2017年03月27日

熟年超人の日 stage2 25

こんなときの妻は恐い
相当怒っているということなのだ
それは、私の説明が彼女の心の疑念の的に当たっていないからだ
そこは分かっているが、うっかり藪を突いてしまうのは、もっと恐いことになる
仕方ないので、話を続けるのはやめて、冷蔵庫を開けてみるという、動作をしてみる
「なにか、飲物欲しい?」要らない、という返答を予測しながら一応訊いてみる
「あっちって、東京?」くるっと、こちらを向いた

「いや、F原発の会議室」さらっと、答える
「F原発って、新幹線で行って来たの?」
「いいや、飛んでったんだよ、空を。ほら、超人だから」
「パパ、本当に超人になったの?あのスーパーマンみたいな」
「そうなんだよ、前にも話したよね。Y市のホテルで」
「聞いたけど、まさか本当なんて思わなかったわよ」声音が微妙だ
「そのとき、仕事探すって言ったろう」
「言ってたけど…。で、大丈夫なの、放射能とか浴びて」…なんだか、理解しているような口ぶりだ

「大丈夫だよ。あの原発の炉心に入ったけど、なんともなかったし、T電の人に検査もしてもらって、すっかりきれいになってる、ってお墨付きもらったから」
「放射能とか、持ち込まないでね。T彦のとこに申し訳ないから」
「そうそう、それでママにも知っておいて欲しいんだけど。お金のことなんだけど、まさかスーパーマンが料金もらうなんておかしいから、僕が代理人ということで、もらおうと思ってるんだ」
「お金なんてもらえるの?」
「そう、それで、僕は超人グリーンマンの地球側の代理人、というか窓口で…」
「そんなので、T電ってお金支払ってくれるの?こういうことって、ボランティアなんでしょ、普通」
「ま、そりゃそうだけど、一応、僕がなにかでグリーンマンを助けて、その恩義で僕の言うことだけは聞いてくれる、みたいな話にして。僕は、そりゃ普通の日本人だから、なにかと生活費もかかるから、それでお金を請求する、みたいな話にする積りなんだ」
「それは、いいけど、T彦のところに迷惑かからないのよね」痛いところを突いてくる

私自身、今回の案件がちゃんとした売上(というのもおかしいが…)になるため、詰めの部分をどうしたらいいか、まだ考えあぐねているのだ
そもそも超人の代理人、なんてありえるのか、自身自信が持てない(うまい!)のだが、妻には心配をかけたくないので
「そっちは、大丈夫。だけど、多分国もからんでくると思うから、もしかするとママのところにもなにか問い合わせがあるかも知れない」
「えーっ、問い合わせって、どこから?」
「う〜ん、警察とかもあるかも」
「警察なんかに訊かれることって…。一体、なにやろうとしてるの?」
「そ、それは、やっぱり、あそこの問題って国としても大きな問題だし、ほら、どんな人間が代理人か、いろいろ調べたくなるんじゃない、国としても」
…だよな。そりゃ、訊いて来るだろうし、身元も確かめるだろうなぁ

「わかりました。パパは超人じゃなくて、代理人ですって言えばいいのね」
「いやママは、わたしはなにも聞いていないので、主人に訊いてください、って言うのがいいと思う」
「そうなの、そう言っておけばいいのね。そのほうが後々、めんどうなことにならないのね」
そう、めんどうなことにならないよう、しっかり私がやらないといけないということだ
「質問は僕が引き受けるから、全部僕の方に回して」
「わかった。じゃあ、冷蔵庫のビールで乾杯しよう、パパの新しい仕事がうまくいくように」
…どうやら妻の機嫌は直ったようだが、私の方は、この先よほどうまく立ち回らないといかんぞ、と憂鬱度がどんどん増していた
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2017年03月25日

