2017年12月24日

熟年超人の日 stage3 23

「そのときの感覚をひとことで言うなら、安心感、みたいな感じ、と言いますか…。とにかく、よくSF小説に出てくる、頭の中を覗かれるような、ではなく、共感できて、分かりあえる感じ、…まあ、そんな感覚でした」
「それは分かりましたが、それでAさんは、その初めてのテレパシー状態の時に、F原発のことを念じた訳ですか」
「い、いやぁ、そのときは、念じたというより、Gのなにかやって欲しいことはないか、みたいな想いが感じられて…。私としては、なにか個人的なことを願う、というより、どんな大きなことでもやってもらえそうに思えたので、ふっと浮かんだのが、F原発事故の後処理でも、なにか手助けしてもらえるんじゃないか、ということだったように思います」
「それでは、Aさんがこんな具合に、こうしてくれ、と頼んだんじゃあなくて、彼が勝手にあそこで対応した、ってことなんですね」Dが、念押しするように言う
そうか、ここで私がF原発でGが行ったことには、全く関わっていないとすると、これから先、私はただの触媒みたいなもので、T電も私と交渉するより、Gと交渉すべきだと考えるかも知れない

「いや、F原発を思い浮かべた後、なにかその先にもGと意見交換したような記憶が微かにあるのですが…。確か、人間は放射能に弱いから、そこには配慮してくれ、みたいなこととか、みんな組織で動いているから、そこにも気を遣った方が良いとか、そんな思いを伝えたと思います」…これでいいかな
「しかし、Aさんが助けたときのG、ですか、彼はすごく弱っていたんですよね。そんな彼がスーパーマンだなんて、よく分かりましたね。それとも、なにかすごいところを見せてくれたんですか」鋭いDのツッコミ
「それは、最初の、助けてあげた後、だと思うんですが。そうGはもう元気になっていて、私をテレパシーのような感覚で包んでくれたとき、自分はこんなことができるんだ、みたいなデモンストレーションのようなことをイメージで、私に伝えてくれたんです。伝え終わったGが、まるで映画のスーパーマンみたいに空に飛び上がったのを見て、私は全部を信じたんです」
「もういいんじゃないの、Dさんよ。俺は、Aさんのこと信じられるよ。そこそこ刑事なんてキャリア積んでると、嘘は大体分かるんだ」K刑事が味方になった
「いや、すみませんAさん。この質問は、どっちみちウチのチームから出るでしょうし、警察さんも公安さんも、そこのところをしっかりしとかないと、これからどの方向に進めればいいのか、分からないでしょうから」本当にすまなそうな表情で、Dは頭を下げた

その後は、随分打ち解けた雰囲気になった。向こうの席の、公安刑事も気にはなったものの、思い切って私は二人に話しかける
「で、どうでしょう。私も少しずつではありますが、Gの力をもっと世の中の役に立てられるんじゃないか、と思うんですが、そうそう映画や小説のように、タイミングよく事件や大事故が起きる訳でもありませんし、かと言って、この日本や世界をパトロールして下さい、とも頼むわけにはいきませんので、お二人に、なにかGに頼めば問題解決が簡単、と思えるようなことを、教えて頂く訳にはいかないでしょうか」
「そりゃ、あんなスーパーマンにお出まし頂くことができれば、即解決、みたいなことがあればなあ…」
「そうですよねぇ、後のことまで考えると、ねえ。それに、彼に頼む場合の条件、みたいなものはないんですか?」二人共、真剣に考えてくれているのは分かるが、思ったより反応がにぶい
「どうなの、あの九州の大地震の手伝いにいってもらうとかは」KがDと私に意見を求めて来る
「あのお城をなんとかしてもらう、とか…。駄目かな、駄目だな、ああいう歴史的な建造物は、その知識がないと触れないだろうしなぁ。市民の家を直すとか、がれきを片付けてもらうとかも、それぞれぶんたんがあるだろうし、Gさんって、何人もいる訳じゃないんでしょう。こっち方面には」
「そうですねぇ、多分一人で、だと思います。それになにか担当区域が結構広いみたいで、私がテレパシーで頼めるのも、この太陽系近くにいるときだけ、みたいなこと告げられていますし…」そう、際限なく世の中の問題に関わる訳にはいかないだろうなぁ…
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2017年12月15日

