2017年06月30日

熟年超人の日 stage2 49

このことをDにも知らせておいてやろう、と思いスマホでDを呼び出す
数コールすると留守番電話に切り替わる
『只今打ち合わせ中です。お急ぎの方はメッセージをお入れ下さい』
「もしもし、探偵のSです。例の件でご報告があるので、折り返しお電話ください」急いで喋って、メッセージを有効にした
やることはやった、後はAの奥さんの住所を調べることだが、探偵であるSにはそれは簡単なことだった
AのアパートのあるK市の市役所に行って、住民基本台帳を見せてもらえばそれでよい(場合によっては探偵業届出証明書を見せる必要がある)
いっそAに直接会って、事の次第を話すという手もあるが、K刑事が話すと言っていたのだから、まあ自分は陰で推移を見守ろう。むしろDとの連携を上手くやって、今後につなげたいと思っていた
*
*

[ 18日pm3時半過ぎ K警察署 ]
日は1日前に遡る
公安の三人の事情聴取が終わって、K警察署の玄関を出た私は、車で送るという申し出を固辞して歩いてアパートに向かった(おかげで一人、私の尾行をせざるを得なくなったのは気の毒だったが…)
途中、K駅そばのラーメン屋で早い夕食を済ませ、コンビニで週刊誌とおつまみとビールを購入して部屋に戻る(ついて来ていた2号とおぼしき人物は、向かいの住宅に合図を送ってから引き揚げた))
超人になってから体の疲れは感じないのだが、気を張る応対をした後は、精神的な疲労感が残るような気がしている
ビールなど酔いもしないし、なんにもならないのだが、ただ昔の習慣で、寛ぐときはテレビにビールとつまみのセットを用意してしまうのだ

つまらないテレビを観て、それでもお定まりのところで大笑いして、結構いい気分で床に着けたのはT電との商談もこなし、警察にもある程度の話をしたからだろう
そんな訳で、10時には電気を消して、ざっと周囲偵察をしてから眠りに入ることができた
あれやこれやのよしなしごとが脳裏を巡るうち、ノンレム睡眠からレム睡眠に入ると、久しぶりにジュブブとの回線が開く
『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である。君は官と深い対話をする必要がある』
*なにやらいつもと様子が違いますねぇ

『君は官の67%比重の提言を無視して、この惑星のごく一部の特定集団と提携して、対価を得るべく行動した結果、国家という中規模組織の管理基準に抵触して、これからの超人活動に支障を来たす確率を78%に引き上げてしまった。さらに、この惑星の地域管理組織である多数の国家が君の活動を制限すべきと判断する確率も引き揚げつつある。現在選択している方法では、君の自由裁量での超人活動は甚だ困難になると推測される』
*そうか、海外の反応もあるでしょうね。A国やC国、R国などは過敏に反応しそうですね
『いずれにせよ、君の選ぶ超人活動は、この惑星の中レベル層の代表的な反応ということで、官はなんら制限を設ける気はないが、かなり煩雑な周辺操作を施しながらでないと、破砕的超人行動も視野に入る可能性があることだけ告げておく』
*破砕的って、ぶちこわし的ということですか
『その通りだが、官が助言するとすれば、君の選択している外宇宙活動型スーツと、惑星内活動型スーツの使い分けという手段で、大きな摩擦を避けることが出来る確率は54%を超える。さらに、官の一存で外宇宙活動型スーツにこの星の人類が基本頼っている、可視光線知覚力に干渉して姿を見えなくする機能をONにしておいたので、上手く活用することを期待している』…そこで回線は切れた

[ 19日am8時20分 つばさマンション204号室 ]
翌朝目覚めると、就寝時のジュブブの話は記憶にしっかり残っている
だって、家族のことも考えないといけないし、という反論まで心に残っているが、さすがにあの宇宙人と言い合ったって敵う訳がない
それより、あの2種のスーツの使い分けを、しっかり考えること、それからスーパーマンスーツの透明機能を早くチェックしておくべきだろう
そもそも、どうやって透明化できるのか、例によってジュブブは教えてくれてない
恐らく自分で思いつくことや、スイッチオンするところから、私の課題になっているのだろう
この惑星の人間は大したことがない、と判断されるか、自力解決できる適応性がある、と採点(そんなものあるかどうか知らないが)しているんじゃないかな

スーツを装着する前に、ぱっと閃いたことがある
この部屋を留守にしている間に、あの公安の連中が、なにかモニターカメラみたいなものを仕掛けてないか
あるいは、部屋に置いているPCになにか入れて、私の生活の一部始終を観察しているかも、みたいな考えが警鐘を鳴らす
なるべく自然に見えるよう、テレビを点け、冷蔵庫の中の賞味期限ぎりぎりのオレンジジュースをコップに注いで、ダイニングテーブルの椅子に腰かけた
まず、欠伸をしながらテレビ自体になにも仕掛けられてないか透視
続いて、蓋を下ろしたままのラップトップPCを丁寧にチェック、といってもウイルスじゃあ見える訳ないが、勝手に作動していないかをチェックする

