2017年01月26日

熟年超人の日 stage2 14

[ 倒した扉を乗り越えて、私が次の区画に入って行ったと同時刻 ]

「…とにかく、一度連絡を取って下さいね」
M代は、10回目の留守電を入れ、念のため同じような内容のメールを送信してからスマホをオフにした
夫は、初孫が生まれた日に病院に来てくれたのだが、その夜泊まったホテルで妙なことを言っていた
意味がよくわからなかったけれど、“超人”になったんだ、みたいなことを
その時は、これからの家族のことを考えていたので、生返事でそんな力があるなら、それを活かしたお仕事でも探して、って言っておいたけど
どう考えたって、あのパパにそんな力があるわけはない

根は真面目だけど、いつも夢みたいなことを思いついて、それをやろうとして夢中になってしまう
結婚した頃は、そこそこの一流企業に勤めていたのに、誘われたからと言って友達と起業して
上手くいかなくなりそうになると、途中で別の会社に転職し、そこでも落ち着かず、なんとかプランニングの社長さんに見込まれたとか言って、その会社に移ってしまう
もう少し我慢していてくれれば、良いこともあっただろうに、結局やりなおしばかりしてとうとう定年
でも、幸い子供は二人とも優秀な方で、孫も生まれて、私たちと子供たちの新しい暮らしを考えたいのに、パパは相変わらず夢を追ってるみたい

ついこの間も、大手企業のお仕事をやることになりそうだとか、言っていたけど
世間なんて、そんなに甘いもんじゃないのが、まだ分かっていない
どうせ、うんと無理して頑張るつもりなんだろうけど、もう若くないんだから
まあ、それはそれとして、来週土日のあちらのご両親も交えての食事会の、あれやこれやの話もしたいのに
また携帯の電源を切っちゃったか置いたままかで、連絡がつきゃしないなんて…
あのワンルームマンションに行ってこよう、と、電車の時刻表をスマホで検索し始めた

*
*

…で、そのとき私の方は、鉄扉を開けて入った隣りの区画で、まだ階下に行く方法を探していた
苦労して侵入した次の区画も、厚いコンクリート壁で囲まれた細長い通路のような部屋だったので
今度は、床の透視を試みてみた
休憩棟の6階で見せてもらった図面は、原子炉を冷やすための配管図や、電気回路の施工用だったので
この下のフロアが3階なのだということぐらいしか分かっていない
とにかく、見えているのは太かったり細かったりの様々なパイプ類が、ぐにゃぐにゃにねじれたり折れ曲がったりの状景で、どこから次のフロアに下りればよいのか全く分からない

いっそこの床をぶち抜こうか、と思った矢先ハンディトーキーがガリガリ…っと音を立て始めた
「どうですか、グリー……さん聞こえますか?グリーンマンさん、応答願います」
今度は割によく聞こえる
「聞こえる、聞こえている。私は大丈夫だが、下の階に下りられないので床を叩き割ろうと思っている」
「……や、やめて…いや、仕方ない…ご判断はおまか……」それきり雑音以外聞こえなくなってしまった
どうやらOKをくれたように聞こえたので、床をぶち抜くことにした
といって、どうぶち抜こうか、と私は考えた

どうも、映画やコミックのSマンみたいな、ものすごい腕力はなさそうだ
頼りは重力波だが、コンクリートの床には効かないかも知れない
それでもと、こぶしを固めて思いっ切り床を、どん、と叩いてみる(心の奥でちょっとは加減して)
どっかーん、と強い衝撃が跳ね返ってきただけだった
床も相当厚いコンクリートなんだろう、マンガみたいに粉々、とはいかないようだ
困ったが、眠気も襲って来ない、ということは本当の手詰まりって訳ではないんだろうと気を取り直して
今度は床を、さっきのように両手でこすってみる

我ながら驚くほどの高速で、床をこすり続けると
床のコンクリート材の奥底で、なにかが共鳴しているような音が聞こえる(超人耳だからか?)
ぶ、ぶ、ぶぶぶぶ…という音が大きくなり、床がみしみししたかと思うと、どさっとコンクリートが
細かい塊や砂のようになって下に落ちて、鉄骨材が網籠のようになり、残った床タイルと私がその上に乗っている状態になっている

