2020年01月17日

熟年超人の日 stage4 22

夜10時過ぎにK刑事から電話があった
K乃は、収録があるから遅くなるとLINEに連絡が入っていて、部屋にはいなかったので、遠慮なく話ができた
「明日の夜、丸ハムの偉いさんがこっちに来るって連絡があって、ちょっとお宅のことを耳に入れたら、会いたいんだそうだけど、こっちに来れるかな?」丸ハムと言えば公安だ
先週会ったばかりで、なんだかヤバイ臭いがするが、どうせ干されてるような身だから、関わり合うのも手かも知れない。それに先週会って、煽ったのは自分だったこともあるし…

「なんか、進展ありそうなんですか」警戒しているのを気取られないよう、あっけらかんとした調子で返す
「それが大アリらしいぜ、D田さんっていうんだけどな、その偉いさん。例のあいつとしっかりコネクションつける必要が出て来たんで、俺ら下々にも手を貸して欲しくなったんだそうだ」いつも、警察組織の上層部とは距離を置いた喋り方をしているKにしては、珍しく前のめりな調子だ
「D田さんっていう人は、相当階級が高い人なんですね」
「ああ、俺たちと違って本庁のお偉いさんなんだ。知ってるだろう、キャリアって連中を」Kの興奮には理由があった。この話はいつもと違って、捜査四課長のT谷から直々に話があり、その際、警部補昇進が匂わせされていた。それがKを有頂天にさせていたのだった

警察の上層部から、Aとのコネクション強化の方針が出て来たということは、今後あのスーパーマン関連情報が解禁になるということだと、Dは判断した。これまでの取材が実る可能性が出て来た、ということだ
「分かりました。ぜひ僕もお手伝いさせてください」ちょっと下手に出過ぎかな、と思いながらも、このチャンスは逸すべきでない、と積極性をアピールする
「ああ、分かってる。D田さんも、今後はマスコミ関係とのリレーションが重要になるから、最初の段階から関連してきたお宅さんも呼んでくれ、って言ってるんだ」それを聞いて、またDの心がざわついたが、あえて無視してこの船に乗る覚悟を決めた

約束の時刻、N市の夜の繁華街とも言える栄3丁目の、品の良いクラブに3人は集まっていた
この店は、警視庁公安部のD田が指定したもので、仕事柄まずまずのランクの店にも行くDはともかく、県警本部の一刑事のKには、敷居が高いようで店の女性への対応も、どこか落ち着かない様子だったが、それでも地元の優位性を見せようと、この場を仕切ろうとしていた
「こちらはTテレビの報道番組リポーターのDさんです。こちらは…」Kの紹介の言葉を引き継いで
「警視庁公安2課第二公安捜査統括のD田です」さらりと、そう挨拶しながら、目で店の女性に席を外すよう合図を送る

「実は、今後は例のA氏とのリレーションを密にするよう、上の方針がやっと固まったんだそうだ」Kが少々得意そうな顔で、昼過ぎに四課長のT谷警視の部屋で、D田から聞いたばかりの話を開陳する
「まあ、額面通りに受け取ると痛い目を見ることになるのは、いつものことですから」D田が補足するように穏やかに付け加える
固太りでエネルギッシュな風体のKに比べると、すらりと背が高く(180pを超えているだろう)、イケメン系のD田は、いかにも警察畑のエリートらしく見え、話しぶりもスマートだ

自分はこの男に、どう見えているのだろうと思いながら、Dも積極的に話題を提供することにした
「局でも、このところG情報の扱いについて、具体的な検討を始めています」実のところ、O倉からはなんの音沙汰も無いのだが、ここは事情通でいるべきと判断して、そう話の緒をつけてみた
「そうですか、貴方のところのチーフと言えばO倉さんでしたね。彼は富士のご老人にも近いようですから、ニュースに取り上げるタイミングを計っておられるのでしょう」思いがけず、ずばりと来たのでDは驚くと同時に、富士のご老人、ってなんだ?と思ったが、そこはあくまで事情通を装って、ええまあ…と呟くように相槌を打っておいた
「テレビの報道番組で取り上げるのか、いよいよだな。となると、Aに言っといた方が良くないか」

