2016年12月22日

熟年超人の日 stage2 10

6階の7名と私もアナウンスを聞いた
「ではグリーンマンさん、よろしくお願い致します」広報部長のNが私に声を掛ける
「私どもでは、デブリ収納用のコンテナと収納ケースを用意しておりますが、まだほかに用意しておいた方がよいものがあったら、おっしゃって下さい」除染推進室のSが補足する
「私が戻って来たとき、随分汚染されていると思うが、その用意もできているのか。また、海で除染した後、ここにまた戻った方が良いのか」
「そうですね、今後のことももう少しお打ち合わせを願いたいので、お戻り頂きたいと思います」と、廃炉推進カンパニーのTが、Kの表情を窺いながら言う

「その場合、皆さんに支障が無いよう、私専用の放射能測定器を用意して頂きたい」…むろん、皆に害を及ばしたくないこともあるが、家族に会えるかどうかが心配だったから、である
「はい、グリーンマンさんの放射能については、徹底的にケアすべきと考えますので、屋外用を用意します」
「ところで、グリーンマンさんの炉心への到達方法ですが、建屋の密封状態を出来得る限り保ちたいので、3号建屋のオペフロから入って頂きたいのですが」
「オペフロ?、それは…?」
「すみません、オペレーションフロアのことで、建屋の最上階です。グリーンマンさんは空をお飛びになられるので、ここから(と言ってプリントした写真を見せてくれた)建屋の中に入るのが良いと思います」

「そうか、私は建屋の壁を突き破ってもいいと思っていたのだが…」わざとそう言ってみると、皆慌てて手を横に振る
「やめてくださいよ、そんなこと。建屋の側壁は1〜2mあるので、なんとか大規模な放射能漏れを起こさないで踏ん張ってるんですから」と、廃炉推進カンッパニーのTが真剣な顔で言う
「グリーンマンさんは最上階、と言っても元は5階だったのですが、そこから4階3階…と、下の階に降りて頂いて、できれば格納容器の破損部分から中を覗いて頂けると助かるんですが…」無茶振りをしている自分に気づいたか、途中でTの声が小さくなる
「わかった、格納容器の中だな」とてつもなく高い放射線で、探りに行ったロボットが動けなくなった、というニュースは以前観たことがある

「グリーンマンさんが行かれる場所は、高濃度の放射物質があるので、GM管をお持ちください」
「GM管?…ああ、放射線測定器の一種だね」一応事前予習で知っていたが、あえて訊ねてみた
「はい。我々はガンマ線を測るシンチレータですが、グリーンマンさんの行かれる場所は、アルファ線もベータ線も強い場所なので…。それに、後々の資料にもしたいと思いますので、こちらをお持ち下さい」
Tが差し出した黄色の計器は、小さ目のハンドバッグほどもあり、片手で持つスタイルだ
なにか持たされるのは、不都合だが仕方がない
そんなあれやこれやのやりとりに焦れたのか、不機嫌そうな表情と声音で
「…じゃあ、他のメンバーをあまり待たせては悪いから、そろそろお願いしようか」と、Kが促す

この階に上がる時は、なりゆきでNとエレベーターに同乗したが、今度は同乗者も多いので、また非常口から飛んで下りることにした
あまり近くでこのスーツを眺められたら、どんなボロが出るかも知れない
そもそも身長168pの私が、スーツを着用すると180p超えになるという不思議なメカが、当のご本人にも分かっていないんだから
エレベーターの同乗を断って、非常口に向かう私の後ろで、K副本部長が疑わしさ全開の視線を送っているのが分かったが無視

先に地上に降り立って待っていると、新しい防護服を装着したメンバーがぞろぞろ出て来て待機しているバスに乗り込んでいく
遅れて、見るからに様子の違うタイプの防護服姿の3人がゆっくりした足取りで、そのままバスに向かう
そうか、これが正規のタイベック防護服というやつだな、と独り合点する私
さらに遅れて、6階にいた連中もバスに乗り込んだ
「では、3号機の処でお会いしましょう」と、Nがマスク越しに言い置いて、最後に乗り込むとバスが動き出す
私は、バスを見送った後、すっと舞い上がってから、一気に3号機に向かった
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2016年12月15日

