2019年05月26日

熟年超人の日 stage4 10

黒い影は、外階段の出入口からふいに室内に入って来たかのように、K松の視界に現れた
本当に、外階段の方から現れたのか正確には分からなかったが、壊れた窓を背にしてデスクの前に立つK松からは、下を見に行って今戻って来た戦闘隊のオリバーと、ドラッグ販売ルート担当のミゲルの後ろに、ふわっと黒い影が立っているのが見えた
「そ、そこだ!忍者がそこにいる!」外階段の出入口を指さしながら、K松が喚いた
その切迫した声と仕草に、その場にいた全員が出入り口を振り返ったが、開けっ放しのドアの向こうは暗闇でなにも見えない

「支部長、忍者、見たのか」たどたどしい日本語で、戦闘隊副隊長のカルロが問いただす
『見た。さっき俺からメモリーを盗っていった忍者だ』なんとか英語で喋りながら、忍者というより息子の好きな戦隊もののブラックレンジャーのようだったな、と頭に浮かんだ場違いな印象に当惑する
『下の連中は見ていないか、確認しろ』戦闘隊隊長のタオが落ち着いた声で指示を出す
同国人のソンがその言葉に反応して、食卓テーブル上の内線電話で、1階の詰所にいるはずの二人を呼ぶ
まさにその時、突然黒い影が現れると、戦闘隊副隊長のカルロのそばに、すすすっと近づいて顎の辺りをジャブで払うような動きを見せた

185pはある巨漢のカルロは、一瞬ぐらっとよろめいたが、なんとか持ち堪えて脚を踏ん張ると、ホルスターのトカレフTT‐33には手をやらず、腰に着けているコンバットナイフをさっと引き抜くと、そのままの勢いで黒い影の喉元目がけて素早く振り払う
一連の攻防を茫然と眺めていたK松の目には、黒い影が一瞬動きを止めたように見えたが、喉元から吹き出すはずの血しぶきは無く、手にしたナイフを見つめて立ち尽くしているカルロの姿があった
副隊長のそんな姿には目もくれず、戦闘隊員のオリバーが影の背中にダガーナイフを突き立てる…、が素晴らしい速さで振り返った影の手がナイフを払いのけ、飛ばされたナイフは天井に突き刺さった
立て続きに起こったアクションは、室内側に顔を向けているK松だけが一部始終を見ていたが、他のメンバーはそれぞれの位置から、部分的にしか見えていなかった

カルロより少し遅れ、オリバーとほぼ同時に侵入者に反応していた戦闘隊長のタオは、二人のF国人戦闘員の動きをフォローできる位置に身を置き、常に体から離さないグロッグ17を引き抜き、両手撃ちの構えを取ろうとしているところだった
食卓の内線電話で下の二人に様子を訊こうとしていたソンは、自分の傍らを風のようにすり抜けた(のであろう)影が、いつのまにか支部長K松の間近にまで接近し、戦闘隊副長のカルロを襲い、そこにもう一人の男が飛びかかったのを見て言葉を失い、受話器を持ったまま動けなくなっていた
一度下に様子を見に行き、上の騒ぎに慌てて戻って来たミゲルは、自分より先に戻ったオリバーが黒い影に向かっていって、ナイフを跳ね飛ばされたところを目撃して、自分も武器を取りに行かなければ、と判断して、廊下を隔てた先にある武器庫に向かうべく、その廊下に出るドアに向かう

副支部長のヤンは、K松が重要な物を盗られたことの、失点の評価に気を取られていたが、続いて起こったこの騒動から距離を置いて、後の本部への報告を意識して、傍観者になろうと、できるだけ目立たないように部屋の隅に移動する
先の襲撃で気絶させられていたO島は、ちょうど蘇生したところで、目の前に繰り広げられている光景が理解できず、ソファから半身を起こした状態でぼんやりしている
下の詰所に待機していたハオとガルシアは、内線をかけてきたソンの通話が不自然に途切れ、後ろで異様な物音が続いていることに危機感を覚え、外部からの襲撃に備えガルシアを詰所に残し、ハオが非常階段から2階に向かう

