2017年08月29日

熟年超人の日 stage3 01

朝の目覚めの前に、ジュブブからコンタクトがあった
『テラ3号、君の通信回線は開かれた。このイレギュラーコンタクトの主因は、君の昨夜の行動にある』
*これはどうも、お久しぶりですジュブブさん(なにやらクレームの香りがするときは、無駄であってもこうして挨拶などするのが長年企画業界にいた私のスキルなのだ)

『官の呼称については不正確ではあるが、この星の一般的習慣として許容している。ただ今回の問題は、この惑星の支配種族、すなわち君も属している人類の特性である、地域分布進化に根差す文化抗争が根源にあり、その結果、深く甚大な混乱を惹起する波及効果を内在している。それは今回君が起こした、暴力組織への外宇宙U型スーツ着用による、私的干渉行動から連鎖するであろうカタストロフィーを意味している』
*少し分かりにくいのですが、つまり昨夜S会に対して、私の家族へのいかなる行動も許さない、とスーパーマンスタイルで警告したことが、人類全体の大問題になるぞ、ということなのでしょうか

『君はこの惑星での超人活動の主体を、一般人を装った個人からの依頼という形に設定したが、そのことが君の超人活動任期中に多大かつ広範囲な不確定反応をもたらすことが、99.71%の確率で発生する』
*つまり、それは…私がグリーンマンの代理人であると、公表してしまったことにあるのでしょうか?」

『そうではない。君個人のオーダーで超人が行動したことが、今後の超人活動に大きな制約をもたらすと判断しているのだ。この惑星の人類にとっての超人とは、絶対公平無私な存在であるべきだという概念があることは君も承知のはずだ。故に、君たちの言葉で言う“スーパーマン”が、君の意向で行動するのではないかという疑念や羨望が、特に支配階級の人間にとって、君という存在が我慢ならないものになることは容易に推測できるだろう。そんな展開を君は選んだのだ』
(…そうだったのか、という後悔の念が激しく押し寄せたが、本来の私らしい反論が口を突いて出る)
*しかし、どこか地下要塞にでも潜伏して、ものすごく数多い戦争や抗争、犯罪から人々を守りに出撃できる超人になるなんて、私には不可能ですよ。それより、もっと人間らしい反応を信じて、ちょうど出会った犯罪や戦乱、大事故から、超人力でやれる範囲で救えそうな人をできるだけ助ければ良いと思うし、そこに人間である私がときどき介在するくらいが、ちょうどいいんじゃないんでしょうか?

(珍しくほんのちょっとの間が開いてから、ジュブブの思念が伝わってきた)
『その考え方は、新局面を開く可能性を内在していると、官は認知する。それ故、君の言う地下要塞的な基地を持つことが、君の超人活動が円滑になるであろうことを示唆して、今回のコンタクトを終了する』
(地下要塞?秘密基地?…面白そうだが、一体どうやって手に入れればいいんだ)そこで目が覚めた

目覚めてすぐに通常状態になれるのが超人だが、今回は頭の中に要塞やら基地やらの単語が点滅するので、ベッドから起き上がらず、しばし空想を広げることにする
一つの方法としては、どこか山中に勝手に超人力で穴でも掘って、ホームセンターで資材を買って住めるようにする手だが、あいにく私は生来の不器用で、DIYとやらは御免こうむりたい
餅は餅屋だから、ちゃんと建設業者に頼むか、空いている山の別荘でも購入すればいいのだろうが、資金なんてない。いや、ある!T電さんに出してもらおう!
急にエンジンがかかり、私はT電のH本部長の言っていた会社設立を急ぐことにした。これでお金のメドはついた。手付金1億円くらいでどうだろう。私の妄想は膨らむ。そうだ、妻にも相談しないといかんな
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2017年08月23日

