2018年11月18日

熟年超人の日 stage3 61

日本では、いろいろあったな、と飲みかけのマグカップをぼんやり眺めながらマシューは、あえて報告書に記載しなかった出来事の回想に浸っていた

あのビルの管理人に会った翌日、キーマンのAを探すため、L.C.は彼が住んでいた(いる?)というK市に向かい、私は、昨日警察本部の廊下ですれ違った二人の刑事が交わしていた会話(むろん日本語の)からL.C.が聞き取ったAについての不確かな情報を検証すべく、N市の歓楽街の調査に向かった
二手に分かれたのは、我々の調査日程が本局の都合で短縮されたことにあった。本国では、いよいよ大統領選もたけなわになってきていて、人手が足りないというのがその理由だった

キャッスルという名のホテルは、その名の通り日本的な大きな城(しかしコンクリート製だ)の近くにある。朝食を済ませた我々(どちらも自制していて、相変わらず別室だった)が、今日の調査の段取りを確認していたところに、大使館のジョナサンから連絡が入った
『こちらで入手した情報によると、Aという男はあの事件の前に、N市のYOTSUYUという暴力バーで騒ぎを起こしていたそうだ。そのバーの経営には、例のS会が関わっていたそうだ。重要なのはこの後だ。その騒動の途中から、忍者が現れてS会の増援部隊を蹴散らかしたそうだ。ネットに上がっていた動画があったんで、君のスマートフォンに送っておくから見てくれ』
そして、我々はAを救うために(そうとしか思えなかった)、忍者が現れたことを知った

Aという男(ジョナサンの報告では60才を過ぎた5フィート半くらいの小男らしい)が、キーマンなのは確かになったが、日本のマフィア・YAKUZA連中とことを構えているとなると、その調査をする我々にもなんらかのトラブルが生じることは避けられそうもない
L.C.は、わたしも結構強いのよ、と言っていたが、やはり彼女には昼間K市に行ってもらい、私もできるだけ日中にN市のYOTSUYUという店と、その周辺を探索することに決めた
その後、各々の部屋で報告書を作成して時間をつぶし、ホテルのレストランで早目の昼食を摂ってから、それぞれの目的地に向かった

L.C.が地下鉄JRを乗り継ぎ、K駅からタクシーでAの住むアパートメントに着いたのは、14時過ぎだったという。Aが昔A国で女性と付き合ったことがあって、その時出来た子が、はるばる父を訪ねて来たというストーリーで、まずアパートの周辺から聴き込み、少したどたどしい日本語を話す彼女は、親切心と好奇心がミックスしている地方都市の住民に大いにアピールしたのだが、肝心の詳細な情報はなかなか得られなかった
それでも、Aがよく近くのMANGAカフェ「It's-ZUKE」に行くという聴き込みを得て、訪ねたその店のスタッフからAと警察の人間がときどき会っていたという重要な情報を得た
その店を出たL.C.は、もう一度アパートメントに向かったところ、途中で二人の男に尾行されていることに気付く。歩調を変えた途端、もう一人別の男が前方を塞いだ

「ちょっとお待ちを、外人のお嬢さん」前方の男の、日本語の問いかけを無視してすり抜けようとすると
『待ってくれと、言ってるんだ』今度は流ちょうなA国語が後ろの人物から発せられた
『わたしには、あなた達に用は無いわ』と言っておきながら、バッグの中のベレッタを指先に感じたとき、別の一人が仲間をたしなめた
「おいおい、お前たちが物騒なムードを出すから、お嬢さんがテンパってるじゃないか」…『すみません、貴方がどなたかなんて気にしてはいないのです、我々は。恐らくA国の情報局の方なんでしょうが、あの人はここに居ませんよ。我々は命を受け、あの人を陰ながらお守りしている者で、まだ外国の方との接触は避けるように命じられておりますので、どうか、お引き取り下さい』丁寧ではあるが、有無を言わせない口振りは、決してYAKUZAなどではなく、ちゃんとした組織の一員であることが明白だった