その時、影である私は、大男の脳震盪を狙った打撃が功を奏せず、相手の反撃をくらったことに束の間驚いたが、続いて背後に迫ったナイフ攻撃を、すんでのところで防ぎ切って、大分落ち着きを取り戻していた
以前の、ぼったくりバーに駆け付けた(や)の連中との立ち回りが、なんというか楽勝だったことで、この手の連中との闘いを気楽に考えていた自分に対し、なんであれ暴力組織との闘いには、油断は禁物ということを猛省していた
などと、のんびり戦局の分析などしている間もなく、拳銃を構えた男の射線から外れながら、一番上位者であろう日本人の首根っこを捕らえて、大音声を発した

「さあー、皆んなストップだ。動くとこいつの首をへし折るぞ!」と脅す。日本語では全員に通じないだろうと『動くな!』と、英語で付け加えながら、大音量で命じた
本当に大きな音を浴びせられると、人は動けなくなるものだと、なにかで読んだ気がしたが、その通りで、その場に居合わせた皆が、ぴたりと動きを止めた
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2019年05月16日

熟年超人の日 stage4 09

体当たりで窓をぶち破って、外に飛び出した直後に反転して20mばかり上昇して、再び倉庫の屋根に取り着くと、身を伏せて下の様子に聴き耳を立てる
「俺は見たんだ、忍者だ。忍者がO島を襲った後、俺からアレをひったくってったんだ」屋根材越しに透視すると、がちっとした中年の日本人が、受話器の向こうの相手にがなっている
声の調子から、相手は目下の者のように感じたが、途中で相手が替わったようで、今度はやや哀願調を帯びた声で同じような内容を説明し始めたので、相手が目上の者だと知れた

部屋の中には、隣室から戻った男達が四人、電話のやり取りに緊張した様子で、雀卓の周りに立ち尽くしているのが透える
そこに、さらにもう一人が駆け込んで来て早口の(恐らく)C国語で、なにかまくし立て始めた
その声に雀卓の近くにいた男の一人が、似たような言葉で応答し、今度は日本語でこの場の最上位者らしき日本人に話しかける
「支部長、ソンも取引用のPCを持っていかれた、と言っている」声音は支部長と呼ばれた男に比べると冷静で、この状況を、自分の上位者の失点と捉えている様子が垣間見える

「なんだとぉ、取引用のPCもやられたぁ、ばかやろう、なんでそんなドジ踏む羽目になったんだぁ!」声の調子に、明らかに電話の向こうにいる上位者に聴かせて、自分のミスをどさくさに紛らせようという意図が透けて見える
この会話を聴いている私は、例えはおかしいが、やりなれないひったくりに成功したチンピラのごとく、心の中の若くなっている部分が興奮しているのが分かる(今回は、K刑事にいい土産が出来たようだ)
しかし、例によって本来の私が囁きかけてくる(…影バージョンの存在をこの際、連中に印象付けておくのには、いいタイミングかも知れない)

外階段をガンガン響かせながら、下に行っていた連中が戻って来る
こっちは空を飛んで逃げればいいんだから、別に気にすることもないのだが、折角なら現在の状況を今後に役立つようにする手はないものだろうか、と考える
思いついたのは、例のムササビ飛行をレベルダウンして、倉庫の屋根から屋根に飛び移りながらサヨナラすることだった。さすれば、ここの連中に忍者の侵入と思い込ませられる
それが、いずれ連鎖的に警察に伝わり、私とグリーンマンを地球人と宇宙人の関係に設定してしまったことで、Gスーツの出番は非常に限られたものになっている現状を打開できるに違いない

いざというとき、私や私の家族の危機を救ってくれる、使い勝手の良いガーディアン的な“影”という存在を、公権力、アウトロー勢力のどちらにも知らしめておくべきだ
そう考えた私は、このままここを立ち去るのことを翻意し、再度、連中の前に姿を現してもおかしくない理由を考えてみたのだが、折角逃げた“忍者”が、再び舞い戻る不自然さが、どうにも気に入らない