熟年超人の日 stage2 60

同じ頃、公安のM宮とT垣は、S会事務所のあったマンション「TOWA」を後にして、県警本部に詰めているD田と合流すべく、夜のN市の幅広な道路を移動中だった
「しかし、あのGって奴はすごいな。あの事務所だって、それなりにガードを堅くしてあったし、若いもんが何人か獲物を持って待ち構えてたんだからな。それを、全部ぶち破って、壁ん中に埋め込んであった金庫を穿り出すわ、窓枠ごと外しておいて、そこからでかいデスクと金庫を持って、空を飛んでくんだぜ。ホントにスーパーマンなんだなぁ」と、助手席のM宮が運転しているT垣に喋る
「そうですねぇ、奴さん、しっかりスーパーマンなんですねぇ」前方に注意して運転しながら、相槌を打つ
「こりゃ、あれだぞ、あのAって男が頼めば、あのスーパーマンが動くとなれば、エライことだぞ」
「そうですね、なんでも出来ちゃうってことですよね」前方の信号が赤に変わったのを見て、速度を落としながらT垣が会話を弾ませる

「しかし、D田警視は今回の件、どこまでご存知だったんでしょうかねぇ?」
「あの人はそりゃ、キャリア連中だけの極秘情報をもらってるんだろうから。GがS会を叩き潰すってのは、先刻ご承知だったんだろうよ」唇の端を歪ませて、M宮は答えを吐き捨てるように返す
「そうですかねぇ。なんか、今回の…」と言いかけたところで信号が変わったので、慌てて車を発進させる
「まあ、どっちでもいいだろう。それにしても、救命隊員が言ってた(や)の若いもんが手も足も出なかったていう話は、ウチのお偉方にはショッキングだろうな」
「えー、なぜです、なにがショッキングなんです?」T垣は、本心分からないという声音で、M宮に訊く
「そりゃそうだろう。あいつらが武器持って、その気で立ち向かって捻られたんだ。なら、我々がGを取り押さえようとしたって、歯が立たんてことだろ」なるほど、と得心したT垣の前方に、県警本部の建物が現れた

D田と合流したM宮とT垣は、上司が苛立っているのが分かったので、余計なことは喋るまいと目と目で会話した
「では、連中の事務所は丁寧に壊されていた、というのが貴方たちの印象なのですね。それから、潰れていた弾丸、転がっていた日本刀と金属バット、救急隊員の聞いたという(や)の喚いていた言葉、それくらいですか」冷静に喋ってはいるが、答えを見つけ切れていない苛立ちのようなものが、棘のある質問になっている
M宮とT垣は、それに対して「はっ」とか、「はい」と極力短い返答をしている
「分かりました。貴方方はこれから(や)の運び込まれた警察病院に回って下さい。事情が事情ということで、まだ尋問させてもらえるでしょう。私は、ここの公安課の方と少し打ち合わせをしてから本庁に帰りますので、病院の報告は明日、ということでよろしく」それだけ言ってD田は、さっさと部屋を出て行く
残った2人は、仕方ないなぁという表情を見交わした後、再び車に向かう

玄関に出て来たM宮とT垣は、微かに酒の臭いがしたのに気付いて、すれ違いに署内に入って行くがっちりした男を振り返り、これからまだ仕事のある自分たちの身の不運を嘆くとともに、こんな時間にまだ仕事を命じる若い上司への恨みを込めた大きなため息を、この署内にいるノンキャリたちへの置き土産とした

ため息ならその前に、この男の方がもっと大きくついていた
S会組長のW木は、都内であったT組の幹部会に腹心のN山と出かけて、タクシー戻って来ると、組事務所のあるマンションの周辺に規制線が張られ、パトカーや立番の警察官が居ることに驚き、一旦停車しかけた運転手に、気が変わったからすぐ発進するよう命じた
停車動作から、慌てて再発進するタクシーに不審の念を抱いた警官が、赤色灯を振りながら停車を命じ、何よりも警察に従順なタクシー運転手としては、到底無視できない指示だった。それで、停まったタクシーに近づいたY平巡査は、懐中電灯の灯りをタクシーの客席に向け、そこにその筋の者らしい佇まいの2人の男を確認し、この件に関係する人物と判断して、警察無線で県警本部にその旨を報告した。
それを聞いていた後部座席のW木は、舌打ちし大きくため息をついた