熟年超人の日 stage3 22

「一体、なにが知りたいんです?」思い切って、核心を突いてみる
「どこまで、グリーンマン、ですか、彼、いや彼女ってこともありか、まあどっちでもいいですが、彼のことをご存じなんでしょうか。特に、彼が現れた理由について、聞いていらっしゃるんでしょうか」思いがけないDの質問に、虚を突かれてうろたえたのは、私の方だった
Gとの関わり合いの発端を、Gの危機的状況を救ったということにしていたが、私があまりにスムーズにその関係に浸っていることの不自然さを指摘されたようで、私は少なからず動揺してしまう
そりゃそうだよな、助けたお礼とは言っても、見ず知らずの異星人(宇宙から来たんだから異星人だ)の“感謝の気持ち”を、素直に信じていられるのか、少々説明不足だった。
更に言えば、Gの地球を訪れた目的や、なにゆえ危機的状況に陥ったかの理由を、私が詮索していないのは、なぜ?…と私だって思う。そこをしっかり補完しておかないと、今後の私は常に疑いの目を向けられそうだ

「それは、テレパシーって言うんでしょうか。頭の中にGの…、ちなみにGはグリーンマンのGですが、Gの考えが入って来たんです、はっきりと。それによると、銀河宇宙の周辺域の太陽系にある地球の、最近の変化を実証確認するために、遠い銀河中心域から調査に来ていたらしいんです。その後がどうも、よくは分からないんですが、地上調査時に彼らにとっての“禁忌環境”に接触してしまって動けなくなった、というようなニュアンスのイメージが頭に浮かびまして。その後のことは全く覚えていないんですが、どうやら契約のようなものを結んで、私がなにかやらされ、Gは危機的状況を脱することができた、らしいんです」…よくも長々とSF系マンガで見たような話が、出て来るもんだと我ながら感心する
(どんなにボロが出そうな時でも、なんとか言い抜けられるのが一流の企画マンである by M田井社長)

「そう、なんですか。要するに、なんらかの理由で彼が弱っていたところを、助けてもらうにあたって、なにか契約のようなものを結んで、その契約に従ってAさんの言うことを聞いてくれる、ってことですね。…するとAさんがキーパーソンってことなんだ」(最後は小さく呟いたようだが、私に聞かせるように言ったのかも)
「それで、あんたはF原発の事故跡を片付けてもらいたい、って頼んでくれたんだな」Kが話に割って入る
「そうです。その時は、ほかに思いつかなくて…。ただ、ご存知かどうか分からないのですが、当事者のT電さんに話せば良いのかと思っていたんですが、なかなか関係機関同士の調整があるようで、今は、連絡待ちの状態なんです」有償であることは、伏せておくのが良さそうだ
「で、どうなんでしょうAさん。グリーンマン、Gですか。Gは、今はなにをしているのか、お分かりなんでしょうか?そのテレパシーで、把握されていらっしゃるんでしょうか。…すみません、この会話は録音させて頂いてよろしいんでしょうか?」Dはそう言うと、胸ポケットからICレコーダーを取り出した