正直なところ、ふ〜んと思った私ではあった
まあいいか、これで次の階に進めるぞ
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2017年01月17日

熟年超人の日 stage2 13

そうか、これでいけるぞ!
と、思った私は、指先に力を込めて扉をがりがりっと引っ掻いてみたが
表面にひっかいたような溝跡が残るだけで、とてもとても焼き切れそうにはない
指先が高熱を発しているくらいでは、分厚いスチールの扉を焼き切ることなんてできないのか
お得意の透視眼で扉の向こうを見通そうとしても、壊れた部材で散らかった通路らしき空間がぼんやり見えるだけで、そのことからもこの扉の厚さが尋常でないのがよく分かる

こんなところで、こんなに時間がかかるなんて、こりゃ前途が思いやられる、と若干めげた
しかし、めげていても仕方ない
なにかほかの方法を考えねば、と思ったところに前職の社長がよく口端に乗せていた決めゼリフ
『問題はあって当たり前、そんな時こそ我が社の出番。表がだめなら裏からやって、前がだめなら後ろがあるぞ』…が心に浮かんだ
そこで、もう一度扉をよく観察してみる
少し斜めになっているのは、鉄製の扉の枠の上部が少し下がって、圧力で扉を押し出す形になっているからだと気付いた
その枠をつぶさに透視してみると、左上部の角になっている処に微かに亀裂が入っている
そして扉は、向かって左側に金属の円柱があって、それを心棒にして回転する構造のようだ

ならば、扉の枠をがたがたゆさぶったら、亀裂を広げられるかもしれない
早速、扉を押さえつけている鉄枠の縁に手をかけ、ぐ〜っと上に持ち上げてみる
鉄枠がはまり込んでいるコンクリートの壁が邪魔をして、びくとも動かない
あんな何千トンもあるメガフロートは簡単に持ち上げられるのに、建物と一体化している物には力が発揮できないのか
しかし、これで引き下がるわけにはもちろんいかない
なんとしても、この状態を突破しなければ、デブリに到達どころか、格納容器の内側を調べることもできない

そのとき、またもや眠気が私を襲った
扉にもたれたままの恰好で、レム睡眠に入ってしまう
『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である
テラ3号の現在状況について再び補足説明をする
今回のような、異質の素材で組成されている構造物の組み合わせを解除したい場合は
分子構造の違いを重力波の振動で顕在化して、構造劣化を誘うことで問題を打開できる
ただ、この能力開花で君のこの星系での存在危険度が、さらに悪化する確率が76%に達することになる
以上で緊急連絡を終了する』

再び目覚めた私は、今のジュブブのお告げを反芻してみた
なんとなく言ってることは分かるのだが、どうすれば重力波の振動を目の前の扉に伝えられるのか
仕方ないので、扉に掌を当てて高速でさすってみた
どこが変化するのか、どんな現象になるのかが分からない
なんだか分からないが、両掌で扉の表面を超高速でこすってみる
ぶぶぶぶ…ぶぅ〜んんんという音が扉の中から聴こえ始め、鉄枠の周りのコンクリート壁から煙が出始めて
砂粒やコンクリートの破片が、ぱらぱら落ちてくる

そうか、このことだな、と思った私は、やる気を漲らせてますます熱心に扉をこする
ぶわぁぁ〜ん…ん…ぃぃぃ〜ん…ん…というような音が響いて、鉄扉が鉄枠ごとコンクリート壁からふわっと外れて向こう側に、ぐわぁ〜んんと倒れ込んだ
「これはすごい!が、ちょっと時間がかかるな…」と倒れた扉を乗り越えながら、私は小さく呟いた
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2017年01月12日

熟年超人の日 stage2 12

ほぼ無傷だった4号機と、建屋がカバーで覆われている1号機や2号機の間の3号機は、爆発跡のガレキが片付けられて、1階分低くなっている
その屋上、というかかつての5階に降り立つと、持たされたガイガー管がガリガリ…と音を立て始めた
このフロアは、以前のオペレーテイングフロアだそうだ
今は、養生シートに覆われている使用済み燃料貯蔵プール部分と、ひん曲がったむき出しの鉄骨が散乱している爆撃跡のようなフロアでしかない