四課第二係の刑事が2名、急ぎパトカーに乗り、マンション「TOWA」に向かう
一方、マンションの警備に着いていた警官は、同じくこの現場の警備をしていた同僚を呼び寄せ、県警本部からの迎えの車が到着するまで、タクシーをその場に留め置き、見るからに(や)らしき2人を、後部座席に確保していた
やがて、四課の刑事に伴われ、県警本部に到着したW木と若頭代行のN山は、顔見知りの県警組織犯罪対策局 捜査第四課・第二係係長のM野から、今ここで預かっている、遺失物の金庫とデスクが、S会のものでないか確認してもらいたいと伝えられ、2人はそれぞれ別室で表向きは任意の事情聴取を受けることになる

取調室の隣りの監視室のマジックミラー越しに、S会組長のW木の取り調べの模様を観察していた公安のD田警視は、この男はG襲来の原因については何も知らない、ただの被害者(というのも可笑しいが)なのだと判断し、あのときAが言っていた言葉の裏にある事実を導き出して、愕然とした
すなわち、GはAの個人的な要望でS会襲撃を実行したのだ。そして原発後処理に関する、Gの行動についてもAの依頼であれだけのことを、いとも簡単にやってしまったのだということの真の意味が、この国に、いや米中露の主導している世界運営に与えるであろう衝撃を予測し、しばし思考停止に陥ってしまった
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2017年08月18日

熟年超人の日 stage2 59

10時過ぎになって、大分客数の減った店内を見渡して、案内しようとする店スタッフを手で制しながら、一番奥まった上がり座敷の席に向かう(大分雨が強くなったのか、頭髪から雫が落ちるが、Kは気にもしていない風)
「よっ」と片手を挙げて先に来ている二人に挨拶すると、どっかりDの隣りの座布団に尻を下ろす
「ああ、Kさん、お疲れっす」店内側に顔が向いているSが、気が付いて挨拶する
「やあ、どうもでーす。お疲れでしたねー」横を向いてDも挨拶する
「いや参ったよ。ほんと、あのグリーンマンには。よりによって、こっちの駐車場にS会の金庫と、組長のデスクを置いてくんだもんなぁ」店スタッフが持って来たおしぼりで、顔と頭をごしごし拭いて、ぽんと放り出すと、メニュー表を取ってひとしきり眺めた後、生中と刺身盛り合わせ、ししゃも、焼き鳥を注文する

「で、一段落したんですか」少し改まって、Dが訊く
「どうもこうもないよ。(や)の持ちもんだからってんで、俺たち四課総出で金庫とデスクを署内に運び込んで、一応安全確認ってことにして、中身を調べたんだ。結構めぼしいものが入ってたから、それはそれで良かったんだが、大体、どこの誰だか分からん奴が、どこのなんだか分からん物を置いてった割には、すぐに持ち主も見当がついたみたいに、俺らにお鉢が回ってくるなんてなあ。おおよそ、ハムのキャリアさんが裏で指示してたみたいで、そいつがまた、俺の方をちらちら見る訳よ。まあ、Aのやつがハムさんに、近々グリーン野郎に頼んでS会を締める、みたいなこと言っといたって言ってたから、お互い腹の探り合いみたいになっちまってなあ。やなもんだぜ、キャリアさんに睨まれるってのは…」そこまで一気に喋ると、テーブルに置かれた生中を、ぐーっと半分まで飲み干す

「今、署の方と現場のマンションに、各局、新聞社はどれくらい駆け付けてるんですか」
「だ〜れも。どこも来てないよ、まだ。でも、マンション現場はいずれ集まるだろうな。なにせ、でかい音がしたそうだから」そうか、とDが呟く
「あのAさんの方は、どうなんですかねぇ。もう警察の皆さんで一杯、だとか…」Sが、ぽつっと独り言のように言う
「あそこは、公安の皆さん方が張ってるから、俺らの出番はないんだ」
「ということは、Kさんは無理でも、僕らだったらAに接触できるかも、ですね」とD
「おお、そうだな。お宅たちだったら、Aに会えるかもな。…Aの携帯番号はこれや。これで、俺ら三人は一蓮托生ってやつや」下から見上げるような眼つきでDとSに視線をくれるが、その目は微かに笑っている

