2018年05月30日

熟年超人の日 stage3 41

言葉を交わしつつ、さっきの銃声で警備員やら、警察なんぞがやってくるんじゃないかと気になり、さーっと周囲偵察を試みる。すると、この駐車場に新たにやって来る車は無いようだが、前から停まっている車がどうも怪しい
私の周囲偵察能力は、動いている人間と電波を発する物に強く反応するようで、どうやら4台の車に、そのような反応がある。となると、このナイフ男はただの囮で、もっと厄介な連中がこの私をターゲットにしているのかも知れない(こんなストーリー、映画しか無いと思っていたが…)

このおっさん、とんでもない野郎だ、とT野は折られた左手首の痛みと、まだ感覚が戻り切っていない右手に気を取られながらも、冷静に考えを巡らせていた
ヤスコーが、二人の隠れ家に二人の男を連れて(というより連行されて)戻って来たのは、先月の25日のことだった。
てっきりサツが一緒だと思い込んだT野が、逃げようとする間もなく、素早く逃げ道を塞いだ男の一人に「御館様のお呼び出しだ」と告げられた。その言葉を聞いて、何年か前に若頭に取り立てられたときに、W木組長と行った本家のT組で、俺たちは御館様に守られてるから、なにかあったら本家を頼れ、と言われていたことを思い出した
そこで、大人しくその男の言うことを聞いて、でかい外車にヤスコーと二人乗せられて、随分走って森の中にある大きな屋敷に連れて行かれたのだ

応接間のような部屋に、T野だけ通され、品の良さそうな初老の男から、S会事務所が空を飛ぶ緑色の怪人に、壊滅させられた経緯を聞かれた
その時、そのグリーンマンと名乗った怪人が、自分たちが追っていたAという男に害をなす者は許さない、と言っていたことを告げると、初老の男はうんうんとうなづいて、壁に掛けられている大きな鏡にちらっと視線を走らせた(その視線の動きから、T野はその鏡の向こうに誰かが居て、こちらをじっと見ているのだと直感した)
その夜はその屋敷に泊められ、翌日、今度は若いきれいな女がT野達の部屋に入って来て、封筒に入った札束と携帯電話を渡しながら「御館様の連絡があるまで、都内のホテルに部屋が取ってあるので、そこで待機するように」と伝えた

ヤスコーは、その女がとてもきれいで「あれはきっと昨夜の御館様の情婦(いろ)ですよね」、などと言っていたが、T野は、昨夜の初老の男は多分御館ではなく、鏡の奥で見ていたのがそうだと思っていたが、その場は「ああ、そうかもな」とだけ返事をした
屋敷の別棟にある床屋で、二人はさっぱりさせられ、部屋に戻るとこぎれいな服も用意されていた。
それから、ここに連れてきた無口な男が、今度は別のワンボックスカーで送ってくれたのは、東京都とは名ばかりの、M市の駅前のビジネスホテルだった
「このホテルからは出るな。食事は館内のレストランで摂ること。警察がお前たちを探しているが、公開捜査はストップをかけてあるから、目立つ真似だけはしないように」と言い残して帰って行った

それから2週間ほど経った後、ついに携帯が鳴り、あの初老の男と思わしき人物から、N市に行き、探偵Sを脅して、Aと接触せよと指令があったのだ
N市に戻ったT野とヤスコーは、例のアパートに戻ると、隠しておいた拳銃とナイフを取り出して、御館の部下が用意してくれたSUVに、探偵屋を呼び出して、Aに連絡するよう脅したのだった
御館からは、間違いなくA本人を御館の屋敷に連れて来るよう、それだけを命じられていたのだが、組事務所を潰されるきっかけになり、関わりあるぼったくりバー「夜露」で暴れたAへの、T野の気持ちは収まらず、得意のナイフ技で肝を冷やしてやろうと試みたのだが、文字通りあっさり捻られてしまい、このAという男を、いつかきっと泣き言を言わせてやると、心に誓っていたのだった

そんなことを、妙に下手に出て来た目の前の男が、考えているとはつゆ知らず、むしろ私は3台の車から降りてきた6人の男たちに気を配っていた(どうやら4台目の車はただの買い物待ちの旦那のようだ)
「恐れ入ります。Aさんでいらっしゃいますね」見たところ50代と思しき男が、丁寧な口調で訊ねてきた
「そうですが、そちらは、どなたでしょう?この乱暴な方のお知り合いかな?」超人になる前だったら、こんな度胸の据わった応対は、とってもできなかっただろうが、今はへっちゃらだ。アドレナリンが出ているせいか、矢でも鉄砲でも持って来い、ってなもんだ
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2018年05月08日