まずは、というところでその爆撃跡のような場所で、下の階に降りられそうな箇所を探してみる
下から爆風で吹き飛ばされたのだろう、床がめくれているところから、なんとか入られそうだ
降りる速度を調整しながら下の4階に下りることにした
このフロアは、天井の破れたところから差し込んでいる外の明かりがあるので、超人眼で細部まで見ることができる
そんなことをハンデイトーキーで外の連中に一応報告しておいて、辺りをさらに観察することにした
使用済み燃料貯蔵プールにはカメラを入れたそうだが、こちらは床にパイプ類やら、ふっ飛んだ梯子やらなにやらが散乱していて、ロボットカメラがすぐに操縦不能になって状況が掴めていないと言っていた

持たされたガイガー管の音が切れ目なく鳴って、神経に触る
身体や力は超人でも、中の人は普通の私なんだな、ともう一人の私がうなづく
この音は気にしなくていいんだ、そう思った瞬間、音は気にならなくなった
後は、針式のメーターが動いているのが見える程度で、これでもっと高濃度の放射能環境に行ける
ふと気が付くと、マントが無くなっている、というより体に巻き付いてスーツに同化している
水中でもマントは変形して役に立ってくれたが、今回は耐放射線機能なんだろう、と漠然と理解した
これで、もうひとつ下の階に降りられそうだ

念のためフロア内を、もう一度点検してから3階に下りようと透視眼で探ってみる
分厚いコンクリート壁の奥に、ぼんやりドーム状のものが見える
おそらく、あれは格納容器の頭頂部なのだろう
この下の階に行けば、いやでもご対面となるのだろう
そのとき、ガリガリいうノイズに混じって、切れ切れに交信を求めている外の連中の声が聞こえた

「…です…聞こえて…ます…しょうか?…こち…は、T電機…Mです…聞こ…ますで……か…」
「はい、雑音が多いが聞こえてますよ」(つい丁寧に喋ってしまうなぁ)
「……ですか?そちらの様子は……」
「今、4階だが、ガイガー管は、時折最高数値近くにまで振れている。これから、3階に移動する」
「…よく聞こえない…すが、お気を………さい…」
超人聴覚の感度を上げてみたが、さすがに隔壁の向こうの声など聴こえない
まあいいや、と身の回りに探査感覚を戻し、穴の開いている床を探す

あの爆発だから、床にぽっかり穴でも開いているかと思っていたが、無い
いっそ叩き割ってしまおうか、とも考えたが、外の連中の心配顔を思い浮かべると、そうもいかない
それにしても、下の階への連絡路はあるはずだと思い、周囲を改めて見廻す
向こう側の壁に、分厚い鉄製のドアが少し斜めになって隙間が開いているのが見えた
二っ飛びでそのドアのところに辿り着き、潜水艦のハッチのような、丸い舵輪型のドアの開閉装置に手をかけて廻そうと試みた
想像通り、超人力でも動かない
斜めになって鉄枠にはまり込んでいるのだろう、びくともしない

力技全開で、思いっ切りひっぺがしたら、周りも随分壊れるんじゃないか、とも思ったが
どうせ、最後はぶっ壊すんだ、と思い切って力を入れてみる
ぐぐぅぅ…んん、というような音が出たが、まだ開かない
あのメガフロートを持ち上げる力があるのに、と思うが、これはまた別の力の入れ方があるのだろう
と、大分場数を踏んだもう一人の私が落ち着いて答える

こんなとき、テレビドラマで観たレスキュー隊員なら、ジャッキのような道具を使うか、バーナーで焼き切ろうとするはずだ
メガフロートは、力を大して入れなくても、バランスよく持ち上がった
多分、ジュブブの言う重力波の応用だ
あの力は、鉄製の単体物に効果があるようだ
水中だったり、この扉のように、全体とつながっているような物体の場合は難しい
力を及ばす範囲が、よく分からない…