そうだ。あのAという男が、どこまでGを動かせるのか、この国の命運はある意味、あの男にかかっているのだ。あの男が、どこまで日本人としてふるまえるのか、Gという宇宙人がどこまで日本人的なのか
D田の頭の中には、3つのプランがあった
ひとつは、AとGが共感していて、Aの依頼にGがどこまでも応えてくれることが前提のもの、次は、AからGへの依頼にはなんらかの制限がある場合、三番目はGはあくまで宇宙人で、底意があるというもの
もちろん、その先にあらゆるバリエーションが存在することは当然だが、いずれにせよ、Aという人物の見極めをした上で、Aを通してGの意向を探り、その先に、あるかも知れない宇宙人組織の本意を明らかにしなければならない。そのためには、Aと普通の人間関係がある、この平凡な二人に働いてもらうことが必須であるのだ

「Aの居場所は、把握できているのですか」KにもDにも聞こえるように、D田が問うた
「あいつは今、かみさんと一緒にK市のアパートに住んでます。ただ、どうやら近いうちに山の方に引っ越ししそうな雰囲気で、不動産屋と接触していることまでは分かっています」Kが答える
「ほう、そうなんですか、なんか引っ越さないといけないような状況になってるんですか?」Dが好奇心を顕わにする
「最近、もう一人重要人物がAの周りに現れたそうですね。なんでも、来日外国人犯罪組織をひとつ潰したとか」Dの質問は無視して、D田が低い声で発言しつつ、Kの瞳に視線を送った
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2020年01月02日

熟年超人の日 stage4 21

そう言えば、あれからKからの連絡は途絶えたままだ。前回会ったときには、冬までには私もパパですよ、などと言っていたが、そろそろ鼻薬を効かせてやらないと、いけないのかも知れんなと思う
子供が生まれれば、地位と収入が欲しくなるのは、警察官と言えども同じだろう
警視庁が、直接他県の県警に影響力を行使できる訳はないが、そこは蛇の道はヘビと言う奴で、警察庁のキャリアにも当然コネはあるので、巡査部長を警部補に昇進させることなど、D田にはたやすいことだった

Kからの報告は無いが、富士の老人のところに送り込んでいる内調のスパイから、Aが老人に呼ばれてお屋敷に現れて、その時、Gを呼んで屋敷の上空を飛ばせて、わざわざライフルで狙撃させたが、銃弾が全てそれてしまったそうだと、夏になる頃に内調のM原参事官が言っていた
日頃、公安とはライバル関係になる内調とは疎遠だったが、T大先輩のM原は、そんなことには構わず、時々情報を入れてくれていた(もっとも、それがお互いメリットになる場合だけだったが…)
公安でも、右翼対応の三課はなにか掴んでいるのかも知れないが、あいにく三課の課長はそりが合わず、日頃疎遠なのが不要な時、障害になることがあるのはよくあることだ

会議の散会後、自席に戻ると、弁当箱が入っただけのダークネイビーのビジネスバッグを手に取り、まだ仕事をしている部下たちに「お先に」と声をかけて退庁する。仕事の書類やデータ類はいっさい家に持ち帰らないのがD田の流儀だった
実父名義ながら、D田夫婦が住んでいる本郷のマンションの書斎には、別の角度から己が手がけている案件を解析するための、サイバー機器が一式揃えてあった

*
*

朝、目が覚めると無意識に枕元のスマホを指先が探り出す
今年の夏から、所属のPプロダクションが採用している、LINEのチェックをしてしまうDだった
その動きで、隣りで寝ているK乃が寝返りを打って、反対側に顔をそむける
このところ『昼報ですよ』のレポーターの仕事はなく、朝はゆっくりしていられるのが嬉しかったが、そう思えたのは最初の3日間くらいで、後は1日3回朝昼晩のLINEのチェックが仕事みたいな状態で、事務所からの連絡を待つのが、日常になってしまっている

