2017年07月31日

熟年超人の日 stage2 54

「どうした!ヤス、殴り込みか!」奥の部屋から怒鳴り声が響く
ドアと一緒に放り出してしまった男は、戦意消失と見えたので放っておいて、皆のいる部屋に向かって進む
リビングと思しき広めの部屋には、ガラス戸があったので、それをがらりと引き開けると、いきなり金属バットが振り下ろされてきた。が、その辺りは超人グリーンマン様にはお見通しで、避けるのは簡単だったが、それじゃあ面白くないと、右肩で受け止めてみる
ごっ、と鈍い音がしたが、全然衝撃は無い

ヤスコーは共有通路にへたり込んで、束の間ぼやっとしたまま事務所の中で起きていることを眺めていたが、気を取り直して立ち上がると、さっき吹っ飛んだ金属バットを探しに、よろけながら通路を進む
通路の奥に転がっていたバットを手にすると、事務所に戻ろうとしたが、なにやら物が壊れる大きな音と、Tらしき怒声に押されて、再びその場に立ち尽くす
突然、ドアが開いたままの戸口から先輩のケンコーが吹っ飛び出して、向かい側の壁にまで転がり当る
「兄貴、大丈夫っすか!」駆け寄ってみると胸の辺りに血が滲んでいる。どうやら肋骨をやられているようだ
ケンコーは目をつぶって、あおむけに倒れていたが、やがて起き上がろうともがき出したが、突然口から血を吹き出して激しくむせた
そんなケンコーの様に、ヤスコーは動揺したのか、目をそらすように事務所内に視線をやる

肩口に一発もらった後、さっと振り返るとなんの効果もなかった打撃に驚いた顔が目の前にある
ここへ突入するにあたり、私は超人としての闘い方にひとつだけ原則を設定していた
それは、殴ったり蹴ったりは控え、ただ突き飛ばすだけにする、というものだった
そうでもしないと、人体の損傷限度がよく分かっていない現状では、誤って相手を殺してしまいかねないから
ただ、突き飛ばした先に、鋭利な物があったり、衝突速度によっては、障壁などを突き破って、高いところから転落死することもあろうかと思われるので、よくよく戦闘場所を観察しておいて、決定的な一打にならぬよう、心がけようと自戒していた

超人パワーで、対人戦闘モードに入ったことは、かの砂漠の国の戦闘員との立ち回りと、ぼったくりバーでの一戦だけだったが、後者の場合は生身としての私は、合気道的な武術の達人だという想定の下だったし、コスチュームを変えてからは、軽快超速の怪人としての闘いだったから、実質は1回のみだ
あのときは、こちらも超人慣れしていず、ぎこちなかったし、相手は銃に頼った動き(まず標的を視認し、銃を構え狙う)だった
超速の私としては、基本的に相手を掴まえては放り投げ、武器を破壊するという、余り考えなくても良い戦いに終始でき、戦闘の場がなにもない砂漠状態だったので、ぶつかった先で人体が大きく損傷する心配も無く、結果、死人が出なかったと思っている

そうしてみると、今回のように建物内に突入しての戦闘では、突き飛ばした先に危ないものがないかのチェックが必要になりそうだ
金属バットを持った男を突き飛ばす瞬間に、これらのことを頭の中で反芻し、開いたままの戸口に向けて、男を突き飛ばした
だが、勢いがあるというのは恐ろしいもので、胸の辺りをどんと突き飛ばした際、めきっと骨が鳴る音が聴こえたが、もう仕方がない。戸口目がけて吹き飛んだ男は、まるで香港映画のワイアアクションよろしく、顔はこちらを向いたまま、後ろ向きにぴゅーっと飛んで、通路に投げ出されていった
飛んで行った男のことを気に掛ける間もなく、次の凶器が身に迫って来る
こういった戦闘の場合、相手の動きはスローになっているので、その凶器がサバイバルナイフだということがわかる。真正面から受ける危険は避けて、体を捻って刃先を反らしながら左肩辺りを突き飛ばしてやる

ナイフの扱いを長いこと練習しているE田は、自信を持って繰り出したナイフの切っ先が、相手の体に届く寸前に目標が消え、宙に泳ぐ。と同時に、肩に強い衝撃があり、体が回転しながら吹き飛んで、応接セットに突っ込む
Tは、落ち着いたところを見せようと、応接椅子にどっかりと腰を落としたままだったが、ガラス戸が開き、ナイフでつっかけたE田が突き飛ばされて、自分の前のガラス張りのテーブルをぶち壊して足元に転がり込んで来るタイミングで、さっと立ち上がると目の前の緑色の巨人と相対する

「おい、お前は誰だ。P連合の鉄砲玉か、それとも、一体どこのどいつだっ!」
こんな奴が(や)の事務所に殴り込んで来るなんて、考えられない。有り得ない、とTは心の中で叫んでいた
「私はグリーンマン。Aに害を及ぼす者は許さない」低い声で巨人が喋る
「なんだとー!なんだぁ、お前、あのおっさんを、知ってるってかー」Gと、やりとりをしているTの視界の隅に、S原が、ぽん刀を振りかぶったのが映る。巨人を見据えたまま、ほんの少し右手を動かして、やれっと命じる
その銀色の一閃は、あっけなく巨人のマントにからめ捕られ、左斜め後方に突っ立ていたS原は、一瞬で跳ね飛ばされて、さっきまで休んでいた部屋の合板のドアに半身をめり込ませる

「一体、一体、お前は、なんだ!」かろうじてTが言葉を絞り出すと、緑色の巨人は落ち着いた声で
「Aの家族のことを調べようとしたことは、分かっている。お前たちの所属している階級の性向を鑑みれば、家族について情報を得ようとする目的は明白。私は、AとAの懸念する係累に害を及ぼす可能性を、初期段階で排除する」
「はぁ?なに言ってやがんだ。俺たちが、一体なにをしたって言うんだ」
「初期段階で排除する。今、告げた通りだ」巨人は重々しく宣言すると、頭部を左右に回して室内を観察している
「くっそー!」言うなり、上着の内ポケットから愛用のベレッタ92を取り出す。この業界は、ベレッタよりはやや軽い(というより安い)トカレフTT33を持つ者が多いが、安全装置が無いことの危険性を考慮して、Tは頑張ってベレッタを手に入れていた

私の透視眼に、壁に埋め込まれた隠し金庫が顕わになる
ちょっとそちらに神経が取られた瞬間、目の前の(や)幹部が体を捻って上着の内ポケットから、黒い物を取り出し、こちらに銃を向ける
「おいこら、好きにやってくれたのお。これが見えるか。ああ、ピストルが」勝ち誇ってTが拳銃を構えると同時に、一連の動きで安全装置を解除し、銃口を動かす
その無駄な動きを見逃さず、超速で銃の筒先を手で掴む(こうすると銃は発射できない…んだっけ)
posted by ミスターK at 00:11| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説