2018年09月09日

熟年超人の日 stage3 56

『私の方と言えば、NRC(原子力規制委員会)の調査員という触れ込みで、F原発の関係者から事情聴取していただけだから、さほどの困難はなかったんだが、彼らは民間のオカルト誌の記者とライターという肩書だけで、日本警察はおろか、YAKUZAや歓楽街の怪しげな連中から、情報らしいものを刈り集めなければならなかったんだから、随分と大変だっただろう』カップに注いだコーヒーを見つめながら、静かに話し出すデスモントの口元を、ジョナサンとオーウェンは興味深く注視している

『私の調査は終わり、日本の原子力発電システムの建設から、今回の廃棄作業まで、文字通りゆりかごも墓場も作る羽目になった様々な立場の連中が見て、判断した宇宙人の話をまとめて国に報告書を送る前に、ちょうどN市から一旦戻って来た二人と、どうせならポイントだけでも情報交換しておかないか、と、こっちから持ち掛けてみたんだ。つまり、私もひっかかるところがあったんだ
もちろん、そんなことはすべきでないことは分っていたんだが、あまりにも私がまとめた報告書が現実離れをしているように思えたんで、論調を確認しておきたかったんだ。この件は我が国にとって、さほど重要なことではないという論調をね』

『彼らも用心しながらではあるが、同じような気分になっていたんだろう。じゃあ、ちょっとだけ情報交換しようか、ということになって、大使館から大分離れたSHIBUYAのIZAKAYAに行ったんだ』ここで一口コーヒーを飲む
『彼らの収集してきた話しは驚くべきもので、かけ離れた存在に思えていた宇宙人が、日本人の特定の人物を守るような行動を取っていたという事実。さらに原発への介入も、その日本人の指示あるいは依頼で動いていたということだったんだ。つまり、宇宙人と言いながらも、著しくこの国寄りな行動をするスーパーマンってとこなんじゃないのか、という疑惑に満ちていた、というのが彼らの印象だった』ジョナサンとオーウェンは、思わず顔を見合わせる

『詳しいことまでは打ち明けてくれなかったが、大体そういうことで、今度は私が彼らにネタを披露する番だ。まず、1万トンもある鉄製のフロートタンクを持って、空を飛び回ったことについて、日本人技術者たちは魅了され、そう文字通り魅了されたってこと。その宇宙人が話の分かっている奴で、そうどこか大手代理店の企画売込みみたいだったってこと。それから、物を大事に取扱い、周りの、つまりあの日原発作業所にいたみんなのことを気遣い、クレーンカーなども大切に移動させ、放射能まみれの破損した原子炉の中に入って、なにも壊さず、デブリを取り出してくれたことに、日本人を感じるって思った奴が何人も居たってことを話してやったら、顔色変えて、もう一度N市に行って来るって言って、また情報収集に戻って行ったんだ。それで私も、報告書の見直しと追記が必要になったて訳さ』そう言うことかと、大使館員と資源担当オフィサーはうなづき合い、それから週末に行くゴルフ場の話題に興味を転じた

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[ 作戦本部東アジア部エージェント1208 トーマス・グラース 04ランクレポート ]同行者:情報本部東アジア分析部/ラトゥーヤ・コーカー

主題:同盟国日本に出現したグリーンマン(以下G)と呼称される地球外生命体、及び、Gと連携した場合の日本が包括する“我が国への脅威”の考察

20160421(Japan Time)日本入国後、大使館員のジョナサン・ハドソンと接触。以後、超常現象誌『パラノーマル・ライジング』の記者(L.C)とレグマン(T.G)のデイヴィス夫妻として調査行動開始
20160422(JT…以下略)東京よりN市に移動するためSHINKANSENに乗車した
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2018年08月28日