「そういうことなら、この三人で固めの杯といきましょうか」とD。Sもうなづいて、三つのジョッキがカチンと鳴らされる
「じゃあ、俺は一旦家に戻って嫁さんに会ってから、署に戻るわ。お腹に赤ちゃん出来たのが分かったばかりなんで、大目に見てもらって抜けて来たんだ」残ったジョッキを一気に空にすると、焼き鳥を横咥えすると、これも一口で口中に収める
「後の注文も今来ますから、もう少し落ち着かれたら…」店のスタッフに生中をもう一杯オーダーするS
「いや、あの公安のキャリアが気になるんや。じゃ、悪いが俺は行くから。勘定は適当に頼むわ」言うなり、さっさと席を立って、出て行ってしまうK。見送ったSとDは、顔を見合わせて、Kが頼んだ料理と、追加してしまった生中を片付けることにする

「Sさん、さっきの話からすると、いずれS会からお呼びがかかりそうだね」Sの不安を見透かしているようなDの問いかけに、Sの表情が暗くなる
「いやぁ、まあなんとかなるとは思ってるんですよ。KさんとAさんの話の中で、私がK市役所に行って住民票を確認したことが記録されて、それをスーパーマンさんが察知してS会に乗り込んだっていう、その線を押し通す積りですよ」
「そうかなぁ、なんで住民票が閲覧されただけで、S会がバックに居るって分かるの?」普通に心配するD
「そりゃあ、あのAって男は県警の刑事さんから予備知識を得ていたらしいって、それで行きますよ」酔いが半分醒めた顔でSは答え、もうその話はいいです、と呟く
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2017年08月17日

熟年超人の日 stage2 58

DがN市の系列局のCテレビを出て、約束の居酒屋「酒忠」に行くためタクシー乗り込んだときには、雨が静かに降り始めていた
その夜の「酒忠」は、平日の夜9時を回った時間にしては割合に客が多く、店内をぐるっと見渡すとSが上がり座敷の一番奥で、片手をひらひらさせて合図しているのが見える

「どーも。お待たせです。Kさんは、まだ…みたいですね」
「お疲れでーす。Dさん、今日はこっちでレポートだったんですか」Sが、店のスタッフに「なまちゅーね」と言いながら、上がり座敷の掘り炬燵風の席を手で示す
「あ、いや、どーもです。S地下街で、いまどき女子高生の放課後事情と、OLさんたちの若い頃は、ってぇのを比較取材ですよ」店スタッフが差し出したおしぼりで手を拭きながら、Dがくったくなく喋りはじめる
「そーですか。いーなー、若い娘とお話ししてお金、稼げるなんて」Sがうらやましそうな表情で、如才なくヨイショする
「いやいやいや。大変ですよー、彼女たちのお話し相手は。ところで、Kさん、来るんでしょ?」話題転換を図るD

「いやーそれが、大変だったですからねー、Kさんのとこは」届いた生中をDに手渡すと、小さくカンパーイと言って自分のジョッキを傾けるS
「乾杯!で、なになに、Kさんとこ大変だったって」Dは、ビールをごくっと大きく飲み下すと、気が急くがままにSに尋ねる
「やっぱり、お耳に入ってないんですね。今夜、あのS会に…」急に声を潜めるS。身を乗り出すD
「例のグリーンが殴り込みかけたらしいんですよ。で、ね、県警本部にS会の金庫を持ち込んだらしいんですよ」声が低くなるのに反比例して、目の輝きが増すS
「例のって、あの?…あのスーパーマンのこと?それで、S会、どーなったの?」俄然興味津々のD

「いやぁ、第一報がKさんからあったのが7時頃で、私は事務所で受けたんですけど、そりゃとっても短く、スーパーマンがS会に殴り込みかけやがった、って教えてくれただけで。私はもちろん、どうなったのかお聞きしたんですけど、県警本部は今、大騒動だからって、すぐ切れちゃったんですよ」
「そうか、で、Sさんどーしたの?」
「そりゃもちろん、行ってみましたよ県警本部に」
「そーか、で?」Dの声が、段々大きくなっている
「ちょっと、お声低くしてくださいよ。あそこは今、厳戒態勢ですよ。駐車場に、金庫とぉ…、あともうひとつ大きいのが置かれていて、そこにみんな集まって、わいわいやってましたね。Kさんもちらっと姿が見えたけど、とっても声なんて、かけれる空気じゃなかったですわ」