熟年超人の日 stage3 40

SUVの方も気になったが、それより目の前の男の連続攻撃が、なかなか厳しい
超人速度で動いて良いのなら、今、鼻先すれすれをかすめていったナイフなど、叩き落とせるのだが、ここは普通人Aとして、これくらいの危険は捌けなければ意味がない
二度三度と顔面をかすめる刃をかわすうち、ふっと相手の狙いが理解できた。そう、理解できたのだ
身体の方が、自動的に男の攻撃に対処している間に、このところよく出て来る客観的な自分、年相応の私が、今の状況を分析し対応策を示してくるような感覚
SUVにいる奴の飛び道具は、目の前の男の攻撃が止むか、私が男を倒した瞬間に発射されるだろう(当たるか当らないかはともかく)
逆に言えば、目の前の男の動きを封じて、体をぴたりと寄せてしまえば撃てない、ということだ

では、そのように、と決めたそのとき、男の左の手が動くのが見えた。しかも手品のようにその手の中から光る物が飛び出している
先ほどから激しく動かしているナイフは、大ぶりな片刃のやつで、軍隊で持つものに似た形(そこまで大きくはないが)をしているが、こんど出て来たやつは両刃の小さいやつで、昔飛出しナイフと言ってたやつだ
それがストレートに私の腹を目指して繰り出されているのだ
普通人でも習練すると、これほどのスピードが出るのか!と驚きつつも、そこは超人なので、それ以上の早さでその手首に手刀を見舞う
うっ、と声が出たが、続いて右手のナイフで、薙ぎ払うような一閃が私の首筋を襲ってきたが、大きなモーションなので、今度はその手にこちらの左手をからませるようにして、男の動きを封じてしまう

先ほど手刀を見舞った左手首は骨折したのか、だらりとなっていて、掌の中にあった小さなナイフは駐車場の床に落ちている。そして、形勢が有利に展開していると見て、今まで傍観していた小柄な男が、そのナイフを取り上げようとして、動き出す
「危ない!動くな!」私が叫ぶとほぼ同時に、SUVの運転席のドアが開いて、人影が飛び出したかと思うと、バンと銃声が響いた
私はナイフ男を押さえ込んでいるので、その弾がどこに行ったのかは確認できなかったが、どうやら小柄な男(多分探偵業のS)に当たってはいないようだ
「やめろ、やめろー!、ヤスコーやめろ」抑え込まれている格好のまま、ナイフ男がSUVに向かって大声で制止する
相変わらず眩しいヘッドライトの光の中に、背の高い男が両手で拳銃を構えた状態で現れ、じわじわこちらに向かって来る

「お、おっさん。いや、先生。先生、手を、手を放してくださいよ」かなりな超人力で抑え込んでいるナイフ男が、いやに下手に出た物言いで私に話しかけてくる
「なんだ、ナイフを振り回しておいてから俺に話か?」こういう輩は、相手が強いと見れば下手に出て、あわよくば隙をついて反撃してくることぐらい、アクションものも好きな私は先刻ご承知。とにかく油断はせず、上から目線で対応する
「い、いやぁすみません。先生がどんなお方か、そこも調べて来いと、さるお方に言われておりますもんで、いやホント、失礼いたしました」どうやら本気で謝っているようなので、締め付けている手を少々緩めてやる
ただ、SUVの男がまだ拳銃を構えているので、なにか動きがあれば、このナイフ男をぶつけてやろうかと思っている
「お、おい。チャカを下ろしてこっちに来い。先生にご挨拶せんか」私の情況を読んで、手下らしいSUVの男に命じ、SUVの男は素直に拳銃を下ろすと、少し不服そうな面持ちで、傍までやって来る

「どうも、ありがとうございます」ちょっと意識外だった電話の男、探偵屋のSが私のすぐ傍まで近付いていて(これは今後の反省事項だ。被害者を装った敵だったら不意を突かれるところだった)礼の言葉をかけてきた
とにかく場が落ち着いたようなので、もう少しナイフ男への締め付けを緩めてやると、手からナイフがガチャンと落ちる
「一体、なんのまねだったんだ、これは」声の調子は、あくまで強いままで、そう尋ねてから、今度はすっかり手を離してやる。
「どうも申し訳ございません。今回の所業は、私らのずっと上のお方の命があったのを、私なりに先生を試させて頂いたような次第でして」痺れた右手を軽く振りながらも、折れてしまった左手はだらりとさせたまま、ナイフ男が歯を食いしばるようにして話を続ける
「申し遅れました。私、T組直系S会若頭のT野信治と申します。実は、先刻私らの事務所にカチコミをかけられたお方が、先生のご命令で私らを懲らしめに参られたとおっしゃられたことを、上の上のお方にお話ししたところ、ぜひお会いしたいと…。それでこの探偵屋に、渡りをつけてもらった、という訳でして」