考えあぐねていると、日本語が耳に飛び込んで来た
「大丈夫だ、コードはわかりっこない。パソコンだってメモリーだって、それだけじゃどうにもならんさ。こいつは金庫に入れておくから、お前らしっかり見張ってるんだぞ」どうやら支部長、と呼ばれていた男だ
それで考えが決まった。じゃあ、皆さんの前にお出ましといこうか

支部長のK松は、いったいどこの組織が裏にいるのか考えを巡らせていた
対抗組織のT組と考えるのがスジだが、案外内輪の誰かが、自分の失脚を計って、あんな奴を寄こしたのかも知れない、と思うと別の筋書きも浮かんでくる
身のこなしと黒ずくめの姿から、反射的に“忍者”と言ってしまったが、中身が何国人かわかりはしない
新興勢力であるC国マフィアと、強圧派の大統領の締め付けから逃れて日本に拠点確保をしたいF国ギャング、そこにT組との抗争で敗色濃厚になっていた独立武闘派のR会が、利害の一致を太平洋圏の覇権奪取に見い出して作ったP(パシフィック)連合は、暴力によるこの国の暗黒街制覇の共通点はあるものの、三つの言語と国民性の違いが、意思の疎通を妨げるネックになっていたのだ

T組勢力圏であるN市の海岸に近い今の場所に、わざわざ設けられたこの支部が、三つの勢力の末端組織の融合化を図りつつ、同時に敵の勢力圏内に楔を打ち込む“橋頭堡”の役割を担っていることを、肝に銘じていたK松だから、今回のトラブルの重みが痛いほどわかっていた
内部の反発勢力にせよ、T組の先制攻撃であるにせよ、たとえ警察の手先であっても、こんなことで躓く訳にはいかないと、自らに叱咤する
そのK松の視界を黒い影が過ぎった
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2019年04月19日

熟年超人の日 stage4 08

こいつはなにか武器を持っているようだ。周囲偵察能力が一気に活発化し、倉庫全域に散在する人間の位置が脳裏に浮かぶ(下の階にいる者はぼんやりしたものだが)
反応は電子機器と武器の二通り(武器も携帯などの電子機器も反応は過去体験している)感じるが、武器を持っている者は今のところごく僅かだ

2階出口の上には、壁からひさしが付き出しているので、そっとその上に移動する
すぐ目の前に2階の部屋から出て来た男がいる。こいつをなんとかしようか、と一瞬考えが浮かんだが、残念ながらその先の展開が見えない
私が逡巡しているうちに、男はなにか大声を出しながら、鉄階段を慌ただしく下りて行った
壁越しに部屋の中を窺うと、12〜13あるモニター画面を二人の男が分担して注視しているのが見える。その奥の部屋だろうか、ややぼんやりしてはいるが、四人は変わらず麻雀に熱中しているし、部屋の仕切りの影にテレビを観ている男が一人

誰もこの2階の出入り口に注意を払っていないことを確認して、ゆっくりドアが閉まる前に素早く、するりと部屋の天井に滑り込む
体色は一瞬で天井の石膏ボードの色と模様に変わっている
超人になる前、68sあった私が、天井に張り付いていられるのが不思議だが、重力を操る感覚には慣れている
ただ、いくら保護色でも目の前で動いたら、分かってしまうだろう、と判断した私はじっと天井からモニターを眺めている二人に神経を集中して、次の動き出しのタイミングを計ることにした

ふと、いい考えが浮かんだ
あまり練習してはいなかったが、例の腹話術をやってみる気になった
『△◆☆‖ДИ〇↑ー!』言葉は分からなかったが、さっきの男が叫んだ声色で、少し開いた状態のドア辺りから聞こえるように呼んでみた
その声にモニターを見ている二人が、びくっと反応した
上司らしい方が口早に、もうひとりの男になにか言いつけると、戸口に向かった部下をおいて、自分は隣室に何事か注意喚起の声をかける(視線は幾つもあるモニターを素早く巡回させつつ)
テレビ画面を観ている大男は私の腹話術にも反応せず、相変わらず画面の進行に夢中だ