ひとつひとつクリアして、やがて部屋中を丁寧に透視、周囲偵察も機械類には敏感に反応するから、アパート全体を仔細チェック、結構時間がかかったが、問題はない
どうやら、公安さんはこの部屋の安全確保第一で見張っているようだ
盗聴器も盗撮カメラも皆無だったので、ほっと一安心する
所詮超人とは言っても、一市民、一国民の私なんだから、ドラマや映画みたいなのは願い下げだ
大丈夫を確認して、スーツを装着。一瞬で、グリーンマンが現れる…というか、グリーンマンのままだ
でも慌てず、透明になれ、と念じてみる
なっていない、グリーンマンのまま。次は、見え無くなれ、と小声で言ってみる…が、見えている

そうか、と気付いた
もう少し、具体的に念じないといけないのだ、きっと(原発のときもそうだった)
見えるということは、光が物体に当って、その反射光が目に入って見えるという話を読んだことがある
色は、その色の光の波長が目に入り、網膜に映されるからだということだった…ということは、光が反射しないようにと念じれば良いのか、と思った瞬間、真っ黒な私が出現
真っ黒というより、真っ暗という方が当たっているかも知れない。しかし、これでは夜はともかく、昼間には適さない
ならば、以前深夜のテレビで観た、透明人間の実験(鏡のように周りの景色を全て映す仕掛け)を真似てみるか
やってみると、これならそこそこのスピードで動いた場合は別だが、じっとしていれば見えないに近い状態で、そのまま最速で飛び上がってしまえば、まず見えないだろう
部屋の中で全反射状態を、玄関の姿見で見ると、止まっていればまず見えない、あるいは見えにくい
ま、これでいいかと、めんどくさがりの私は、装着を解いてベッドに寝転がった

いざ実践の際は、公園のトイレにでも入るふりをして、そこで姿を消して一気に高空に飛び上がろう…などと考えているとそろそろ12時になる
別に昼食など食べなくても平気だが、やはり普通の人間らしく食事を摂るべきだろう…ということで外出
もう向かいの住宅に視線をやってもおかしくないだろう。なにせ、昨日公安三人組とあれだけ話をしたのだから
とりあえずば駅の方にでも出てみようか。駅の近くにレストランもあったはずだ。そこでお昼にすることにした

そこそこの味(有難いことに味覚は今まで通り、というより鋭くなっている)のハンバーグランチでも食べようかと、着ていく服を選んでいるとき携帯が鳴った
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2017年06月27日

熟年超人の日 stage2 48

「で、どうだったんだ?」Tが意外に穏やかな表情で聞いてくる。こういうときは、かえって怖いのだ
「ええ、Tさんのご推察通り、張っていたのは公安の連中でした」
「そうか、それはどうやって確認したんだ」そう言うTは、微笑んでいるが目は笑ってない
「いやーぁ、アパートに寄った帰りに職質かけられちゃいまして…。浮気調査中の探偵だって言って、パスしてもらったついでに、手帳見せてもらいました」押さえても緊張感が腹の底に固まる
「そうか、相手は信じたか。まさか尾行されてるなんてこと、ないだろうな」
「ええーっ、尾行なんてされてませんよ。間違いないですよ」なぜ、こんなに警戒しているんだろう

「よーし、まあいい。電話がないから尾行されてないってことだろう」
「外で、シキテンかけてる組員さんがいるんだ。ぬかりないですね若頭は」
「あったりまえだろう。今はなぁ、おれら大変なときなんだよ」ドアを開けてくれた大柄な組員が口を挟む
「おい!」Tが睨むと、その組員は頭を下げて湯沸し室の方に退散する
「まあ公安さんに目を着けられる理由はないけどな。あんたは部外者だが、関係者ではあるよな」…ヤバそうな風向きになってきた。挨拶してもう帰りたいところだが、Kに頼まれたこともある

「ところで、これじゃああのおっさんをさらうなんて、できませんよね。なんか、別の手あるんですか」
「ほう、興味があるのか」目が細くなっている。やばい
「い、いやぁ、これでこの件はもう、終わりかなって思いましたんで」
「終わらせたいのかぁ、あんたは」ささくれ立った目つきで、Sを睨む
「違いますよー。でも、公安とかあれだけいるんじゃぁ。どうしようもないのかと…」
「あいつがダメなら、あいつの女房に訊くとかいろいろあるだろ」大分苛立っているようで、声のトーンが高くなってきた
「奥さんじゃあ、なにも知らないんじゃないんですかねぇ…」

「馬鹿野郎、知ってたって知らなくたって、どっちでも構やしねぇんだ。囮だよ人質だよ」やっぱり、この男はこういくんだな、とSは(や)の怖さが改めて身に染みた
「そうですね。で、何時どうやるんです?」
「そうだな、お前に頼むか。どうせ、あいつの女房がどこに住んでるか、調べてあるんだろ」
「えーっ、知りませんよ。奥さんの住所なんて、調べてありませんて」嫌な役が回って来そうな成り行きに、慌てて手を横に振る
「じゃ、やれ。調べて、ここに呼び出すんだ」
「そんなー。私が関わる理由なんて、ないじゃないですか」
「なに言ってるんだ。もう調査費は持ってったじゃぁないか」じろりと睨まれると、いやと言えなくなる

