2017年05月29日

熟年超人の日 stage2 41

K刑事と別れた後、超人が活躍する漫画を数冊読んでから店を後にした
会計のとき、レジにいた男性店員が「疑い晴れて良かったですね」と声をかけてきたが、なんのことだったのだろう
明日の朝、N駅のホテルに行くなら、アパートに戻らず今夜はどこかの駅前のビジネスホテルにでも泊まるか、と思ったが大分心細くなっている財布のことを考え、部屋に戻ることにする

帰り道は時間つぶしも兼ねて、久しぶりにゆっくり歩いてみる
最初の頃に比べると、普通人らしいふるまいも上手くなっているから、どこから見ても定年退職したオヤジのパチンコ屋か喫茶店からのぶらぶら帰りに見えるだろう
アパートに近づいたので、周囲偵察を開始する
車はまだ戻っていないようなので、そのままどんどんアパートに接近しながら、例の見張りが居たお宅の2階を透視してみる

カメラはそのままセッティングされていて、一人だけ張込みが待機している
私の帰宅に早速反応し、カメラノシャッターを何回か操作した後、携帯を取り出したので、アパートの郵便受けを覗く振りをしながら、超人耳をそばだててみる
「…はい、戻って来ました。M田警部補はまだ戻っていません。マルタイは単独でどこかに出かけ、用を済ませてきたようです。所持品も無いようで、誰かと逢っていたのかも知れません」…なるほど、なにか買ってくれば良かったのか
Kと逢っていたなどと知れたら、どうなるのだろう。刑事ドラマなら、本部からきつく叱られるんだろうな、などと他人事のように想いを巡らせ、楽しんでいる自分がいる

部屋に戻って、いつもの習慣でやかんの湯を沸かし、ドリップ式のコーヒーを用意してダイニングの椅子に腰を下ろす
コーヒーなら、さっき飲んできたばかりだが、長年の習慣で、こうしないと落ち着かないし、アイディアも湧かないのだ
まず、さっきのK刑事との会話を思い出しながら、メモ用紙に要点をメモる
・GはT電とF原発処理の仕事をしている
・Gとは、彼がトラブっていたとき助けた→しかしそのときなにをどうして助けたのか記憶はない
・Gは宇宙人である
・Gとはテレパシーでコンタクトしている
・Gは第13星系区管理官のホニャララで、ホニャララは意味の分からない言葉か数字で、再現不能

よし、どこで誰に訊かれてもこの話で行こう
私はあくまで日本人のAで、ただ宇宙人Gに貸しがあるので、私の意向でGに働いてもらえる
さらに補足するなら、Gは銀河連盟とか連合の任務があって、この太陽系を含む複数の太陽系の文明が正常に発達するのを管理している、とか監視しているらしいということまで、聞いていることにしよう
そうすれば、Gが出て来れない場合の言い訳にもなるし、なにか大きな意志で動くケースもある方が都合が良いだろう
この線でいけば、私は普通の生活を維持するための行動がとれるから、お金の動きが合っても不思議はない

今後の基本方針を書いたメモは、携帯で撮って保存し、メモ用紙そのものは細かく破ってくず入れに捨てる
一応、携帯に残したのは、今後どこかで話がずれて矛盾が生じないため(この数年記憶力が弱くなってるから…超人になってから良くなってるのかなぁ?)なのである
ここまでさらけ出してもよい、と決めると気が楽だ。これでGに変身する場所が確保できれば、今までみたいにこそこそしなくてよくなりそうだ(と、このときは楽観できたのであるが…)
考えをまとめ、その後はNET内のチェック(F原発に超人現るネタは完全に消えていた)、そしてテレビを観て、就寝
その夜、ジュブブの連絡は、なかった
*

翌朝、張込みの公安刑事さん3名の見送りを受けながら、別にお付きの2名を従えてK駅よりN駅に電車移動
入れ替わった尾行の刑事さんの動向を偵察しつつ、待ち合わせのホテルグランデのロビーに到着
少し前から、ロビーラウンジに座っているH本部長には気付いていたが、一応うろうろとロビー内を探すうりをする
H本部長が腰を浮かせて、軽く手を上げるのを確認して、ほっとした表情を浮かべて、そちらに向かって歩く
なにしろ、普通人Aの方は、電話連絡だけでH本部長とは初対面なのだから、そういう演技をしないと

「A…さん、でしょうか」すっかり立ち上がったH本部長が、抑えた声で尋ねてくる
「あ、はい、Aと申します。Hさんでしょうか。お電話ではどうも…」可もなく不可もない返答をする
「朝から、恐れ入ります。Hです」笑顔で名刺入れから名刺を取り出しながら、前の椅子を手で示す
「すみません。お待たせしたようで」私も笑顔で頭を下げ、指示された椅子に腰を下ろす
「このたびは、ミスターグリーン様とのご仲介を頂き、感謝に堪えません」名刺を私に手渡すと、自身も椅子に腰を下ろして、屈託のない笑顔を見せている
前職の企画営業の経験上、最初の訪問時に相手に好感を持てれば、高い確率で成約できた実績が、私の表情をさらに和ませ、それが相手に反映するという、良い相乗効果が表れている

「それでは、ここでというのもなんですから、上の喫茶室に移りましょうか」とH本部長
そうですか、と返事をしてエレベーターに向かう(お伴の刑事さんたちは、素知らぬ顔で柱の陰にいる)
エレベーターには我々二人だけで乗り込み、刑事さんは付いてこない
そうか、どのフロアで下りるのかは、下でも把握できるからか(実はちゃんと連絡を取り合っていて、別の人間が喫茶室に居たのだが…)
それはともかく、喫茶室に入り二人ともコーヒーを注文すると、H本部長が早速切り出してきた