別に仕事を干されている自覚はないのだが、同じTテレでFD(フロアディレクター)として働いているK乃に言わせると、メインキャスターのO倉さんに嫌われることしたんじゃないの、ということだった
そう言われると、引き続き調べておいてくれと言われていたN市の怪人についても、その後報告も求めて来ないし(報告する内容も無いのだが…)、打ち合わせでもO倉から話し掛けてくることは無かった
インターネットとの競争に負けつつあるテレビ業界では、圧縮が続く予算繰りのため、手近かな街を軽装備のディレクターとカメラマン、そしてお笑い界の新人や駆け出しのアイドルがチームになって、行き当たりばったりのハプニングを拾いに行くスタイルが主流になっていた

Pプロの社長からは、多少齧っている少林寺拳法を活かして、アクションものにでもチャレンジしたらどうだ、と言われているのだが、どのみち端役くらいしかない演劇系を今更目指すなら、実家が営むS県の建設業でも手伝うしかないか、と迷い始めていた
Y市で開業医を開いているK乃の親も、そろそろタイムリミットが近付いていることを仄めかされていて、これまで自由気ままに生きてきたDも、いよいよ追いつめられていることを自覚していた

そんなDのスマホに、K刑事からの着歴があった
ええっもしかして、と思う気持ちを押し隠して、そっとベッドから抜け出す
別に隠さなくてもいいじゃないか、という気持ちもあったが、K乃になにやかやと言われるような気がして、トイレに入ってリダイヤルする
4回目のコールでKが出たが「ちょい今まずい、またテルする」と一方的に言われて、通話が切れる
なんだろう、と訝しみながら、きっとAがからんだ事件が起きたんだな、とアドレナリンが回り始めた頭で考える。そして、念のためトイレの水を流した
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2019年12月16日

熟年超人の日 stage4 20

そう言っておきながら、D田には冷めた気持ちがあった
お山のご老人、と言えば富士山麓に遁世を装いつつ、私兵を擁して影の力を誇示しながら、代々の総理に政界を渡る術を伝授して、隠然たる影響力を長年に渡って維持しているという怪物だ
ただ近年は、その力を私腹を肥やすことには使わず、混沌の国際情勢に関わらることなくこの国の力を溜め、かつて夢見た大東亜共栄圏の再興を、懲りずに目指している国粋中の国粋主義者だと、若手官僚たちの評価は一致していた

そもそもD田という男は、不完全な国政選挙システムを利用して、知名度のみで代議士になったような輩とは異なり、生来明晰な頭脳を有した上、激烈な峻別競争の年月を経て、優秀な者のみが在籍する集団に属し、さらに磨かれ、研ぎ澄まされてきたエリート官僚こそが、卑小な夢の実現だけを糧にしている一般国民(たまたまこの列島に生まれただけの人々)を、よりよい生活に導くことが出来るリーダーなのだと自負しているような人物だった
T大同期で、経産省のキャリアでもある妻のT希も、それらしきことは考えているようだが、エリート意識が言わせているだけで、結局、現在の優遇された環境維持が最優先なのは、やむを得なしとあきらめている

それより、義父のS西がF県基盤の民自党の政治家で、S部首相の側近として国政に関与していることがD田にとって重要なことだった。そしてS西その人が、諸々の政治家の蠢く世界を泳ぎながらも、しっかりとした自明の考えを持っていることが、D田を惹き付けていたかも知れない
この国が有する、他の先進国に無い同一言語かつ、特定宗教の影響がほぼない、同一民族による調和こそが、世界に誇れる資源であると、年に一度の年賀挨拶に妻の実家で酒を飲み交わしながら、そんなことを熱心に話す義理の父とは、波長が合った

T大を首席で卒業してA国の一流大学院卒のD田は、どの省庁に行くことも可能だったが、己の将来ビジョンに基づいて、警視庁公安部を選んだ
少子化の進むこの国において、経済も外交も更に言えば、軍事も大切だと思ったが、国力の下降線を押さえられないとすれば、後は安定した国内情勢の維持が重要になるし、海外勢力からの資本奪取を防ぐことこそ、直近の急務だと確信していたからだった

F県から国政に参画している義父S西のもとには、原発に関する様々な情報が寄せられており、中でもイチエフに飛来して、とてつもない力を見せた空飛ぶ超人については、そこで働いている地元民から、政府では把握し切れていない詳報を入手している為か、Gに対して好意的とも言える反応が興味を惹いた
部下N目来の報告書からは伝わらなかった、地元民やT電の現地社員の興奮ぶりがよく理解できた
そのことと、自身が逢ったAとその妻から感じられた人のよさそうな、日本人ならではの印象が、とにかくA国の反応を重視して、これまでなにも出来ていない官邸の、判断間違いを確信させるものであった