「じゃあ、調べてなんとか連絡取ってみますけど、私をそれ以上巻き込まんで下さいよ」
「おう、ここに連れて来るだけでいいわ。後は、こっちでやんわり訊いてやるから」
「ところで、なにかお取込み中だったんですか?あの方、そう言ってましたよね」恐る恐る聞いてみる
「お前に関係ないから。それより、3日以内にここへ連れて来いよ」
「えーっ、3日は無理ですよぅ。これから、住所調べて、連絡取らんといけないんですから」
「じゃ、4日やる。金曜までだ。それならいいなっ」念を押されて、渋々承諾したが、事務所を出たら、すぐK刑事に相談しようと、と思いながら挨拶して事務所を出る

S会の事務所から離れると、このまま事務所に戻るかN美のマンションに行くか迷い、そのどちらに行くのもヤバイかも知れないと思って、Sは小さな喫茶店に入り一番奥まった席に身を置いた
コーヒーが運ばれてから、そっとスマホでKに電話をかける
「あ、Sです。今、事務所に行って来ました。Kさんの言われた通り、あっちは奴さんの奥さんを人質にする積りです」
『そうか、わかった、どうもありがとう。まだおっさんとは連絡取れてないんだが、夜にはヤサに戻るだろう。何度でも連絡取ってみるわ。ご苦労だけど、あっちとパイプはつないでおいてくれや』
わかりました、と返事してスマホを切る。しかし、あっちもこっちも、自分を駒扱いしてくれるなぁ、と心の中でため息をつくSだった
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2017年06月22日

熟年超人の日 stage2 47

「だったらお前、S会がなにを考えてるか、それを探ってくれんか」
『S会は、今やばい感じですよ。なにせこの間も若頭が、Aか家族をさらって、なんとかレンジャーみたいな奴の正体を吐かせる、って息捲いてましたもん』
「そうか、それを何時やる積りか、分ったら即、教えてくれるか。そんな弱みで、あいつがグリーンマンにまっとうなことを頼めなくなったら、それこそ何にもならんからな」
『そうですねぇ、そりゃそうだ。分かりました、なにか掴んだら連絡します』
「頼む。こっちは取りあえず、あいつにこのことだけでも、知らせておくから」そこまで言って通話を切る

通話が切れたので、スマホを内ポケットに戻した途端、また着信音
Kがなにか言洩らしたのかと思って画面を見ると、Tテレレポ・Dとある
「はい、リサーチプロSでーす」これは、いいメが出て来たのかな、と思うから声も弾む
『お久しぶりです、Dです。今、電話大丈夫ですか?』
「はいはい、大丈夫ですよDさん。なにかニュースに関連する話ですか」
『そうですよ、Sさん見ました?ネットのアレ』
「はあ〜、ネットのなんです?アレって」

『そうかぁ、見てないんですね。日曜日の朝、短時間だけ原発にスーパーマンが現れた、という動画があったらしいんですが、アクセス集中で見れないうちに削除されちゃってましてね。前にお宅さんも、見たことあるって言ってましたよね』
そうか、とSの頭の中でさっきのKが言っていたことと、今のDの話が繋がった
「その話、聞きましたよ、たった今Kさんから。ええ、あのA県警のKさんです、ラーメン屋で話した」
『へー、そうなの。そんな話があったんだ。ふーん、グリーンマンかぁ、いるんだ、そんなのが。で、あのAって人が仲介人なの。こりゃスクープだよSさん。この前言ってたスーパーマンの、いやグリーンマンか、の画像があれば、こりゃ大きなニュースになるよ』

興奮しているDの声を聴いていて、ふとなぜインターネットの動画サイトが削除されたのか、という疑念がSの脳裏に閃く
「Dさん、これテレビに出すのちょっと様子見た方がいいんじゃないですかねぇ」
『えー、様子見るって、なんで?ぼやぼやしてると、ネットに上がった情報だから、すぐ他局でもやっちゃうよ。大体、なんで様子を…。そうか、ネットに上がった途端、すぐ削除しちゃったウラがあるかも、か』
「そうですよ。Aのアパートだって、公安さんが一杯張ってるくらいなんですから」
『うーん、それじゃあ、O倉さんの耳にキーワードだけ入れとくか。とにかく、明日は大阪に出張なんで、夜、N市の例の飲み屋に集合しましょうか』
「OKです。Kさんにも連絡取っておきますよ」スマホを切って、S会にも行かんといかんな、と思いつき再びスマホの電話履歴に指先を走らせるSだった

「もしもし、Sです、お世話になってます」
『なんだ、どうした』低めの声音のTの声が耳元で響く。声が低い時は大体来客中か、組長のW木と相談中のときだから、Sは緊張して少し声を落として話を続ける
「すみません、例のおっさんのヤサに行ってみたんで、その報告ですが、後にしましょうか?」
『おお、1時間経ったくらいで、事務所に顔出せや』はい、と返事をして通話を切る
S会の事務所に行くことになったので、その保険も兼ねて通話履歴からKの電話をタップする
「もしもし、Kさんですか、さっきはどうも。2件お知らせしたいことがあります。1つは、前にKさんも会われたTテレのDさんが、今回の件で明日の夜、N駅西口の居酒屋「酒忠」で三人で会いたいということで、2番目は、これからS会事務所に行って例の件を探りに行くってことです」

Sからの電話連絡を聴いた後、K刑事はこの件がどこまで進展して行くのか、自分がどこまで関わって行くことになるのか、不安が胸の奥でざわつくのを感じ、妊娠3ヶ月を嬉しそうに伝えてくれた妻のY江のことを思い浮かべた。が、首を振るときっぱりした目で、3階の窓の外に見えるお城を見やる