『そうなの、あなた達は日本の公安の人たちね。なにを言っているのか分からないけど、わたしはA国の科学情報誌の記者なの、わたしはただ信じられないものを見たという人から、話を聞きたいだけなのよ』
『そういうことならそれで結構ですから、とにかくお引き取りを』その迫力に押され、L.C.はその場を離れた
友好国の官憲とはトラブルを起こさないのが鉄則だから(この時は日本の警察の人間だと思い込んでいた)

一方、私の方と言えば、夕暮れを待ってそれまで時間をつぶしていたデパートメントを出て、N駅の西側に散在する酒場の中から問題のバーを探し始めていた
posted by ミスターK at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2018年11月04日

熟年超人の日 stage3 60

「お宅ら、本当にA国の雑誌の記者さん?名刺かなんか持って無いの?」背が低いので下から上目づかいに見上げる目は、臆病そうではあるが油断のならないイタチの目だ
「そうです。わたしは、A国の科学情報誌パラノーマル・ライジングの通訳助手のアリス・デイヴィスと言います。彼は、取材記者のロジャーで、日本語が話せないので、わたしが代わりに質問したり、答えたりしてます。そして今日は、少し前にこのビルであった事件のことを調べに来ています」

そこまで聞くと、管理人の男は「はぁーん、こないだの事件って、上の階の?」と言うと、「お宅ら、ホントP連合から来た人じゃないだよね」と言って「ここじゃなんだで、まぁ中に入ってちょ」と手招きして、室内に招き入れてくれた(一部L.C.も分からない言葉だったが、録音音声に忠実に再現します)
部屋に入ると、ダイニングテーブルの椅子を我々に勧め、管理人自らヤカンに湯を沸かし、日本の茶を淹れてくれた。案外、好い人物のように思えてきた
「で、お宅らはA国のマスコミの人?」マ、ス、コ、ミ…ってなんのことだ
「そうね、マガジンリポーターは、マスメディアの一員ですね。わたしたちは、あの夜になにが起きたのかを調べています。貴方は、あの夜、その事件を目撃されましたか?」

「この取材は、謝礼があるのかね。なにも無いんじゃあ、話すことも出てこないんだなぁ」お茶を入れた持ち手のないカップを我々二人の前に置きながら、にまっと笑ってL.C.の顔を見る。私の方には視線が来ない
『この男は、金をくれと言っているのか』思わずL.C.に訊いてしまった
「イエス、わかってるわ、取材費の中に謝礼金も含まれているから。貴方のお望み通り、とはいかないかも知れないけど、話の内容によっては充分お支払する積りよ」L.C.が答えた
「あの晩、俺はこの部屋でビールを飲みながらテレビのくだらない番組を観てたんだ。そのうち、揺れを感じたんで地震だ、って思って廊下から外に逃げたんだ」

「外に出たのね」それじゃあ部屋で起きたことは見ていないんだ。当然、中の奴らとGの話も聞けてない訳だ
「それで、外に出て周りを見ても地震があったように見えなかったんで、部屋に戻ろうとしたら、3階辺りで大きな音がしたんだ。俺はてっきりP連合のカチコミだと思って、警察に電話しようと思ったんだが、ケータイを置いて来ちまってた。仕方ないんで、部屋に戻ろうとしたら階段の方から、なんだとー!なんだぁ!ってどなる声が聞こえてきたんだ。耳を澄ますと、あのおっさん知ってるのか、とか聴こえて、それからまた物がぶち壊されたようなどえらい音が響いて、なんかぼそぼそ喋る声がして、それからハジキ(拳銃)の音がして、ちょっとしてまたどえらく物がぶっ壊される音がしたんだ」
「それで、貴方は部屋に戻って警察に電話したのね」
「いんや違う、俺は少しだけ聞こえてくる話し声が気になったんで、こわごわ階段を上ったんだ」