熟年超人の日 stage2 24

スーパーマン風スーツをジャケットの内ポケットに収め、改めて周囲偵察を試みようとした時、砂浜を踏む足音が聞こえた
周囲偵察をするまでもなく、こちらに近づいて来る人の気配に、ちょっと身構える感じになって、その場に立ち尽くしていると、大きなクーラーボックスと釣竿を携えた中年男が現れた
向こうもちょっと驚いた感じになっているので、緊張感を和らげようと
「投げ釣りですか、なにが釣れるんです?」と声を掛ける
かえってそれが相手に不審感を抱かせたようで、じろっとこっちを睨む
「イシモチですか、今頃は」魚名を出して、なんとか警戒心を解こうとする
「わからん。まだ投げてないから」ぼそっと声が出た
「こんな時間じゃないと、サーファーが多いでいかんねー」三河弁を交えて話を繋ぐと、やっと相手の緊張感がとれる
「まあ、あいつら、うるさいで。あんたは、なんだ、釣りか?」
この格好で釣りはないだろう、と思いながら
「いやぁ、昔ここらで釣ってたもんで、懐かしくて…」
私の年恰好を40代と踏んだのだろう(このところ若く見えるようだ)
「そうだなー、前はこの辺りもよー釣れたもんなー」と和む
いつまで話をしていても仕方ないので、じゃあ、と言ってその場を離れた

釣り人の来た道を辿ると、防風林を抜けて車が多く行き来している道路に出る
多分これが国道42号だろう
ならばと、そのまま横断して北に延びている畑の間の細い道を進む
周囲偵察を前方に展開しながら、人がいないときは速度を上げるのだが、この時間帯は人などいない
そのうち家も疎らにあるようになったので、本気でゆっくり歩くようにする
やがて踏切と小さな駅が見えた
駅名表示を見るとT駅となっている
TY市に出る時刻表は15分毎になっているので、しばらく待てば電車に乗れるだろう
ここまでに何人かに見られているが、記憶の中になら問題ないし、どうせ記憶にも残らないだろう

電車を乗り継いでK市駅に着いたのは、もう夜の7時半近くだった
街の灯りが点いて、夕食の匂いが何処からともなく流れて来ると、小さかった頃の記憶が蘇るのか早く家に帰らないと、という気持ちが強くなる
この歳にして、とは思うが根源的な感覚だから仕方がない
それでも、足早にならないよう気を付けながらアパートを目指す
お馴染みのコンビニが見えた辺りで、周囲偵察をさりげなくすると、どうも怪しい車が距離をおいて2台停まっている
まあ、しょうがないな、と腹をくくってアパートに戻って部屋の鍵を開けようとすると開いている
ちょっと警戒して、室内を透視するとダイニングの椅子に座って、妻のM代がテレビを観ている
安心して、がちゃっとドアを開けて部屋に入る

M代は相変わらずテレビを観ている
「おお、来てたの?いつ来たの?」といつもの調子で声を掛けるが返事がない
「なんだ、どうしたの?」少し不安になりながら、それでも後ろめたいことなんか無いぞ、という気を込めて重ねて声を掛ける
「どこに行ってたの」振り返らず言う声に棘がある…。やばい雰囲気が立ち込める
「何処って、仕事だよ。例のT電の…」と、言いかけてこの件は、まだ妻に教えてなかったことに思い至った
「T電、って?」そこに反応したのは、なるほど妻らしかった

「実は、前に話した超人になった力を使ってやる仕事に、T電が今困っているF県のアレの片付けを手伝うことを考えてるんだ」
「F県のアレって、原発のこと?」
「そう、僕って超人になって放射能も平気だし、力もあるし、空も飛べるから、あの後始末の作業で手伝える部分があるんだよ」なるべく、刺激がないようにさらっと話す
「それって、お仕事になるの?お金になるか、ってことだけど」案外平然とした声。でもまだ振り向かない…やばいぞ、大やばだぞ、これは
「なるよ、今日だってあっちで会議だったんだ。T電だけじゃなくって、電機会社や建設会社の偉いさんも出ている会議に行って来たんだ」
「それで、携帯切ってたの?」声の棘が少し取れる
「そうそう、携帯の電源は切って、だよ」少しほっとする、が、まだ顔は向こう向きだ
posted by ミスターK at 13:50| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2017年03月20日