熟年超人の日 stage3 55

Aの妻M代は、引き落としばかりが記載された通帳を眺め、ため息をついた。夫が、それまで勤めていた会社を定年退職してから、次の就職も決まらないままもう3月が経っている
頼みの年金は、65才にならないともらえないから、どこかに再就職すると言っていたが、もう夫の年になると企画系の仕事は見つからず、と言って飲食店の手伝いや交通整理や新聞配達は体がもたないと、応募もしないし、今更タクシー免許を取りに行くのもなあ…などと言って、いっかな腰を上げようともしない
そのうち自分は超人になった、とか、F原発の問題を解決して、東京の電力会社からお金をもらえるようになったと、自慢そうに話していたが、いつになってもそんなお金が入ったという話はない

今こうして、長男のマンションの居間で、孫のT哉の寝顔を眺めながら、思い返すと二人が知り合い職場結婚した大手旅行会社を、夫が突然辞めて音楽出版会社に移った時は、結婚して2年、長男のT彦が生まれて、まだ1年もしない頃だった
これからは音楽が人生を輝かせるんだ、と言って目を輝かせていた夫は、関西で大きな地震があってしばらくした頃、その音楽出版社に突然辞表を出すと、仕事で付き合いのあった印刷会社に籍を移した
その時は、考えがあって印刷会社の仕事を覚えたいんだ、と言っていた夫だったが、事実3年もしたら、もう仕事は覚えたと言って、出資者を見つけてタウン誌を出版することになっていた
その時も、これからは身近にある情報がお金になるんだ、と興奮してわたしを説き伏せたっけ…。そのタウン誌経営の3年間は、特に休刊に至る2年目と、会社をたたむ最後の1年は大変だった

それまで、普通の中堅企業のサラリーマンの家庭で育ったM代にとって、お金が無い、ということの意味を、思い知らされる2年間だったが、それも今となっては笑い話になりそうなエピソードが散りばめられた思い出でもあった
いつも安定している状態が続くと、思いつきの実践に向かう夫の性癖に、悩まされはしたが、根が明るい自分であり夫であり、素直に育ってくれた二人の子どもに恵まれたこともあって、最近はこのまま夫婦で年を重ねられそうな気がしていたのだが、どうやらまた波乱の展開になりそうな予感がするM代だった

その時ぐずり始めたT哉の、オムツを取りに立ち上がったM代は、生来のポジティブさで、今度こそ夫がうまくやってくれるだろうと思い込むことにして、保育園待機中の孫の世話に神経を集中させた

同じ頃、T哉の母親であり、息子T彦の嫁のK子は、大都市のY市に洒落たオフィスを構えているIT企業で、顧客からの質問に答えるという役割を果たしていたし、息子のT彦はこの海に囲まれた方のY市にある、N電子の研究所の会議室で、部下の研究成果発表のサポート役を務めていた

[ 5月10日pm2:20 A国大使館7階談話室 ]
『で、どうなんだ、本国(アチラ)の様子は?』コーヒーの最後の一口をゆっくり空けながら、ジョナサン・ハドソンが訊く
『共和党の候補があの男に決まったようだから、現大統領や民主党の重鎮たちは、これで彼女に一本化できれば、もう勝ったようなものだと言っているらしい』エネルギー省から資源担当オフィサーとして着任したばかりのオーウェン・コンレーが、コーヒーカップの中を見つめながら答える
現大統領と同じ民主党の有力大統領候補、初の女性大統領が誕生すれば、政府の陣容にさほど変化はないはずで、なんとなく様子見的になっている日本政府の原発廃炉対策については、大筋容認の動きになるだろうと二人とも読んでいる

『おっ、なにを話し込んでいるのかな、お二人さん』陽気な声を掛けてきたのは、デスモンド・ブライト調査官だった
『いやぁ〜、なんとなくこのところの本国の有り様をだね、俺たちで評価していたんだよ』ブライトとは顔なじみのジョナサンが、軽口を叩く
『本国の有り様、と言えば、あのお二人さんのレポートは、なかなかのものだったらしいよ』コーヒーサーバーからカップにコーヒーを注ぎながら、軽い口調でブライトが喋り出す
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2018年08月11日