Aの話を全面的に信じている訳ではないが、仮に宇宙人であるGに、自分たちが知り得ないなんらかの目的があるにせよ、イチエフで出会った地元作業員の大部分が、政府派遣の腹に一物あるがため、物事を斜めに視ざるを得ない人間より、正鵠を得ているのではないか
なにより、この先下降線を描いて国家間競争の表舞台から、退場させられそうな我が国にとって、またとない反転上昇のきっかけになるやもしれない本案件の、そのキーマンたるAが、公安のあるゆる調査からも、白判定の出ている人物であることが、政局とA国の意向重視の現政権の未来図より、大事なのは火を見るより明らかであった

後は、Aとのリレーションをどのように保つか、それが重要なんだと自分に言い聞かせながら、ふとA県警の刑事のことが脳裏をかすめた
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2019年11月24日

熟年超人の日 stage4 19

一見、積極的にGとの折衝役であるAをフォローすべき、という風に聞こえる再開方針だが、Aへの関わりなどと、あいまいな表現を使っていることの裏には、現政権リーダーたちの逡巡が、あからさまに見えているとD田は診た
Gという途方もない力の出現により、現政治体制の対応がいかに無力か、施政者自身がその力の制御の可否に、懐疑心を抱いたからにほかならないだろう
Aという、今のところ唯一の接続チャンネルの維持と、対処を任されることになった部署の苦労が目に浮かんでいるのだろう、一同は正面を向いたままの姿勢で、押し黙ったまま時をやり過ごそうとしている

「皆さんのご発言が無いようでしたら、私から一言よろしいでしょうか」発声した末席のD田に、出席舎の半数ほどの視線が注がれる。そして、半数は視線を向けないようにしたまま耳だけそばだてる
「Gへの意向伝達に、A氏が大きな役割を持っていることは、我々の共通認識であるとは思いますが、AとGとの意思伝達のメカニズムについては、正しく把握できていないということも、我々は認識しております」
思いがけず、この案件への公安部の取り組み姿勢について、強く言い切ったD田の発言に、会議の仕切り役であるO原以下、各課の参加者が一瞬気色ばむ

「以前ご報告申し上げました通り、私はA本人と接触しております。また、彼の妻にも会っております。その際の私の接触印象については、既報告済みですが、今や我が国が外国勢力の干渉を受け、Aの日本国民としてのシンパシィーを希薄にすれば、 髀肉をかこつことになるのは明白であります」
「それにA本人は、老年に差し掛かっているとは言え、定年退職前はアドエージェンシーのプランナーでしたので、ある程度奥行きのある話を、聞く耳も持っていることと、家系を遡っても純粋の日本人であることから、Gとの繋がりを他国に売るようなことはないものと判断しております」と、言い切りながら、そのことが何の保障にもならないことを、D田は熟知していた

「では、君の部署がA経由でGとのコネクションを、確保するということでいいね」D田の発言を聞き終えたO原参事官が、この日の議題に一定の確認マークを打つ
「A国大統領選の結果が見えていない今、そのような結論を出すのは早急ではないでしょうか」外事二課課長のJ道が、冷静な声音で意見を差し挟む
「共栄党のボスマン候補が大統領になった場合については、官邸は既に考慮済みだということだ。彼の自国最優先スローガンの先にある体勢は当然、他国の優位性排除にベクトルを向けるだろうからな」とO原が、こともなげに言う

「その際には、Gを取引カードに使う、ということですか」J道が相槌を打つ。が、D田は、そんなに簡単な展開にはならないだろう、と心の中で反論していた
「内調と警視庁は、どう動くのですか」三課課長のK置警視が参事官に訊ねる形で、参加者にわだかまっている疑念を代表する
「我々だけで対応するようにと、Y之原部長から話があったので、その辺りは含んでおいて欲しい」とO原が答えた後、10秒ほどの間をおいてから
「三課の方で、なにか掴んでおられるのですか」と、D田が発言した

