2019年01月27日

熟年超人の日 stage4 01

あの時から、7ヶ月が経っていた
巷のクリスマス音楽に促されるように、私も妻の巧妙な根回しと息子夫婦のお誘いで、Y市にある息子のマンションでイブの夜を祝っている
ほんの2日前には日本海側の地方都市で、大規模な昼間火災事件があって、私もK市のアパートからGスーツ装着で飛んで行ったのだが、街の上空には何機も報道ヘリや消防ヘリが飛んでいるし、そもそも火事になっている場所では、消防関係者が果敢に火災と闘っていて、どこをどう手伝えば良いのか戸惑うばかりだった
そして私は未だに、衆人環視の中で超人として活躍することに、躊躇するものを覚えていた

その大火災の前にも、二度ばかりGスーツ向きの出動のチャンスがあるにはあったのだが。一度目は、近県で開催されたG7会議に出席している、各国指導者を狙ったテロに備えて、会場近くでスタンバイしてはみたが、別に何も起こりはしなかった(まあ、広範に展開される警備体制の実態を観察できたことは、今後の役に立つかも、くらいの微小な成果はあった)
二度目は8月に日本に接近して来た台風に備えて、あらかじめ予想コースを先回りしてみたときで、強大な自然の猛威の中に身を置いていては、いかな超人と言えども、至る処で同時に発生している種々の破壊状況を、ただ傍観するのみでしかなかった
結局こういった自然災害には、私の超人力では対処できないと悟った(仮に、なんでもありだとしても、超人力が発揮できるところに居合せようがないではないか)

それでも、なにか超人として人助けをしなければならないと、影スーツで夜のパトロールなど始めてみたのだが、そうそう事件にぶつかるものではない
かと言って、以前知り合ったマスコミ関係者のDという男も、あれからなんの連絡もない
そうなると、なにかこちらからアクションを起こさねばと、人の心理としてはそうなってしまう
それで思い出したのがあのぼったくりバーのことだ
あの店は、どうなっているのだろうと、素の私が思いついた

夏の頃は昼間、普通人のAとして不動産屋が送って来る中古別荘情報を元に、現地まで車(購入したばかりのスバルの中古車)で出かけて、別荘周りの環境(なるべく周囲に人が住んでいないこと)や、シェルター設置の改造に適した物件かどうかを、チェックするのに意外に時間がかかり(超人なので疲労はしないものの)、精神的な切迫感をひしひしと感じていた
いっそ国外の紛争地にでも出かければ、超人的らしい働きも出来ようが、そこから波及していくであろうトラブルの連鎖に、自分が耐えられるか(仮に、一般市民を独裁者や暴力組織から救ったとしても、それでことは済まないことは、これまでの経験で熟知している)、常識人としては気が重い

それから、週3のペースでN市の飲み屋街に出向いたが、酔っ払いの喧嘩を2〜3回収めたくらいで、そうそう(や)にも出くわさず、まして凶悪事件にも遭遇しないまま、夜の街にもいつしか秋風が吹き始める
それでも、K市から50q程度の山間地に、格好の別荘が見つかったので、斡旋してくれた不動産屋の紹介してくれた地元の建設業者と、シェルタールーム設置の交渉に入ってはいた

そんな頃、久しぶりに県警のK刑事から電話があって、S会の上部組織のT組の対抗勢力のP連合(パシフィック連合=中国+東南アジアギャングの連合マフィア)が、私を探しているらしいと告げて来た
posted by ミスターK at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2019年01月07日

熟年超人の日 stage3 65

老人の屋敷から帰って2週間ほど経った
私はまだアパートに居たが、大家には夏が終わる頃に引っ越そうと思っていると根回しをしていたし、不動産屋に頼んで、今住んでいるK市の北の、山間地にある中古の別荘を何軒かリストアップしてもらっていた
妻には、T電から一部振込みがあったから、家を探していると言ってある(本当は老人からもらった金だが、通帳に振り込まれた額に、妻は上機嫌になり貴方の好きなように考えて、と言っていた)