その瞬間、よし今だ、と即断
最大速度で、天井からモニター画面のある壁面から離れたデスク上のノートパソコンを引っ掴み、電源コードを引き抜いて腹部にあてがって、再び天井に跳び付いてそのまま貼り付く(その間およそ0.7秒)
こんな急激な運動をしても、ほとんど心拍呼吸に変化は起きないのが超人の超人たる所以だ
だが、その微かな空気の動きを感じたか、モニターを眺め廻していた男の動きが止まった

なにか空気のそよぎを感じたソンは、その感覚をたぐるように視線をモニターから室内に移す
なんの変化もないように見える室内の光景を眺めていく視線が止まり、なにか神経に引っかかったものを探す
ソン専用のデスク上のPCが消えている
一瞬、自分がどこかに移動させたのか、と自問自答し、デスク上にだらしなく延びている電源コードに気付いて、心臓の血が一気に脳に吹き上がった
『おい、誰か侵入者がいるぞ!』そう隣室に声をかけながら、デスクの引き出しから拳銃を取り出し、改めて室内を見廻す

戸口で聞こえたミゲルの声と、ソンの最初の警戒の声を聞いた時は、DVDの画面から目を離さなかった巨漢カルロは、ソンが発した二度目の声に瞬発的に反応して、ショルダーホルスターから拳銃を引き抜くとモニタールームに飛び込み、猟犬の目で室内を捜索する
影は、ソンのかけた声に隣室が反応して、どやどやっと人が動き出すのを見て、一瞬天井に張り付いたまま静止したが、すぐに部屋の隅のやや薄暗くなっている壁に移動すると、その後大胆にも、各国語で喚きながら次々に男たちが出てきた後の、隣室に移動した

その幹部室では支部長のK松が、腹心のO島を従えて支部長専用デスクの引き出しから何かを取り出しているところだった
支部長席の後ろが窓になっていることを確認した影は、一瞬でボディガードのO島に近寄り、鳩尾(ミゾオチ)を強く突く。続いて、うっ、と呻いて前かがみになるO島の顎を、素早いフックでかすめるように撃っておいて、脳震盪を起こしたO島が崩れ落ちる様に、声もなく立ち尽くすK松の手の内から、その手に握りしめている物をひったくる
驚愕の表情のK松が、すぐ我に返って引き出しの奥の拳銃を取り出した時には、影は体当たりでぶち破った窓ガラスの向こうの闇の中に、飛び出した後だった
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2019年04月04日

熟年超人の日 stage4 07

当初考えていた通り、これは最初に、邪魔な全体監視カメラを排除することにした。取りあえず向こうの倉庫に飛び移り、こちら側を監視している、隣りの大きな倉庫の屋根上にあるカメラを片付けよう
この暗闇なら、まず見えないはずとは思ったが、念のため超人眼を凝らして件のカメラを精査するとカメラの横に赤く光っている茶筒状の器具が見える。試しに、感知波長を変えて視てみると、そいつからかなり強力な赤外線が放射されている
赤外線LED暗視カメラというやつだ。恐らく、倉庫の周囲を含めての全域を撮っているのだろう。もし、襲撃があった場合、倉庫側からの画像だけでは把握しきれないような、襲撃者グループ全体的の動きや、装備、構成人数などまで把握監視し、もし敵に倉庫を奪取された際には報復資料して活用、反撃するのに使うのだろう

ならば先ほど、この倉庫の屋根に降り立ったところも、録画されていたか思ったが、カメラの向いている角度からすれば、今いる位置は視界に入っていないはずだと判断
そこで、一旦上空に飛び上がってから滑空して、隣りの倉庫の屋根のカメラの死角にそっと着地する

まず赤外線LEDを故障させることにしたが、直接赤外線LEDを破壊してしまうのは、短絡的すぎるから、できるだけ、故障と思わせたい
ふと思いついたので、赤外線LEDと監視カメラの後部から出ている電源コードを摘んで、重力波を意識しながら、くっくっくっと指先の摘む力を強めたり弱めたりしてみる
…と、案の定と言うべきか、思いのほか簡単に赤外線LEDの放射が止まった。やはり、電流と重力波はなんらかの干渉作用を起こすようだ