「Aさん。単刀直入に申し上げます。これから弊社と関係諸庁との協議はありますが、私どもとしてはグリーンマンさんの力をお借りして、エフワンの収束を図りたいと思っています。ただ、正式に作業に入れるのが何時になるのか、明確にお約束できないのも事実です。つきましては、グリーンマンさんに待機して頂く間、貴方への謝礼、というか報酬をどのようにさせて頂ければ良いのか、今日はその辺りをクリアにさせて頂きたく、こうした会合を持たせて頂いた次第です」
「わかりました。私の方は、正当と思えるような額のご提示があれば、基本的にはOKです。ミスターGについては、この太陽系のほかにも観察しているらしく、なかなかお忙しいようですし、そもそもお金になにも執着はなく、ただ私が定年退職していて家族のためにも、なにがしかの収入を得たいと思っていて、そこは任せてもらっているので、本日はT電さんのお気持ちを伺えれば、というところでして」ちょっと歯切れが悪いかな…

「いやいや、おっしゃられることはよく分かっております。ただ、当社も社長と私は積極推進派なんですが、社内役員にも関係諸庁にも慎重な見方をする方々が多く、決定まで少しお時間を頂きたいということと、何回かミスターグリーンにもご足労頂くことがありそうなので、その間の拘束料のようなものを用意したい、ということなんです」
「それなら、いかほどお心づもりなんでしょうか」ずばり本題に突入!
「いやぁ、それがまだ社内決裁がないので、私の自由裁量費の範囲内なんですよ」
「具体的には、お幾らなんでしょうか?」もうずばずば行くしかない

「廃炉計画別案件推進費、という名目で月額100万円くらいでは…」なんとセコイ!1億くらいを想定していた私は、がっかりが顔に出た
「いやいや、なにかそれらしい研究費とか、調査費名目なら500万くらいはいけると思いますが」
「分かりました。また正式着手の折は、別会計と言うことで、とりあえず連絡待機期間は月額500万円でお願いします」吹っかけ過ぎかなぁ…
「分かりました。ただし、Aさんには法人口座を設定して頂いて、そこにお振込みさせて頂く、ということでよろしいでしょうか」なんと、会社名義が欲しいと

「ということは、なにからしい名称の会社を作り、その会社名義の銀行口座を用意しないといけない訳ですね」
「そうなんです。社内的にも、監査法人対策としても個人名義では出金できないのです」確かに申し訳なさそうな表情だ
「分かりました、退職するときに会社を立ち上げることも検討したことがありますので、設立はできると思います。そうですね、行政書士さんか司法書士さんに相談しないといけないんですね」
「お手数ですが、よろしくお願いいたします。で、設立の費用としてこちらを…」と言いながら、内ポケットから白封筒を取り出した
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2017年05月25日

熟年超人の日 stage2 40

「原発の話って、あれか、あの震災の…」
「そうです。だって、そうじゃないですか、あの壊れた原発の後処理って、何十年かかるか分からないって言うじゃないですか。私は、日本人としてグリーンマンさんに手助けしてもらえるんなら、これを頼むしかないな、って思ったんです」
「そうか、そうだな。で、グリーンマンは、なんて言ったんだ」…すっかり引き込まれたKの顔は真剣そのものだ
「原発ごと引っこ抜いて、太陽に投げ込めば解決できる、なんて言ってましたけど。あの日は、その打ち合わせに東京に行くって言ってました」

「そうか…。で、どうして本社の上がからむんだ」…この刑事さん、どうも分かっていないようだ
「そりゃあ、廃炉処理といえば国がからんでるからじゃないでしょうか」
「そうか…、でもお宅のアパートに貼り付いてるの、公安だぜ」…しまった喋っちまった、という顔
「私はよく分かりませんが、グリーンマンさんはT電の偉い人に、私が代理人だから、みたいな話をしてくれたそうなので、それで私の動向を見張ってるんじゃないでしょうかねえ」
「う、う〜ん、どうもそれだけじゃないような気がするんだよな」心底考え込んでしまっている

「まあ、とにかくグリーンマンさんから聞いたお話しでは、すごい放射能もものともせず、すごく大きな船みたいなメガフロートとか言うものを持って、空を飛んで見せたそうですから、国としても無視できないってことなんじゃぁ…」
「ま、それはそうだろうなぁ。でも、公安が張ってるって結構重いんだぜ」
「でも、グリーンマンさんは宇宙人ですから、別に気にしないんじゃないですかね」
「う〜ん、まあ、あんたのこと心配してるんだけどな。…それはそれとして、自分があんたに訊きたいのは、最初のぼったくりバーの事件の方だ。あそこはS会の店だから、必ずあんたになにかやってくると思うんだ」

「いや、まだなにも、そんなこと起きてませんが」…ちょっと不安が胸をかすめる
「そうか、ならいいんだが、どうも探偵を雇ってあんたのこと調べてるようだし、あんたとあの夜の変な奴との関係も疑ってるようだからな」
「変な奴って、ビデオで見せてもらった、あのスパイダーマンみたいな奴ですか」
「そうだ。そうか、スパイダーマンか。そしてスーパーマン。あんた、いろいろ知り合いがいるんだなぁ」
「いやいや、スパイダーマンは知り合いじゃぁないですよ。まあ、グリーンマンさんの知り合いかも知れませんけど…」