この席に着いてから、なにか変な感じがしていたが、これが作動していたからだったのか、と得心しながら同時に、一般人Aとして人と接触している時の危うさに気付いた(Kと逢った時から、超人感覚をほぼ閉じていたから)
「構いませんが、それなら食事を終わらせますから、ちょっとお待ちください」それはそうだと、Kも相槌を打ち、Dもすみませんと言い、私は1/3ほどになったハンバーグにナイフを入れる
私が食事を済ませるのを見計らったDが、コーヒーを3つ頼み、ウエイトレスが持って来たところから会話が再開される
「で、さきほどの…」Dに皆まで言わせずに、私が回答する
「先ほどのご質問ですが、テレパシーと言っても、正式にそういうものかどうか、私も分かってはおりません。ただ、昔読んでいたSF小説に、そういうのがよく出て来ていたもんですから、便宜上そう言っているだけなんです。で、常にGと繋がっている訳ではなく、私が強く念じたとき、それも神経が集中できる環境で、私がGに通話を呼びかけ、通じるとGの友好的な、暖かいような思念が私を包むんです」
「思念が貴方を包むような感覚、ですか」DもKも、離れた席の公安らしき人物も、皆が私の話に引き込まれている。上手くいくときのプレゼンの調子だ
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2017年12月11日

熟年超人の日 stage3 21

N駅新幹線の改札口でK刑事と会って、Dリポーターが出て来るのを待つ間、小声でK刑事に
「Kさん、あっちの柱の陰に公安の人がいるのご存じです?」と、できるだけ自然な調子で話しかける
「ああ、分かってる。俺もどうやら公認されてるみたいで、署になにも言って来なくなったんだ。だから、まあ気にせんでいいよ」しらっとした顔でそう答える
なんだか、警察同士のなあなあにつき合わされているようで、私としては少々面白くなかったが、そこは大人の思いやりで、感じてないことにしておくことにする
「Dさんって方は、話の分かりそうな人なんですか?」含みを持たせてそう尋ねると
「ああ、年は若いんだが、最近のマスコミには珍しい奴で、まともなんだよな話が」と、真面目な顔で言う
そうなんですか、と話を続けかかったとき、K刑事の視線が改札に溢れ始めた人の群れの中に注がれているのが分かった。どうやら、そのDさんが現れたようだ

背が高い。大勢の降車客の顔より、ひとつ上に顔が見える。180p以上あるのは、まず間違いないだろう。少し面長な顔は、テレビで観ているDリポーターより、人が良さそうな好青年に見える
一瞬遅れて見知った顔を見つけて、片手を挙げ、やあ、どうも、と周りを気にしない大きな声をあげる
改札を出たDにK刑事が私を短く紹介した後、3人でN駅ステーションビル14階のカフェレストランに向かう。当然、公安の刑事も後を付いてくる
14階の各レストランは皆、お客で混んでいたが、どうやらK刑事は事前に予約をしていたようで、スムーズに席に着くことができた。私としては、まがりなりにもテレビに出ているDリポーターに人の眼が集まるのかと心配していたのだが、店のスタッフも周囲のお客も、誰れも気がついていないようだ

リポーターのDは、公安の監視に気付いていないようで、ウエイトレスの持って来たメニューをさっと目を通してから、隣りのK刑事に差し出す。Kがメニューを受け取ると、ランチタイムメニューを見て、私はこれでいいや、と言いながら向かい側の私の目の前に、メニューを置く
それじゃあ私も同じで、と言ってDにメニューを戻すと、Dがウエイトレスを呼んで、料理を注文する
それから急に真顔になると、テーブルの真ん中に顔を寄せて小声で
「Kさん、あっちの席にいる人、公安ですか?」と訊く(なんだ気が付いていたのか、さすがリポーター)
「そうだよ。まあ、ある程度いろいろ分かっちゃってるから、いいんだよ」これも小声で返答する
「Aさんは大丈夫なんですか」眉根を寄せた心配そうな顔
「ええ、私もあちらの上司の方には、もうお話ししてますから」さらっと返答しておく

