は、虚しく流れ、私の目の前でほんの一瞬静止する

今度こそ遠慮なく、その手首に手刀をお見舞いすると、ビシッという感じでナイフを持った手首が、千切れかけてぶらんとぶら下がった(その画にびっくり!)
大男は茫然として、その手首を見ていたが(時間にして1秒くらいの間か)、うわぉー!と吠えると、残った左手で左腰のホルスターに収まっている大型拳銃を、取り出そうとする
その敢闘精神には驚いたが、わざわざ相手に銃を抜かせる危険を冒す訳にはいかない私は、素早くその手を押さえて、そこを支点に自身の体をぐるりと回転させるようにして、相手を投げ飛ばした(教則本で知った合気道の技のバリエーションだ)

大男が会議テーブルに激突して、天板にぶち当って跳ね返り、失神しているメガネ男の上に落ちる
そういったひとつひとつの事象を認識しながら、私は流れるように行動し、最初に失神してやっと起き上がり、まだふらついている脚で、懸命に態勢を立て直そうとしている、比較的若く見えるボディガードらしき黒服の男の胸もとを掌底で強く突く
これも力の加減をしなかったので、黒服は大きく吹っ飛んで、さっきぶっ飛ばした支部長のデスクにぶつかって、そのまま動きを止めてしまう
これで一通り片付いたか、と一瞬動きを止めたとき、ナイフを跳ね飛ばした際、手首を骨折したらしく戦闘から身を引いていたダガーナイフの男が、背後から私に抱きついてなにやら外国語で喚き始めた

多分「掴まえたぞー!」みたいなことを叫んでいるんだろうが、そんなのに付き合ってはいられない。肩をすぼめるようにしてすっと体を下に滑らせると、簡単に身は自由になる
しゃがみこんだ態勢から、素早く立ち上がりながら相手の顎に頭突きをくらわせる。ゲフッとうめき声を発して、20pくらい跳ね上がって、床に落ちて、私を見上げる凶暴な表情が、みるみる恐怖に変わった
今度は緊張を解かずに、再び室内を見渡すと、外階段から一人、横の部屋から何人かこの部屋に駆け付けて来るのが透けて見える(やれやれ…)
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2019年05月26日

熟年超人の日 stage4 10

黒い影は、外階段の出入口からふいに室内に入って来たかのように、K松の視界に現れた
本当に、外階段の方から現れたのか正確には分からなかったが、壊れた窓を背にしてデスクの前に立つK松からは、下を見に行って今戻って来た戦闘隊のオリバーと、ドラッグ販売ルート担当のミゲルの後ろに、ふわっと黒い影が立っているのが見えた
「そ、そこだ!忍者がそこにいる!」外階段の出入口を指さしながら、K松が喚いた
その切迫した声と仕草に、その場にいた全員が出入り口を振り返ったが、開けっ放しのドアの向こうは暗闇でなにも見えない

「支部長、忍者、見たのか」たどたどしい日本語で、戦闘隊副隊長のカルロが問いただす
『見た。さっき俺からメモリーを盗っていった忍者だ』なんとか英語で喋りながら、忍者というより息子の好きな戦隊もののブラックレンジャーのようだったな、と頭に浮かんだ場違いな印象に当惑する
『下の連中は見ていないか、確認しろ』戦闘隊隊長のタオが落ち着いた声で指示を出す
同国人のソンがその言葉に反応して、食卓テーブル上の内線電話で、1階の詰所にいるはずの二人を呼ぶ
まさにその時、突然黒い影が現れると、戦闘隊副隊長のカルロのそばに、すすすっと近づいて顎の辺りをジャブで払うような動きを見せた

185pはある巨漢のカルロは、一瞬ぐらっとよろめいたが、なんとか持ち堪えて脚を踏ん張ると、ホルスターのトカレフTT‐33には手をやらず、腰に着けているコンバットナイフをさっと引き抜くと、そのままの勢いで黒い影の喉元目がけて素早く振り払う
一連の攻防を茫然と眺めていたK松の目には、黒い影が一瞬動きを止めたように見えたが、喉元から吹き出すはずの血しぶきは無く、手にしたナイフを見つめて立ち尽くしているカルロの姿があった
副隊長のそんな姿には目もくれず、戦闘隊員のオリバーが影の背中にダガーナイフを突き立てる…、が素晴らしい速さで振り返った影の手がナイフを払いのけ、飛ばされたナイフは天井に突き刺さった
立て続きに起こったアクションは、室内側に顔を向けているK松だけが一部始終を見ていたが、他のメンバーはそれぞれの位置から、部分的にしか見えていなかった