熟年超人の日 stage2 09

同じ頃、3階にある食堂では、T電以外の会議出席者たちが幾つかのグループに分かれて食事を摂っていた
窓に近いテーブルのひとつに、6階にいかなかった収束センターのU、日本原子力研究開発機構のWが並んで座っているところへ、経産省のYがトレイにカレーライスとうどんを載せて近づいて「ここいいですか?」と訊いた
二人は顔を上げると、どうぞどうぞと空いている席を示す
「いやぁ、それにしてもすごかったですね。あんなもの持って空を飛べるなんて」と、Yが水を向ける
「いやぁ、さすがのスーパーマンさまでした」本心、感心した面持ちのU
「あの力なら、ここもどうにかできるんじゃないんでしょうかね」うなづきながらWが同意する

「一体、どうやってあんな形で、メガフロート持って空を飛べるんですかねぇ」とY
「そうですね。ただ力が強いってだけじゃなさそうですね」と、W
「クレーン車のときも、フックが揺れもしなかった…」と応じたのは、U
「例えばあれですかね、地球の引力を遮断する力があるとか…」とY
「引力というか、重力を無効にする力でもあれば、可能なのかな」呟くようにW
「まあ、宇宙の方だって言ってるんですから、我々地球の科学なんかじゃ理解できないのも無理からぬ、ってことじゃないんですか」あっけらかんとした口調でUが言い切る
「こう見えて私、SF小説が好きだったので、なんとなく、そんな風に考えてました」Yが続ける

別のテーブルでは、2号機を米国メーカーと共同で、3号機は自社技術で納入したT電機社員3名と、偶然一緒に居るのかS建設の2名が、黙々とスプーンでカレーを口に運んでいる
その隣の誰も座っていないテーブルの向こうでは、今回は事故を免れた4号機の納入メーカーH電機の3名が、多少オブザーバー気分なのか、やや明るめの表情でK建設の2名と同席している

さらに、離れたテーブルでは、T工務店の2名が既に食事を終え、ゆっくりコーヒーを飲んでいる
「しかし、なんなんだろうねぇ、今日の緊急会議は。我々がここに居る理由なんてないじゃないか」
「本社の方では、今日の会議でなにが話されるか、聞いといた方がいいって判断なんですよ」
「そうか、それでNさんが来ることになったんだね」立場上上級職のSがうなづく
「そうですよ、あんなスーパーマンみたいなのが、プロジェクトに参加することがあるなら、これからの日本の大規模プロジェクトのやり方が思いっ切り変わるし、あの国だってなんだかんだ言ってくるでしょうし…」Nが面白そうに声を潜めてSの関心を惹く

内調のYも、公安のNも後に提出されるレポートで、どうやらT電側が別室でGと秘密交渉していたらしいと推察し、それ以外の官民の担当者には、Gが参画する事態への危機感は感じられなかった、と報告している
食堂にいる誰もが、目の当たりにしたGのパフォーマンスに度肝を抜かれ、この(自分が関わっている間には)収束不可能と思われた現場に、一条の光明が差したことは感じていた
ただ、今回のことが、今後の収束作業の運営に、どれほどの影響を与え、一気に進展した後、果たしてGが継続して関わりを持つのか、それぞれの立場に応じて異なるものの、一抹の不安感を覚えていた

早飯の者たちがコーヒーを飲み終えた頃、食堂内に『〜実証会議ご出席の皆さまは、所定の防護服を着用の上、休憩棟前に待機中のバスにご乗車下さい〜』とアナウンスが流れ、一瞬しんとした後、椅子をひく音、席を立つ音が食堂内を満たす
まだコーヒーを半分も飲んでいないYは、飲みかけのカップを置いて席を立ち上がり、離れたテーブルのNとちらっと眼を見交わした
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2016年12月08日

熟年超人の日 stage2 08

どうやら皆は、3階の食堂に行ったようだ
私は、案内されるまま6階にある一間に入った
入室する前に、さっと室内を透視してみると、6人の人物が応接セットに座っている
少し透視力を上げると、午前の会議に出席していた者以外にもう1名増えている
それ以外は、いずれも会議室では私の向かい側に居た連中だ
つまりT電内部の人間ばかり、ということは増えた1名も恐らくT電の社員だろう