まあそれはそれとして、じゃあ登場と行きましょうか、と心で呟いて行動を起こそうとしたその時『いいのか』と、誰かが囁いた気がした
その囁いたのが誰か、ということよりも、確かにここは考えるべきだぞ、と本来の熟年の私が影スーツの私を諭す
今夜、このP連合のアジトを襲撃すると決めた理由がいまいち確立できていない。なにか、腕試しに来た感が大きいのだ
目的がはっきりしない広告キャンペーンが、上手くいったためしはない。そもそも、K刑事からの情報でやってきただけなので、まずはP連合という(や)組織がどんなものなのか、目で見て確かめてやろう程度じゃないのか。じゃあ、どうしたものか

こんなところで迷っている自分が、急に馬鹿馬鹿しく思えて、影マスクの裏で思わず笑ってしまった
そもそもP連合という組織は、パシフィック連合を略した名前で、日本の新興(や)とC国マフィアの連合に、最近ドラッグ売買で闇の勢力争いに参入して来たF国ギャング、さらにその背後にいる北米のM国ギャングが、日本の裏社会の覇権争いに参戦してきたんだと、K刑事が教えてくれた
A県警としては、首都圏で抗争を活発化しつつあるP連合は、ただでさえ手を焼く丸暴対策が、A県にも拡大し兼ねないことが、頭痛のタネのようだ

それに乗ってしまった私も、お人よしの極みだが、結局正義の味方の超人(と繋がりのある)いち日本人としては、なんらかの働きも見せておいた方が、後々良いのでは、という判断を下した
そこまで考えを進め、納得しての行動をとなった。
そして、折角の影スーツの本格デビューなので、今回の目標は、このアジトにあるパソコンと、金庫の中にある(であろう)P連合の活動内容の奪取と、なにか証拠的な物があったら、それを頂いてK刑事にプレゼントするとしよう(できたら、ここの連中が気付かないうちにそれができるとさらに良し、としよう)

*

倉庫の2階は、12人分の2段ベッドがある部屋、武器庫とその奥に監禁室、真ん中の通路を挟んでモニター類をチェックできるコントロールルーム、その隣に幹部の部屋、1階はトラックが入ることが出来る倉庫スペースと、荷受け用の事務所区画になっている。この時刻、ベッドで寝ている夜中から明け方までの見張り役の二名を除く、十名が活動していた
幹部室では支部長のK松と副支部長のヤン、戦闘隊長のタオ、K松の護衛役のO島の四人が麻雀をしている
その横の食堂テーブル兼会議テーブルの周りの椅子に、戦闘隊の副長カルロと、戦闘隊員の二名が備え付けのテレビで洋物DVDを観ている

幹部室には、幹部用のベッドが4台あって、その権利者のもう一人、データ管理担当のソンはコンピュータエキスパートのミゲルと隣室のコントロールルームで、それぞれの上部組織の上位幹部の噂話をしながら、モニターチェックに目を光らせていた
2階の残った1室、武器庫とその奥の監禁室には人気はなく、残りのC国、F国の二人は1階の倉庫事務所でビールを飲んでいる

ミゲルが極秘メールの着信を確認して、暗号照合をしている間、ソンはそれとなくその画面を視界に収めていたが、ふと視野の片隅に、12台あるモニター画面の中に変化を感じた気がした
改めて注意を向けると、この倉庫全体をモニターしている隣りの倉庫の屋根上のカメラが機能していない
即、卓上の内線で副支部長のヤンに一報を入れるため、幹部室をコールする
ヤンは、自分の手牌の中から中(チュン)を2枚落としするか、順子(シュンツ)を崩すかの難問に遭遇していたため、食堂テーブルにいた部下が、副支部長席の受話器を取って自分を呼んだことに微かな苛立ちを覚えた