そこへ料理が運ばれてきたので、会話は一旦中断する。わざと紙ナプキンを落として、さりげなく公安さんをチェックすると、どうやらコーヒーが運ばれているようだ
KとDを目の前にして、周囲偵察なんてできない(周囲偵察中にどんな怪しい顔になっているか私は知らない)し、K刑事が困らないと言うなら、放っておいてもいいだろうが、刑事ドラマ好きとしては、ちょっと見ておきたいのだ
「実は、私がリポートしている午後のニュース番組の企画会議で、Aさんが関わられているスーパーマンのことが取り上げられまして…」そこまで言って、最後のハンバーグの一切れを口に放り込む
「はあ…」と、生返事で出方を窺う私
「ほおー、午後トクだったかね、お宅が出てる番組」Kが話に入って来る
「いや、午後トクは他局さんですよ。私の出ているのは『昼報』の方です、O倉キャスターの」少し笑いながら、それでも真剣にKの誤りを正す
「それで、企画会議でなんと…」話を元に戻す

「いやぁ、企画会議で出たと言っても、まだネットで少しざわついてるくらいですから、どんな切り口で当るか、まだ分かってないんですが、私思うに、今の社会にはスーパーヒーローが必要なんだと思ってるんです」急に熱い口調になるD
「ちょうど、別件でこちらのKさんとお近づきを得て、Aさんがそのスーパーヒーローと連絡が取れる方だと伺って、なにか取材のヒントでも、と思っている訳なんです」話の筋は通っているようだが、なにか違和感を感じる私。(随分経ってから、あのときは別に考えていること“影との関わりも探りたかった”があったんですと、Dから打ち明け話を聞くことになるのだが…)
「まあ、Kさんからお聞きになられているなら構いませんが、まずスーパーヒーローの名は、グリーンマンと言います。私とは、ひょんなことから関わりができて以来、何と言うか、私の願いを聞いてくれるんで、今の日本で一番の問題だと私が思っている、F原発事故の収束に力を借りられるか訊いてみたら、早速動いてくれまして、今、T電の幹部の方と、具体的な方法や、実行日について詰めているところなんです」いろいろぼやかすところはばやかしながら、現時点の状況を説明する
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2017年12月05日

熟年超人の日 stage3 20

侵入者対応をしてくれると言うなら、スーツが現れてもおかしくない場所に設置すべきだろうと、置き場所を衣装ダンスの上に決める。ここなら、部屋全体が見えるだろうと一安心するが、そもそもどんな具合に作動するか、見てみたい
で、影スーツをケース状に戻し、ダイニングの椅子を衣装ダンスのそばに持って来て(ちょっと浮遊すればいいのだが、もしなんらかの方法で盗撮されていたらと思い、普通人を徹底する)、椅子に乗ってタンスの上にケースを置く
考えてみれば、もし盗撮されているとすれば、これからやる実験も危ない訳だが、まあ言い訳できる範囲だろうと、実験を続ける
Gスーツのメガネをかけ、トイレに入る。この個室から、室内を見てみようという訳だ

例によって、どこをどう操作しなさい、という取説などないので、メガネのあちこち(左のつるは絶対触れない)を触ってみるが、別にどうにもならない。
仕方ないので、今度は、見えろ!とか、動け!と念じてみる。が、部屋の中はしんとしている。タンスの上のケースがどうなったか、気になるのでいつもの超人眼で、トイレのドア越しに部屋の中を覗こうとした
すると、通常の視界に部屋の中の様子が見え、メガネのレンズ上にダブって別の視野が映る。レンズ上の映像は、目で見ていると感じている透視像と違う動きをしていて、部屋の中を見廻している感じがする
超人眼で見ている透視画像は、明らかにトイレから室内を見ているもので、さらに神経を集中すると、衣装ダンスの上(タンス上部と天井の空間は7〜80pある)に、ぼんやりした黒い影が伏せた状態で、頭を少し持ち上げて、室内を観察しているようだ