「例のお山のご老人だよ。どうやらあの方が、総理に具申されたようなんだ」K置がD田の方に顔を向けて、そう発言した。ざわめく参会者
「まあ、それもひとつのベクトルにはなったようだが、総理ご自身も今度は腹をくくられたようだ」O原が、補足するように話をつなぐ
そうか、それで三課が顔を出したのか、とD田は得心がいった。がしかし、寝技も特異な総理のことだから、額面通りには受け取れない。それは分った上で、あえて声を張って言った
「わかりました、全力でAおよびAの家族をガードしつつ、Gへのコネクション確立を目指します」
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2019年10月19日

熟年超人の日 stage4 18

「AとAの家族のフォローですが、上にはもう離れろ、と言われているんですが、私としてはこの国のために、繋がりは残すべきだと判断しました。そちらからご覧になって、復活の芽はあると思われますか」
「あるだろうな。今回の件は、A国さまの大統領選挙が、どうやら共栄党候補のディック・ボスマン氏が、ここにきて優勢になっていることへの配慮なんだ」
「本命視されていた民進党のアイリーンさんは、あの問題で失速しちゃいましたもんね」

「今回の大統領選は、いろいろあって着地点が見えにくいんだよ」そこまで言ったとき、店員がコーヒーを運んで来たので、M原もD田も口をつぐんだ
「うん、旨いね、ここのは。これぞ珈琲ってやつだな」軽く鼻先にカップを寄せてから、ぐびっと飲んでM原が、満足げにうなづく
「私も、ここのを飲むと、庁舎のが不味くなって困ります」D田が相槌を打つ

「さっきの件だけど、どうもお山の大御所さまが押してるらしいんだ、彼を」
「A、…ですよね」分かり切ったことにも、念には念を入れておくのがD田だった。M原は大きくうなづいている
「あっちはあっちで、もしもボスマン氏になったら、A国優先主義の彼だから、スーパーマンが日本に居るなんて許せん!みたいに、本気でクレームをつけてくるだろうって、消息筋のご託宣があったらしい」
「そこを忖度、ですか…」D田は、2個目のコーヒーシュガーを入れながら、控えた方がいいかな、と逡巡した

「どうも、彼の、いや彼なのかどうかはまだ不明だったな、まあいい、彼の能力を真剣に調べたらしいんだ、やっこさんたちは」
「それで、これはモノホンのスーパーマンだ!って、なったんですね」
「そりゃそうだろう、なんせ1万トンもあるメガフロートを持って空を飛ぶは、超高度の放射線で溢れ返ってる原子炉内で動き回れるは、だろ。空を飛べることだって、理論的な解明が無いんだから、そりゃ日本なんかに任せちゃ置けんだろ、俺だって放っとけんと思うよ」

「彼が、我が国に居てくれれば、かの人物を介して、いろいろ伺える可能性がありますし、F原発以外にもお手をお借りしたき件は、山積みですもんね」
「おっと、次の会議があるんだ、俺はこれで失礼するよ。一言助言するなら、しんどいことの先に楽しいことがあるってぇのは、お互いボートで味わったよな。お山の大御所さまとコネクトとっておくのもアリかな」それだけ言うと、じゃぁと片手を挙げて、クラシック音楽の微かに流れている席から立ち上がった

自席に戻るとT垣がやって来て、15時に第4会議室にお集まりくださいますよう、O原参事官から連絡がありました、と伝えてくれた
さっきのM原さんの言っていたことに、からんだお達しが出たのかな、と思いながら、ごく普通に「ああ、そうですか」と返答する
「先ほど、B場課長が慌てて参事官に内線してから、部屋を出て行かれました」小声でそう付け足すと、失礼します、と大きな声で言ってから、T垣は自分の席に戻って行った

3時の会議は、いよいよ共栄党のボスマン候補がテレビ討論で優勢になって来たので、案件Gについては政府の見解が、ほぼ一本化されて、関わりを強化するという方針に転換するというものだった
「関わりを強化すること、すなわち重要人物Aへのフォローを再開せよということだ」日頃、内閣方針についてやや斜めに見ている感の強いO原参事官の、思いがけずポジティブな語調に、公安二課、外事第二課のみならず、日頃はあまり同席しない第一課長、第三課長、外事第一課長、外事第三課長も合わせての会議参加者たちに緊張が走った
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2019年09月29日