カルロより少し遅れ、オリバーとほぼ同時に侵入者に反応していた戦闘隊長のタオは、二人のF国人戦闘員の動きをフォローできる位置に身を置き、常に体から離さないグロッグ17を引き抜き、両手撃ちの構えを取ろうとしているところだった
食卓の内線電話で下の二人に様子を訊こうとしていたソンは、自分の傍らを風のようにすり抜けた(のであろう)影が、いつのまにか支部長K松の間近にまで接近し、戦闘隊副長のカルロを襲い、そこにもう一人の男が飛びかかったのを見て言葉を失い、受話器を持ったまま動けなくなっていた
一度下に様子を見に行き、上の騒ぎに慌てて戻って来たミゲルは、自分より先に戻ったオリバーが黒い影に向かっていって、ナイフを跳ね飛ばされたところを目撃して、自分も武器を取りに行かなければ、と判断して、廊下を隔てた先にある武器庫に向かうべく、その廊下に出るドアに向かう

副支部長のヤンは、K松が重要な物を盗られたことの、失点の評価に気を取られていたが、続いて起こったこの騒動から距離を置いて、後の本部への報告を意識して、傍観者になろうと、できるだけ目立たないように部屋の隅に移動する
先の襲撃で気絶させられていたO島は、ちょうど蘇生したところで、目の前に繰り広げられている光景が理解できず、ソファから半身を起こした状態でぼんやりしている
下の詰所に待機していたハオとガルシアは、内線をかけてきたソンの通話が不自然に途切れ、後ろで異様な物音が続いていることに危機感を覚え、外部からの襲撃に備えガルシアを詰所に残し、ハオが非常階段から2階に向かう

その時、影である私は、大男の脳震盪を狙った打撃が功を奏せず、相手の反撃をくらったことに束の間驚いたが、続いて背後に迫ったナイフ攻撃を、すんでのところで防ぎ切って、大分落ち着きを取り戻していた
以前の、ぼったくりバーに駆け付けた(や)の連中との立ち回りが、なんというか楽勝だったことで、この手の連中との闘いを気楽に考えていた自分に対し、なんであれ暴力組織との闘いには、油断は禁物ということを猛省していた
などと、のんびり戦局の分析などしている間もなく、拳銃を構えた男の射線から外れながら、一番上位者であろう日本人の首根っこを捕らえて、大音声を発した

「さあー、皆んなストップだ。動くとこいつの首をへし折るぞ!」と脅す。日本語では全員に通じないだろうと『動くな!』と、英語で付け加えながら、大音量で命じた
本当に大きな音を浴びせられると、人は動けなくなるものだと、なにかで読んだ気がしたが、その通りで、その場に居合わせた皆が、ぴたりと動きを止めた
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2019年05月16日

熟年超人の日 stage4 09

体当たりで窓をぶち破って、外に飛び出した直後に反転して20mばかり上昇して、再び倉庫の屋根に取り着くと、身を伏せて下の様子に聴き耳を立てる
「俺は見たんだ、忍者だ。忍者がO島を襲った後、俺からアレをひったくってったんだ」屋根材越しに透視すると、がちっとした中年の日本人が、受話器の向こうの相手にがなっている
声の調子から、相手は目下の者のように感じたが、途中で相手が替わったようで、今度はやや哀願調を帯びた声で同じような内容を説明し始めたので、相手が目上の者だと知れた

部屋の中には、隣室から戻った男達が四人、電話のやり取りに緊張した様子で、雀卓の周りに立ち尽くしているのが透える
そこに、さらにもう一人が駆け込んで来て早口の(恐らく)C国語で、なにかまくし立て始めた
その声に雀卓の近くにいた男の一人が、似たような言葉で応答し、今度は日本語でこの場の最上位者らしき日本人に話しかける
「支部長、ソンも取引用のPCを持っていかれた、と言っている」声音は支部長と呼ばれた男に比べると冷静で、この状況を、自分の上位者の失点と捉えている様子が垣間見える