熟年超人の日 stage3 54

「おぬしなら、この日の本の命運を預けても大丈夫そうだ。きっと、宇宙人と上手くやりながら、この国を守ってくれるだろう」真顔になるとそう言い、T堂氏に軽く合図をする。はっ、と頭を下げて、T堂氏が高価そうな黒のビジネスバッグを、私の目の前に差し出す
「なんでしょうか、これは」まさか、札束が入っている?慌てて透視してみると、案の定札束だ。恐らく、2千万円くらい
「御察しの通り、軍資金だ。持って行ってくれ」と、言われても、はいそうですか、とはいかない
「いやぁ、こんな大金、持って行ってくれ、とおっしゃられてもねぇ」もらってしまったら、もうこの老人に頭が上がらなくなるに決まってる

「そうか、だが、おぬしがT電からもらう金だって、同じだろう。それに、税金で半分近く持ってかれるから、たいして残らんぞ」…そうか、税金がかかるか。そうすると1億振り込んでもらっても、実質5千万くらいしか使えない。それから先も、なにやかやと詮索されたり、恩に着せられたりもするだろうし、原発デブリを片付けてから後も、Gを使う話が持ち込まれそうな気がする
「そんな顔をするな。おぬしは、口利き屋として大きな顔をしていればいいんだ。ただ、これからおぬしを利用しようと寄ってくる輩に迷わず、日本のためになることだけを、あの宇宙人に頼むとして欲しいのだ。この金は、そんなおぬしが目先の金で動かなくて済むよう、わしからの寄付金だ。どうか受け取っておいてくれ」とは言っても、この金を受け取ればこの老人には借りが出来るが…
結局Gを別人格にして、家族を守る金を得ようとした私が、背負わなければならない宿命なのか

「私個人は、これまでお金を得るために働いてきた人間です。別にそのことを、引け目にも思っていませんし、お金で私が引き受けてしまったことでも、Gの基準に照らしたとき、出来ないと断られることがあるかも知れません。そうなったら、私は依頼主にどう対応すれば良いのでしょう」このところ、胸につかえている疑問を老人にぶつけてみた
「別にどうということはない。おぬしの役目は宇宙人に伝えればよいだけだ。気になるなら、口利き料と成功報酬を分ければ良いだけだ」…なるほど
「まさかおぬし、金をもらうことに気が咎めてはいないだろな。金は、遣い方で値打ちが決まるものだ。遣い主の値打ちもな。おぬしが、後顧の憂いを出来るだけ少なくせんが為に要る金なら、活き金になる。さすれば、外国から茶々を入れられても、安心して信じることができる、というものだ」…少し勘違いがあるのかも知れないが、老人の言うことは筋が通っているように思える

「分かりました。これからは、そう考えるようにします」で、この金はどうしよう
「そろそろ帰らねばならぬ頃合いだな。T堂、車の用意を。それから、この金は持って行ってくれ。無税の金は便利だが、気はつかってな」もう、もらうことは、決まってしまったようだ。まあ、いいか
「では、折角ですので頂いて帰ります」と、頭を下げてから、バッグを掴んで立ち上がる。まったく軽いのだが、札束入りの革製バッグならそこそこの重さになるはずなので、そこは演技力でカバーする
「その金は、わしからの寄付だから、気にせず使ってくれ」…、と補足するところをみると、気に留めておいてくれ、という意味なんだろうな

心底無口な若い男の運転する日産センチュリーで、新幹線の三島駅に送ってもらう。1時間ちょっとのドライブの間、頂いたバッグをチェックさせてもらう。もちろん、爆弾などは仕掛けられてはいなかったが、超小型のGPS発信機が付いている
外してしまおうかと思ったが、こうして大金を預かり、今後もなにかと気にかけてもらった方が良さそうなので(どのみち帰る先も分かっているだろうし、別にこのバッグの所在地など秘密にする必要もないし)、そのままにしておく
これからは、どこに出没するにも一般人らしいアシが欲しいのだから、この金の一部で車でも買おうか(以前持っていた車は、タウン誌の会社をたたんだ時に売り払って、それ以来マイカーはない)。そう考えると、なんだかわくわくするが、金のことを妻にはどう説明したらよいものか…
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2018年08月04日