熟年超人の日 stage2 23

空に飛び上がってお気楽モードになりそうになった瞬間、はっと思い出した、J山でこちらを撮影していた連中のことを
私が宇宙から来た超人ならば、ここは当然宇宙に帰らないとおかしい、ってことだ
すでに、200〜300m上昇して海に向かいかけていたところを、念のため周囲を確認するように見廻す(本当は周囲偵察で航空機をチェック)
ヘリでも飛んでいるかと思ったが、空には何もない。逆に地上には、J山のほかにも録画カメラのグループが2つ居るのを確認
それではと、らしい感じでぐっと高空を見据えてから、一気に(急加速にならないよう注意しつつ)上昇を開始した

マッハ2くらいまでどんどんスピードを上げて、高度2万m程度に達してそのまま100qほど南下、茨城県沖の太平洋上に慎重に着水、そのまま100mほどの深度で海中を10qくらい潜行して進む
その後、再び高度2万mの成層圏をマッハ2で約200q南下、特徴のある犬吠埼を確認後、今度は南西に房総半島、伊豆半島を見るコースで太平洋上空をふっ飛ばす
しばらく飛ぶと、伊豆半島南端の石廊崎が見え始め、陽はまだあるが、そろそろ西の空に低くなっている
飛行速度を落として、久しぶりに腕時計で時刻を確認すると16:43だ
ここから富士山西側、南アルプス南端、と往路に近いコースを取るか、このまま海の上を行き、渥美半島のどこかの山にでも降りて、TH市から電車でTY市に出てK市に戻るのもありか、と迷う
どっちにしても今日は土曜の夕方、帰宅ラッシュにぶつからないのは助かるのだが…

結局、少しでも人目に触れる確率を低くするため、遠州灘沖で海に入り海中を進んで、渥美半島の太平洋岸のどこかに上陸して、T電鉄の無人駅から電車に乗ることに決めた
そうと決まれば、スピードアップだ
再び速度を上げて3〜4分飛ぶと、前方に渥美半島らしき形が見えた
速度と高度をゆっくり落としていく
この辺りの空域は、H市にある航空自衛隊の練習機が飛んでいる可能性も有るし、航空各社の定期便が数多く飛んでいるコースでもある
2万mの高度なら、目視(レーダーには映らないので)される心配はないが、高度を下げれば必然的に危険性が増す
周囲偵察には3機ほど感じられるが、どれも遠いので今のうちに海へ、と思ったが
どっこい、海上には多数の船舶がいるのが見える
小さなヨットや近海漁船もとなると、避け切ることは不可能に思える

こりゃ困ったなぁ、と呟いた時、前方に突き出している両腕のスーツの色が緑ではなく青になっていることに気付いた
しかも上面は碧色、下面は空色になっているのだ
そう、魚の背が濃い色で、お腹が銀色になっていて、海鳥からも、底の方に居る大きな魚からも見えにくい、という保護色状態なのである
なぜ、今回こんな風に色が変わってくれたのかは後で考えるとして、今はなるべく早く、船影のないところに着水しなければ…
水柱をなるべく立てないよう、以前観たオリンピックの高飛び込みを連想して、垂直にずぼっと海中に突っ込んだ
なかなかの勢いだったが、さすが超人、ちっとも痛くないので、どんどん思い切った動きが取れる
海中に入ると、周囲偵察能力は無くなるようだ
単純に目で見て、前に進むだけだな、と思ったが、もうひとつ探知能力があることに気付いた

それは聴力
F原発の湾でも、除染しながら海中を進んだ時も、気にしていなかったので聴こえていなかったのか、分からないが、今、注意しながら潜行していると、様々な海中の音が聴こえている
なかでも、クジラかイルカなのだろうか、少し悲しげな声のような音がよく聴こえ、もうひとつ機械的な音、あれは多分船のスクリュー音なのだろう
もっと慣れて、音のサンプルが揃えば、潜水艦のソナー探知のようなことができそうだ
いろいろ気付いたことが多かったが、詳しい分類は後にするとして、とりあえず今は、海岸を目指そう
推進速度は、今回はぐっと落として20〜25q程度とし、水深5mくらいの深度を保って、上空から確認していた半島の方角に進んで行く
それにしても海中を進むのは、前や海面がよく見えず、的確な上陸地点の選択は困難を極める
スクリュー音を避けて進んでいるので、ちゃんと真直ぐ進んでいるのかがよく分からない
…が、そのうち海底がはっきり見え始めた
陸に近づいている証拠だ
確か、渥美半島の太平洋側は砂浜部分が多かったはずだ