なら、焼き切る系の技はないのか
原理は全然理解できていないが、電気だって同じじゃないか
モーターを動かしたり(あれはプラスとマイナスを交互に変え、磁力を利用していたはず)
電熱器でお湯を沸かしたり(あれは抵抗を与えて無理に電気を通すと、熱が出るんじゃなかったか)
重力波ではそれはできないのか
もちろん、全然使い方がわかっていないのだけれど、あの水中での推進力を得たときは、必要と考えていたら
スーツのマントがやってくれたじゃないか

そう言えば、このスーツのことは全然わかっていない
例えば、と両手を広げてしげしげと眺めてみた
すると、心なしか指先が白く輝き始めたではないか
その指先を、恐る恐る扉の表面に近づけ、ずり〜っと撫でてみた
なんと、表面に十本の溝が出現したのである
posted by ミスターK at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2017年01月02日

熟年超人の日 stage2 11

2号機は、下から見れば建屋カバーのおかげで大分すっきりして見えるが、こうして上空から見れば、まだ深い傷を負っているのがよく分かる
まして、3号機ともなると、水素爆発の跡もまだ癒えてはおらず、建屋は大きく損傷している
皆の乗ったバスが免震重要棟の駐車場に入って来たのが見える
1〜4号機前の道路は、凍土壁の工事が進んでいるので、免震重要棟の駐車場でバスを降りて、徒歩でやって来るようだ。
私は、今は人影のない3号機前の道路に降り立って、皆がやってくるのを待つことにした

3号機の前には、さっき私が動かしたクレーン車よりはるかに大きなクレーン車が停まっている
随分ガレキは片付いているとは言え、必要なのだろうがあちこちに様々な機械類や、車両が置かれている。
そのとき急に、時間のことが気になってきた
遅い昼食の後、皆が再度着替えてこの場にやって来る
そこでまた、ちょっとしたレクチャーを聞かされて、それからやっと格納容器の中に向かい
全くわからない場所に潜り込んで、メルトダウンした原子炉の中に入って、どんな形になっているか
分からないデブリを拾い集めて収納容器に注意して入れ、彼らに渡す

しかも、その後、太平洋に飛んで行って放射能を洗い流してから、もう一度戻って放射線を測定してもらわねばならず
結果によっては、再度海に飛び込んで除染してから、アパートに戻らなければならないときている
帰りの時間が気になり始めると、段取りが気になり、自分以外の人間の進行が気に障る、というのが私の悪い癖だ
幸いマスクを被っているので、いらいら顔を皆に見られることはなかったが、これからの大仕事を考えると、ちょっと憂鬱になって来る
折角超人になったんだから、さぁーっと上空から建屋の屋上を突き破って内部に突入して、めりめりっと炉心を引き抜いて、太陽に放り込んで、はいお終い、ってな具合にいかないものかねえ…

そんなことを考えているうちに、こちらにやって来る皆が少し離れた処で立ち止まるのが見えた
手を振りたいところを堪えて、左手にガイガーカウンターをぶら下げて所在無げに立っている私に、廃炉推進カンパニーのTらしき人物が手を振っている
そのまま、私の居るところまで来たのは、タイベックを着用した3人で、そのうちの一人が
「お待たせしました、こちらが内部の見取り図です。ただ、中はかなり破壊されているので、ほんの参考までと心得ておいてください」と言う
「それから、内部でデブリを回収したら、この容器にお入れ下さい」
もう一人が、手に提げていた手提げ金庫のような箱を私に差し出す
「もっと大きな物の場合は、屋上に置いといて下さい、後でクローラークレーンで運びますから。ただし、100s程度以内の物として下さい」
「だめだめ、だめですよ!でかいのを外に出したら、どれだけ線量が上がるか分かりゃしないんだから」
「あっ、そうか、そうだそうだ、すみません回収容器に入るものだけで結構ですので…」
「それから、内部は真っ暗なはずなので、こちらをお持ち下さい」と、大型の懐中電灯を差し出す
「私は、暗闇でもものが見えるから、それは要らない」
「通信手段ですが、イヤホンタイプは装着できそうもないので、こちらのハンディトーキーをお持ち下さい」

きりがないので、私は3人にうなづいて見せ、ガイガー管と回収容器とハンディトーキーを持って、屋上目指して飛び上がった
posted by ミスターK at 22:11| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説