Sは、K駅からJRに乗りN駅に戻ると、歩いてS会の事務所が入っているマンションに向かう
例によって、3階まで階段で上り308号室のドアを3−2−2とノックする
鉄製のドアが、いつも自分の顔を睨みつける若い衆によって内側から開かれる
部屋の中央にある革張り応接セットに、若頭のTがふんぞり返って座っているところを見ると、組長のW木は不在らしい
「どうも、お待たせしました。K市から戻って来ました」ぺこりと頭を下げてTの顔を見ると、目でそこに座れと合図している
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2017年06月20日

熟年超人の日 stage2 46

スマホのコールを10回数えて、また赤ボタンをタップする
やはり出ない。なにか打ち合わせ中なのか。まあいいやと、Sはおにぎりを3つとお茶を選んで、レジに向かった
(ちょうどその頃、K刑事は私から聞いた話を一生懸命上司のM係長に報告している最中だったのだ)

昨日、Aと別れた後Kは、県警本部に戻るとAから聞いた話を、遅くまでかかってS会がらみのレポートにまとめ、朝からM係長の仕事の合間を見つけて、報告しようとしていた
結局、午前中は会議やら何やらで話しかけるチャンスがなかったのだが、昼食から帰ったところを掴まえ、会議室に
「係長、先週K署で事情聴取したAの報告書です。どうか、ご覧ください」そう言って、Mの目の前に5ページほどの報告書を差し出す
「なんだこれは。あの男の件はストップがかかったと、言っておいたじゃないか」
「はい、ですが係長、あいつはウチもマークしておいた方が良いと思います。公安はどうやら、あいつがグリーンマンとかいうスーパーマンとの連絡役だということで、張っているみたいですが、どうも、こっちではS会とP連合の抗争にもからんでるみたいで、あの夜露でのゴタゴタも真相は掴めてませんし…」

「なにぃ、S会とP連合があいつにからんでるって、本当かそれは」さすが四課の係長、(や)には即反応
「そうです。あいつが、そのグリーンマンの連絡役だっていうからには、もう一人のなんとかレンジャーみたいな奴とも関わってる可能性が高いと思うんっす」
「なんだ、そのグリーンなんとかいうのは」
「グリーンマンですよ。どうも先日、F原発収束作業現場で、すごいことやらかしたみたいで、上のお偉いさんも、放っとけなくなったみたいですよ」
「そうなのか。いや待て、お前はなんでそこまで知ってるんだ」Mのいぶかしげな眼

「いやぁ、ちょっとタレコミルートが見つかりましてね。まあ、それよりS会ですが、あいつらがAをさらったりしたら、ハム(公安)の連中はこっちに文句言ってくるんじゃないでしょうか」
「そう、だな。言ってくるかも知れんなぁ。分かった、お前、ワキで張ってやれ。ハムと揉めるなよ」
「はっ、分かりました」これでやり易くなるぞ、とKは内心笑みを浮かべて、自席に戻った
席に落ち着いて、机上の書類に目をやりながら、なんの気なしにスマホを取り出す
電話の着信サインが4つ。フリックして中を見ると、探偵屋から2回不在着信している。時間をずらして着席した上司のMが、書類に触っているのを確認した上で、ちょっとトイレ、と呟いて席を立つ
トイレに誰もいないのをチェックして、ほかの2件は後回にして、発信ボタンをタップする。5回コール音がして回線が繋がる

『Sです。Kさんですか。この間はどうも。お掛けしたのは、Aのことなんですが…』
「どうした。なにかあったか?」
『いやいや、Kさんがですね、Aに連絡取られたって聞いたんでね。そう、あのおばさんから聞きました』
…なんだ、そんなことかと思ったが、まだ先がありそうなので、うんうんと相槌だけ打つ
『Aから何を聞いたんです。良かったら教えてくださいよ』束の間、探偵屋に話すか逡巡したが、別の考えが浮かんだので、教えることにする
「あのAは、結構大物だったぞ。公安が追っているのは、F原発に出たグリーンマンって言うスーパーマンもどきと、奴がつるんでるのを確認するためらしい」

『スーパーマン…そうか、あいつだ。ほら、前、ラーメン屋で三人で話したじゃないですか。俺がスーパーマンみたいなの撮ったって』そうだった、聞いていたなとKも思い出す
「その時は、Aを追っていたんだよな。そうか、やっぱり繋がりがあったんだな。実は、昨日Aに会って話を訊いたら、その、グリーンマンって言ってたが、なんでもそいつは宇宙人で、なにかトラブってたときにあいつが助けてやったらしいんだ。それで、恩返しにあいつの、Aの頼みを聞いてくれるようになったらしい」
『そりゃ、すごいですね。それで、あいつはそのグリーンマンとやらに、F原発のなにかめんどうなことを片付けてくれるように、頼んだって訳ですか』
「そうなんだ。俺としちゃあ、あっちの役に立ってくれそうな話になるなら、あいつを手助けしてやってもいいかな、って思ってるんだ」