なんだか、ぞっとしない光景だな、と思いつつ、今、ここから私が出て行ったら、あいつはどうするんだろう、という疑問が湧く
そこで、トイレのドアを開けようとすると、影がこちらをじっと眺めているのが見える。同時に左の耳に、どくんどくんという心臓の鼓動と、息遣いが聞こえた。次の瞬間、ピという音がして左耳の異常が収まる
その一瞬の間の後、私がドアを開けて部屋に入るそのタイミングで、影が衣装ダンスを背にして立って、私を迎えてくれた
『異常なし。動作終了』確かに、そう声に出して(くぐもった声だったが)、影スーツはケース形態に戻っていた(その間、1秒)。超人になってから、早い動きも、随分スローに見えるようになっていたが、立っていた影スーツが、ケース形状に変わるところは、すっ、というくらいに見えただけだ
床に落ちているケースを拾うと、メガネのレンズ上にビデオ映像のごとく、私がトイレに入って行く後姿、閉じているトイレのドアと、中にいる私の動き(主に着ているスエットスーツの布がこすれる音、呼吸音など)から生じる音、そしてドアノブを回す音、ドアが開いて私が現れる場面、などが流れ、ピピという音で終了

なるほど、こんな感じのお留守番なんだ、と私は納得した
まだ、相手に悪意がある場合に、どう対処するのかなど、疑問は解消してはいないが、なにか異常を感知すると即、人間状に変身して対応するらしい、ということは判明した
これなら、誰かの目の前で、人間である私が、グリーンマンや影と一緒に居るところを、見せられるということが分かり、なにかほっとした気分になれた

そろそろ、K刑事と待ち合わせのマンガ喫茶に出かけようかな、と思って時計を眺めた(超人になっても、時刻は時計を見ないと分からない)、その時、携帯に電話がかかってきた。出ると、司法書士のT田と名乗る声
「株式会社スーパーグリーンリィの定款の草案が出来上がりましたので、一度ご覧に入れたいのですが…」分かりました、今日の午後2〜3時くらいにお伺いします、と返事して電話を切る
携帯をダイニングテーブルに置いて、衣装ダンスからこれから着て出かける服を選ぶ。別に悩みもせず、いつもの青いジャケットと、青いシャツにする。今日は暖かいようだから、これでいいだろう。(超人になってからは、気温を意識していないと、ついつい適当なものになってしまうので、人に会うときは気にしている)

じゃあ出かけようと、部屋の鍵を手にしたとたん、また携帯の呼び出し音が鳴る。妻かな?と思いつつ電話に出ると、K刑事の元気な声が聞こえる
「ああどうも、Aさん?Kだけど、もう出ました?」まだ家ですよ、と答える
「実は今日会う喫茶店に、人を連れて行くがいいかな?人って、TテレビのリポーターのDさんなんだ、以前話した」そう言えば、そんなことを言っていたな。情報源になりそうだ、と判断して了承する
「それで、東京からこっちに来るんで、N駅に11時半頃落ち合って、近くで昼飯にするってどうかな?」いいですよ、と答えて、こりゃ昼食代はテレビ屋さんが持つってことかな、などと考えていると
「昼飯はTテレの経費で落ちるそうだから、よろしくねAさん」電話を切って、この会話も聞かれていたりするのかな、と思うが、別に聞かれても構わないと、考える私(ちょっと図に乗り過ぎか、と心配するもう一人の私)
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2017年12月04日

熟年超人の日 stage3 19

途中でかなり眠くなってきたが、アパートからそんなに離れた場所ではなかったことも幸いして、なんとか誰にも見つからずに部屋に戻れた
超人になってから、こんなことはなかったので少々あせったが、最後の梨畑から部屋の窓へのジャンプもこなし(窓が開けっ放しだった!)、倒れ込むようにベッドにもぐり込んだ。いわゆるバタンキュー状態である
眠りにつくとすぐ、ジュブブとの回線が開く(レム睡眠に入らなくても回線が開くようになった…)
『テラ3号、君の通信回線は官の至急通信要請により開かれた。官の把握するところによれば、君はステップ1.9から2.0にグレードアップしている。従って、君への今後の活動サポートもレベルが上がることになる』
*…と言いますと
『君が使用している2体のスーツの機能がレベルアップされ、今後の君の行動の柔軟性が向上することになる。具体的には、スーツ相互の連絡が可能になり、また空スーツの自主稼働及び、遠隔操作が可能になる』
*と、言いますと、私が外出中に部屋に置いてあるもう一方のスーツをリモコンできる、ということでしょうか?