「3階に着いたところで、通路廊下に顔だけ出して、耳を澄ましたらS会の兄貴分の奴の声と、もう一人声のいい奴の話し声が聴こえてきた。びびってたんだが、それでも気になってしょうがなかったんで、廊下通路に出ると、S会の若い衆が二人、部屋の方を見てるのが見えた。俺はあいつらに気付かれたくなかったんで、慌てて階段の方に戻ったら、ふっ飛ばされるみたいな音がして、それからメキメキっと物を壊す音が聴こえて来たんで、もう一度廊下通路を覗いたら、若い衆が二人でよろよろ逃げてくとこだった。部屋の中からは、音は聞こえてなくなったんで、恐る恐る部屋の方に歩いて行ったんだけど、部屋の中はぐっしゃぐしゃで、窓の所がぽかっと空いていて、S会の兄貴分のTとかいう奴が日本刀持って、ぼやっと立って窓の抜けたとこを眺めてやがった。あいつに見つかるとおっかないんで、俺は慌てて階段に戻ると、パトカーのサイレンが聴こえてきた、っというのが俺の体験談だ」

「ありがとう、じゃこれ謝礼ね」L.C.がバッグから封筒を出して管理人に渡すと「おっありがと。なんだ、これだけか、まあいいや」という声が聞こえた
「じゃ、部屋の方を見せてもらいたんだけど」とL.C.が言うと、「ああいいよ」と管理人は我々をエレベーターに案内して、3階に移動した
「あの部屋も随分ぶっ壊れちまって、S会の組本部も知らん顔かと思っていたら、どうやらオーナーんとこにその上の超大物から連絡があったそうで、近々修理が入るらしいんだが、今はご覧の通りだよ」
鉄製のドアは蝶番の部分で引きちぎられていて、ドア枠に立てかけられていて、我々はその隙間を通り抜けて室内に入った

室内は、3日前の夜に壊された状態のままで(警察からできるだけそのままに、と言われているそうだ)、ガラスの破片やきゃしゃな応接机が転がったままになっていて、日本刀や拳銃が落ちていたところには、テープで印が付けられていた
『こいつはすごいな』
『相当な力持ちみたいね』二人がA国語で喋っていると、管理人が気を揉んで話に加わって来た
「ひどいことになってるけど、結構丁寧に壊してるんだ」
「ていねい…、ああポライトリィね、ブロークンポライトリィと言ってるのね」この男にはそう見えるのか、と私は改めて破壊された室内を見廻した

引きちぎられかかっている鉄扉、そして室内を間仕切っている薄い壁に付いている、きゃしゃなガラス扉、その先にある安物の応接セット、までが一直線に破壊されている
応接セットのある方の部屋の壁は、他の部屋とは段違いに頑丈そうな造りになっているのだが、それにぽっかり四角な穴が残っている状態だ
警察本部にスーパーマンそっくりに、この部屋にあった大型金庫と執務デスクを運んだそうだが、その跡なのだろう。デスクの方は当然無くなっていて、その後ろの窓ガラスが枠ごと外されて、部屋の中に置かれている。そう、丁寧に、だ

ここまでのGについての調査を、以下にまとめてみた
1)Gは空が飛べる→方法は不明
2)Gは怪力である→N市の事件では非常に限定的
3)Gは日本語を話す→他国語については不明
4)Gは丁寧に物を壊す→繊細と言える
5)Gは人を殺さないようにしている→YAKUZAの攻撃を封じつつ負傷する程度に反撃している
6)Gは日本人のAという男を守ろうとしているかのようである→YAKUZAとの会話に登場している
7)Gは非常に冷静である→この事件全体を通しての印象
8)Gは拳銃の弾丸を跳ね返す→つぶれた弾丸が日本の警察に保管されている
9)Gは緑色に見える(それ故かグリーンマンと呼ばれている)
10)Gはフルフェイスのマスクをしているように見える(顔を見た者はいない)
補足→木製の大型デスクと金属製の大型金庫の運び方が、微妙に異なっていたという日本警察官の印象が我々の注意をひいた(詳細調査の必要を認む)

結論として、N市の事件ではGはマーヴェルコミックのスーパーヒーローそのものに思える
ただし、その行動はA国製でなく日本製と言えよう
デスモンド・ブライト調査官のF原発におけるGの行動軌跡とのコンシステンシーを至急図る必要を認む
以上
posted by ミスターK at 14:33| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説