『なるほど。それで、そのグリーンマンとか言う奴は、放射能とか平気なんですかねぇ』
「平気なんだろう。スーパーマンなんだから」
『そうか、だとすると生身のAとか、Aの家族とかを人質にしちまえば、すごい力を手に入れられるって…、いや、私がじゃなくって、悪い奴らは考えるんでしょうね』
なるほど、そうか。この探偵屋でも思いつくんだから、もういろんな奴らが動き始めてるんだろうな。そうか、公安の連中は見張りだけじゃなく、Aをガードしてるのかも知れんな
『もしもし、Kさん、聞いてます?』K刑事の想いは、Sの声で中断させられた
「お、おう。聞いてるよ。あんたの言う通りだろう。公安の連中もそういう意味で張り込んでるのかも知れんなぁ。ところで、あんた、いろんな連中から調査を頼まれてるって言ってたな。S会も客か?」
『……。ええ、まあ、そうです』歯切れが悪くなった

「そうか、お前がAを尾行したのもS会に頼まれて、だな」方便で上司のM係長に臭わせていたS会が繋がりそうだ、とKの声音に活気が乗る
『まあ、そうなんですけど、スーパーマンのことは伏せてあるんですよ』
「ふ〜ん。言ってないのか、グリーンマンが出たってのは」Kは頭をフル回転させて、ここまでに分かったことを連結し、答えを導き出そうとする
「なあ、あんた、S会に近々行くことあるのか?」
『ええ、行きますよ。今日もそれでAのヤサを見に行ったんですよ。公安さんらしいのが張り込んでるのをチェックして来いって。だから、その報告に行くことできますよ』Kの言外の意味を察したのか、Sが協力的なニュアンスを込めて返答をする
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2017年06月15日

熟年超人の日 stage2 45

「そうなのよ。知り合いの警察の人から、わたしんとこに電話があって、上のAさんに伝言頼れたのよ」
「伝言、ですか」…知り合いのって、あの刑事か
「そう。なんでも、コンビニのトイレで会うって言ってたわ。なんか臭うでしょ。ふっふっふ…」この女、自分でうけている
「それは、今日?」
「いいえー。昨日よ。昨日の今頃だったかしらねぇ」
「じゃあ、今日は部屋に居るんですかねえ」
「いないんじゃない。朝、出てったみたいよ」
Aは外出中か。なら、あの刑事に連絡を取ってみるかとスマホを取り出してみて、F枝の好奇心丸出しの視線に気付いて慌てて内ポケットに戻す
「あの警察の人に電話するの?」いやいや、ちょっと着信バイブが動いた気がしたんで、と言い訳をしながら、それじゃあ、と言って女の視線から逃れるように立ち去るS

「M田警部補、今マルヒのアパートに入った男に職質かけましょうか?」
「そうだな、2階には上がってないが、なにか臭うな。M宮警部たちはマルヒに張り付きだから、念のためお前が行って職質して来い」
つばさマンションの、斜め向かいの住宅2階に張り込んでいる二人の刑事のうち、若い方のS村が部屋を出て職質に向かう

アパートから、さっき見かけたコンビニに向う途中、Sはスマホを取り出して以前交換したK刑事の携帯番号をコールし、8回コール音を聞いてから、赤ボタンをタップする
あの刑事は忙しいんだろうと、ここはあきらめてジャケットの内ポケットにスマホを戻す
「どちらにお電話されたんですか?」突然、男が話しかけてきた
ぎょっとして振り向くと、年は自分よりちょっと若そうな男が立っている
「な、なに。なにか用、あるの?」答えながら男を観察して、目つきから警察官だな、と踏む
「あなた、さっきあのアパートから出て来ましたよね。私、こういう者です」お馴染みの警察手帳だ

「いやぁ、警察の方ですか。私、怪しい者じゃありませんよ。探偵屋リサーチプロのSって言います」
「探偵屋さんか。それで、なんであのアパートに行ったの?」
「ああ、それですか。浮気調査ですよ、某老舗和菓子屋さんのご主人の浮気の相手が、あそこのアパートに住んでるらしいって言うんで」声を落として話す
「そう、浮気調査。で、どの部屋に行ったんです」相手は、にこりともしないで突っ込んでくる
「まあ、周辺調査の段階なんで。一応守秘義務もありますんで…。なにか、皆さん方が気にされるようなことが、あるんですか、あそこに?」逆に質問で切り返す

「いやまあ、ちょっと張ってるんで。あそこに、あんまり立ち寄って欲しくないんだ」同じ穴のムジナと踏んだのか、割に正直に打ち明ける
「そうですか。それは失礼しました。どうやら、私の方は見当違いだったみたいで、今奥さんにそんな報告しようとしてたんですが、あいにくお話し中で…」それじゃあ、失礼しますと言ってさっさとコンビニに向かう
S村刑事は、そんなSの後姿を見送って、この件には関わり無さそうだと判断し、張込み先に戻ることにした

コンビニに着いたSは、まずトイレに向かう。チェックもそうだが、尿意も催していたからだ
用を済ませて手を洗いながら、あの刑事はなぜAに直接会おうとしたんだろうと考える
その理由のひとつは、県警刑事のKが、あの張り込んでいる警察を敬遠したか、自分のように追い払われたからだろう
それにしても、あの刑事はマル暴の四課の所属だと言っていたから、今張り込んでいる警察は、それ以外の…やはり公安の人間なんだろう
となると、あのAというおっさんは、自分たちが思っているより、ずっと大物なのかも知れない
どちらにせよ、まずKに聞いてみたいと真剣に思った
*
*

