2017年08月03日

熟年超人の日 stage2 55

その展開に激しく動揺したTは、思わず銃の引き金を引く
9mmパラベラム弾が飛び出そうとして、秒速360mのスピードで私の右手の中に飛び込んだ
あの砂漠の戦闘の際にも、銃で撃たれたことはあるが、ほとんど当ったものは無く、体をかすめる程度で終始していたが、今回はまともに掌で受け止める形になってしまった
ちょっとどきっとしたが、なんのことなく手を開くと、変形した小さな弾丸がぽとりと下に落ちた

最近の(や)の準幹部らしくTもインテリ系に属していた。実は私大の経済学部の2年生のとき、父親の事業が破産したのでやむなく退学し、手っ取り早く金を稼ごうと飲食業から始め、夜の世界に転身し、そこで店支配人補佐として、経営手腕を発揮していたのをW来に見い出され、今がある。
そんなTは、自分は荒事でなく実業の世界でのし上がっていこうと思っていたが(や)の世界で、部下を思うように働かせるには、言葉でなく威圧が一番だということも学んでいた
そのため、暴力に自信のないTが選んだのが拳銃だった。それこそ太古の昔、祖先であった人類が猛獣と対抗するために作り上げた武器の使用と同じ手法であった
愛銃ベレッタ92は、いまだに各国の警察や軍隊が制式採用している銃でもあり、なによりネットで調べた安全性と、15発という装填弾数が気に入ったので、トカレフなどの安易に手に入る銃を避け、苦労して手に入れたものだった
拳銃と言う強さを所持は、Tの物言いに迫力をもたらせ、わざわざそれを見せなくても、獣に似て相手の危険度を察するこの世界の人間は、表面従順に従うようになり、T組の中での出世株W木の引き立てもあり、7年前のS会発足以来、Tの地位は順調に上がっていた

目の前の緑色の、のっぺら坊の巨人に正対した時、その迫力に押され、反射的に取り出した最後の手段の拳銃が、役に立たなかったことが衝撃だった
「Aに害をなそうとしているお前たちは、駆除されてしかるべき存在である。よって、私はその目的を果たす」巨人は、のっぺりとした凹凸の無い仮面を被っていて、その声がどこから出ているのか分からないが、とにかくTの耳に、深い声が聴こえる
「な、なんなんだ、お前はー!」かろうじて振り絞った声が、自分にも聞き苦しいかすれ声だったのが、他人事のように聞こえる。俺は、こんなに取り乱す男だったのかと、もう一人のTがあきれている

「私は恩義のあるAから、彼の家族を守るように依頼を請けた。私の情報ネットによれば、彼の家族の所在地を調べる動きを辿ると、お前とこの組織が元凶だと結論したので排除に来たという訳だ」
「な、なにを言ってやがる。俺たちがそんなことしてるっていう証拠でもあるのか」かろうじて言い返す
「お前たちの規範になる法律的な証明は、私には必要ない。やっている元凶がお前たちだと結論できたので、排除することにしただけだ」目鼻の無い、つるっとしたマスクの向こうに隠れている顔(があるとすれば)は、いささかも躊躇することのない、厳正な存在だとTは知った
「は、排除って、どうするんだ、俺たちを…」声がかすれる
「今回は、お前たちの星の法律で解決する」と、言ったとたん、どんとTの胸もとを片手で突く
それだけでTはW木のデスクを越えて、窓際まで吹き飛ばされる

ヤスコーは、通路に転がっている兄貴分のケンコーを気遣いながら、組事務所で起きていることの成り行きから目が離せなかったが、若頭のTがピストルを出したと見えた次の瞬間、バンと銃声がしてその後は、なにも起きずに、Tと緑色のマントの男(こいつはスーパーマンだ、違いない)が会話をしていたようだったが、それも束の間で、Tが向こうに吹っ飛ばされたのを見た
こりゃ、もう駄目だ。それに今の銃声や怒声や兄貴たちが吹き飛ばされた音で、このマンションの住民の誰かが警察に連絡するだろう。そうなったら、俺らは捕まってブタ箱行きだ!
ヤスコーは、ケンコーに声をかけて、いったんこの場は逃げようと告げると、開けた右肩でケンコーの体を支えて、二人でよろよろ歩き出す

私と言えば、そこらに転がっている(や)連中には目もくれず、さっき見つけた隠し金庫のある壁に空手の貫手のような感じで、手を突っ込むと、金庫を引っ張り出す
RC造のマンションではあったが、その壁は後で造作した石膏ボードだったのでとても脆く、金庫はかなり大型なもので100sほどありそうなものだったが、片手で掴んで引き出すと、簡単に引き出せた
扉部分から中を透視して見ると、書類のようなものや、更になにか入っているような箱状のもの、恐らく百万円の札束が2つ入っている。恐らく、この組にとっての必要な物、知られたくないものだろう
これを、警察署の前に置いていったら、何かの役に立つだろう、そう思いながらまだ他にないかと室内を見廻すと、立派なデスクが目につく
そのデスクに手をかけて持ち上げて、中を透視するとこっちにもいろいろ入っていそうだ

緑の巨人に思いっ切り突き飛ばされて、窓際に転がっているTは、少しずつ体を動かしてみて、怪我の程度を推し量っていたが、巨人が金庫を壁から引きずり出し、続いて組長のデスクを片手で軽々持ち上げて、眺めているのを見て、肝をつぶした
巨人の注意がデスクにいっていると見て、そっと動き出すと寝室のドアに上半身を突っ込んで、動けないS原の近くに転がっている日本刀に手を伸ばす
驚いたことに巨人は窓枠に手をかけると、めりっと外して部屋の中に放り出す。外気が部屋に吹き込む
右手でデスクを持ち上げると、左手で金庫を小脇に抱え込むと、窓枠ごと外されて宙の見える窓際に歩んでいく
そのがら空きの背中目がけて、日本刀を振りかぶったTが気合を込めて切りつける
その瞬間、巨人はデスクと金庫を持って、3階から宙に飛び出していたので、切っ先は空を切っただけ。勢い余って、外に飛び出そうになって危うく窓際で踏みとどまったTの耳に、近づくパトカーのサイレンの音が徐々に大きくなってくるのを聞きながら、なんであんなオヤジにスーパーマンみたいな助っ人がいるんだ…と結論の出ない問いが渦巻いていた
posted by ミスターK at 16:13| Comment(1) | TrackBack(0) | SF小説
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Posted by つねさん at 2017年08月11日 13:47
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