臨場感溢れるSの話に引き込まれながら、Dの胸の奥でついに現れたスーパーマンへの期待が、ぐんぐん膨らんでいく
「そうかぁ、ついに悪を叩き潰せるスーパーマン登場!ってわけですね」その声のワクワク感に、Sは少々戸惑いながら、それでも話を続ける
「S会の事務所、って言えば、私もたまに顔を出してたとこですから、もちろんそっちにも行ったんですが…」お客だし、この件の発端は恐らく自分だから、心配で見に行ったとは言えず、それでも新規クライアント候補のDの覚えをめでたくしておきたい一心で、Sは話を続ける
「現場は、N駅西の一角の飲み屋街に近いマンションなんですけど、もう規制線が張られていて、そばになかなか近寄れないんですが、知った顔に出会えたんで、おおよそは聞けたんですけどね」そこまで、話すとSは、店スタッフに生中のお代わりと、手羽先と枝豆などを注文する

「ちょっとー、その先話してくださいよー」Dが焦れて催促する
「なんでも、S会の若いもんが5~6人、病院送りになったようです。それと、事務所は爆発したみたいになってたみたいで、消防車も一時何台も集まったんですが、別に火は出てなかったみたいで、けが人を運ぶ救急車の方が大忙し、だったみたいです。それでも、爆発とは違って、建物の外には被害らしいものは出なかったようで、マンションの外にS会の見張り番が居たらしいんですが、そいつはなんともなくって、ただ事情聴取ってことで、サツに連れてかれたようですけどね」そこまで、一気に喋ってお代わりのビールをぐいっと煽る
「ふーん、そうだったんだー。Kさん大変だったんだねー。今夜はそれじゃ、出て来れないかなー」
そのとき、がらりと戸が開いて、Kがのそっと店に入って来た
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2017年08月16日

熟年超人の日 stage2 57

アパート上空まで一気に飛行して、梨畑に面した窓をそっと開けて屋内に入る
部屋に戻って首筋の膨らみに指を触れると、その瞬間にスーツはカプセルに変わり、いつもの私が現れる
今7時ちょっと前だから、実質45分くらいしか部屋を開けていない計算になる
興奮状態を引きずっていないようにと、冷蔵庫の中から第3ビールを取り出して、ダイニングテーブルの椅子に腰かけようとして、アリバイづくりにビール缶を持って、部屋の中をうろうろ歩くことにした(通りの向こうの住宅窓の連中のカメラはこっちを向いている)
デモンストレーションが済ませたら、今日の反省にかかろう。プレゼンをした直後に、クライアントの反応を時系列で思い出し、どの部分が効果を生み、どこが相手に刺さらなかったかを、印象の新しいうちに振り返るのだ(もちろんS会はクライアントではないが)

入りはあんなものだろう。良かったのは、ドア上部に着いていたカメラを排除したことだ。ただ、たまたま中の人間が不用意にドアを開けてくれたから良かったが、用心深い奴だったら、強引にドアを破壊しなければならなくなったし、その破壊音で同じマンションの住人から、もっと早めに警察に一報が行ったかも知れない
室内の連中の抵抗も、もっと激烈になって時間がかかった可能性はある。あるいは、逃走を図ったかも知れない。いずれにせよ、事態は煩雑になっただろう
相手の攻撃を、避けずに受けたのは良かった。いずれスパイダーマンスタイルでの戦闘の機会もあると思うが、避けて闘うスタイルはそちらにしよう。或いは、Aのままで闘う場合もあるだろうから、メリハリをつけねば…

グリーンマンは、力の象徴として、大型案件をさばくバージョンだと、しっかり決めておく
今後、一般的な(悪)との対決も生じるだろうし、お役目で出て来る官憲を、力で排除しなければならないケースもあるだろう(この辺りは昔から好きなSF小説や、アクション小説が大いに影響していると思う)
殺人だけは徹底回避するとしても、器物破損や傷害には目をつむってもらうしかない(私も大分傲慢になってきている…)
今回の懸案事項は、あのS会幹部と少々長く対峙し過ぎたことだろうか
これからも、政府関係者や、場合によってはマスコミ関係者と対面することが考えられるが、長時間の接触は、Gの中身が人間で、しかも日本人らしいとか、私本人だとかが見透かされれば、その後の行動が非常に制限されることが想像できる(これは肝に銘じておこう)
それにしても、久しぶりに軽い疲労感がある。超人になって初めての感覚だ。どうも、スーツの透明化を維持するのに、かなり精神力を消費しているようだ。これも、今後の課題だな