[ バージニア州マクレーン 中央情報局・情報局東アジア分析部 ]
見ろよ、日本でこんな動画があがっているぞ
ほう、スーパーマンか。こりゃすごいな、なにかでかい鉄箱を持って飛んでるぞ
待てよ、これって東日本のあの原発じゃないか
いたずらの可能性が大きいが、一応分析局に知らせておこう
分かりました

*
*

世界は刻々と未知の未来に向かって進んでいる
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2017年06月12日

熟年超人の日 stage2 44

[ 18日(月)10時55分am ]
Sは、今日もN美のワンルームマンションに居た
信用金庫に勤めているN美は、とっくに出勤していて今、ふたつの布団を占領しているのは、S一人だ
眠気もすっかり取れ、回転を始めた脳内にちらついているのは、あの男とS会の若頭Tの渋面だ
パジャマのまま布団から出て、まずトイレに行って用を足した後、小さなダイニングテーブルに用意されている食パンをトースターに2枚入れ、灰皿を探す
そもそもN美はタバコを嫌っているから、灰皿などあるはずはない。昨夜飲んだ缶ビールの空いたのを探す

カシャンと音を立ててトーストが飛び出す
冷蔵庫の前に裸足で移動して、中からマーガリンを取り出す
分別箱の中から昨夜の空き缶をつまみ出し、それらをテーブルに運ぶ
それからマーガリンをトーストに丁寧に塗り、そのトーストを口にくわえると、再び冷蔵庫に行きミルクテイーの2Lボトルと自分用のマグカップと一緒に運び、やっと腰を落ち着けて朝食を摂り始める
そのタイミングで卓上のスマホが着信音を奏で始める

嫌な予感を抑えてスマホを取り上げると、T部長と登録した発信者名が流れている
軽く舌打ちして、慌てて口中のトーストをミルクテイーで流し込んで、スマホを取り上げる
「おーっ、おったか。俺や」聞けばすぐに分かる若頭Tの甲高い声(機嫌の良いときばかりでないのが困る)
「あっ、はい、どーもです。先日は失礼しました」Tのご機嫌がどっちでも良いように、快活に応える
「あのなぁ、あのおっさんのヤサ、もう行ったかぁ?」
「は、はい、今日これから様子、見に行って来ようと思ってるんですが…」

「おーそうか、それならいい、まだ終わっとらんからなぁ、この件は。そうかそうか、お前も分っとるんならいい。だけどなぁ、気いつけんといかんぞ。変な奴らが張りこんどるからなぁ」
「変な奴ら、ってサツですか?」それは、知ってると思いながら、少し用心して応える
「サツでも、いつもの連中じゃないんや。知らん連中や。ありゃあ、公安かな。とにかくあのおっさんは、なにかあるんやろう。お前はメンが割れとらんのやろ。奴のウラがなんだか、うまく探って来いや」
そうなのか。で、なにをどう探ればいいんだと思ったが、それは隠して分かりました、と言うと通話は切れた
そうだな、まずあのアパートに行ってみよう。気持ちが固まると、残っていたトーストを平らげ、タバコを一服して、昨日の服に着替える

JR東海道線でK駅に降り立った時には、腕の時計は1時を回っていた
ぶらぶら歩きをしている風を装いつつ、Aの住んでいるアパートに向かう
別に誰かが張り込んでいるような気配はない。アパート前の道路は空っぽ。張込みの車両など影も形もない
それでも、どこからか望遠カメラがこちらを向いているかも知れないと思い(自分ならそうする)
目指すアパートには視線を向けず、ポケットからメモを取り出し、いかにも住所を確認しながら家を探している態で、近所の似たようなワンルームマンションに立ち寄ったりしてみる

そのとき、以前飲み屋で会ったおばさんが、Aと同じアパートに住んでいると言っていたことを思い出した
あまり演技っぽくならない程度に、ここは探す訪ね先でなかったという感じで、ワンルームマンションを出て、今度はAの住むアパートに向かう
確か、おばさんはAの下の部屋に住んでいると言っていた
ならば、この部屋だろうと見当を付けて、1階の103号室のドアチャイムを鳴らす
二度目にチャイムを押した直後に、目の前のドアがガシャツと開く
いぶかしげにこちらを眺める化粧っ気のない女の顔は、あの夜に見た女とは違って見えたが、先に思い出したのは女の方だった

「あー、あのときの。えーっと、探偵さんだったわね」顔がほころぶ
103号室の女、F枝は30代半ばで夫を仕事先の事故で亡くしてから、ずっと独身を貫いていた
それは貞淑な妻というより、夫の勤めていた建築会社が準大手だったため、労災保険の遺族年金が出ていたので、気楽なその生活から抜け出せなかったことが因していた
幸か不幸か子供もおらず、決まった額の年金収入と、たまに近所のスーパーを手伝ったりして得る小遣い程度の金で、まずまずの生計が立てられたのだが、50才を目前にした10年程前から、しばしばお酒の酔いに救いを求めるようになっていた

それでも知り合いのいそうなK市は避け、わざわざN市に足を延ばしての飲み屋通い。そこでテレビリポーターと探偵稼業の二人の男に出会ったのは、数少ない心沸き立つ冒険だったのだ
「いやぁ、ご無沙汰です。今日お訪ねしたのは、先日あの店で伺った上のAさんのことなんで…」
「あら、貴方もなの。Aさんって男の人にもてるのねぇ」
「へぇー、僕のほかにも、訪ねて来た人いるんですか」
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2017年06月07日