いつのまにか、水深5mは保てなくなっていき、徐々に海底を這うように進むことになった
マントの水流ジェットの力はますます弱くなり、やがてマントに戻って体に巻き付いた
そうなると、泳ぐしかなくなる
テレビでよく見る、ダイバー風の泳ぎに代え、手を伸ばしてバタ足で水をキックすると結構楽に進む
それはそうだろう、なにしろ息継ぎする必要もなく、こうして泳いでいても疲れないんだから
そして、ついに浜辺に上陸、となる
この辺りは確かサーファーが多い処だったことを思い出す
直前に平泳ぎに代え、顔を上げて近くに人がいないのを確認していたのは言うまでもない
もう背が立つので、歩いて浜に上がる
目の前には防風林だろうか、木々が密集している
その木々の間に入って、やっとスーツを脱ぐことができると、ほっと一安心
喉元の膨らみを探り、ぽつっと押す
一瞬でスーツは手の内に収まり、私は昨日のネットカフェに行った時の格好に戻っている

さて、ここから出て、T電鉄の駅(なるべく無人駅)を探して、アパートに帰らないと
ちょっと飛べれば、問題ないのだが、土曜日の夕方時分では釣り人や、サーファーが居ないとも限らない
ここは、慎重にやらないと…
posted by ミスターK at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2017年03月09日

熟年超人の日 stage2 22

「Uさん、線量計をご確認ください。なにか急激に上昇しておりませんか?」T電機のAがあせった口調で収束センターのUに告げる
「おおっ、そうですね。Mさんのも?」今度はUに訊ねられたMが、慌てて線量計をチェックすると先ほどまで400msv(ミリシーベルト)ほどだった数値が700msvを超えようとしている
「は、はい、自分の数値は、今、700を超えました」
「これは中からGが出て来る、ということではないでしょうか」Aが言葉を添えた
「そうだな、彼は恐らく放射能まみれで出て来るだろうから、想像してはいたが…」
「Uさん!さらに数値が上昇しています。タイペック装着の我々はともかく、周囲で観察している一般防護服着用の皆に、退避を勧告すべきです」とM
「そうだ、Aさん、皆のところにこのことを伝えに行ってください」ハイ、と言ってAは(タイベックの重さのため)ゆっくり皆のいる処に向かって歩き出した

上部が吹き飛んでいて、今は屋上になっている5階に出た私は、スーツが通常通りに戻っていることを確認した上で、下にいる3人に手を振った
が、下に居るのは2人で、1人は向こうに固まってこちらの様子を窺っている皆の方にゆっくり歩いている
聴覚のレベルを上げると、下の2人が「ちょっとそこで待ってて下さーい」と言いながら、しきりに手を横に振っている
なるほど、あの高濃度の放射能まみれになっている私だって、それこそ鼻つまみ者になってるって訳だ
意味は分かった、というように大きくうなづいて見せておいて、さあどうしようと思案した
そう言えば、海水で除染して下さい、と言っていたことを思い出して、自分を指さしてから次に海を指さして回収容器とガイガー管、ハンディトーキーをそこに置いて空に飛び上がった

さすがに構内の港では狭いので、一気にスピードを上げて(それでも時速1000q程度に抑えて)東に100秒ほど太平洋上を飛んから、海に飛び込んだ(原発から20qくらい離れたと思う)
海中に入ると、今度はすぐにマントが反応して、例のジェット水流で進むことができた
これはこれで爽快でいいな、などと呑気なことを思いながら、なるべく水流が起きるようジグザグに海の中を突き進む
おそらく水中では時速100q程度出ているかと思うが、カジキあたりだと120qを超えるということだから、超人としては、どうも水中活動は得意ではなさそうだ
10分ほど泳ぎ回ったので、とりあえずこれでどうだろうと、海中から飛び上がって再び宙を飛んで3号機の屋上に舞い戻った
下を見ると今度は3人揃ってこちらを見上げていて、遠巻きにこちらを見ていた連中の姿はない

