2018年12月20日

熟年超人の日 stage3 64

I倉さんが店主と話をしている間、私は日本人同士の会話に入れず、店主が出してくれたYAKITORIを食べていたが、これがなかなか旨い。酔わないようにビールをちびちび飲っていると、I倉が話しかけてきた
『ここのマスターは、夜露のやり方が嫌いで、いつか警察に挙げられればいいのに、と思っていたらしいから、1軒おいた隣りの夜露で、物が壊れる音やら(や)のチンピラの喚き声が聞こえたとき、様子次第で警察にタレ込もうと耳を澄ませてたらしいんだ。じきに店の騒ぎは収まったみたいで、なぁんだと思っていたら、ドアが開いた音がしたんで、どんな奴が出て来たんだと思って、店の戸をちょっと開けて覗いてみたら、背格好は全く普通のおっさん(日本では中年以上の、ぱっとしない男性をこう呼ぶ)が出て来たそうだ』
『そこにYAKUZAの援軍到着で、その男は闘ったんだな』

『いいや、そうではない。その男は薄暗い路地に逃げ込んで、代わりに全身黒タイツの男が現れて、(や)達と闘い始めたそうだ。ここのマスターが言うには、喧嘩は割とよく見てるが、あんなに手際よく一方的に相手をやっつけるのは、初めてだそうだ』ワンサイドゲームか。それにしても、ある程度は喧嘩慣れしているはずのYAKUZA相手に、その手の訓練をした俺でも素手では、ちょっと難しいぞ、と思った
『日本には、そうした忍者がまだいるのか?』真顔で私が訊くと、I倉はいいや、という風に首を横に振った
『我々がよく知っている忍者は、もういません。しかし、どこかに隠れ住みながら、シュギョーしている者がいたとしても、おかしくはありません。この国には長い歴史がありますから』歴史ある国だということを、ことさら強調しているのはなぜだ

『そんなことはどうでもよい。それよりそのキーパーソンは、今どこに居るのか、君は知っているのか』肝心の質問の矢を放った
『K市に住んでいるらしいのですが、場所までは把握していません。ただ、県警内に親しくしている刑事がいるとか。県警でも夜露の件で、その人物を呼んだらしいのですが、上の方から指示があって、今では野放し状態らしいです』県警に親しい刑事がいるという重要情報が手に入った
『その刑事さんの名前とか、分かっているのですか?』単刀直入に訊ねてみる
『どうも、私に話をしてくれた人の部下のようですが、教えてはもらえませんでした。ところで、あなたは今回の事件を誌面でどう扱う積りなのですか』逆に質問された

『それについては、社の方針もあるので私の一存では答えられない。ただ、いろいろ親切に情報提供して頂いたので、私の個人的見解を明かすなら、どうやら日本人のある人物が、スーパーマンと忍者のコネクションを持っていて、そのことを把握している日本政府が、なにごとかを画策して、隠ぺいしているように思う』話しているうちに、それは確信に変わったが、そのことをそのまま本国に報告すれば、どのような事態に発展するかも知れないので、確証を得るまで、私の中に伏せておくべきだと、目の前の生真面目な日本人を見ながら、そう心の中で思った
『やはり、あなたは雑誌記者ではなく、A国の調査員なのですね。私も、同じような懸念に基づいて取材をしているので、本当の政府の狙いと、その日本のキーマンについてのより詳しい情報を集めますので、お国への報告は、今しばらくお待ち頂けないでしょうか。これは、お国のあの機関の庁舎の近くで学んだことのある、私のお願いです』なんと、このローカルペーパーの記者の見立ては、ほぼ正鵠を得ている。私は改めて、I倉という男の顔をまじまじと見た

『なるほど、あなたが言うように、もう少し詳しく調べたいのだが、あいにく私は、そろそろ帰国しないといけないことになっている。もし、あなたが私を信頼できるなら(…そして私もこの男を信頼するなら)、この件は今後お互いに連絡を取り合う、ということにしたらどうだろう』そう言って、私は右手を差し出した
彼は、その私の手を握り締めると『もちろんです!』と、きっぱり言ったのだ
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2018年12月16日

熟年超人の日 stage3 63

明らかに私が警戒心を顕わにしたのを見て、男(I倉)は屈託のない笑顔でさらに話しかけてきた
『私はK市で起きたある事件を追っています。そこで起きたことに関わる人物が、もしかするとこの辺りで起きた事件にも関わっているのではないかと、そんな予感に従ってこの辺りを調べているのです。あなたの雑誌社は、なにかオカルト的な事象を扱われているのですか?』なるほど、関わりがありそうな人物が向こうからやって来た訳か
『私がここの警察から聴き込んだ話では、ある人物が宇宙人のYAKUZA事務所襲撃に関わっているとか』まずは、魚が隠れていそうな辺りにルアーを放り込んでみた

『そうですか。実は私は、あのスーパーマンが県警本部にS会の金庫とデスクを運び込んだ時、あの現場に居合わせたのです。しかし残念ながら、スーパーマンが飛び去るところで、カメラを使う間もなかったのですが、何人かの目撃者から取材することはできました。ただ、KOANだと名乗る人物に口止めされたので、社にも報告できてない状態です』KOANがなんなのか、そのときは分からなかったが、後で調べると、日本のFBIのような性格を持った警察組織のようであった
『そのような重要なことを、なぜ私に伝えようとしているのですか』なにかのトラップだといけないので、自制して話しかけた

