2017年07月21日

熟年超人の日 stage2 53

一応、ほかの部屋の住人が飛び出してこないよう、足音を忍ばせて非常階段で3階まで下りるつもりだ
当然周囲偵察もやりつつ、6階5階4階の共有通路につながる扉を通り過ぎる際に透視して、ここの住人と出くわさないよう細心の注意を払って進む
やっと3階に至り、非常階段の鉄扉の鍵を高熱指で溶かした後、できるだけ静かに開け、共有通路に入り込むことができたが、10のドアが並んでいる
K刑事から教えてもらったS会の事務所308号室は、非常階段扉に近かったのですっとドアの前に立ち、室内を周囲偵察で探ってみる

部屋に今いるのは五人のようだ。今度はドアを透視してみると、ドアのところに一人、折りたたみ椅子に腰かけている男が一人。その先の部屋の奥は少しぼんやりしているが、リビングだったと思われる大き目の部屋の真ん中に、大きなデスクを背に、応接セットの一人掛けの椅子にふんぞり返っているのが、多分Tという男だろう
傍らに背の高い人物が一人立ち、応接セットの向かい側の椅子に一人座っている。これは、ふんぞり返っている男と話をしているようだ。もう一人、周囲偵察で反応のあった人物は別の部屋に居るのか、透視眼では見えていない
さて、どうして部屋に入ってやろうか。すんなり開けてくれるなら、それが良いのだが…

ドアのそばに居るヤスコーと呼ばれているチンピラは、まだ19になったばかりだった。隣県のG県の田舎の高校を1年生になったばかりの5月に退学して、親のところに居ても文句ばかり言われるのが嫌で、家のお金をくすねてN市にやってきて、ゲーセンで遊んでいるところをS会の下っ端のケンコーに声を掛けられ、ずるずるS会に居付いてしまった少年だった
始めのころは、ケンコーの弟分のような見習い三下だったが、祭りのときなど屋台を任せられると案外客が寄るので、若頭のTの口添えで今年に入って、ちゃんとした組員になったところだ
勉強は嫌いだったが、お調子者の性格がここではシノギに向いているようで、自身もS会で段々偉くなっていければいいな、と思っていたのだが、最近街中でP連合の鉄砲玉に出くわすことがあって、少し先行きを心配するようにもなっている

組長のW木が、上部組織T組本部の懇親会にナンバー3のN山と泊りがけで出かけているので、若頭のTは、事務所の防備をいつもよりしっかりしろ、と皆に言い聞かせ、一番下っ端のヤスコー(と言っても本名にはヤスなんて文字は入っていないのだが)と、先輩のケンコー(こっちは名前)に交代で、入口扉のそばで張り番をするように命じていたのだ

突然、扉がコンコンとノックされた
少し慌てて、立ち上がると扉の上に据え付けられているカメラのモニター画像をチェックしようとしたが、画面は暗くなっている。今度はドアスコープに目を近づけるが、視界は緑色になっていて、なにも見えない
「Tさん、誰か来てるようなんですが、穴をふさがれてるみたいで、見えてないです!」少々上擦った声でそう告げる
「モニターはどうだ。見えない、だと。おいっ」向かい側に座っていたE田に、目で合図する
E田はそっと立ち上がると、Tの横に立っていたケンコーと一緒に、隣りの部屋に静かに移動して、中で寝ているS原を起こすと、ロッカーに隠してある武器を手にする
ヤスコーは、立てかけてある金属バットを手にして構え、「おい、誰だ」と一応、誰何してみる

扉の上に着いていたドアカメラは、ちょっと飛び上がってむしり取り、続いてドアにぴったり身を寄せ、中の人間が外に飛び出して来るのを待ったが、用心しているようでなかなか出て来ない
めんどうなので、ドアを力任せに引き開けようかとも思ったが、鉄製扉の破壊音が相当なものだったことを思い出し、北風より太陽かな、と思い直した
そのとき、先ほどからドアスコープに顔を近づけていた男が、金属バットを手にしたのが見えたので、これは出て来るな、とほくそ笑む私(なんだか性格が悪くなったようだ)
その気配を察したか、奥の方から「ヤス、開けるな!」と声がかかってドアそばの男の動きが止まる
これでは埒が明かない、と見て私は通路の奥に素早く移動して、スーツをミラー仕様に変える

しばらく静止していると、ドアに動きがある。正対していないので透視ができていないが、どうやらドアスコープを覗いて、通路に誰もいないと判断したようだ。ゆっくりドアが内側から開き始めた。その瞬間、猛スピードでドア前に移動するや否や、ドアを一気に引き開けた
幸いドアは引きちぎらずに済んだが、内側でドアノブを掴んでいた若い男が通路にすっ転んで、驚いた表情で固まってこちらを凝視している
posted by ミスターK at 18:58| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説