念のためにハンディトーキーで喋ってやろうかと思ったが、スイッチをオンにしても放射線にやられたようで、なんの音もしない
仕方がないので、回収容器とガイガー管だけ持って、下に降りることにした
「すみません、放射線量を計測しますので、そこで止まって下さい」
「線量、100msv超えています」
「たびたびすみません、お手持ちの物を置いて、ゆっくりこちらにおいで下さい」回収容器とガイガー管をその場に置いて、ゆっくり3人に近寄っていった
「線量、上昇の気配ありません」
「そうか、グリーンマンさんが持って来られた容器とGM管が汚染されていたからか。グリーンマンさん、すみませんがこの線量計を手に取って頂けますか」
分かった、とうなづいて、Uさんらしき人物から携帯電話よりひとまわり小さい線量計を受け取る
傍に寄って来たもう1人(多分Aさん)が、覗き込んで大丈夫、というようにうなづいて両手で〇を描く
別の1人(となるとMさん)が、トランクケースのようなものを持って、さっき私が置いて来た回収容器とガイガー管を中に入れている

「グリーンマンさん、ハンディトーキーは建屋の中ですか?」
「いや、持って来たがもう使えなくなっていたので、屋上に置いて来た。取って来るか?」
「すみません、貴重な資料になりますので、お願いします」
分かった、と言ってしゅっと飛び上がって屋上に戻り、トーキーを持ってトランクケースを持っているMのところに降り立って、それを渡す(こういうことできると、超人っぽいんだよな)
「それで、私の放射線量は合格、ということなんだね」
「はい、充分除染されておられると思います」
「やはり海で洗って来られたのですか」Uが訊ねたので、そうだとうなづく
そんな会話をしているうちに、急に時間のことが気になって来る

「回収容器の中のものだが、下になっているのが圧力容器の下のウエットゾーンだった場所のコンクリート土台にめり込んでいたやつで、もうひとつ金属が混じったものも持って来た。一番上のは圧力容器の真下のグレーチングの上に落ちていたデブリだ」
「そうですか3個も、それはありがとうございます」
「じゃあ、私はこれで失礼する」
「ええっ、行ってしまわれるんですか」
「本部で皆が待っているので、一度あちらにも寄って頂かないと…」Uが懇願するが、行ったら何時までかかるかわからない
「別の場所で、私を必要としている者たちが呼んでいるのだ。今後の連絡は地球人のAからコンタクトを取るようにするから」有無を言わさず、えいっと空に舞い上がってしまう
これが超人の特権だな
posted by ミスターK at 15:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2017年03月08日

熟年超人の日 stage2 21

中はもちろん真っ暗だが、スーツの発光で充分様子を見ることが出来る
広さは直径5mほどの円筒で、足元は側溝などでよく見かける格子状の蓋(グレーチングというらしい)になっている
そこに、タールが固まったような大きいのやら小さいのやらの黒い塊が、あちこちにある
ははぁ〜ん、これが皆が言っていたデブリだな、とひとりうなづいて頭上を見上げると、丸く釜の底のようになっている圧力容器の底部が見える
しっかり超人眼で見ると、底部は何ヶ所も裂けていて、大きな穴は1m以上もありそうだ
その下のグレーチング床も、何ヶ所も溶けているところがある
どうやら、皆が心配していたように溶けた核燃料がしたたり落ちて、下のウエットゾーンに落ち込んだようだ
下のウエットゾーンが、文字通り機能していればそこで止まっているのだろうが、どうだろう