他の三人に合図して手牌を倒すと、自席に行ってやや不機嫌な声音でソンの電話に出る
『なにかL番カメラが故障したようだ』広東なまりの英語で、他の三人に言うと、念のため下の誰かに、隣りの倉庫の屋根を確かめるように言え、と言って受話器を置くと、思い直したように副長のカルロに、目で合図する
DVDを観ていたカルロは、電話を取ってヤンに渡した男に、F国訛りの強い英語で『下の奴がちゃんと見に行っているか確認しろ』と命じて、そのまま佳境に入った画面から目を離さない

その時、私はアジトになっている倉庫の屋根に移って、どこから中に入るか迷っていた
なまじ簡単な造りの倉庫の建物は、壊して入るならお茶の子だが、中の人間に気付かれないように侵入するのはかえって困難に思えた
影スーツがあっても、空き巣狙いのような侵入方法には疎いことは、中身の私のクオリティだから仕方がない
迷っていると、中でなにやら動きがあり、恐らく故障したかも知れぬ外のカメラの具合を、確認しろという連絡を大声でしている(妙な外国語だが、英語交じりなので見当がついた)

倉庫の1階のシャッター脇の扉が開いて、男が一人顔を突き出した。同時に、屋根の上の四隅のカメラと、鉄条網の柵の四隅にあるカメラが活発に動き始めた
柵の四隅のカメラは、外に向かって10度ほどの角度で首振り運動をしているだけだが、屋根の四隅のカメラはほぼ270度の可動域があるようで、うっかりすると撮られてしまうかも知れない
こちらにカメラが向く前に、屋根の端から2階への入口の上の壁に、吸い付くように移動する(やもりのように)

そのとき、その2階出入り口の扉が開いて、非常階段に人影が現れた
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2019年03月11日

熟年超人の日 stage4 06

破裂した水銀灯は計6個、監視カメラの排除には使えないかもしれないが、なにかの役に立つかもしれない
それにしても、両の掌に感じた衝撃は、超人になって初めてのもので、今後この技を使う時には、その点を留意しておかないといかんなぁ、と心に留め置いた私であった
まあ、テストはこれくらいにしてそろそろ出かけないと。腕時計を見る(影スーツも透視可)と、いつしか10時過ぎになっている

それからは、N市方向に向かって、飛び上がってはグライダー的な飛行を繰り返しながらの進行。そんな飛行では、当然スピードが出ない(時速100q程度か)
ただし、ぐんぐん飛ぶ感じのGスーツに比べると、すぃ〜っと滑空するこちらは、なかなかいい気分で飛行できる。その間、結構暇なのでGスーツと影スーツの違いを、つらつら考えを巡らせながらのお気楽飛行

なにせ、宇宙に飛び出せるし、マッハ4でも5でもスピードアップが可能なGスーツに比べると、この影スーツのアナログ感は半端ない。まるで、ジェット戦闘機と複葉の戦闘機だ。同じ宇宙人が用意してくれたとは、思えないような性能の差である。きっと、耐熱性や耐衝撃性も劣っているに違いない
二つのスーツのこれほどの違いは、一体なんのためなのだろう(あれほど合理的な考え方をするジュブブや、その上部組織が、ただの無駄をするとは思えない)いずれ、その用途の違いに思い当たることがあるのかも

Gスーツで飛行する場合は、地を蹴って飛び上がった次の瞬間には、安定した飛行が可能になる。対して、影スーツがムササビ的な滑空以外、そのまま強引に超人力で飛行すると、軌道が安定しないのは、慣れとかではなくスーツの根本的特性によるものだろう

超人になった今では、スーツなしでも宙に浮けるし、そこそこの早さで飛ぶこともできるのだが、初期の頃はともかく、この頃はスーツなしはなにか心許なく、まして宇宙になど行く気にはならない
というより、スーツなしではいかに超人と言えども、宇宙空間に飛び出せないだろう
…などと考えているうちに、下方の状況は灯りの少ない住宅地から、工場や倉庫の暗い影が並ぶT市の工業地帯に変わっている(遠くにひときわ明るく輝いているのがN市の中心部だ)

監視カメラの件にしても、P連合を潰しに行く積極的な理由の有無にしても、グリーンマンと私の関係に影忍者までからませたら、この先の私と私の家族の一般人の生活に、支障を及ぼすであろうことも、全て解決せぬまま、こうして無軌道に行動している私
定年を迎えた60才になる自分が、ブレーキをかけることができない現状に、なかばあきれ、そしてそれ以上に興奮している私もいるのも事実だ(超人化による若返り現象なのか!)

