2018年07月06日

熟年超人の日 stage3 49

「失礼します」涼やかな声が掛かり、N絵が部屋に戻って来た
「B東の手首は、きれいに折れていたので、1月ほどで職務に戻れるということでございました」
「ならば、白虎のN田に言って、2名こちらに置くように」老人がN絵に申し付ける
「すみません、B東さんに悪いことをしてしまいまして」一応、謝る体裁を取る
「いやいや、あの程度に抑えて頂いて、こちらこそ申し訳ない」何事も無かったように老人が応える

「ところで、さっきの話だが、あんたの頼みごとに、その宇宙人は、どの程度まで応えてくれると思っているのかな」一気に、話が核心に迫る。
この老人は、いわゆる政界の黒幕って人物らしいが、うっかりしたことを約束させられると、一般人Aとしての私の束縛になってしまいそうだし、結果、超人活動がこの日本第一主義で、なおかつ“何でもやれることはやる”的な、過激派に利用されるようになったら、ジュブブが黙ってはいないだろう
「以前、F原発の放射能廃棄物を、一気に片付けられるか訊ねたときに、それはこの惑星の人類にとっても良いことだから、助けてやろう、みたいな答えをくれました。多分、彼は他の惑星の人間に対して、公正中立の存在でいなければならないんだと思います」うまくまとめられてはいないが、自分なりに筋の通った答えが出せた、と少し自己満足

「ほう、それはあんたの考えなのかな、それともあんたの言うテレパシーで宇宙人がそう伝えてきたのかな」
「公正中立な存在である、というところは明確に伝わって来ました」この一点は絶対に譲れないところだ
「それで、その宇宙人とは会えるように手筈してくれたのかな」
「明け方にあったテレパシー連絡では、そろそろ現れる頃かと思います」神経質そうにこめかみの辺りを、指先でとんとん叩きながら、メガネのテンプルを2回軽く叩く(これで、木の梢からこの屋敷の上に飛来するはずだ。ただし、最近話題になっているAIのような機能があるので、後はGスーツが状況判断をしながら、ここにやってくる筈)

私のメガネの内側に、Gスーツが見ている景色が小さく映り始めた。今、梢から垂直に急上昇して、地上5000mまで上がり、そこで透明化を解除。かなり抑えた速度でこの屋敷の中庭を目指してやって来る
私はと言えば、テレパシー通信の開始を装って左手を額に当て、右手の親指でこめかみを押さえるポーズを取っている
そのただならぬ気配に、老人は無言でこちらを一瞥すると、一瞬、目でN絵をうながす
N絵はさっと立ち上がると、軽く会釈して部屋を出て行く。入れ違いにT堂氏が、さっと部屋に入って来る
「御館様、現れました」どのようなときにも変わらない声音が、微かに興奮の色を帯びている

私の影メガネの内側の映像が、ロの字型のこの屋敷を鳥瞰している。つまり、Gスーツが上空に来ている
テレパシーを受け止めている風を装い、周囲偵察をすると、屋敷の四方に配置されている築山型のトーチカ内で、激しく人が動いている
北側の築山トーチカから、この屋敷に延びているトンネル通路を、急速に接近しつつある二人(さっき老人がN絵に命じていた白虎から来る応援だろう)が、いる。さらに、四つのトーチカから五人ずつが、庭園内に散開していく
「Aさん、どうやら宇宙人が来たようだな」相変わらず正座したままで、老人が低い声で言う
「今、グリーンマンと会話中です。お静かに…」この機会に場の主導権を握ってしまおう

この屋敷の中庭の上空10mに、Gスーツは空中待機。庭園内に散開している人物たちは、銃らしきものを構えている。それだけで、この屋敷の戦闘体質が顕わになる。そして、老人がこの国で掌握している権力の裏側も、明瞭に露呈する
「なぜ、敵対行動を示しているのか、と言っております」こんな言葉をぶつけてみる。以前の私には考え付きもしなかった言葉だが、最悪、この屋敷をぶちこわしても仕方ないか、と覚悟してのセリフだった
posted by ミスターK at 16:58| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説