「う〜ん、なるほど、その線もあるか。まあいい、Aさん、もしS会がなんかちょっかいかけてきたら、まず自分に言ってくれ、あそこなら抑えが効くから」…なんだか、味方っぽい言い方だが、裏があるかも知れないので、うなづくだけにしておく
「あんたの言ってたグリーンマンとやらが、原発片付けてくれるんなら、自分としては知らん顔できないんでな」…そう言うKの顔はすごく真直ぐで、私はなるほど、あちらの出身かと思った
「分かりました、なにかあったら連絡します」私がそう言うと、Kは胸ポケットから名刺をくれた

「じゃあ、行くから。そうそう、さっき言ってた探偵屋と、TテレのDって言うリポーターは、連絡取れる仲間みたいなもんだから、ちょっと頭の端っこに置いといてな」そう言って、Kはなにも注文しないまま店を出て行った
私は冷めたコーヒーをすすりながら、最後にKが言い置いていった言葉を反芻する
もしかすると、これから先、彼らの協力が必要になるかも知れない
超人って言ったって、一人じゃ大したことできないもんな
*
*

S会若頭のTは苛立っていた
組長のW木の頭には、今やひたひたと攻め込んで来ているP連合のことしか無いようだが、組が経営していると言ってもいい夜露が、あんな目に遭わされているのに、しばらく忘れろは無いだろう
対P連合との抗争のために、人手が割けないのは分かるが、少なくとも店で暴れたあの男は許せない
あのコスプレ野郎と関係があろうと無かろうと、店でやったことの落とし前は付けないと皆に示しがつかない
ヤサは分かってるんだが、どうも嫌な連中が張り込んでいるらしい
どこかで引っさらって来れば、後はどうにでもなるだろう
となると、サツに面の割れてない探偵屋におびき出させようか、と考えを巡らせている間は、大分冷静さが戻るTだった
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2017年05月23日

熟年超人の日 stage2 39

漫画喫茶、いやネットカフェ「It's-ZUKE」に無事着いたが、Kの姿はない
個室になっている席にもいないことを透視確認しておいて、係員にネット席でなく、漫画だけのオープン席を案内してもらう
そのときの、係の女の子が微妙な反応がちょっと気になったが、構わず席に着く
多少迂回しながらでも、人気の無い通りを滑り走りしてきたので、彼より早く着いたのかも知れない
その時、カランコロンというドアチャイムが聴こえ、Kらしき人物が店内に入って来た

オープン席に座っている私を見て、ちょっと驚いた顔をしたが、そのままよどみなく入って来て、私の前の席に腰を下ろす
男の店員が、不思議そうにこちらを見ているが、傍に寄っては来ない
「すんません、お待たせして。ちょっと遠回りして来たもんですから」
「構いませんよ。私も今来たばかりですから。それで…」
「用と言うのは他でもないんです。先だってK署でお話しを伺いましたが、あの後、本部からストップが入っちゃったんですが、私はどうもよく分からないんで、個人的になにか聞かせて頂ければ、と思ったんですわ」

なんと、この刑事さん、個人的に釈然としないという理由で、私に直接会いに来たらしい
そんな刑事ドラマみたいな展開って、あるのか、と驚いたが、なんとなく好感が持てる
身長は170pを超えているくらいで、がっしりした体格からすると、柔道なんかやっていそうだ
真直ぐこちらを見ている眼は、意外に明るく、警察の人特有の怖いような感じはほとんど無い
「そちらの事情は、よく分かりませんが、私自身は、あのぼったくりバーでトラブって困ってたときに、テレビでやってたあの騒ぎが起きて、助かったくらいの関わりしかありませんので」

「ふ〜ん。ま、それはそういうことして、なぜ本部が、いや多分もっと上がからむのか、そこが分からんので、こうして率直にあなたにお話しを伺いに来た訳で」
「と言われましても…」どこまで、この刑事に話して良いのか。こんな駆け引きやったことないからなぁ
「とにかく、あんたが並みの人間じゃない、ってことはわかってるんだ。あんたが消えた後、パチンコ屋の屋上に変わったものを見て、写真に撮った者もいるんだし」
思わずぎくっとした顔になったんじゃないかな、今

「実は…、実はですね、私、以前スーパーマンみたいな宇宙人を助けたこと、あるんですよ」
この刑事一人、言いくるめられなくて、T電や場合によっては、政府の関係者にこれからの展開を、納得してもらえる訳がない、と私は判断し、打ち明けてみることにした
案の定、K刑事は、はあ?という顔をしている
「詳しいことは私もよく覚えてないんですが、まだ以前の会社に勤めていた3ケ月前くらいの頃、会社の帰りに東海道線のガード下で、倒れている外人さんっぽい人を見つけたんです」…Kが、ふんふんそれで、という顔になっているので段々調子が出て来る

「でかい人なんで、近寄るの迷ったんですけど、すごく弱ってる感じだったんで、思い切って傍に行ったんです。そうして、寄って見ると全身緑色で、マスクと全身タイツにマントの仮装大会の参加者みたいな奴で、ちょっと後悔したんですが、一応外人でも日本人でもいいように『ユー、OK?』って聞いてみたんです」
…Kが話に引き込まれているのが分かる
「その緑のスーパーマンみたいな奴から、グリーンマンって呼んでいい、っていう言葉が、頭の中に入って来たんです。最初は、どこから声がしてるんだろうと思ったり、腹話術か、って思ったんですが『君の頭の中に話しかけている』って言うんですよ。こっちは、返事の仕方が分からないんで、声に出して『グリーンマンさんですか、どこか具合が悪いんですか?』って間抜けな訊き方したんです」