熟年超人の日 stage3 53

「お待たせいたしました」N絵が細身の小ぶりな脇差をうやうやしく老人に差し出した。老人はそれを受け取ると、すらりと刀身を抜き放ち、刃紋に目をやると、頷いて再び鞘に収める
「では、手合わせを願おうかの。わしも最近は力が弱ってなぁ、この軽い奴で居合い抜きの真似事くらいしかできんのだよ。悪いが、これでやらせてもらうよ」と、こいつはどう見ても真剣だ
「本物の刀ですよね、それは」ホント、私が超人でなかったら、びびってしまって大変ですよ
「ああ、そうだよ。構わんだろう、こいつで」老人の嬉しそうな顔を見るのは初めてだ

では、と老人が腰に脇差を差し、すっと立ち上がる。少し前かがみだった姿勢が真直ぐに伸びる。それから部屋の真ん中にすすっと進み出ると、腰を少し落として軽く捻り半身に構える
私も部屋の中央に出て、老人が半身に構えたのと同時に、少し腰を落として身構える。別に、同構えてもほとんど同じかと思うのだが、こっちの方が本物っぽいし、老人の動きに対応し易そうだから
老人が真剣の居合いで挑んできたので、私としては老人が動きかかった瞬間に懐に飛び込んで、遺愛抜きをしようとする、その手を押さえて、勝負あったにするつもりだ
しかし、こうして見合ってみると、習練を積んでいるその道の達人の気迫というものはもの凄く、超人のスピードをもってしても、老人の手が動く瞬間に間合いを詰めて、刀の柄にかかった手元を、押さえることが出来るのか、不安になってくる

そこで、作戦を変えることにする。手の動きの前に、呼吸や脈拍に変化があるはず、と注意点を変更した
しかし、老人の呼吸も脈拍も穏やかで、変化の予兆が掴めない
そこで、B東氏に倣って気合をかけてみる
「ぃやあー!!!」超人になってから、大声を出してみたことがなかったが、我ながらとんでもなく大きい声が出た。護衛役の若い隊員がびくっと身震いして、思わず身構える。心拍数も上昇、呼吸も早くなる。それは、T堂氏もN絵さんもやや抑え気味とはいえ、緊張感が増しているのが分かる
ただ老人は、それでもなんの変化もなく、そこに立っているだけ…と、見えた瞬間、呼吸がぐっとつまった
その瞬間、迷いなく老人の腹の辺り目がけて、超人力全開で接近する
そんなに早く動いたことがなかったので、どうやってその動きを止めて、老人の手を押さえるのか、考えは付いていかなかった

ただ、老人の体の動きにゆらぐ空気を感じるのと、老人の捻られた腰が更に深く捻られて、押さえようとした老人の手が、私の手から逃げるようにしながら、素早く刀の柄を握り、裂ぱくの気合と共に、白い刀身を引き抜くところが見えた
そこからは私のスピードが勝り、手ではなく右肘を私の手が押さえる形で、勝負が着いた
老人は刀を抜きかけの状態で動きが止まり、私は抑えた右肘から手を離すタイミングを計りかねていた
しばし、と言っても2秒間ほどして、老人の力が抜け、私も離した手を攻守どちらでも対応できそうな形に戻せた(この緊迫感からすると、次の攻撃があることも考えられると判断)

「はっ、いや、素早いなぁおぬしは。わしが、もう少し若かったら、もうちょっと先まで見せられたものを」と、老人が笑いながら完全に刀身を鞘に収めた後、左手で腰から抜き出して寄って来たN絵に渡す
「いやぁ〜、どっきりしましたよ。すぱっと切られてしまうのかと思いました」思わず、本音の言葉が出てしまう
「なんのなんの、おぬしの手加減がなかったら、わしなんぞすっ飛ばされておったわ」楽しそうに笑う老人を、N絵とT堂氏が嬉しそうに見ている
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2018年08月02日