そんな風に私が、部屋でとりとめもない反省をしている間に、関係者諸氏は大変な状態になっていたのである

まず、私に部屋を破壊され、金庫と組長のデスクを持って行かれ、自身と組員たちが重軽傷を負って、救急車で病院に運び込まれ、病院のベッドで窮地に陥れられた己とS会の運命を考えるにつけ、Tは肉体以上に精神的なダメージを受けていることを自覚していた。それ故、あの巨人を差し向けて、組を壊滅させたAに対して、暗い怒りを募らせていた

A県警のK刑事は、駐車場に置き去りにされた金庫と机が、S会のものだと判明したことで多忙を極めていたが、それより意味ありげな視線を送って来る公安のD田警視の追及をどうかわすのかに腐心し、署内の同僚からも、訝しく思われるほど狼狽していた

公安のD田警視は、自分の報告が間に合わず、Gの行動パターン解析が進まぬことと、所轄の捜四の刑事がなにやら怪しい動きをしていることに苛立っていた
加えて、本庁外事二課の課長がこの件に大いに関心を持ち、なおかつ近々本庁に来てもらいたい旨を、部下のM田経由で連絡してきたことに神経を尖らせていた

探偵Sは、ついさっき県警のKから『Aが言ってたスーパーマンが、S会に殴り込みかけやがった!』という短い一報を受け、この件が一段落したら、S会のTが何を言ってくるか、心をざわつかせていた

アパートを見張っていたM田とS村は、D田からの連絡を受けて、慌ててAの部屋を入念にチェックし、缶ビールらしきものを手にしたAの所在を確認し、そのことを大急ぎでD田に報告しようとしていた

公安のM宮とT垣は、D田をA県警本部に下ろした後、覆面パトの赤色警告灯を光らせ、S会目指して急行中だったが、到着寸前にD田の追加指示を受けて、Gの襲撃状況の現場検証に目的を変更して、所轄PCや救急車、消防車でごったがえすS会事務所のあったマンション付近の路上に、車を停車させようとしていた
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2017年08月11日

熟年超人の日 stage2 56

A県警本部前の駐車場に、大型金庫と重量感溢れる木製の立派なデスクが、なんの前触れもなくどんと置かれたので、ちょっとした騒動になった
その瞬間を目撃した者の話では、マントをひるがえした緑色のスーパーマンが片手に金庫、もう一方の手に木製のデスクを掴んで、駐車場に降り立ち、それらを置いてすぐに飛び立ったのだという
そこに居合わせた四名の警察官と、二名の一般市民、そして地方新聞の記者、計七名の者が、それぞれの位置からその様を見て、各々その驚きを報告したり、或いはおしゃべりやツイートで拡散するところだったが、すんでのところでAからS会とGとの新たなトラブルの予告を聞いていた公安のD田が、訪れていたK警察署内で素早く対応、目撃者を一人一室に隔離し、個々に事情聴取することで、早期の情報拡散を防ぐことにほぼ成功していた

その事情聴取調書によれば、ちょうどPC(パトカー)で防犯巡回から帰署した巡査部長と巡査は、フロントガラス越しに、デスクと金庫を置いたGが空に飛び立つ瞬間を目撃。巡査部長N田は飛び立つ様は、鷺が田んぼから飛び上がるように、ふわっと飛び立ったと表している
一方、運転をしていた巡査O川は、飛び上がった直後に急加速して、視界から消えたことを強調している

総務部のB場係長は、18:40に退勤カードを打刻して、警察署玄関を出たのが18:45過ぎ。雨を気にして見上げた空に、見たことの無い形の大きな物が飛んで来るのが分かったという
それはDVDで観たスーパーマンのようでもあり、つるっとした仮面がB級SF映画の宇宙人を連想させたが、左手に大きなキューブ状のもの、右手には長方形の書斎机と思しきものを持って、署の駐車スペースに着地した
キューブ状の箱が、妙に真直ぐ体の横にくっついていたのと対照的に、机の方はやや斜めになっていて、直観的に重そうな机だな、と思ったと述べている