「そいつが、宇宙人だったって、あんたは言うのか」人が良さそうだった眼が、疑い深そうに細まっている
「そうなんですよ、本人が『私は第13星系区管理官のホニャララだ』って言うんです」
「ホニャララってなんだ」そこに食い付いてきた
「いや、なんて言ったか、意味の分からない言葉、というか数字なのか、再現不能なんです。多分名前なんでしょうけど。それが、任務でこの地球に立ち寄って、具合が悪くなったらしいんですね」
「具合が悪く、って、なにがどうなってたんだ」…段々、警察官口調になってきている

「どうも、それを覚えてないんですよ。確かに説明されて、それを私が、地球人なら悪影響はない、って言われて、取り除いた、って思うんですけど、それがなんだったのか、全然覚えてないんですよ」
「すると、MiBみたいに記憶を消された、って言うのか」…この人もSFがわかるみたいだぞ
「メン・インですよね、そうですね、そうだったのかも知れませんが、とにかくなにかすごく感謝されるようなことを、私がしたみたいで、そのグリーンマンが『お礼に君が困ったことがあったら、こちらでの任期中は、力になろう』って、言ってくれたんです」
話している私自身が、今どきはB級映画にもこんな安直なストーリーはないぞ、と思うくらいだったが、どうもK刑事は信じかかっているようだ

「あんたの困ったときって、どうやってそいつが知るんだ?」
「どうも、私とそのグリ−ンマンさんの間に、テレパシーの回線みたいなのが繋がったみたいで、私が心で強く願うと頭の中にグリーンマンさんの声が聴こえて、会話できるんです」
「頭の中で…、かぁ。しかし、それから話ができたことはあるのか?」…もう信じかかっている
「ええ、何回かあります。刑事さんのおっしゃってたパチンコ屋跡地でも、そんな話をしてグリーンマンさんに来てもらって、F原発の話をしたんです」話が核心に来た、Kはすっかり引き込まれている
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2017年05月21日

熟年超人の日 stage2 38

おばさんが帰るや否や早速、周囲偵察をしてみる
コンビニの近くにいた人物は、今はいない
全員引き上げたのかな、と思ったが念のため周囲偵察の密度を落として、範囲を半径1qくらいにまで広げてみる(ちなみに通常は100m〜200mくらいを感知している)
なにも感じなかったが、ちょっと気になったので、斜め向かいの住宅の2階を透視すると(いつもは住宅は見ないようにしている)、こちらを向いているカメラと、男が二人見える

まあ、いいかと気にしないことにして、コンビニに出向くことにする
多分待っているのは、少し前にK警察署で事情聴取を受けたときの県警から来たと言っていた二人のどちらかだろう
どうもさっきの様子だと、今見張っている連中と、追い返された方は違うセクションなんだろう
テレビドラマのあるあるってとこだ
組織間の対立があるとすれば、対抗心から相手の捜査に関しては、口が滑る可能性が高いから、現在の警察の捜査がどこらにあるのか、上手くいったら聞けるかも知れない

そんな腹積もりで、私はアパートを出てコンビニに向かった
周囲偵察をしながら歩くのは初めてだったが、空を飛びながらと違って速度が遅いから案外簡単だ
件の住宅の前を通って、少し歩いて角を折れて、コンビニのある国道(か県道)に出る
角を曲がる瞬間、周囲偵察にはっきり分かるような人の動きが後ろであった
住宅の2階で見張っていた人物が、大急ぎで出て来たようだ
無視して、というより意識して早足でコンビニに急ぐ

コンビニの店内に入ると、一直線にトイレに向かいドアをおばさんが言っていた通りのリズムでノックする
するとドアが開いて、何回か顔を見ているKと名乗っていた男が出て来て、私にたたんだ紙切れを渡して、店内に戻る
トイレの入室者がいるのに、切迫した感じの年配の客が飛び込んで行ったのを見ていた店員は、何事もなく客が交代したのを見て、ほっとする
続いて、またも急いでいる客が入って来て、店内を見廻している
こちらはトイレではなく、かといって品物を探すでもなく、店内にいる人物を探しているようだ
人相風体からして、普通の客ではないことは一目瞭然だ

さりげなく自分も店内を見渡してみると、中年の女性(ときどき見かける準常連客)が一人と、大分長いことトイレに入っていた男性客(以前、一度来たかも知れない客)、後はトイレに飛び込んだ年配の客の三人だ
なにが起こるのかと、気を配っていると、トイレから出た男の客は酒のつまみ類を熱心に見ている
女性客は、何点か品物をカゴに入れて、そろそろレジにやって来そうだ
今、飛び込んできた男は、ざっと店内を眺めまわすと、ちょっと苛立った雰囲気を残してドアから出て行った
女性客がやって来る、店員は店内観察を中止して、仕事に戻る

トイレの個室でメモを開いてみると『大事なことを伺いたいので、先日の漫画喫茶で待っている』とある
待っている、ったって行かなかったらどうするんだ、と思いながらも、こうしてアパートを出て来たんだから行くしかないか、と結論して、とりあえず水だけ流して(超人化してからトイレは不要)トイレから出て、なにも買わないのは申し訳ないので、長いウインナーの入ったパンを買って店を出た
さっきのK刑事はもう店内にはいなくなっている