そんなことを考えながらも、目指すP連合のアジトがあるという灯りの無い2階建ての倉庫があったので、その屋根にふわっと降りる
倉庫の屋根と言えば、雨風だけ防げれば良いようなレベルの簡易な強度だが、影スーツは重力コントロールが得意らしく、みしっともいわない

耳を澄ませると、中にいる人物が観ているらしきテレビドラマの声が聴こえる
他には、いびきをかいて寝ている者が二人、麻雀らしきじゃらじゃらさせている音(つまり四人か)がする
監視カメラは、倉庫屋根の四隅と、1階のメイン入口と裏口、鉄製の非常階段で上がれる2階入り口の上、鉄条網で囲われている柵の四隅、そして隣接している別の倉庫の屋根から、この倉庫を監視・録画していると思われる1台。合計12台と、大盤振る舞いの設置数だ(それだけ警戒していないと、具合の悪いなにかがあるのだろう)
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2019年03月06日

熟年超人の日 stage4 05

キックボクシングジムを訪ねてから1週間ほど、ブックオブで購入した格闘技関連本(ボクシング、空手、ジークンドー、合気道等)を読破して、街の腕力自慢たちと同レベルくらいには格闘技を理解できた(ジムでの実戦が大いに役立った)
これで、格闘技を多少齧っていそうな連中を、できるだけ安全に倒すことができそうだと確信できたので、いよいよK刑事が教えてくれた、N市中区のP連合の隠れ事務所訪問(襲撃かな)の決行日と、影スーツ着用を決めた

このところずっとアパート近辺は平穏至極と認識していたが、念のための周囲偵察で、張込みらしき反応が皆無なことを確認した上での作戦開始であった

最近は影スーツの着用にも慣れてきて、二、三新しい機能も見つけていたのも、決行決定の一因だった
まず、ムササビのような滑空グライダー機能がスーツにあったこと(Gスーツに比べると飛行能力は劣るが、隠密性に優れている)と、着用時に体が触れている物体の表面と、視覚的に一体化(材質感もあるカメレオン的な能力)できること、もうひとつは腹話術のように、手近な場所から声を出すことが出来ることだ
どうやら私がスーツを使いこなせるレベルになったからなのか、明らかにGスーツに比べると、一般社会での汎用性が高い

今回は、車を移動手段とはせず(そもそも移動速度が遅すぎる)、在室のカモフラージュも兼ねて駐車場にそのまま置いておくことにした
電車での移動も有り得ないので、影スーツで地上を走るのかと思ったが、どこで誰に見られるか(走行中は、ぼやっとした影のように見えると思うが、路上の監視カメラを精査されれば、発見されるリスクがある)、分からないので、100mほどの高さにジャンプするか、高層ビルを利用して、その高さから滑空を繰り返しながらN市に向かうことにした

そのうち、夜も9時を過ぎたので、さあ出かけよう、とダイニングの椅子から腰を浮かせたとたん、携帯が鳴った。電話は妻からだった
「パパ、家に居るの?明日か明後日、パパの都合が良かったら一緒に“山の別荘”見に行こうかと思うんだけど」声の調子からは、機嫌が良くてかけて来たのか、意に染まなくて電話をくれたのか、どうも分からない
「あ…、うん、明日は用事が入るかも。だから、明後日がいいかな…」
「明後日は、お天気悪くなるって天気予報、出てたわよ」例によって、結論は出ているのだ
「そうか、それなら明日行けるように、調整してみるよ」…調整はP連合次第なんだが