熟年超人の日 stage2 43

「えーと、どっちからお答えすればいいんでしょうか」
「どっちでもいいから、答えてくださいよっ」刑事2号が、語気を強くして言う
「では、T電さんの方からで良いですか」と言いながら、刑事1号の様子を窺いつつ答えを続ける
「実は私、グリーンマンという超人さんとの仲介人をやってまして…」
「はぁ?なんだそれ。グリーンマンって、テレビのなんとかマンのことかぁ」刑事2号が反応する
「いやぁ、超人、スーパーマンなんですよ、グリーンマンさんは」つい苦笑してしまう私

「なに言ってるんだ、あんた。我々を馬鹿にしてるのか」と、刑事2号。1号は鋭い目つきでこちらを見ており、一番若そうな刑事3号は興味深そうな表情になっている
「まあその辺りのことは、あなたたちの上司の方はご存知かと思いますよ」ちょっと逆撫でしちゃったかな
「それで、Aさんはそのスーパーマンさんとお知り合い、だってことですか」と、刑事1号
やはり、知ってるんだこの一番偉そうに見える刑事は
「えーっ、M宮警部はご存じだったんですか」思わず口走った刑事2号を、1号(M宮警部)が目で窘める

「先日、F原発にグリーンマンさんが出向かれたそうです。私の仲介で。その結果が良かったらしくて、T電のH本部長さんが、今後の段取りを打ち合わせたい、というようなことで、今朝N駅のホテルグランデでお会いすることになったんです」
「しかし、それがなぜT電とあんたの取引になるんだ」…刑事2号はどうしても、私ごときが天下のT電と直の取引をする、そのこと自体が気に入らないらしい
「まあ、いずれお聞き及びになられると思いますので、簡単に説明させて頂きますが、以前、宇宙人のグリーンマンさんが、事故に遭って困っている処を、偶然私がお助けした、ということで、手が空いているときなら、私がお願いすることを叶えてくださるんです」
「それが、F原発の廃炉処理ってことですか」そこまで知っているなら話は早そうだ

「ただ、私も定年退職して現在無職なので、仲介料を少し頂ければ、という話をさせて頂いているんです」
「あんた、あの事故で儲けようとしてるってことか」どうも刑事2号はつっかかってくるなぁ
「いいじゃないですか、いろいろ手のかかることもあるんですよ」
「まあ、そんなことはいい、T垣。ところで、もうひとつの質問の答えは、まだですが」と1号氏
「それは、あれですよ。以前、面識のあった警察の方が、その後どうだ、ということで会って話がしたい、と連絡があったので…」これ言っちゃうと、あの刑事は叱られたりするのかな、と思ったが、正直に話す

「所轄の刑事か」2号氏は常に強面派のようだ
「まあ、それはこちらの問題だから。で、話の内容も教えてくれませんか」
「そうですね。なにか、自分たちが捜査から外されたこと。それと、貴方達は公安だろうということ。後は、なぜ公安の皆さんが私を見張ってるのか、っていう話で、私が思いつくのはさっきの話ですから、あのまんま話しました」
「所轄が出しゃばったまねを」
「まあその辺りは、後ということにして。それより、AさんはGとどうやって連絡を取っているんですか」…それまで黙っていた刑事3号が、急に口を開いた

一番年若に見えていた3号が、ずばり核心をつく質問をしてきたことに、驚いた私が一瞬答えに詰まったような具合になったので、刑事2号が勢いを盛り返して質問を重ねて来る
「そうだ、あんたがグリーンマンとやらに連絡する方法を、今すぐ答えろ」
「それが私にもあまり良く分かってないんですが、どうも頭の中に直接声が聴こえたり、私が心底困って神様にお願いするみたいに強く考えると、グリーンマンさんが返事してくれるんですよ。頭の中に」
「テレパシーみたいなものだとおっしゃるんですね」…3号さんは年は若いようだが、どうやら階級は上のようだ。それに頭も切れそうで、これがキャリアって奴か

「そうなんです。今回もT電さんに声をかける前に『お前のやって欲しいことを述べてみよ』とか頭の中に声がしたので、東日本大震災で被害を受けた原発の後処理がうまくいってないようなので、そこを助けて下さい、みたいなお願いしたんです」
「それで、早速Gが動いてくれた、と言うんですか」1号と2号は黙って、3号と私の会話を聞いている
「今回、T電と取引をすることについては、G、グリーンマンには話されているのですか」
「ええ『この星のシステムの中では、お前の言うことはもっともである』と認めて頂きまして…」
「それで、T電とGを動かす契約を結ぶことになったのだな。分かりました、そう報告しておきます」
やれやれ、どうにか納得してくれたようだ。これで、これからはやり易くなるかな
posted by ミスターK at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2017年06月03日

熟年超人の日 stage2 42

封筒を受け取ったときの感触では、かなりの厚みと重さだ
透視しようかと思ったが、そのときの自分の顔が相手にどう見えるか不安だったので、普通に中を改める
「失礼。中を拝見します」…そう、金銭のやり取りはビジネスライクが一番だものね
どすっと出て来た札束は、帯封がしてあるから百万円なんだろう
「百万、あるんですね」
「そうです。これで株式会社設立と資本金を賄って、できるだけ早く口座をお開き下さい」