折角、あの刑事さんが同じ警察を出し抜いて、私に連絡して来たんだから、張り込んでいる連中には見つからないように心がけねばなるまい
なんだかドラマに出演しているような気分になって、周囲偵察をさっとして、見張りの男がいない方向に滑るように走り出す
今まで、空を飛ぶときはスーパーマンスタイルで、手を伸ばして、だっと飛び上がってそのまま上空を目指したが、気が付くと、走るような格好のまま3pくらい宙に浮いて、スケボーのように地表を滑っている
気分は、何年か前に社内旅行で行ったハワイで乗ったセグウェイみたいな、あんな感じだ
これなら足音もしないし、ただ静かに走ってるみたいだから、そんなに人目は惹かないだろう
人目よりも、街中の監視カメラの方が気になるので、周囲偵察しながらカメラを避けて漫画喫茶に向かう
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2017年05月18日

熟年超人の日 stage2 37

きっと、明日の午後の会議は長びくだろう
現状を打開して、この国を救いたい者と、この会社と己の地位を守りたい者、そしてこの状態を可能な限り長引かせ、大樹の傷口から滴る樹液を心行くまで吸い尽くしたい者が、己の知り得る全てを投じて戦うのだ
自分はその戦場に、あの男の言質と昨日エフワンで起きた奇跡だけを武器にして赴くのだ
窓の外に広がる、日曜の大都会は物憂げに横たわっているように見えてはいても、その奥に油断のならない胎動を隠していることを想い、Hは深いため息をついた
*
*

[ 2:20pm K市 つばさマンション204号室 ]
明日、N駅のホテルグランデに行くとなれば、服装にも気を配らなければいけないが、大勝負用のスーツは、まだ着られるだろうか
H本部長の連絡を受けた後、俄然営業モードが復活した私は、明日の正式契約(多分)に神経を集中させる
契約書は、作って持って行く方が良いか、それともまだお互い様子見段階なのだろうか
あまりガツガツしているように見られたら、超人の方はともかく、仲介人としての私の値打ちが下がってしまう

それに、どんな契約にしておくべきなのか
単発契約か、一定期間の保守サービス契約か、そもそも超人が一国家の一地域、さらに言えば一企業のために契約など結ぶものか
ありえない!そんな超人はありえない
ジュブブだって、超人になった者は、地球を守るため(だとまでは言っていなかったが)に、私を認定した(というような意味合いのことを)と言っていた(…のか?)
考えれば考えるほど、例え超人本人でなくとも、超人としてやったことに、代償を求めることの不条理さがくっきりと形を成してきて、私を誹謗する

ならばどうだろう、ここははっきり人間としての私が、超人との連絡役だけで生計を立てるのだと、多少蔑まれても家族のために居直ろう
宝くじで得ようが、仕事で得ようが、もうかる仕組みを考えて企業に売りつけようが、犯罪でなければ金は金だ(…と、自分を納得させるのに成功)
今回は、というかこれからは、超人仕事をS〜Cまで4段階にランク分けして、10億、1億、1千万、無償(人間である私の必要経費は情況による)とすることにした
ランクは、超人の活躍で救われる損害想定額で設定。Sは1千億規模、Aが百億、Bが2千万以上、Cは、それ以下と、一応決めた

ほかに、人道上その場で即行動してしまった場合は、後で請求とはいかないだろうから、原則無償になっても仕方ないだろう
となると、今後円滑に仕事を遂行するためには、私のマネジメント力が必須になりそうだ
…そんな甘い空想に浸っていると、ドアをノックする音がする
ドアののぞき穴、ではなく、超人眼で透視すると下の部屋のおばさんがきまり悪そうに立っている

「はい、なんでしょうか」と声に出しながら、ドアを開ける
「あら、やっぱりみえたのね。さっきまで、奥さんがみえてたんでしょ」
「ええ、おりましたけど、それで?」少し警戒心が蠢いたが、相手がこちらを直視している時に、周囲偵察なんてしたら、どんな風に見えるか想像がつかなかったので、取り敢えず普通に応対する
「実はね、わたしの知ってる人がね、Aさんに会いたいって言ってるのよ」
「はあ?知ってる人が、私に…」
「そうなの、怪しいような人じゃないのよ。警察に行ってる人なんだから」なんと、警察の人間が下のおばさんを使って、私に連絡して来るとは!

「すみませんが、するとあなたは、警察の方とお知り合いなんですか?」
「う〜ん、まあ、お知り合いというか、知ってる方の知り合いらしくって、その方からわたしのスマホの番号を聞いてね、かけてきたって訳なのよ」
話しがよく見えないが、このおばさんを中継して連絡して来るってぇのは、外で張り込んでる連中とは違う警察なんだ、と了解した
「分かりましたが、どうやってその人に会えるんですか」
「なんでも、あそこのコンビニのトイレに居るから、ドアをトトトンって、叩いてって言ってたわ。なんか、変よねぇ」…って、伝えてる本人が不思議がってどうする、と心の中でツッコむ私
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2017年05月15日

熟年超人の日 stage2 36

あの張込みをしている連中が、Gの線を捜査しているのか、それともスパイダーマン風コスチュームの男を追っているのか、今まで良く分からなかったが、これでGの方を追っていることが分かった
そして、あの追い返された軽に乗っていた男は、おなじみの県警のK氏だ
刑事ドラマなら、本庁と所轄、組織対組織の丁々発止の場面があるはずだが、現実には県警さんは引っ込むんだろうな、などと他人事のようにぼんやり考え、一時的に思考停止状態に陥ってしまう
それにしても、今のこの状態を打開しておかないと、いずれ家族に迷惑をかけることになるだろう

