2018年06月10日

熟年超人の日 stage3 44

「それなんですが、実はうまくいっていないんです。つまり、社内の意見統一がまだ出来ていないようでして…」本当のところ私は困っているから、つい本音が出てしまう
「そうか、T電の今の社長はN見山だったな。あいつは収束派だったと思うが、このまま金を遣っていてもらいたい連中も多いようだからなぁ。そこへ持って来て、政府内でも今回の件では、意見が分かれているから、Aさん、これはこのままだと、時間が掛かるな」前半はT堂に確認するように話しかけながら、後半は私に言い聞かせている
「そうですか…。まあ、そうだろうな、とは思っているんですが」とにかく、大きな案件を推進しようとすると、大会社ってやつは、その案件の良否より、その賛否が自分にどう跳ね返って来るかの、判断を優先するから、必ず組織内でもめる。これは、人間社会の宿命みたいなもんだな、と思いながら、自分がそんな風に考え方をしていることに少なからず驚いてもいる

「お困りなら、わしから一言いってあげても良いのだが、Aさん、あんたはそれを望むかな?」気が付くと、老人は眼を伏せて、なにか考え事をしているような調子で、ぼそぼそそう言う
「は、そうですね、どちらにしても、進展してくれないと。いつまでもグリーンマンさんを待たせておくのもなんですからねぇ」どうやら政財界に影響力のありそうな人物だと確信した私は、ここが突破口だと判断し、お願いしてみることにする
「なら、あんたを信用させて頂こう。どうかな、そのグリーンマンやらいう宇宙人を、わしに逢わせてくれんかな」おっと、そう来たか、と私は緊張する。この話しの流れでは、今、ここに呼んでくれ、と言われかねないし、そうなると一人二役が露呈してしまう

「ええ、そうですねぇ、お逢い頂けるように計らうことは可能なんですが…。なんでも彼は、第13星系区管理官とか言って…、いやこれはテレパシーと言うんですか、頭の中に浮かんだ彼の説明ですが。そもそも、その任務中にこの地球でトラブルにあったところを私が…」ちょっとしどろもどろになる私
「それで、あんたが助けてやって、その宇宙人が恩義を感じた、という訳なんだな。では、そのテレパシーであんたは今ここで、その宇宙人と連絡が取れるのかな?」見た目、80才くらいに見える痩せた小柄な老人が、驚くべき頭の回転を披露して、私を追い込んで来る
「え、ええ、やれますけど、今、地球に近いところにいるかどうかは、分かりませんけど。いいですよ、やってみます」テレパシー中を他人に見せたことは、ない(って、できないし)ので、どんな風にすればいいのか一瞬迷ったが、要は心ここに非ず的なところを見せればいいだろう、と腹を括った私は、どうせならこの老人の屋敷を周囲偵察で存分に視ることにする

そこで分かったのが、この屋敷の四方に配置されているトーチカのような建物は、地上3階地下3階の構造で、地下2階同士はそれぞれ通路があり、いずれもこの屋敷と通路で結ばれていること。この屋敷も純日本風建築の外見ではあるが、やはり地下2階まである構造になっていること。4つのトーチカの地下3階は、発電機や空調などのそれぞれ独立したライフラインを構成していて、この屋敷が相当強大な軍事力で攻撃されても、かなりな時間耐え得ることなどである
その間の私は多分、虚ろな表情をしていたのだろう、周囲偵察を終えて意識をこの場に戻すと、興味深そうに私を眺めている老人と、T堂氏、そして例の和服のきれいな女性の少し心配そうな眼差しがあった

「すみません、随分遠くにいるみたいで、今やっていることを中断して地球に来ることにしても、明日になってしまうということですが…」と、適当に答える
「ふーん。あんたがテレパシーをするというのは、本当なんだな。確か以前会った、ワイなんとかいう科学雑誌の編集長の、話の通りだった」老人の瞳が活気を帯びて輝く
「では、明日ということで。N絵、Aさんに夜食とお泊りの支度を」それだけ言うと、老人は組んでいた胡坐を解いて、いとも静かに立ち上がると、部屋の横手から出て行ってしまう(よいしょも、どっこいしょの掛け声も無くである。なんだかこの老人の方が超人だな、と感じ入る)
「それではAさま、こちらにどうぞ」若く美しい女性の声に、素直に従って廊下に出る。入って来た玄関側に戻りながら、左側に立派な日本庭園があることに気付く。二間ほど過ぎて通された部屋は、畳敷きに食卓と椅子がセットされた和様折衷な設えで、ここが食堂の間なのか、と思う
その時、部屋の壁の柱時計がボーン、ボーンと鳴り始めた。見ると長針と短針が重なり12時を告げている
posted by ミスターK at 14:52| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説
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