2019年05月26日

熟年超人の日 stage4 10

黒い影は、外階段の出入口からふいに室内に入って来たかのように、K松の視界に現れた
本当に、外階段の方から現れたのか正確には分からなかったが、壊れた窓を背にしてデスクの前に立つK松からは、下を見に行って今戻って来た戦闘隊のオリバーと、ドラッグ販売ルート担当のミゲルの後ろに、ふわっと黒い影が立っているのが見えた
「そ、そこだ!忍者がそこにいる!」外階段の出入口を指さしながら、K松が喚いた
その切迫した声と仕草に、その場にいた全員が出入り口を振り返ったが、開けっ放しのドアの向こうは暗闇でなにも見えない

「支部長、忍者、見たのか」たどたどしい日本語で、戦闘隊副隊長のカルロが問いただす
『見た。さっき俺からメモリーを盗っていった忍者だ』なんとか英語で喋りながら、忍者というより息子の好きな戦隊もののブラックレンジャーのようだったな、と頭に浮かんだ場違いな印象に当惑する
『下の連中は見ていないか、確認しろ』戦闘隊隊長のタオが落ち着いた声で指示を出す
同国人のソンがその言葉に反応して、食卓テーブル上の内線電話で、1階の詰所にいるはずの二人を呼ぶ
まさにその時、突然黒い影が現れると、戦闘隊副隊長のカルロのそばに、すすすっと近づいて顎の辺りをジャブで払うような動きを見せた

185pはある巨漢のカルロは、一瞬ぐらっとよろめいたが、なんとか持ち堪えて脚を踏ん張ると、ホルスターのトカレフTT‐33には手をやらず、腰に着けているコンバットナイフをさっと引き抜くと、そのままの勢いで黒い影の喉元目がけて素早く振り払う
一連の攻防を茫然と眺めていたK松の目には、黒い影が一瞬動きを止めたように見えたが、喉元から吹き出すはずの血しぶきは無く、手にしたナイフを見つめて立ち尽くしているカルロの姿があった
副隊長のそんな姿には目もくれず、戦闘隊員のオリバーが影の背中にダガーナイフを突き立てる…、が素晴らしい速さで振り返った影の手がナイフを払いのけ、飛ばされたナイフは天井に突き刺さった
立て続きに起こったアクションは、室内側に顔を向けているK松だけが一部始終を見ていたが、他のメンバーはそれぞれの位置から、部分的にしか見えていなかった

カルロより少し遅れ、オリバーとほぼ同時に侵入者に反応していた戦闘隊長のタオは、二人のF国人戦闘員の動きをフォローできる位置に身を置き、常に体から離さないグロッグ17を引き抜き、両手撃ちの構えを取ろうとしているところだった
食卓の内線電話で下の二人に様子を訊こうとしていたソンは、自分の傍らを風のようにすり抜けた(のであろう)影が、いつのまにか支部長K松の間近にまで接近し、戦闘隊副長のカルロを襲い、そこにもう一人の男が飛びかかったのを見て言葉を失い、受話器を持ったまま動けなくなっていた
一度下に様子を見に行き、上の騒ぎに慌てて戻って来たミゲルは、自分より先に戻ったオリバーが黒い影に向かっていって、ナイフを跳ね飛ばされたところを目撃して、自分も武器を取りに行かなければ、と判断して、廊下を隔てた先にある武器庫に向かうべく、その廊下に出るドアに向かう

副支部長のヤンは、K松が重要な物を盗られたことの、失点の評価に気を取られていたが、続いて起こったこの騒動から距離を置いて、後の本部への報告を意識して、傍観者になろうと、できるだけ目立たないように部屋の隅に移動する
先の襲撃で気絶させられていたO島は、ちょうど蘇生したところで、目の前に繰り広げられている光景が理解できず、ソファから半身を起こした状態でぼんやりしている
下の詰所に待機していたハオとガルシアは、内線をかけてきたソンの通話が不自然に途切れ、後ろで異様な物音が続いていることに危機感を覚え、外部からの襲撃に備えガルシアを詰所に残し、ハオが非常階段から2階に向かう

その時、影である私は、大男の脳震盪を狙った打撃が功を奏せず、相手の反撃をくらったことに束の間驚いたが、続いて背後に迫ったナイフ攻撃を、すんでのところで防ぎ切って、大分落ち着きを取り戻していた
以前の、ぼったくりバーに駆け付けた(や)の連中との立ち回りが、なんというか楽勝だったことで、この手の連中との闘いを気楽に考えていた自分に対し、なんであれ暴力組織との闘いには、油断は禁物ということを猛省していた
などと、のんびり戦局の分析などしている間もなく、拳銃を構えた男の射線から外れながら、一番上位者であろう日本人の首根っこを捕らえて、大音声を発した

「さあー、皆んなストップだ。動くとこいつの首をへし折るぞ!」と脅す。日本語では全員に通じないだろうと『動くな!』と、英語で付け加えながら、大音量で命じた
本当に大きな音を浴びせられると、人は動けなくなるものだと、なにかで読んだ気がしたが、その通りで、その場に居合わせた皆が、ぴたりと動きを止めた
posted by ミスターK at 13:59| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2019年05月16日