ならば、分からないようにここを抜け出し、上空からGとして現れ、彼らのうちの誰かに、上司に連絡させて、人間の方の私に寄りつかないよう、少し脅してみるというのはどうだろう
あそこに停まっている車を持って、この町内を空から一周した後で頼めば、きっとすぐに連絡してくれるだろう…なんて空想して、少々溜飲を下げる
物事はなんでも、そうある仕組みがあって、人はその一部を成しているだけなのは分かっている
脅された男は、国家の安泰を守るための組織に所属して、給与を得ながら私を監視しているだけなのに、脅されたことでもっと過激になるかも知れない
その矛先が、家族に向くなんてことになったら大変だ
いくら超人でも、相手を根絶やしになんてできっこないし、そもそもそんなことにはなりたくない

超人Gが出向いてくるだけの理由がなければいけないのだ
う〜ん、めんどうなことだ
そりゃあ、こうして四六時中見張っているくらいだから、いつかは向こうからやって来るだろうが、待つ方の身にもなってよ、とグチが出る
とその時、携帯が鳴った
相手はT電のH本部長のようだ
「はい、もしもしAですが」思わず素で出てしまった、と、どきりとしたが、本人で良かったんだ、と胸を撫で下ろす
「お休みのところ申し訳ありません。T電のHですが、Aさんでしょうか」

「はい、Aです」と、答えながら、この会話って盗聴されているんだろうな、と思う私
「恐れ入りますが、グリーンマンさんの件なのですが、お電話では何なので、明日N駅ビルのホテルグランデでお会いできませんでしょうか?」
「はあ、結構ですが、何時ごろに伺えば良いでしょうか?」
「11時に、ロビーでいかがでしょう。もちろん午前の11時ということで」
「分かりました。明日、午前11時、ホテルグランデのロビーですね。必ず伺います」
電話を終えてから、聴力感度を思いっ切り上げてみる

張込みの男には変化がなかったが、じきに電話連絡が入り、ほとんど無言のままの応対の後、最後に「では戻ります」と声がして、車のイグニッションがオンになり、タイヤ音を残して発進していった
それでもまだ一人、コンビニ前に張り込んでいるようで、周囲偵察に反応がある
こりゃあ、コンビニに行ってみようかな、と悪戯心がむらむらっと起こる
こういうときは、静観が一番だぞ、と言う自分と、なにかやってみたくて仕方ない自分がいる
…困ったもんだ
*
*

[ 2:20pm 千代田区内幸町1丁目T電力本社 ]
「では、明日、N市に行ってきます」受話器を置くと、Hは思わずため息をついた
あの夜、社長と共に見たグリーンマンの超人ぶりに、あらゆる手を尽くしても如何ともし難かったイチエフの廃炉処理に光明を見出したのだが、現地テストへの立ち合いが何処からかの指示で行けなくなり
最初は積極的に見えた社長も、この件に関わり合いたくない様子に、不安を感じていたのだが、昨日のテストの結果報告を受け、自身の判断に過ちが無かったことを喜んだ
一夜明けて、どうしても気になることがあり、日曜出社をした自分のデスクのパソコンに、慎重派だった副本部長のKからのメールが入っていた

『私見ですが、Gの能力はイチエフ廃炉を大きく前進させるものだと認識しました。それだけに、廃炉問題に関わっている政府及び関係各社とのバランス調整が肝要かと思われます。一言、釈迦に説法と洒落てみました K拝』
あの男らしい、とHは思う。必ず、退路の確保だけは欠かさない
これで油断すれば、後ろからでも射撃命令の出せる男だ。それだけに、今のT電にとっては、彼のような守備位置を取れる人物が必要なのかもしれない
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2017年05月14日

熟年超人の日 stage2 35

これからの課題は、スーツ非装着時の同種間接触問題だと言っていたジュブブの残留思念が、私の脳内で警戒せよと明滅している
当初想定していたような、私が超人の仲介人として手数料を受け取る、という仕組みが出来たとして、それを世間にすんなり納得させるには、なにかが足りていない
官憲だけでなく、マスコミも仲介人の私から、超人に関する情報を得ようとするだろうし、そればかりか家族にまで追及の視線を向けることは容易に想像できるし、度合いが増せば家族の平穏は壊滅だろう

普通人である私や家族を、詮索したり尋問したりすれば超人が不機嫌になる、みたいな設定を用意しておくべきなのかも
テレビドラマでよくあるように、私や家族に暴力が振るわれそうなときには、超人力で対抗することになるが、毎度毎度では世間の不興を買うだろうし、私はともかく、妻も子も孫も社会と敵対したら、普通に生きていけるはずがない
そんなことを考えていると、いつものようにSAプランニングM社長の金言が脳裏に浮上した

『敵は作ったら駄目。苦手と思った相手ほど、乗り越えれば味方に変わってくれるものだ』…そう、それは現役時代に何度か経験した企画売り込みの鉄則だ
苦手なクライアントの担当者が味方に変わるとき、それは何度もめげずにプレゼンしている繰り返しの中で、ある時突然、私という人間の、なにか(趣味や物の見方)が相手に共鳴したときだった
つまり、乱暴そうなつっぱり兄ちゃんが、野良猫を抱き上げるのを見た彼女の中に“好感”が芽生えるとか