熟年超人の日 stage3 52

「それで、おぬしはこれからどうしたいんだ」ズバッと来た
「昨夜もお話ししました通り、T電さんから頂いたお金で、家族の避難先を山の中にでも造ったら、グリーンマンに連絡して、F原発の廃炉に向けて放射能ゴミを片付けてもらいます」話しているうちに、根拠がぐらついているのが自分でも分かる
「その後は、どうする?また、どこかの企業か国の手助けをするか。その時の報酬はもらうのか、次はタダでやるのか、それともこの一回限りだとするか」真顔の老人の眼の奥に、何かがある
「それは…」そうだ、あそこを片付けて、その先の超人活動をどう続けたらいいんだ

「A国がかの守護神の来訪について、既に我が国政府に探り入れていることは、昨日話した通りだ。いずれは、おぬしのことを探り当て、接触を試みるだろう。その時、おぬしはどうする。金をもらって、今度はA国の頼みを聞くのか」
「い、いやぁ、お金をもらってやるっていうのは、どうも…」そこまでは考えていなかった
「だが、おぬしは口利き屋として、今回の仕事をあの宇宙人に頼むのだろう?宇宙人が、いつまでおぬしへの恩義を覚えていてくれるのかは知らぬが、おぬし自身は金で請け負ったことを、宇宙人に引き受けてもらう、そんな役目を背負いこんでしまったのだからな」う〜ん、その通りだ。ジュブブが心配していたのも、そこだったか

「グリーンマンは、私の願いなら、できることはなんでもしてくれると言っていました」
「そうか、ならばことはもっと厄介になるぞ。あの力だ、なんでもということは、世界の政治家にとっては“最悪”を意味しているからなあ」
「最悪、なんですか」正直、意味がわからない
「そうだ、政治家というのは、何だ。人々の、民衆の、国民の代表であらねばならないと言う連中だ。おぬしも知っての通り、なにやかにやのグループの利益誘引代表だ。それが、なんでもやってくれそうな宇宙人がこの世に居たら、どんな立場を採らねばならなくなるか、想像がつかんか」そうか、なんでもという言葉から、悪いことしか思いつけない人間もいるよなぁ

「ところでおぬし、歳は幾つだったかな」突然話題が飛んだ
「はあ、今年の春60才になりましたが」
「そうだったな、定年で広告会社を退職したんだったな。だが、若いなおぬしは。50にもいっておらんように見えるぞ。なにか、宇宙人から若返りの処方でもしてもらったのかな?」
「いや、そんなことはありませんが、そうですか、若く見えますか。そりゃありがとうございます」ここはとぼけておく
「しかし、あのB東をいとも簡単にあしらうことが出来、T堂の話ではS会の若頭も形なしだったとか、これはぜひ、わしも立ち会ってみたいものだな。どうです、わしの冥土の土産に」そう言う言葉を聞いたT堂氏が、N絵に視線をやると、すっと立ち上がったN絵は部屋を出て行く

「いやあ、なんだか変な方にお話しが行っているようですが、私にはその気はございませんので」と、ここは一応遠慮申し上げておくことにする。ただ、この道場然とした部屋の、上座に座っている老人を見るにつけ、いかにも江戸時代の剣術道場主らしい佇まいは、本気で私と一試合手合わせしないと、済まない空気になっているのが、武術素人の私にもわかるのだ
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2018年08月01日

熟年超人の日 stage3 51

「まだ、彼のテレパシーはつながっているのかね」老人の語りかけが、とても穏やかな声音になっている
「ここから彼が飛び去る際、物体を衝突させて相手の体組織を破壊する攻撃方法は、原始的な文明レベルである、という想念が伝わって来た後、今はもう何も感じません」と伝える
「そうか、折角来てもらったのに、直接会えなんだな」心底残念、といった表情で嘆いている老人を見ると、なにやら騙しているようで気が引けてくる
「でも銃で撃ったことについては、なにも気にしていなかったようですよ」などと、言わずもがなのことを口にしてしまった