熟年超人の日 stage4 09

体当たりで窓をぶち破って、外に飛び出した直後に反転して20mばかり上昇して、再び倉庫の屋根に取り着くと、身を伏せて下の様子に聴き耳を立てる
「俺は見たんだ、忍者だ。忍者がO島を襲った後、俺からアレをひったくってったんだ」屋根材越しに透視すると、がちっとした中年の日本人が、受話器の向こうの相手にがなっている
声の調子から、相手は目下の者のように感じたが、途中で相手が替わったようで、今度はやや哀願調を帯びた声で同じような内容を説明し始めたので、相手が目上の者だと知れた

部屋の中には、隣室から戻った男達が四人、電話のやり取りに緊張した様子で、雀卓の周りに立ち尽くしているのが透える
そこに、さらにもう一人が駆け込んで来て早口の(恐らく)C国語で、なにかまくし立て始めた
その声に雀卓の近くにいた男の一人が、似たような言葉で応答し、今度は日本語でこの場の最上位者らしき日本人に話しかける
「支部長、ソンも取引用のPCを持っていかれた、と言っている」声音は支部長と呼ばれた男に比べると冷静で、この状況を、自分の上位者の失点と捉えている様子が垣間見える

「なんだとぉ、取引用のPCもやられたぁ、ばかやろう、なんでそんなドジ踏む羽目になったんだぁ!」声の調子に、明らかに電話の向こうにいる上位者に聴かせて、自分のミスをどさくさに紛らせようという意図が透けて見える
この会話を聴いている私は、例えはおかしいが、やりなれないひったくりに成功したチンピラのごとく、心の中の若くなっている部分が興奮しているのが分かる(今回は、K刑事にいい土産が出来たようだ)
しかし、例によって本来の私が囁きかけてくる(…影バージョンの存在をこの際、連中に印象付けておくのには、いいタイミングかも知れない)

外階段をガンガン響かせながら、下に行っていた連中が戻って来る
こっちは空を飛んで逃げればいいんだから、別に気にすることもないのだが、折角なら現在の状況を今後に役立つようにする手はないものだろうか、と考える
思いついたのは、例のムササビ飛行をレベルダウンして、倉庫の屋根から屋根に飛び移りながらサヨナラすることだった。さすれば、ここの連中に忍者の侵入と思い込ませられる
それが、いずれ連鎖的に警察に伝わり、私とグリーンマンを地球人と宇宙人の関係に設定してしまったことで、Gスーツの出番は非常に限られたものになっている現状を打開できるに違いない

いざというとき、私や私の家族の危機を救ってくれる、使い勝手の良いガーディアン的な“影”という存在を、公権力、アウトロー勢力のどちらにも知らしめておくべきだ
そう考えた私は、このままここを立ち去るのことを翻意し、再度、連中の前に姿を現してもおかしくない理由を考えてみたのだが、折角逃げた“忍者”が、再び舞い戻る不自然さが、どうにも気に入らない

考えあぐねていると、日本語が耳に飛び込んで来た
「大丈夫だ、コードはわかりっこない。パソコンだってメモリーだって、それだけじゃどうにもならんさ。こいつは金庫に入れておくから、お前らしっかり見張ってるんだぞ」どうやら支部長、と呼ばれていた男だ
それで考えが決まった。じゃあ、皆さんの前にお出ましといこうか

支部長のK松は、いったいどこの組織が裏にいるのか考えを巡らせていた
対抗組織のT組と考えるのがスジだが、案外内輪の誰かが、自分の失脚を計って、あんな奴を寄こしたのかも知れない、と思うと別の筋書きも浮かんでくる
身のこなしと黒ずくめの姿から、反射的に“忍者”と言ってしまったが、中身が何国人かわかりはしない
新興勢力であるC国マフィアと、強圧派の大統領の締め付けから逃れて日本に拠点確保をしたいF国ギャング、そこにT組との抗争で敗色濃厚になっていた独立武闘派のR会が、利害の一致を太平洋圏の覇権奪取に見い出して作ったP(パシフィック)連合は、暴力によるこの国の暗黒街制覇の共通点はあるものの、三つの言語と国民性の違いが、意思の疎通を妨げるネックになっていたのだ

T組勢力圏であるN市の海岸に近い今の場所に、わざわざ設けられたこの支部が、三つの勢力の末端組織の融合化を図りつつ、同時に敵の勢力圏内に楔を打ち込む“橋頭堡”の役割を担っていることを、肝に銘じていたK松だから、今回のトラブルの重みが痛いほどわかっていた
内部の反発勢力にせよ、T組の先制攻撃であるにせよ、たとえ警察の手先であっても、こんなことで躓く訳にはいかないと、自らに叱咤する
そのK松の視界を黒い影が過ぎった
posted by ミスターK at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説