『リモコンとは、かなり不正確な概念だが、遠隔地から操作するという観点に立つならば、それは正しい。2つのスーツの一部機能をリンクしたので、君が住居に不在時は、残したスーツが非着用待機状態になり、住居への移動体接近や、探査波の接触に対して適切に対応する』
*それは、留守番機能、みたいなものでしょうか?
『ある意味ではその通りだが、必要に応じて空体作動して、状況変化に対応する能力を持っている。さらに、離隔地の君の所持、或いは着装しているスーツを通して、限定的ではあるが視聴覚接続をもって、コントロールでき、限定的なパワー対応も可能になっている』
(こりゃすごい、それならスーツ出動時の居留守対策はバッチリじゃないか!)
*それはありがたいんですが、スーツを着てないときは、持ってるだけでもう一方のを操作できるんですか?

『持っているだけの状態で、他スーツをコントロールできるほど君たちの大脳は進化していないので、脳のなるべく近くにあり、なおかつ視聴覚接続が容易なよう、君が覚醒時に視覚情報を得る際、光学矯正している器具と同じ形態をスーツに取らせるよう、第2形態をインプットした』
*それは、メガネのことですか
『君は事実を正しく認識した。これよりスーツは、最初に渡した形態から次のメガネ型を経た後、着装されるようになる。もちろん、第1形態からでも従来通り着装できるが、第2形態からの着装の際に、動作を誤り易い君のため、発現スイッチは左耳元に用意したので、ある程度予習しておくべきだ』
*はい、分かりました、よく練習しておきます
『連絡は以上だが、官の個性的な熟考の結果をひとつ君に伝達したいが、君はそれを望むか?』
(今までにないパターンだ)*はい、もちろんお教え頂きたいと思います
『ならば伝える。君の選択している超人活動の指針は、君の遺伝子分配範囲への執着が今後も大きく影響していくだろう。その延長線上に君の所属している“国家”および同一言語、近似DNAを持つ“民族”の幸福感維持も強く作用せざるを得ないだろう。君がこの惑星でただ一人の超人であることと、君の所属体への親近感との相克に陥った時、君は以前行った衛星に行くことになるだろう』

そこで、目が覚めた
最後にジュブブが言っていたことが引っかかっていたが、それよりまずスーツの機能チェックが先だと判断し、昨夜から着たままのウエットスーツのポケットから影スーツを、衣装ダンスの中の小物入れに収めてあるGスーツを取り出す
どちらも以前のままのケース状になっている。なにもメガネにはなっていない。これをどうするとメガネに変わるんだ、と思いながら手に取る
手にすると、形が変わるのか、と思ったが変わっていない。しょうがないので、昔観たウルト〇7の真似をして、ケースを目のところに当てがってみる

その瞬間、メガネになった。音も無く出現し、私の鼻と耳に懸っている。今まで使っていた者と、全く同じ形、そしてつるの色。メガネを外して手に取って良く見ようとすると、もうケースに戻っている
もう一方の、影スーツのケースを同じように目元にあてがうと、視界が暗くなった。衣装ダンスの鏡には、サングラスをかけた私の姿
強度の近視だった私(超人になってから必要なくなったが、今までの認識を変えないよう日頃はメガネをかけている)は、通常サングラスはかけず、度の入ったメガネに引っ掛けるタイプのを使用しているが、これは格好いいかも
後は、どちらか一方を部屋に置いて(置き場所による使い勝手も要チェックだ)、外出でもしてみようか
posted by ミスターK at 15:58| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説