しかし、まさか超人の趣味や考え方を披露する場などありようもないし、そもそも一般人との交流は、一段上の立場で対応すると決めていたはず
堂々巡りの思考の末、やはり信頼されるには、できるだけ人を傷つけないことと、些細な心配りを見せることだろう、と結論した
ただ、ここを侵害したら絶対怒る、その先には踏み込んではいけない、というラインを明確に打ち出しておくことが肝要だ
とにかく、超人Gは私に助けられたことがあるので、その恩に報いて、私の望むことは無茶でない限り叶えようとし、望まない事態は回避するという関係性を前面に出しておくのだ
警察やマスコミに訊ねられたら、その話をして、私という人物が超人の庇護下にあるという、そんな印象づけをするのだ

そこまで考えをまとめたとき、トイレに行っていた妻が私を呼んだ
「パパー、わたし、これからT彦のとこに戻るけど、できるだけ早くここは引き払って、T彦の家の近くで一緒に暮らせるようにしてね」
分かってる、と返事をしておいて、さーっと周囲偵察を試みる
相変わらずの張込み体勢が敷かれているが、その時人の動きがあった
軽自動車が1台、アパートの前の道に停まり、中から人が降りたので、張込みの刑事が動く
聴力の感度を上げ、透視眼を駆使してその様子をチェックする

「誰だ、なぜこんな処に車を停める?」
「や、すみません、私はA県警捜査四課のKですが」言いながら、内ポケットからなにか取り出して、相手に見せている(警察手帳だな)
「ここは、県警は寄らないことになっているはずだ」
「いや、すみません、この近くでP連合の鉄砲玉らしいのがうろついてるって、タレコミがあったんで隠密でアラってるんですが」
「そんなことはどうでもいい、ここは所轄は出入り禁止だ。早く行け!」
そんな二言三言の会話があった後、軽自動車はそそくさと発車していった

「じゃ、行くわね」妻の声だ。今、外に出して良いか、一瞬迷ったが大丈夫だろうと判断
「ああ、T彦とK子さんによろしく。また、訪ねるからって言っといて」
妻を送り出し、再び透視眼と超人耳で様子を窺う
階段を降りた妻が、アパート前の道に出て、駅方面に向かって歩いて行く。その後を、男がばらばらに二人、さりげなくついて行く
そんなに遠くまでは見続けられないので、聴力に神経を集中させる
車の中の男が「マルヒの奥さんがアパートを出ました。一応、二名で尾行しています。はい、マルヒはまだヤサの中です」…う〜ん、刑事ものドラマのワンシーンそのものだ

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2017年05月10日

熟年超人の日 stage2 34

いつもと違う緊張感の漂う雰囲気に、少し怖気づいているSにTが手招きして自分の前の椅子を示す
頭をぺこりと下げて、Sは椅子に浅く腰を下ろすと、報告書の入った封筒を差し出す
「おう。これが報告書か」言いながら封筒を受け取ると、W木に目で語りかけて封筒から報告書と、SDメモリを取り出し、W木のデスクに載っているノートパソコンに挿入する
W木によく見えるようにパソコンを操作して、画像フォルダを出してスライドショーを選択する

W木が画面を覗きこんでいる間に、報告書をパラパラめくって中身に目を通し始めるT
Sは、不安そうな表情にならないよう気を付けながら報告書を補足しようと口を開きかける
「いい、まだ喋らんでいい」手でSを制しながら、5ページにまとめられた報告書を素早く見ていくT
組長のW木が、スライドショーを見終わって、顔を上げると同時にTも報告書から視線をSに戻す
「で、お前はこのおっさんの住んでるアパートを見張り、後を付けパチンコ屋で見失い、今度はネットカフェで又、見失ったって報告書なんだな、こりゃあ」

「え、ええ、まあ、そういうことです」次に怒鳴り声が来るだろうと、Sは予測して深々と頭を下げる
「で、お前の結論は、あの親父と暴れた覆面野郎は、P連合とはなんの関係もないって言うんだな」
「はい、あの二人はただの格闘技をやってる腕っぷしの強い奴だと思います」
「組長、私もそう思ってます。今、あいつらなんかに関わり合ってるときじゃないと思うんで、後はこいつに見張らせといて、あっちの方を片付けるのが先じゃないかと…」
「そうか。お前がそう言うんなら、あいつらは後回しだ。おい、探偵屋、また何かあったら、言ってくるんだぞ。それにしても、この写真じゃなにもわからんなぁ」W木が目で合図すると、Tがうなづいて茶封筒をSに渡す

「あ、どうも、ありがとうございます」お礼を言って、Tから受け取った封筒を、男たちが見ている前で開けて中を確認し、2枚の1万円札を指で確かめ
「なんか、いつもより少ないんですが…」恐る恐るTの顔色を窺いながら、小さな声で言った言葉を途中で飲み込み、慌ててお辞儀をして立ち上がる
「お前がいい報告を持って来ないからじゃないか。文句あんのか」Tが低い声で吐き捨てるように言う
「いや、すみません。また、何かわかったらご報告しますんで。それじゃあ」もう一度お辞儀をして、そそくさと部屋を出ようとする
「今週中に、あの覆面野郎の正体を突き止めて来い。わかったな!」Tが抑えた声でそう言うのを、もう一度お辞儀をして、わかりました、と言ってS会事務所のドアを閉めた後、額の汗をそっとぬぐうS
*
*