なんと、この(や)の上の上の人物が、私に用があるって訳か。そうか、ああいう事務所をああすると、こういう風になるのか。そうだよな、ああいう稼業の人たちは、なめられちゃあいけないらしいもんな
一般人として存在するってことは、いろんな世間と関係を持っていることなんだなぁ
「それで、その上のお方がどうしたいって話しなんだ」…ここは強気強気!
posted by ミスターK at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年05月06日

熟年超人の日 stage3 39

N駅から、指定場所の大型ショッピングセンター・イオスみなと店まで、どこで誰が見張っていてもいいように、JRと電車を乗り継いで移動することにする。(折角超人なのに…T電から入金があったら車を買おう)
臨海鉄道のA駅に着いたのは、約束の8時の20分前だった。駅から徒歩で1〜2分で、イオスの入口に到達。Sとの待ち合わせ場所の4階の屋上駐車場までエスカレーターで上ると、連休明けではあっても、暗い駐車場には、20台くらいの車が散在している
もちろん、すぐ駐車場内には入らず、館内側から場内を中心に周囲偵察をすると、案の定何台かの車に反応がある
これはと思う車を透視して見ると、どうも伏兵という感じではなく、シートをリクライニングして休んでいたり、スマホを操作している風である
どうやら、お買物中の家族を待っている、といったところか。いずれにせよ、そんなに大規模な待ち伏せなどは無さそうだ

まあ、なにがあってもなんとかなるだろうと、影スーツが変身した黒ぶちメガネをして、駐車場内に足を踏み入れる
と、前方に停まっているSUVのヘッドライトが点いて、誰かが降りてこちらにやって来る
HIDランプとか言う、白くてとても明るいライトが、こちらを真直ぐ照らしているので、普通の人間だったら、眩しくて相手の姿を見ることは出来ないだろう。が、おあいにく、こちらは超人さまなので、私よりも小柄な男と、それよりずっと背の高い男(超人眼で拡大してみると、どうも見覚えのある男だ)の二人が、こちらに向かってゆっくり歩いて来る
「Sさん、ですかね?」一応、一般人らしい反応を見せるため、少し間抜けな声音で声をかける
「はい、どうも、Sです。そちらに行きますから」って、こちらに来るのは分かっているが、その応答に若干んの震えが混じっているのが分かる

「お一人ですか?どなたか、ご一緒ですか?」敢えてとぼけた呼びかけをする(むろん、Sの後ろにぴったり付いている人物に、少しでも油断してもらいたいが故だが)
「Aさんも、お一人ですか?」語尾がかすれがちだが、一応、警察でも連れて来てはいないかの確認のようだ
「はい、一人ですよ」(ですから安心して下さい、と言い足しそうになって、危うく止める)そして、いかにもそちらが眩しくて見えないという風に、小手をかざしてみたりしてみる
そんなやりとりをしている間にも、歩を進めているあちらと、経ったままのこちらとの距離は、当然縮まっていく
「実は…」と、Sがすぐそばまで来て、話しかけてきた直後に、その後ろから男が飛び出して来た
手に持っているやばいモノが、きらっと光る

普通の人間にしては、相当素早い動きで、もし不意を突かれていたら、今の私でもびっくりしてしまって、彼の手のナイフで、一太刀浴びせられていたかも知れないが、残念ながら分かっていた私は、武術の心得のある者らしく、その手首を摘んでぐいっと上に捻り上げる
が、この男は場数を踏んでいるらしく、おまけに身長167pの私より背が高いので、捻り上げられた手に執着しないで、先の尖った革靴で、私の脛を蹴ろうとする
そんなもの当っても、別にどうってことはないのだが、あくまで一般人のやや強い程度でいく積りなので、その蹴りを危うく、といった感じでかわしてあげる
当然、手の力が緩んで、相手は再びナイフを構えることができた

さっと周りを確かめると、場内で停まっている車の中の人間は、まだ誰も変わった動きをしていない
Sと思しき人物は、後ろの男が前に出る際に突き飛ばされた形で、転んだままこの刃傷沙汰に巻き込まれまいと、身を固くしている
ちょっと厄介そうなのは、相変わらずヘッドライトでこちらを照らしているSUVの中の人間で、闘争中でやや精度が落ちている周囲偵察の感知内に、拳銃のような飛び道具の反応がある
posted by ミスターK at 17:44| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説