「さ、どうぞ」この部屋に案内してきた広報のNがドアを開けて、入室するよう促す
「いやぁ、すみませんなぁ。わざわざご足労頂いて」…あまりすまなそうでない声音で、座ったままのKが空いている革張りの応接椅子を手で示しながら言う
「いや、私に構わないで頂きたい。このままでお話を伺おう」…高圧には高圧だ
「そうですか。ならば、そのままお立ち頂いたまま、ということで」と、K
「いやいや、グリーンマンさん。それではどうも、なんだか…」とNが言いかけるが、Kの表情を見て口をつむぐ
「実は、私お宅さまには初めてお目にかかるのですが…復興本社総務部長を賜っておりますWと申します」
増えていた人物が自己紹介をした

私は、応接セットに座っている(Nは、K副本部長の斜め後方のスツールに腰かけた)グループに対して
ドアを背にする格好で立ち、腕組み(これは対抗のサイン)をしたまま、Wにうなづく
「いやいや、さきほどは素晴らしいお力を拝見しました」と、Kが私を持ち上げ、うなづきながら私に畏敬の眼差しを送っている他のメンバーを見渡す
「いやぁ、すごかったです、まさかメガフロートを持って空を飛ぶなんて!」本気声を出したのは、確か廃炉推進カンパニーのT、と会議室で名乗った人物だ
「そこで、ですね。この後の炉心調査にお向かいになる前に、今回のグリーンマン様のお仕事の内容・方法につきまして、範囲設定と対価、と申しますか、謝礼、あるいは報酬の大枠につきまして、ご要望をお伺いしたいと思っておりまして」長々と、Wが発言する
「まあ、そういうことです。大筋は。ざっくり言えば、どのようにグリーンマンさんが請負って下さるか、そのおつもりをお伺いさせて頂きたい、ということです」Kが補足する

それは、そうだろう。彼らにしてみれば、現在置かれている困難な状況を打開する光明が見えた、だが、その作業を請け負うのが、組織ではなく、個人=超人という不確かなものでは、困るのだろう
だが、私としても、最終的に何十年かかるのか分からない収束作業に殉じる気もないのが本音だ
超人として、さっとやって、さっと帰ってしまえば良いかと思っていたが、そうは問屋が、というところだろう
こっち本位で言わしてもらえば、突然押しかけ、現場の人間に直接声をかけ、がぁーっとやってしまえれば良かったんだが、人間Aとしての生活の都合もあるので、つい会社組織との交渉になってしまったのが、この状況だ
私はその瞬間、かなり後悔したが、まあ、しょうがない、ここは超人に徹し、めんどうなことは代理人Aに任せることにしよう(と言っても私自身は逃げ切れないが)と、決心した

「お前たちの言わんとするところは、充分推察できるが、私は宇宙の者であってこの星の事情に関わることはない。幸い、この星には私と関連を持つ者がいるから、後に彼から今の話に沿った提案をさせよう」
あくまで、超人Gとしては距離間を持たせておこう
「そ、そうなんですか。貴方様のおっしゃられる、関連を持たれている方、というのは当社のHと連絡を持たれているというA氏のことですね」
「そうだ」ちらっと、K副本部長を見ると、いや〜な顔をしている
「まあまあK副本部長、いずれにしてもこの後、グリーンマンさんが炉心に行って戻って来られて、それからでもいいじゃないですか」廃炉推進カンパニーのTが口を添える

「いいや、そう簡単ではないですよ、今回の案件は」急に口を挟んできたのは、収束センターのBという男だ
「なにが、気にかかっているんだねBセンター長」Kがフォローを入れる
「そうですよ、グリーンマンさんには失礼だが、この施設全体で一体何人の人が命がけの作業をしているのか、ご存じですか? 当社の社員だけで1200人、各社から応援に来て頂いている作業関係者は、ざっと6千人もいるんですよ。その作業員や、技術者を派遣されたり、補充されたりしてもらっている関係会社の数も膨大なものになっているんです。その人たちとの、今後の連携をどこまでどうするのか、先の見通しもできないじゃぁ、調整ができませんよ!」
…なるほど、そこか、と腑に落ちた
「そうだね、君のところでは、そこで苦労してるんだから、気にかかる訳だね」Kの強調する言葉
…確かに、この何十年も続く(であろう)収束作業で、潤う会社や組織があることは聞いている

「しかし、副本部長。炉心のデブリの取り出しについては、今の我々の技術レベル、というか人類が到達している技術レベルでは、埒が明かないのも事実ではないでしょうか」Tが食い下がる
「もしも、この方のおっしゃるように、一気にデブリを太陽に、でしたか、太陽に捨ててもらえるなら、この件の最懸案事項が、片付くんじゃないでしょうか」復興推進室のGと名乗っていた男が続いた
「まあ、太陽に持ってってもらえるにしても、地表に出しただけで、どんなことになるか、あまり考えたくはないけどな」少しシニカルな口調で、除染推進室のSと自己紹介していた人物がぼやく