一般市民(26才男と20才女)のカップル(駐車違反でレッカーされた車を取りに来た)が、大仰な声を挙げたので、署から飛び出して来たF西巡査が四人目の警察関係の目撃者で、彼はGがそっと机と金庫を地上に下ろしたことが印象的だったと、報告している

一般市民のカップルは、ある意味一番一部始終を目撃したはずだったが、警察への反感も手伝ってか、びっくりしていたので、ほとんどなにも覚えていないと供述している
一番厄介そうな地元新聞「西三新聞」の記者I倉氏は、どちらかと言うと、騒ぎを聞き付けて一番最後に現場に入ったので、ほとんどなにも見ていず、撮影などもする間がなかったようだが、職業柄目撃者への聞き込みを始めていて、今回の件をしばらく伏せておくにあたり、以後の優先的取材権を概ね取り付けるに至った

空から来て、空に帰っていくGの行動は、今後も目撃者が出るであろう。今回は、目撃者の全員から当分この件は口外しないことを約束させたが、所詮人の口に戸は立てられないという、何時まで隠匿しておけるだろうかと、D田は今回の報告書に付記すべきかどうかちょっと考察して、今は余計なことはすまい、と判断して目撃者の事情聴取調書だけを本庁にメール送信したのは、21:40を回っていた
*
*

[ メリーランド州フォート・ミード 19Tus 0840 アメリカ国家安全保障局・通信情報分析部 ]
課長、日本で流れたSの動画の分析結果を、今送りました
あのスーパーマンのか。画像はリアル度97.5となってるな
むしろ画像のリアル度より、ネット上に現れた後、1時間もしないうちに徹底的に消されたことが問題かと思われます。ここまで徹底的に消せるのは日本国政府関係機関の関与が明白だという分析結果が出ております
そうか、日本政府がなにを隠そうとしているのか、問題がありそうだな。よし、一応今日の安全保障会議準備会議の議題に入れておこう
イエスサー、それが良いと私も思います

*
*

アメリカ合衆国の関心を惹いた1日は、こうして始まった
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2017年08月03日

熟年超人の日 stage2 55

その展開に激しく動揺したTは、思わず銃の引き金を引く
9mmパラベラム弾が飛び出そうとして、秒速360mのスピードで私の右手の中に飛び込んだ
あの砂漠の戦闘の際にも、銃で撃たれたことはあるが、ほとんど当ったものは無く、体をかすめる程度で終始していたが、今回はまともに掌で受け止める形になってしまった
ちょっとどきっとしたが、なんのことなく手を開くと、変形した小さな弾丸がぽとりと下に落ちた

最近の(や)の準幹部らしくTもインテリ系に属していた。実は私大の経済学部の2年生のとき、父親の事業が破産したのでやむなく退学し、手っ取り早く金を稼ごうと飲食業から始め、夜の世界に転身し、そこで店支配人補佐として、経営手腕を発揮していたのをW来に見い出され、今がある。
そんなTは、自分は荒事でなく実業の世界でのし上がっていこうと思っていたが(や)の世界で、部下を思うように働かせるには、言葉でなく威圧が一番だということも学んでいた
そのため、暴力に自信のないTが選んだのが拳銃だった。それこそ太古の昔、祖先であった人類が猛獣と対抗するために作り上げた武器の使用と同じ手法であった
愛銃ベレッタ92は、いまだに各国の警察や軍隊が制式採用している銃でもあり、なによりネットで調べた安全性と、15発という装填弾数が気に入ったので、トカレフなどの安易に手に入る銃を避け、苦労して手に入れたものだった
拳銃と言う強さを所持は、Tの物言いに迫力をもたらせ、わざわざそれを見せなくても、獣に似て相手の危険度を察するこの世界の人間は、表面従順に従うようになり、T組の中での出世株W木の引き立てもあり、7年前のS会発足以来、Tの地位は順調に上がっていた

目の前の緑色の、のっぺら坊の巨人に正対した時、その迫力に押され、反射的に取り出した最後の手段の拳銃が、役に立たなかったことが衝撃だった
「Aに害をなそうとしているお前たちは、駆除されてしかるべき存在である。よって、私はその目的を果たす」巨人は、のっぺりとした凹凸の無い仮面を被っていて、その声がどこから出ているのか分からないが、とにかくTの耳に、深い声が聴こえる
「な、なんなんだ、お前はー!」かろうじて振り絞った声が、自分にも聞き苦しいかすれ声だったのが、他人事のように聞こえる。俺は、こんなに取り乱す男だったのかと、もう一人のTがあきれている