妻にはほとんど相談せず、購入を決めてしまい、さらに非常時(どんな時に必要になるのか分からないが、富士の老人は熱心に勧めてくれた)の退避シェルター工事に取り掛かろうとしている今ではあったが、やはり妻には見せておかないと思っていたところでもあった
電話が切れた後、ちょっと出鼻をくじかれてしまったので、ついでに今夜のP連合襲撃の手筈をもう一度検証してみることにした(どうも最近、深く考えもせず行動してしまう…若返っているからか)

今回の動機は、やはり超人活動が思うに任せていないので、そろそろ成果を出したいというのが第一。そして、外国人の犯罪組織なら、手荒にぶっつぶしても、そんなに物議を醸さないだろうというのが二点目
もうひとつ引っかかっているのが、P連合が私を探している、というK刑事の話で、もしかするとこれは彼の作り話で、私経由でグリーンマンを動かして、P連合を潰してしまいたいから、なのではという疑念がある

そうなると、影スーツで動くのはどんなものか。どっちみち誰も死なせないようにやるからには、影が対戦している目撃情報が警察に伝わるだろう。すると、私とGマンと影という関係が明らかになってしまう。
それでは、今後の超人活動に差し障りはないか?いやいや、それよりむしろ一般人Aとその家族の社会生活になんらかの支障が生じるのではないか
と、考えると、今回の影は、あくまで影のごとき存在でなければならない。そこに注意して行動しよう、要は目撃情報を残さなければ良いのだから

襲撃相手の方は、超人力全開で素早くやれば、分からないうちに片付けることは可能だろう。そうなると後は、各所に設置されているであろう様々な監視カメラだ。それを無力化する方法がないか、私は改めてこの問題に、真剣に取り組むことにした

いずれにせよ、電気で動かしている監視(防犯)カメラは、どのようなタイプでも私の周囲偵察で感知できるから、位置の特定は簡単だ。問題は、P連合が設置している監視カメラのほかにも、市内の至る処にある防犯カメラと、最近多くなった車載カメラに映ってしまう可能性があることだ

そう言えば、なにかの本で読んだが、高高度で核爆発があるとかなりな範囲の通信・情報機器が機能停止するらしい。また、GPSの位置測定の誤作動の一因に、重力波の異常で起きたプラズマバブルが影響しているという記事も読んだ覚えがある
私の超人力には、重力のコントロール力が関わっているようだから、その力を応用して、監視カメラの無力化ができないものだろうか

これまでの超人力を発揮できた場面を顧みると、鉄属製品には大小問わず、力が発揮できていた。逆に、海の中や、地面に直接埋め込まれている物体や、木製のデスクなどを持ち上げたりする場合は、腕力勝負で切り抜けざるを得なかったことが、印象に残っている
エフワンの原子炉にもぐり込んだときには、ジュブブの助けもあって指先を高温にしたり、重力波を振動させて破損した扉を開けることが出来たが、あれはGスーツだけの特性だったのか、検証してみようと思いついた
と言って、この安普請のアパートで試してみる訳にもいかないだろう。N市に向かう途中にある、川べりでやってみることにした

夜のA川には、堤防道路を走る車が数台いるだけで、当然人影は無かったが、ムササビ滑空をしながらの周囲偵察と、超人眼に、カップルらしき人影が見える車が2台、河川敷に停まっているのが視える
それを避けて、少し下流に向かうと今度は完全に人けが無い場所があった
いっそ、と思ってさらに河口ちかくまで行くと、波消しのテトラポッドがあるので、これでなにか試してみるか、という気になった
まずは、指先に気を込めて、発熱を試みたがこれは変化なし。続いてテトラポッドを振動させてみたら、ピシッと深い亀裂が入った

超人眼で透視してみると、鉄製の型枠が入っているようで、コンクリートはその型枠からはがれるように、崩れ落ちている
コンクリート製の建物や、塀を破壊するのには役立ちそうだが、監視カメラの機能排除には結び付きそうもない
続いて、想像力を逞しくして、掌に重力波を集めるイメージをして、その両掌を激しく打ち合わせてみた。パーンという強い音が川面に響き渡り、川に架かっている橋の水銀灯が、ポンと破裂した
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