そうしているところに、T堂氏の携帯が鳴る
「はい、そうだ、…そうか、…そうなのか、分かった。私から報告する」と、例によって小声で、てきぱきと応答して、携帯をオフにする(…が、私の超人耳にはちゃんと聞こえている)
「はい、そうだ(T堂だ、発射した弾丸の幾つかが、庭で見つかったと)そうか、(現時点で2発回収できた7.62o弾丸の弾頭には、なんの傷も付いていなかったと)そうなのか、分かった。(その件については)私から報告する」てな具合にちゃんと聴こえている
携帯を胸ポケットに収めたT堂氏が、今度は老人の耳元に今の報告内容を囁く。ほぼ先ほどの携帯でのやり取りを繰り返したものだったが、最後に補足として、あの距離ならば外すはずがない銃弾が、無傷で落ちていたということは、怪人には弾丸をそらす能力があるものと思われると言って、報告を締めくくった

「おぬしは、あのグリーンマンとやらが、銃弾をそらす力を持っていることは知っておったのかな」私の呼び方が、あんたからおぬしに変わったことに気付いたが、それがなにを意味しているのか分からなかったので、とりあえず「いいえ」と短く答えておく
「しかし、あのグリーンマンの力はすごいな。あれで、エフワンでは1万トンもあるメガフロートを持って宙を飛びまわったというじゃないか」老人の眼が輝いている。頬もなにやら紅潮して、興奮が見て取れる
「なんでも、この惑星の爆発力で殺傷物体を相手にぶつける攻撃方法は、文明レベルがまだまだ低い証拠だと、以前言ってましたから」老人の高揚感が伝染して、ついつい言わなくても良いようなことを言ってしまう

「そうかそうか。ええのう、そうかそうか。ならば、大砲でも爆弾でも平気のへい、だということか。そうかそうか」ますます上機嫌になる老人の脳裏になにが浮かんでいるのか、基本小市民でしかない私は不安になる
「ところで、あのグリーンマンは、いつまでこの地球にいられるのか、おぬしは聞いておるかな」突然の老人の質問に、慌てた私は思わず本音を吐露してしまう
「こちらの任期は、地球時間で50年はあるそうです」言ってしまって、老人の眼がぎらっと光るのを見て、私の心は言い得ぬ不安に襲われる
「T堂、やはりわしの読んだ通りだったな」と、傍らに立っているT堂氏に語りかける
「ははっ、御館様のご推察通りでありましたな」しゃちほこばって答えるT堂氏の態度に、私の中で警戒ベルが鳴る
「T堂さん、それはどんなお考えなんでしょうか?」どうも老人には話しかけにくい

「グリーンマンは、この日の本を救ってくれようと、天が遣わした守護神だということだ」T堂氏ではなく、老人が応える
「はあ?」思いがけない話の展開に、つい素の馬鹿げた声が出てしまう
「分からんか、そもそもおぬしが、かの天のお使いに出会ったのも、大いなる御心のなせる業であったということだ」なんで、話がそうなっていくのか…
「今や、この国は諸外国の権謀術策にはまって、己が国の未来のための施策も、自由になせない状態になっておるのは、おぬしにも薄々分かっておるのだろう」そうか、そう言えば、日本の原子力利用のエネルギー計画は、A国の原子力開発計画の一環に組み込まれていて、廃絶の自由はないんだと、ネットにあったのを見たことがある
「それを、うむを言わさず、超人の力技で克服させようと、日本の神様が遣わした、と」ついつい偉そうな相手に迎合してしまうのは、企画マンであった私の癖

「そうだ、おぬしにも見えているな」やはり大物に褒められると、悪い気はしない、…ってこれで良いのか!?
posted by ミスターK at 11:24| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説