熟年超人の日 stage4 17

Aは少々あせりを感じていた
奥三河の別荘では、TM工務店の補修工事が始まっていて、シェルター工事と併せると、最終的な費用見積もりは1500〜2000万くらいになるだろうということだった
富士の老人からもらった2千万と、5月から7月にかけて、T電のH本部長から(株)グリーンリィへの振り込まれた3千万円があるものも、車の購入費や生活費ほかの諸々で、先行きはやや心細くなっている
そもそもシェルター設置については、全く考えていなかったのだが、富士の老人から「おぬしが日本人として自由にふるまう為には、家内の安全確保が必要なのじゃ」と言われて、なるほどと思い当たったからであった。老人は、外国諜報機関の関与はこの先必ずある、と言い切り、わしも気にかけているが、と言い添えた

5月にあった連絡の際、H本部長が約束してくれた5千万円の一括振り込みは、その後のT電の社内監査の都合で、5ケ月間に渡って毎月末に1千万円ずつ振り込まれることになったと、メールの連絡があったのに、7月末を最後に、8月、9月と振り込みがなかった
この調子で、10月末にも振り込まれないようなら、H本部長にこちらから催促をしなければならなくなりそうだが、この先の自身の立ち位置を考えて、鷹揚に連絡を待つべきか、気持がさだまらない

H本部長の連絡も、途絶えたままの状態だが、そのほかにも以前は身辺を離れなかった公安の監視体制にも、変化が見え始めているように思える
自分、いやグリーンマンの存在は、今の日本にとって必要で無くなりつつあるのか、他にも気になると言えばジュブブの睡眠通信も途絶えたままだ。なにかと指示のような提言のようなことを言ってくるジュブブは、煩く感じられる時もあるが、超人人生においては、まだまだ頼りにしたい存在だったことを、このところのAは痛感しているところだった

なり初めの頃の、何でもできる天下無敵の超人のイメージはどこへやら、なにかにつけて世間のしがらみの強靭さを思い知った今、それこそ“こんなはずではなかった”という気分だった
それもこれもみんな、自分の選んだ道に起きていることであり、あの日あの男から委託された“超人”という生き方が、まだ数ヶ月しか経っていないことを思い返し、この先の99年と何ヶ月かの行く末が思いやられた

*

同じ時間帯の中で、そんなAとは立場も生き方も異なる人々が、様々な場所で、ある意味似たような心境に陥っていた

*

「待ったか?」屈託のない声をかけて来た人物は、D田の大学時代の先輩であり、内閣情報調査室 国内部門1課課長のM原だった
T大漕艇部エイトクルーのバウ(船首部)クルーだったM原と、ストローク(船尾部)クルーだったD田とは、真に呼吸の合ったクルーとしての互いの存在感が、こうして年月を経て、権謀術策渦巻く中央官庁のキャリア官僚となった今も、心の拠り所になっていた
「お忙しいところ、すみませんでした。ここのコーヒーは、先輩と飲むときだけにしてるもんですから」
「そうか、僕もだよ。気が合うなあ、お互い」気心の知れた者にだけ見せる、魅力的な笑みを浮かべて、長身を軽やかにたたむように腰かけるM原の着席を待っていた店員が、注文を取って去るのを待って、D田が口を開く

「あの件ですが…。726の様子見令が出てから3ヶ月、その後の動きはどうなってるんでしょう?」
この大型喫茶店M屋は、警視庁からも内閣府からも近い霞が関ビル内にあり、高い各ボックス席の仕切りと、中央官庁街らしい客層による密談向きな落ち着きが、二人とも気に入っているので、こうした込み入った会話を時々していた
「それは、アチラさんの選挙結果が気になってるアノ方のご意向なんだから、1108の結果次第ってところだ。分かるだろ、共和党政権になったら、きっとあれやこれや言って来るだろうな、ってびびってるんだ」興味を失ってしまうと、この人はすぐ態度に出してしまうのが、数少ない欠点だな、とD田は理解していた
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