圧力容器の底部には、制御棒の上げ下げの棒が沢山突き出ていると言っていたが、それらは溶けた核燃料に溶かされたのか、ほとんど見当たらない
それならよし、と床のグレーチングに手をかけて、軽く宙に受けながら持ち上げてみる
鉄製のものには重力波がよく伝わるのようで、90×90pほどのグレーチングが、拍子抜けするほど簡単に持ち上がった
それを横に退けておいて、下のウエットゾーンに侵入してみる
ここはフラスコ状になっている格納容器の底になる訳だが、想像通り水など無く、ここの底も抜けている
燃料棒が高温の溶岩みたいになってどろっと落ちて、さらに落ちた場所を溶かして、そのまた下に落ちていくという、メルトダウンが起きたのだろう
格納容器の土台になっているコンクリートにも穴が開いていて、デブリが固まっている

折角なので、もうひとつ下のサプレッションプールがある階も覗いてみたいと思ったが、格納容器の底部は全体にコンクリートの土台に埋め込まれているようで、透視眼で見てもわからない
側壁のコンクリートは、このあたりでは損壊が激しくなんとか穴を開けられそうだがとにかく分厚い
かなりもろくなっている側壁を発勁でぶち抜いて、また格納容器の中に戻り、さらに格納容器の3cmの鋼鉄壁とその先のコンクリート壁をと思っただけで嫌気がさし、圧力抑制室への侵入はあきらめた

その後しばし、この先に控えている、破壊された炉心を引っこ抜いて宇宙に持って行く作業の手順を思い描いてみる
太陽まで何往復もしたくはないので、思いつきのように言ったタンカーなどの入れ物に積み込むことになるのだろうが、いくらタンカーが大きいと言っても、格納容器ごと積み込むのは無理だろう
せめて圧力容器は丸ごと運び出したいが、それでも1本21m×6mくらいあるというから難しそうだ
ならば、段ボール箱を燃えるゴミの袋に潰して入れる、みたいなことが必要だろう
力任せに潰す、とは言っても相手はでかいから、大変だ
それに、放射能にまみれた残骸がどれほど飛び散るかわからないし…まあ、ジュブブに相談してなんとかできるだろ
考えるのは後にして、大分遅くなったからそこらのデブリを何個か拾って、回収容器に入れて帰ろう

一応、落ちていた場所毎のデブリのサンプルが欲しいだろうと、気働きさせてまずはここのからいこう、と黒いデブリに手を伸ばす
指先がデブリに触れる寸前に、手の部分が形を変え、5本の指先が菜箸のように伸びた
なるほど、まんま掴んではさすがに危ない、ということか
納得して伸びていない方の手で回収容器の蓋を開けて、握りこぶし程度のデブリを拾い上げようとしたが、床に溶融しているのか動かせない
参ったなぁ、と思ったが、大分このスーツの応用力にも慣れていたので、菜箸のように伸びた指先を発熱させてデブリを切り取った(実はこのとき随分危ないことをしていたのだが、知らないという事は怖いもんだ)
とにかく最初の1個を回収容器に収め、さらにもうひとつ金属が混じったデブリも拾い、入って来た穴からグレーチングの敷いてある床に戻る
そこでもデブリを回収容器に収めて、やれやれ気分で帰路に着く

後は入って来た道順をほぼ低空飛行ながら、浮遊して戻るので楽なものだ
おかげで、こういったスロー飛行にも慣れたし、ちょっと沈没船の船内から宝物を拾ってくるダイバーのようだな、と自己満足しながら最後の5階オペレーションフロア(だったところ)に出た
実は、そのとき建屋の外では、待機していたT電機の3人の線量計が急上昇を始め、大騒ぎになっているのだが…
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2017年03月06日

熟年超人の日 stage2 20

やったぞーっと、勢い込んでエアロックから格納容器内に入る
エアロック内にはいってから、がりがり音が大きかったガイガー管が静かになった
メーター針が上限の黒いゾーンの一番端で止まっている
300svを超えているということなのだろう
スーツの発光量が少し落ちていて、ちょっとふっくらした感じになっている
これは、スーツが高濃度の放射線に対応している、ということになるのかも知れない