…そうなんだよな、これが組織で動きながら個人の思惑にも縛られている、人間の弱点なんだよなぁ
posted by ミスターK at 14:41| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2016年12月07日

熟年超人の日 stage2 07

その言葉に、皆腹が減っていたことを思い出した
「じゃ、休憩棟に移動してメシでも食いますか」
そうだな、と皆そぞろ免震棟前に停まっているバスを目指して歩き始める
「グリーンマンさんもご一緒に、いかがですか?」防護マスクで顔が見えにくいが、私にはH電機かT電機の誰かの顔が見えている
が、名前が思い出せないのはいつもの…いや、その瞬間H電機のD氏だと答えが浮かぶ
そうか、これも超人効果なんだと、物忘れジェネレーションの私はちょっと嬉しさを感じる

「私は食事など要らないが、皆さんは空腹になれば思考レベルがダウンすることは知っている。だから、私も休憩棟に行こう」
「そうですよ、腹が減っては戦はできん、って言いますもんね」…なんだか親近感が湧く人だ
「そう言えば、あなたでしたね、放射能は太平洋で落とせ、と言われたのは」と私
「ええ、そうです。現在の放射能除染は、薄めて自然放射能と同レベルにすればOKみたいなもんですから」
彼らとの会議を経て、私の心の中に強烈な放射能に汚染された後、海で泳いだくらいで完全に除染できるかの不安が芽吹いていたのだ

そりゃそうだ、こんなめんどくさそうな仕事を片付けて、帰ったら放射能まみれで
妻のそばには近寄れないわ、孫の相手もできんわでは生きていく甲斐がない
とにかく、自身はへっちゃらで動き回っていたら、伝染病の保菌者みたいなもので
周囲に迷惑をかける、とんでもない存在になってしまう
そんな、いかにも小市民的な悩みに懊悩している私を置いて、皆バスに乗り込んで出て行ってしまうではないか
そう、私は超人なのだから、さっと飛んで彼らより先に休憩棟に着いていれば良いだけの話だ
しかし、なんとなく感じるこの疎外感、やっぱり私は日本人なのだなぁ…、と独り合点

彼らの乗ったバスが、ALPS(多核種除去設備)の前を過ぎ、左折して行く
それを視認して、飛び上がろうとした時、免震重要棟の前に出て来ている人、隣りの建物の陰に待機している防護服の作業員、皆の熱い視線を感じた
さっきの私のデモンストレーションは、会議室に居た連中だけでなく、この施設で働いている人々のかなりな人数が見ていたようだ
さっと、飛び上がった私の面映ゆい気持ちは、幸いマスクで遮られて彼らには見えないのが助かる
この気分は、超人か一流スポーツ選手か、音楽関連のスターでなければ味わえないだろう

かなり高揚した気分で飛び上がったので、一気に上空500mくらいに到達してしまった
幸い9階建ての休憩棟は、上空からよく見えるので、今度は一気に降下してバスが休憩棟に到着する直前に、いささか派手な感じで着地する形になった
スキーの上級者が、リフト待ちをしている初心者連中の前で雪煙を上げてストップするが如くに、だ
ちょうど、休憩棟から出て来た作業員たちが、おおっ、と歓声を挙げたが
バスからぞろぞろと下りてきた会議出席者たちは、どうも面白からぬ空気感を示している
案の定、K副本部長にいつもくっついている広報のNが
「グリーンマンさん、あまり派手にやらんでください。まだ、当社としては貴方に正式に今回の件をお願いしている訳ではないんですから」と、ぴしゃりと物を言う
「いや、まあ、事情の分かっていない者も多いのでね。その辺り、ご理解下さい」K副本部長がとりなす

「いや、失礼」
こちらとして、少しはしゃぎすぎだったな、と反省していたから、素直に口に出た
そのやりとりを、会議室メンバーの幾人かが興味深そうに見守っている
「グリーンマンさん、お食事は不要として、しばらくどうされますか」さっきのH電機のDが声をかけてきた
「いや、グリーンマンさんには別室を用意してありますので、こちらにお越しください」と、広報のNが慇懃な物腰で、別のエレベーターを手で示した
posted by ミスターK at 14:19| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説