「私は恩義のあるAから、彼の家族を守るように依頼を請けた。私の情報ネットによれば、彼の家族の所在地を調べる動きを辿ると、お前とこの組織が元凶だと結論したので排除に来たという訳だ」
「な、なにを言ってやがる。俺たちがそんなことしてるっていう証拠でもあるのか」かろうじて言い返す
「お前たちの規範になる法律的な証明は、私には必要ない。やっている元凶がお前たちだと結論できたので、排除することにしただけだ」目鼻の無い、つるっとしたマスクの向こうに隠れている顔(があるとすれば)は、いささかも躊躇することのない、厳正な存在だとTは知った
「は、排除って、どうするんだ、俺たちを…」声がかすれる
「今回は、お前たちの星の法律で解決する」と、言ったとたん、どんとTの胸もとを片手で突く
それだけでTはW木のデスクを越えて、窓際まで吹き飛ばされる

ヤスコーは、通路に転がっている兄貴分のケンコーを気遣いながら、組事務所で起きていることの成り行きから目が離せなかったが、若頭のTがピストルを出したと見えた次の瞬間、バンと銃声がしてその後は、なにも起きずに、Tと緑色のマントの男(こいつはスーパーマンだ、違いない)が会話をしていたようだったが、それも束の間で、Tが向こうに吹っ飛ばされたのを見た
こりゃ、もう駄目だ。それに今の銃声や怒声や兄貴たちが吹き飛ばされた音で、このマンションの住民の誰かが警察に連絡するだろう。そうなったら、俺らは捕まってブタ箱行きだ!
ヤスコーは、ケンコーに声をかけて、いったんこの場は逃げようと告げると、開けた右肩でケンコーの体を支えて、二人でよろよろ歩き出す

私と言えば、そこらに転がっている(や)連中には目もくれず、さっき見つけた隠し金庫のある壁に空手の貫手のような感じで、手を突っ込むと、金庫を引っ張り出す
RC造のマンションではあったが、その壁は後で造作した石膏ボードだったのでとても脆く、金庫はかなり大型なもので100sほどありそうなものだったが、片手で掴んで引き出すと、簡単に引き出せた
扉部分から中を透視して見ると、書類のようなものや、更になにか入っているような箱状のもの、恐らく百万円の札束が2つ入っている。恐らく、この組にとっての必要な物、知られたくないものだろう
これを、警察署の前に置いていったら、何かの役に立つだろう、そう思いながらまだ他にないかと室内を見廻すと、立派なデスクが目につく
そのデスクに手をかけて持ち上げて、中を透視するとこっちにもいろいろ入っていそうだ

緑の巨人に思いっ切り突き飛ばされて、窓際に転がっているTは、少しずつ体を動かしてみて、怪我の程度を推し量っていたが、巨人が金庫を壁から引きずり出し、続いて組長のデスクを片手で軽々持ち上げて、眺めているのを見て、肝をつぶした
巨人の注意がデスクにいっていると見て、そっと動き出すと寝室のドアに上半身を突っ込んで、動けないS原の近くに転がっている日本刀に手を伸ばす
驚いたことに巨人は窓枠に手をかけると、めりっと外して部屋の中に放り出す。外気が部屋に吹き込む
右手でデスクを持ち上げると、左手で金庫を小脇に抱え込むと、窓枠ごと外されて宙の見える窓際に歩んでいく
そのがら空きの背中目がけて、日本刀を振りかぶったTが気合を込めて切りつける
その瞬間、巨人はデスクと金庫を持って、3階から宙に飛び出していたので、切っ先は空を切っただけ。勢い余って、外に飛び出そうになって危うく窓際で踏みとどまったTの耳に、近づくパトカーのサイレンの音が徐々に大きくなってくるのを聞きながら、なんであんなオヤジにスーパーマンみたいな助っ人がいるんだ…と結論の出ない問いが渦巻いていた
posted by ミスターK at 16:13| Comment(1) | TrackBack(0) | SF小説