体の動きには支障はないようなので、スーツのことは忘れて、目の前のコンクリート壁の奥に透視でぼんやり見えている円筒形の圧力容器の方に関心を移す
圧力容器については、あの事故以来、何度も見てきたような気がするが、実物は初めてなので、こりゃ大きいな、というのが最初の印象である
と言っても、奥にそいつがすっきり立っている訳ではなく、こちらにはメンテナンス用のタラップやら鉄の梯子やらが、周りをごちゃごちゃと取り囲んでいる
T電機のスタッフから聞いたところでは、圧力容器は厚さ14pの炭素鋼に、ステンレスの内張りが施されていて、高さ21m直径6m弱ある、でかいカプセルといったところだ
今いる格納容器の天井までの高さが34mというから、かれこれ9階建てビルくらいあるし、圧力容器だって5階建てのビルくらいはある
そして、この圧力容器の中に核燃料が入っている訳だが、皆が心配しているメルトダウンは、容器の円筒の底部が抜けて、下の格納容器の底も抜けて、サプレッションプールのある地階の床をもえぐっているのか、放射線量が強すぎるためか、透視ができない

いずれにせよ、こと3号機に関して言えば、ここまで来られたなら後は、このコンクリート壁を壊して鋼鉄製の圧力容器を引っこ抜いて持ち出すことは出来そうだ
後は、熱溶融した核燃料のデブリをかき集めて、タンカーの小さ目なやつに積み込んで、宇宙に飛び出せさえすれば、なんとかなりそうだ
だが、3号機ひとつでこれだけ手間取るなら、後2基乃至3基の炉心を取り出すのは大変だろうな、といささかブルーになる
有無を言わさずぶち壊して、炉心だけ引っ張り出して適当な船に積み込んで、太陽まで運ぶだけなら簡単なんだけどなあ…
後のことを考えると、そうはいかないのが歯がゆいところだ
まずは、圧力容器を囲んでいるコンクリート壁の破損している場所を探して、中に入ってデブリをこの回収容器に入れて外に戻ろう
向こうに帰る時間が気になってきた
コンクリート壁を回り込むように設置されているタラップ(キャットウォークとここの連中は呼ぶ)の、半分以上は落ちてしまっているので、残っているものを探してはジャンプして飛び移り、そこから改めて全体を見てみる

今度は、円筒のサイズが大分小さくなっているので、そんな探し方でも充分だった
ドーム状になっている格納容器の天井部分の近く、床から15〜16mの辺りに水素爆発でコンクリート壁が破損している場所があり、中から突き出しているパイプが途中から折れていて、その根元のコンクリートが割れた
箇所がある
なんとか側に寄ってみると、中の圧力容器の外殻が見えているが、隙間が狭くコンクリート壁を壊さないと圧力容器の底には行けそうもない
こんなにコンクリート壁と圧力容器の隙間が無いのでは、床に降りて下の部分をぶち破って、圧力容器の底部に行くしか方法がない
早速下に降り立ち、それでもどこかに破損している所がないかと円筒壁に沿って歩いてみる

ヒビのある個所はいくつかあるが、念のため中を透視すると、表面だけのものが多い
3/4ほど回った処で、やっと深いヒビの入った所があった
そのヒビの入っている箇所に掌を当てがい、さっき会得したばかりの発勁を試みる(もちろん、えいっと気合を発して、だ)
するとどうでしょう、コンクリート壁に直径60〜70pの穴が見事に開いた
よし、と思わず掛け声をかけ、開いた穴に上半身を突っ込もうとすると、スーツのふくらみが大きくなっている
これじゃまるで、つなぎのダウンを着ているようだ
幸い表面がすべすべしているので、割れた穴の断面にひっかかるようなことはなかったが、今までの経緯からすると、内部の放射線量がまた凄まじくなっているのだろう、と若干びびってしまう
まあ、体調の変化もないし、もし本当に危ないなら、ジュブブがなんとか言ってくるだろう

あくまでポジティブに考え(そうでないとやってられないよ)、えいやっと内部に身を滑り込ませた
posted by ミスターK at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説