「なんだとぉ、取引用のPCもやられたぁ、ばかやろう、なんでそんなドジ踏む羽目になったんだぁ!」声の調子に、明らかに電話の向こうにいる上位者に聴かせて、自分のミスをどさくさに紛らせようという意図が透けて見える
この会話を聴いている私は、例えはおかしいが、やりなれないひったくりに成功したチンピラのごとく、心の中の若くなっている部分が興奮しているのが分かる(今回は、K刑事にいい土産が出来たようだ)
しかし、例によって本来の私が囁きかけてくる(…影バージョンの存在をこの際、連中に印象付けておくのには、いいタイミングかも知れない)

外階段をガンガン響かせながら、下に行っていた連中が戻って来る
こっちは空を飛んで逃げればいいんだから、別に気にすることもないのだが、折角なら現在の状況を今後に役立つようにする手はないものだろうか、と考える
思いついたのは、例のムササビ飛行をレベルダウンして、倉庫の屋根から屋根に飛び移りながらサヨナラすることだった。さすれば、ここの連中に忍者の侵入と思い込ませられる
それが、いずれ連鎖的に警察に伝わり、私とグリーンマンを地球人と宇宙人の関係に設定してしまったことで、Gスーツの出番は非常に限られたものになっている現状を打開できるに違いない

いざというとき、私や私の家族の危機を救ってくれる、使い勝手の良いガーディアン的な“影”という存在を、公権力、アウトロー勢力のどちらにも知らしめておくべきだ
そう考えた私は、このままここを立ち去るのことを翻意し、再度、連中の前に姿を現してもおかしくない理由を考えてみたのだが、折角逃げた“忍者”が、再び舞い戻る不自然さが、どうにも気に入らない

考えあぐねていると、日本語が耳に飛び込んで来た
「大丈夫だ、コードはわかりっこない。パソコンだってメモリーだって、それだけじゃどうにもならんさ。こいつは金庫に入れておくから、お前らしっかり見張ってるんだぞ」どうやら支部長、と呼ばれていた男だ
それで考えが決まった。じゃあ、皆さんの前にお出ましといこうか

支部長のK松は、いったいどこの組織が裏にいるのか考えを巡らせていた
対抗組織のT組と考えるのがスジだが、案外内輪の誰かが、自分の失脚を計って、あんな奴を寄こしたのかも知れない、と思うと別の筋書きも浮かんでくる
身のこなしと黒ずくめの姿から、反射的に“忍者”と言ってしまったが、中身が何国人かわかりはしない
新興勢力であるC国マフィアと、強圧派の大統領の締め付けから逃れて日本に拠点確保をしたいF国ギャング、そこにT組との抗争で敗色濃厚になっていた独立武闘派のR会が、利害の一致を太平洋圏の覇権奪取に見い出して作ったP(パシフィック)連合は、暴力によるこの国の暗黒街制覇の共通点はあるものの、三つの言語と国民性の違いが、意思の疎通を妨げるネックになっていたのだ

T組勢力圏であるN市の海岸に近い今の場所に、わざわざ設けられたこの支部が、三つの勢力の末端組織の融合化を図りつつ、同時に敵の勢力圏内に楔を打ち込む“橋頭堡”の役割を担っていることを、肝に銘じていたK松だから、今回のトラブルの重みが痛いほどわかっていた
内部の反発勢力にせよ、T組の先制攻撃であるにせよ、たとえ警察の手先であっても、こんなことで躓く訳にはいかないと、自らに叱咤する
そのK松の視界を黒い影が過ぎった
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2019年04月19日

熟年超人の日 stage4 08

こいつはなにか武器を持っているようだ。周囲偵察能力が一気に活発化し、倉庫全域に散在する人間の位置が脳裏に浮かぶ(下の階にいる者はぼんやりしたものだが)
反応は電子機器と武器の二通り(武器も携帯などの電子機器も反応は過去体験している)感じるが、武器を持っている者は今のところごく僅かだ

