2018年08月11日

熟年超人の日 stage3 54

「おぬしなら、この日の本の命運を預けても大丈夫そうだ。きっと、宇宙人と上手くやりながら、この国を守ってくれるだろう」真顔になるとそう言い、T堂氏に軽く合図をする。はっ、と頭を下げて、T堂氏が高価そうな黒のビジネスバッグを、私の目の前に差し出す
「なんでしょうか、これは」まさか、札束が入っている?慌てて透視してみると、案の定札束だ。恐らく、2千万円くらい
「御察しの通り、軍資金だ。持って行ってくれ」と、言われても、はいそうですか、とはいかない
「いやぁ、こんな大金、持って行ってくれ、とおっしゃられてもねぇ」もらってしまったら、もうこの老人に頭が上がらなくなるに決まってる

「そうか、だが、おぬしがT電からもらう金だって、同じだろう。それに、税金で半分近く持ってかれるから、たいして残らんぞ」…そうか、税金がかかるか。そうすると1億振り込んでもらっても、実質5千万くらいしか使えない。それから先も、なにやかやと詮索されたり、恩に着せられたりもするだろうし、原発デブリを片付けてから後も、Gを使う話が持ち込まれそうな気がする
「そんな顔をするな。おぬしは、口利き屋として大きな顔をしていればいいんだ。ただ、これからおぬしを利用しようと寄ってくる輩に迷わず、日本のためになることだけを、あの宇宙人に頼むとして欲しいのだ。この金は、そんなおぬしが目先の金で動かなくて済むよう、わしからの寄付金だ。どうか受け取っておいてくれ」とは言っても、この金を受け取ればこの老人には借りが出来るが…
結局Gを別人格にして、家族を守る金を得ようとした私が、背負わなければならない宿命なのか

「私個人は、これまでお金を得るために働いてきた人間です。別にそのことを、引け目にも思っていませんし、お金で私が引き受けてしまったことでも、Gの基準に照らしたとき、出来ないと断られることがあるかも知れません。そうなったら、私は依頼主にどう対応すれば良いのでしょう」このところ、胸につかえている疑問を老人にぶつけてみた
「別にどうということはない。おぬしの役目は宇宙人に伝えればよいだけだ。気になるなら、口利き料と成功報酬を分ければ良いだけだ」…なるほど
「まさかおぬし、金をもらうことに気が咎めてはいないだろな。金は、遣い方で値打ちが決まるものだ。遣い主の値打ちもな。おぬしが、後顧の憂いを出来るだけ少なくせんが為に要る金なら、活き金になる。さすれば、外国から茶々を入れられても、安心して信じることができる、というものだ」…少し勘違いがあるのかも知れないが、老人の言うことは筋が通っているように思える

「分かりました。これからは、そう考えるようにします」で、この金はどうしよう
「そろそろ帰らねばならぬ頃合いだな。T堂、車の用意を。それから、この金は持って行ってくれ。無税の金は便利だが、気はつかってな」もう、もらうことは、決まってしまったようだ。まあ、いいか
「では、折角ですので頂いて帰ります」と、頭を下げてから、バッグを掴んで立ち上がる。まったく軽いのだが、札束入りの革製バッグならそこそこの重さになるはずなので、そこは演技力でカバーする
「その金は、わしからの寄付だから、気にせず使ってくれ」…、と補足するところをみると、気に留めておいてくれ、という意味なんだろうな

心底無口な若い男の運転する日産センチュリーで、新幹線の三島駅に送ってもらう。1時間ちょっとのドライブの間、頂いたバッグをチェックさせてもらう。もちろん、爆弾などは仕掛けられてはいなかったが、超小型のGPS発信機が付いている
外してしまおうかと思ったが、こうして大金を預かり、今後もなにかと気にかけてもらった方が良さそうなので(どのみち帰る先も分かっているだろうし、別にこのバッグの所在地など秘密にする必要もないし)、そのままにしておく
これからは、どこに出没するにも一般人らしいアシが欲しいのだから、この金の一部で車でも買おうか(以前持っていた車は、タウン誌の会社をたたんだ時に売り払って、それ以来マイカーはない)。そう考えると、なんだかわくわくするが、金のことを妻にはどう説明したらよいものか…
posted by ミスターK at 17:01| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説
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