『そうですねぇ、なんで外国人の貴方に話したのかなぁ。王様の耳はロバの耳ってやつですかね』童話を引用して話すローカルペーパーの日本人記者とは!そこで、こちらから誘いをかけてみた
『英語がお上手なんですね。どちらで学ばれたのですか』
『若い時、A国に留学したことがあるんですよ。V州です』
『V、V州のどこの学校?僕もV州に住んでるんで。どこの大学?』
『ティームズ・マディソン大学、アリソンバーグの』思わずひゅ〜っと口笛が出てしまった。こんな異郷の地で近くの大学で学んだ人物に出会うなんて!
身長は6フィートに足らないが、体重は恐らく187、8ポンドくらいのその男が、急に好人物に見えて来た

『そうか、あそこはなかなかレベルが高いんだろう。なにを学んだんだい』親しみを込めて、そう尋ねた
『主に政治とマスコミの関係性ですが、こちらに帰って来てから、大手の新聞社やテレビ局を訪ねて就職を頼んだんだけど、結果は今の地方新聞社ですよ。でも、今回の事件に公安がからんだということで、僕は逆にファイトが湧いたんです』なかなか熱い男のようだ
『ということは、例のスーパーマンについて、日本政府は国民に隠しておくべきと判断したと思ったんだね』いいぞ、こんな男と出逢えるなんて、俺はついてる、と思った
『そこに、貴方も言っていた男が、スーパーマンと懇意らしいという話を4課の係長から聞いて、その上、以前この辺りであった、暴力バーで起きた事件とも関わっていそうだという話も匂わせていたんですよ』
ビンゴ!だっ。この記者からもっと大事な話が聴けそうだ

当然、このI倉と名乗った男もジャーナリストだから、ただでそんな情報を外国人の私に漏らす訳はないだろう。その隠された意図を探るべく、私は店主が持って来たスナックを食べ、もっとなにか料理を出してくれとオーダーし、ビールをI倉のグラスに注ぎ、続いてチューハイという酒を店主にオーダーした
『その男がからんだ事件、というのはYOTSUYUという店で暴れた話しかい。なんでも店をぶち壊して、その後応援に来たYAKUZAを、忍者みたいな男と一緒に撃退したとか聴いているが』ルアーを投げる
『そうらしいんだけど、忍者みたいな奴が現れたときには、その男は姿をくらませていたらしいんですよ』チューハイのジョッキを見つめながら、I倉が声を低めてそう言った
「俺も見てたけど、すごい奴でしたよ。黒装束で、ホント、ディスイズニンジャって感じで、S会の連中を、ぽんぽん放り投げたり、すっ飛ばしてね」店主が興奮した口調で、話に割って入って来た(もちろん、その時は話の内容はわからなかったが、I倉さんが後で教えてくれたのだ)
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2018年12月12日

熟年超人の日 stage3 62

L.C.から教えてもらっていた日本語は「YOTSUYUというバーを知っていますか?私はA国の科学誌の記者です。英語を話せますか?」の3つと、「スミマセン」「ドウモ」という言葉だけだった
随分心許ない話だが、その日私が探索する地区は、治安の良いこの国でも、相当YABAI(この日本語は応用性が高いということで、私のお気に入りだ)目に遭いそうな場所だと、L.C.が言っていたから、反って私の本来のやり方で情報を得られるだろうと、判断しての行動だった
もし重要な人物を見つけたら、L.C.に連絡して至急合流してもらい、件の人物からAという男の情報を入手するという、どう考えても乱暴なやり方だが、離日期限が間近に迫る中では、これしか打つ手が無かったのだ

酒を飲む人間でなければ酒を飲む場所を知らないのは、A国でも日本でも一緒だろう。まして、怪しげなバーで起きた喧嘩沙汰なら、この辺りで飲み屋を経営している者なら見てもいるだろうと、そう踏んでまだ薄明るいこの時刻に開けている店に飛び込んだ
「スミマセン、YOTSUYUというバーを知っていますか?」早速習った日本語を使ってみた
「よつゆ?知らんなぁ」カウンターの奥で、なにやら店を開ける準備をしていた男がぶっきらぼうに答えた
「英語を話せますか?」と訊ねてみると、首を横に振った後、ビール瓶を手に持って「飲む?」のジェスチャーをしてきた(ある程度英語は聞き取れているらしい)ので、うなづいてみせた

「YOTUYU知ってますか?」カウンター席に腰を掛けて、運ばれてきたビールをぐっと飲み干してから、もう一度訊いてみた
すると、なんだか分からない日本語で答えたが、こちらが分からないと両手を広げてジェスチャーすると、今度はものすごく聞き取りにくい英語が返ってきた
『知らない。そのバーこわれた。わたし、知らない』こんな感じだ
『こわれた、って破壊されたのか、それともつぶれた、と言っているのか』と英語で訊ねると、男(恐らく店のマスターだ)は『私、分からない』と英語で返事をした
そして、逆に『あんた、どこから来た。あんた誰?』と、たどたどしく質問を返して来た。これは分ったので
「私はA国の科学誌の記者です」と日本語で答える(これで覚えている日本語は出し尽くしてしまった)

「記者さん?ほんと記者さん。A国のマスコミの人?」これは、なんとか理解できたので、うなづいて「イエス」とやったら、それで勢いのついたマスターが喋り始めたので、話の内容は全く分からなくなった
困っていると、新たな来客があった
店のマスターが、その客(顔見知りのようだ)に、なにか話しかけてから、カウンター内の小さなキッチンで(恐らく)スナックを作りにかかった
『A国の雑誌社の方ですか』かなり聞き取り易い英語で、新参の客が私に声をかけてきた
『はい、そうです。私はパラノーマル・ライジング誌のレグマンをやっています』少しほっとして、思わず警戒心を解いてその客に返答をしてしまった
『そうですか、私はローカルペーパー西三新聞の、I倉と言います』よりによって、新聞社の者だと、その男は名乗ったのだ
posted by ミスターK at 11:32| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説