この金を受け取ってしまうと、T電に借りができるような気もするが、まあ今後の円滑な取引のために、ここは素直に受け取っておこう。なにしろ、何度も転職したお蔭で、前職のSAプランニングの雀の涙の退職金じゃあ、会社設立は夢に終わりそうだったから
照れ笑いをしながらお辞儀をすると、H本部長は大きくうなづいて、領収書を取り出し受け取りサインを求め、私はそこにサインする
それをH本部長に渡す際、ついお礼を言いながらまたもお辞儀をしてしまう私
ちょっと軽過ぎかな、と反省が心をよぎるが、私はあくまで連絡役の小者になっていた方が、この先Gが妙な責任をしょい込まずに済みそうだからと、自らを慰める

「これで会社を作って銀行口座を開けば、次はいよいよ“太陽投げ込み作戦”発動、ですね」とH本部長に語りかけると、なにやら浮かない表情が浮かぶ
「実は、しばらくこちらの準備が整うまで、ミスターグリーン様には当面、待機して頂きたいのです」
「そうですか、分かりましたが、どれくらいお待ちすればよろしいのでしょう?」
「いやぁ、それが申し訳ないのですが、社内の調整だけではなく、関係筋が多いものですから、ちょっと現時点では何時とも申し上げられないのです」その口調に嘘はなく聴こえたので、そうですか、と呟くしかない

「それにしても、ミスターGの方にもいろいろ任務があるようなので、いつまでもお待ちしている訳には…」と、ちょっと揺さ振りを入れる
「い、いや、貴方もお困りとは思いますが、こちらも社長の強いお気持ちはあるのですが、なにぶん社内の意見をまとめておる最中で。できるだけ早く調整しますので、その間なんとかミスターGにお待ち頂けるよう、ご説得ください。お願いします」
「インターネットで調べさせてもらいましたが、随分いろいろな利権もからんでらっしゃるとか…そういった関係があるから、なんでしょうか」
「まあ、それだけでもないんですが、安全面の保証だけでも、各方面を説得するのが大変でして…」

こんな感じの大人の会話をしていると、なにやら胸の奥がむずむずしてくるというか、なにか若い頃のように、馬鹿馬鹿しい!と怒鳴りたい衝動と、それにうろたえているもう一人の私がいる
「まあ、出来る限り彼を引き留めてはみますが、なるべくお早目にお願いします」
「わかりました。それでは、私は本社に戻りますが、くれぐれもよろしくお願いします」
そういうとH本部長は、カップのコーヒーにちょっと口をつけただけで立ち上がり、会釈して喫茶ルームを出て行く
私はというと、大分ぬるくなったコーヒーを口に運びつつ、これから先の会社立ち上げの手順を想い、少し離れた席にいるビジネスマン風の男には気が付いていなかった

N市から戻り、K駅のホームに降り立つと、ビジネススーツの男三人に取り囲まれた
「Aさんですね。警察の者ですが、ちょっとK署までご足労頂けませんか?」一番年長に見える男が例の手帳を見せながら、決まり文句を言う
「はあ?なんでしょう。私がなにかしたと…」こちらもお定まりの応対になる
「あまりお時間は取らせませんので、ご同行頂けませんか」もう一人の男も決まり文句
「任意同行、ってやつですか、これ」かなり高圧的な態度にちょっと反発心が起こる
「ホテルで会って男と、なにを話してたのか訊きたいだけだよ」一番若そうな男が強く言う

今までなら当然びびってるところだが、今の私はつい余裕で応対したくなってくる。ちょっとおちょくってやりたくなるのだが、例によってそれを窘める私が居る
「じゃあ、行けましょう。ご期待にそえるお話しができるかどうか分かりませんが」と私
「いやぁ、そう言って頂けると有難いですわ」一番年長に見える男が、他の二人に合図をすると、私を前後に挟むような形で改札への階段に向かう

駅から警察署までは歩いても行ける距離ではあるが、さすがに目立たない車が用意されていた
逮捕されている訳でもないので、警察署の玄関に着いて、取調室に行くまではそんなに緊迫した様子ではなかったが、部屋に入ると彼らの態度は目に見えて高圧的なものになった
「そこに座って」三十代後半に見える刑事(2号と名付けよう)が、机の向こう側の椅子を手で示す
「で、お話しというのは?」さほど緊張せず椅子に腰を下ろしざまそう言うと、一番若い刑事(こいつは3号だ)が私を睨む
「Aさん、あんた今日会ってた人、どこの誰なの」と刑事2号
「ああ、T電の本部長のHさんですよ」別に隠す必要もない返事なので、すらっと答える

「それで、なにを話していたんですか」一番年長の刑事1号が口を出す
「なにって、ちょっとお取引の話ですよ」
「取引…?あんな大企業と、あんたが?」と刑事2号
「そうですか。じゃあ、昨日は尾行をまいて、誰と逢ってたの」1号が、ずばっと切り込んで来る
とにかく、私一人に三人だから、あちらの質問に答えるとすぐ、別の人間が質問を浴びせて来るから忙しい
これが、いわゆる尋問テクニックなのだろう。それくらいの知識はテレビドラマで学べてる
矢継ぎ早の質問に次々答えていると、答えを考え出す余裕が無くなる、ということなのだ

posted by ミスターK at 14:11| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説