2階出口の上には、壁からひさしが付き出しているので、そっとその上に移動する
すぐ目の前に2階の部屋から出て来た男がいる。こいつをなんとかしようか、と一瞬考えが浮かんだが、残念ながらその先の展開が見えない
私が逡巡しているうちに、男はなにか大声を出しながら、鉄階段を慌ただしく下りて行った
壁越しに部屋の中を窺うと、12〜13あるモニター画面を二人の男が分担して注視しているのが見える。その奥の部屋だろうか、ややぼんやりしてはいるが、四人は変わらず麻雀に熱中しているし、部屋の仕切りの影にテレビを観ている男が一人

誰もこの2階の出入り口に注意を払っていないことを確認して、ゆっくりドアが閉まる前に素早く、するりと部屋の天井に滑り込む
体色は一瞬で天井の石膏ボードの色と模様に変わっている
超人になる前、68sあった私が、天井に張り付いていられるのが不思議だが、重力を操る感覚には慣れている
ただ、いくら保護色でも目の前で動いたら、分かってしまうだろう、と判断した私はじっと天井からモニターを眺めている二人に神経を集中して、次の動き出しのタイミングを計ることにした

ふと、いい考えが浮かんだ
あまり練習してはいなかったが、例の腹話術をやってみる気になった
『△◆☆‖ДИ〇↑ー!』言葉は分からなかったが、さっきの男が叫んだ声色で、少し開いた状態のドア辺りから聞こえるように呼んでみた
その声にモニターを見ている二人が、びくっと反応した
上司らしい方が口早に、もうひとりの男になにか言いつけると、戸口に向かった部下をおいて、自分は隣室に何事か注意喚起の声をかける(視線は幾つもあるモニターを素早く巡回させつつ)
テレビ画面を観ている大男は私の腹話術にも反応せず、相変わらず画面の進行に夢中だ

その瞬間、よし今だ、と即断
最大速度で、天井からモニター画面のある壁面から離れたデスク上のノートパソコンを引っ掴み、電源コードを引き抜いて腹部にあてがって、再び天井に跳び付いてそのまま貼り付く(その間およそ0.7秒)
こんな急激な運動をしても、ほとんど心拍呼吸に変化は起きないのが超人の超人たる所以だ
だが、その微かな空気の動きを感じたか、モニターを眺め廻していた男の動きが止まった

なにか空気のそよぎを感じたソンは、その感覚をたぐるように視線をモニターから室内に移す
なんの変化もないように見える室内の光景を眺めていく視線が止まり、なにか神経に引っかかったものを探す
ソン専用のデスク上のPCが消えている
一瞬、自分がどこかに移動させたのか、と自問自答し、デスク上にだらしなく延びている電源コードに気付いて、心臓の血が一気に脳に吹き上がった
『おい、誰か侵入者がいるぞ!』そう隣室に声をかけながら、デスクの引き出しから拳銃を取り出し、改めて室内を見廻す

戸口で聞こえたミゲルの声と、ソンの最初の警戒の声を聞いた時は、DVDの画面から目を離さなかった巨漢カルロは、ソンが発した二度目の声に瞬発的に反応して、ショルダーホルスターから拳銃を引き抜くとモニタールームに飛び込み、猟犬の目で室内を捜索する
影は、ソンのかけた声に隣室が反応して、どやどやっと人が動き出すのを見て、一瞬天井に張り付いたまま静止したが、すぐに部屋の隅のやや薄暗くなっている壁に移動すると、その後大胆にも、各国語で喚きながら次々に男たちが出てきた後の、隣室に移動した

その幹部室では支部長のK松が、腹心のO島を従えて支部長専用デスクの引き出しから何かを取り出しているところだった
支部長席の後ろが窓になっていることを確認した影は、一瞬でボディガードのO島に近寄り、鳩尾(ミゾオチ)を強く突く。続いて、うっ、と呻いて前かがみになるO島の顎を、素早いフックでかすめるように撃っておいて、脳震盪を起こしたO島が崩れ落ちる様に、声もなく立ち尽くすK松の手の内から、その手に握りしめている物をひったくる
驚愕の表情のK松が、すぐ我に返って引き出しの奥の拳銃を取り出した時には、影は体当たりでぶち破った窓ガラスの向こうの闇の中に、飛び出した後だった
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