警視庁公安部外事第二課課長のJ道警視は、対策会議招集の起案書を書き上げ、関係各所へのBCCメールに添付すると、そろそろ正午になる腕時計を見て、スマホで妻に都内のデパートで待ち合わせようと、メールした
*
*

内調1課のM原とY岡、2課のK川の三人は、内閣府6階のミーティングルームで、Y岡がコンビニで買ってきた弁当とお茶で昼食を摂りながら、ぼそぼそ話を続けていた
「とにかく、もう起きていることは間違いない。そのGが宇宙人だとして、我が日本が全人類を代表するような形で、接触を持ってしまったんだから」とM原
「私としても、その場の空気感としては、真に友好的な、シンパシイというか、そんなものを感じました」弁当を頬張りながらY岡が言う
「そこが、T電に拙速な交渉を持たせるはめになったんだな。しかし、あの国の連中はなんでも自分のところが一番でないと気が済まないから、必ず茶々を入れて来るぞ」茶々を入れて来るぞ、に合せてお茶のPETボトルを口にして、K川がにやっと笑う

「茶々は、あの国も入れて来るさ。問題は、こっち側の体勢が整えられるか、だ」とM原
「そうですね。明日、NSC(国家安全保障会議)の招集まで行くんでしょうか?」
「W田さんが官房長官にどんな風に伝えるか、だが、あの国にこの件をどう見せるか、総理も悩ましいだろうからなぁ」K川は、もう弁当を食べ終えて箸袋の中から爪楊枝を取り出して口にくわえている
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2017年05月05日

熟年超人の日 stage2 33

Sが、事務所兼住まいにしているN駅近くの古びた雑居ビルの、6階のエレベーターを降りたところにある一室に着いたのは、時計の針が11時半を廻った頃だった
鍵束から部屋の鍵を2つ取り出し、上下に2つある錠を開け、室内に入る
カメラを仕舞ってある戸棚に辿り着く前に、デスクに置いてある電話の留守番メモ灯が赤く光っていることに気付く
留守録再生ボタンを押して、そのまま留守録を聞きながら戸棚からカメラを取り出そうとしていると、聞き慣れたS会の若頭Tの、神経に刺さって来る声が流れ出す
<やいやい、いつまでかかってるんだ。組長に報告しないと、俺までケツを叩かれるんだぞ!とにかく早く報告に来い!」…やばい!こりゃかなり頭に来てる
次の留守録では、さらにイラついて甲高くなってきた声音が耳に刺さる
「まだか、早く事務所に来い!」…そして3番目の留守録が
「すぐ電話しろっ、すぐだ!」と念押しして切れる
電話のガイドは、1番目が昨夜10時すぎ(土曜の夜をN美と楽しく過ごしていた頃)2番目が11時頃、そして3番目の留守録は、つい先ほどの今朝の11時2分となっている

怒ってしまったときのTを一度だけ見たことがある
S会の事務所に、頼まれていた町工場の社長がキャバクラの女とホテルに入るときと、出て来たときの写真を届けたとき、若いチンピラが横を向いたままTに返事したことがあって、そのとき突然切れて、その若い者をどつきまわしたのだ
その時は組長のW木のとりなしで収まったが、あのときも声が甲高くなっていた

これは、ともかく組事務所に顔を出さないと収まらないのは分かる
持って行くSDメモリから、あの部分を削除してあるが大丈夫だろうか
Tはいつも、昨今のIT関連情報に強いことを、組の若い者にひけらかしていた
パソコンもよく見ているし、スマホも持っている
このメモリを渡せば、すぐにノートパソコンに差し込んで、中を見るだろうな
どのみち、あの訳のわからない画像があったところで、あの晩のAと正体不明の怪人との関係に繋がりそうもないし。
そもそもW木組長が思っているような他の組関係の臭いがないことは、第一報で報告済みで、パチンコ屋の屋上の画像は、話をややこしくするだけに思えた
さらに言えば、リポーターのDが示した関心を大事にもしたかったのだ

どうせ最後の3カットだったから、その前で終わっていても不思議はないだろう
気持を決めて、SDメモリと報告書をクリアファイルに入れて、S会の事務所に電話をする
3コール目が鳴ったとたんにTが出た
「はい、…」用心しているのか、S会とは名乗らない
「Tさんですか、連絡遅くなりましてすみません、リサーチプロのSです」
「おう、駄目じゃないか連絡なしじゃあ。どうなってるんだ、あの件は」声の尖り具合は思ったほどではない
「すみません、これから報告書を持って伺いますんで、よろしくお願いします」
「すぐ来いよ。組長もじきにみえるから、しっかり報告してくれや」
そうか、W木組長もいるのか、と思いながら電話を切る
それから事務所兼住まいの部屋の鍵を2つ、しっかり施錠して部屋を後にする

S会の事務所のあるマンションは、Sの事務所のある古い雑居ビルから徒歩で10分ほどの、飲み屋街の一角にあるやはり年季の入ったビルである
俺の事務所のあるマンションと、そんなに変わらないじゃないか、といつも思う
3階まで階段で上って、308号室のドアを3−2−2とノックする
がちゃっと音がして、チェーンが外される音がして、ドアが開く
「どうも」と言いながら、Sが入って行くとW木がデスクの向こうでこちらを向いて座っている
Tが、デスクの前の革張り風の応接セットにこちら向きに座って、前の椅子に座れと顎で示す
あと二人、背が高くてがっしりした若い者と、ひょろっとした年のよくわからない男が、後ろで手を組んで足を肩幅に広げて突っ立っている
posted by ミスターK at 22:04| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説