また、T電のH本部長から昨日連絡があって、取り敢えず1億の半分は用意できたので、会社の口座に来週にでも振り込むことになっていると伝えてきた(老人の援護射撃があったからかも知れないが…)
様々な懸案が、やっと良い方向に向かい始めている感触に、私は少々楽観的になり過ぎていたらしい
その夜、久しぶりにジュブブの睡眠通信があった
前回の通信は、なんとなく私の行動に釘を刺していたような印象だったので、私としてはもしやご機嫌を損ねたのかと、ずっと心に屈託したものが澱のように沈んでいた

『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である』お馴染みのご挨拶とともに夢に現れた姿(夢が覚めた後には決して思い出せない姿)は、いつもの通りに感じられる
*お久しぶりです、ジュブブさん
『今回の通信は、この惑星における君の現在までの行動が、承認されたことの連絡である。すなわち、現在進行しているこの惑星固有の地域主義を受け入れつつ、超人活動を行おうという君の主張が承認されたということだ。ただし、君は当初我々が予定していた、この惑星における超人活動を極一部のみ履行すれば良いという訳ではない』
*ということは、F原発以外の事案にも積極的に関与せよ、ということでしょうか?
『その際忘れてはいけないことは、この惑星の特定勢力との連携活動は禁止されているということだ。当然、特定の人種、宗教、政治的配慮は、極力回避すべき活動と判断される』判断、とは誰が判断するのだ

*おっしゃっていることは、漠然とは理解している積りですが…、そもそもジュブブさん以外のどなたかが、私が超人になったことを把握しているということですか?
『それは当然である。官が名乗っている官職名からも、この件が当該宇宙を管轄している組織の一員であることが用意に推察できるはずである』…やっぱり
*では、承認して下さったのはジュブブさんの上位者ということでしょうか
『君の言う上位者という概念は我々の組織にはない。例えば官のみが、この太陽系を含む100光年ほどの球状域を観察していて、なおかつ現時点で活動している超人は2体で、候補体が8体であり、その管理観察記録は、官のみの職務になっている』
*その宇宙を管轄している組織って、どのくらいの規模なんですか?

『君が理解できるレベルでは数千体だが、この惑星の支配種族のカウントの方法なら数百億と認識してよい。それは、この惑星の生命体のように、分裂―結合-分裂型と異なり、宇宙文明種族の大多数が、融合―分裂―融合型か、純融合積層型であるところからきていると理解せよ』私のSF的思考が、かろうじてジュブブの意識を理解する
*ということは、私たちが珍しいタイプなので、観察してみようか的なことなんでしょうか
『その理解は、56.7%の問題把握力を示している。さらに付け加えるのなら、君がその理解力を持つことを、我々が認識したことが、今回の決定に繋がったと示しておこう』その意識を最後に、ジュブブの睡眠通信は消えた

なにやらお墨付きのようなものが与えられた気がするが、要は、このまま様子見だけしていれば良いのではなく、もっと超人らしい表立った働きもしなさい、それができなきゃライセンス返上になるよ、と伝えていたんだろうと、このところとみに柔軟度を増した私の頭脳が、そう解釈した
と言っても、普通に超人活動をするとなると、あの会社やらあの組織やら、あの国やらに対して、曲がりなりにも取り繕ってきた、私が有料受付の唯一の代理人である、という設定に齟齬をきたす恐れがある
なにせ、普通にスーパーマンが人助けするなら、無料活動に決まっているではないか
有料と無料の違いを設定してなければ、今後の超人活動によっては、一般人である私が世間の評価の対象にされるだろうし、場合によっては家族や親類縁者にまで、累が及ぶかもしれない
そう考え始めると、一気に私のテンションは下がってしまう
posted by ミスターK at 14:29| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説