2019年04月04日

熟年超人の日 stage4 07

当初考えていた通り、これは最初に、邪魔な全体監視カメラを排除することにした。取りあえず向こうの倉庫に飛び移り、こちら側を監視している、隣りの大きな倉庫の屋根上にあるカメラを片付けよう
この暗闇なら、まず見えないはずとは思ったが、念のため超人眼を凝らして件のカメラを精査するとカメラの横に赤く光っている茶筒状の器具が見える。試しに、感知波長を変えて視てみると、そいつからかなり強力な赤外線が放射されている
赤外線LED暗視カメラというやつだ。恐らく、倉庫の周囲を含めての全域を撮っているのだろう。もし、襲撃があった場合、倉庫側からの画像だけでは把握しきれないような、襲撃者グループ全体的の動きや、装備、構成人数などまで把握監視し、もし敵に倉庫を奪取された際には報復資料して活用、反撃するのに使うのだろう

ならば先ほど、この倉庫の屋根に降り立ったところも、録画されていたか思ったが、カメラの向いている角度からすれば、今いる位置は視界に入っていないはずだと判断
そこで、一旦上空に飛び上がってから滑空して、隣りの倉庫の屋根のカメラの死角にそっと着地する

まず赤外線LEDを故障させることにしたが、直接赤外線LEDを破壊してしまうのは、短絡的すぎるから、できるだけ、故障と思わせたい
ふと思いついたので、赤外線LEDと監視カメラの後部から出ている電源コードを摘んで、重力波を意識しながら、くっくっくっと指先の摘む力を強めたり弱めたりしてみる
…と、案の定と言うべきか、思いのほか簡単に赤外線LEDの放射が止まった。やはり、電流と重力波はなんらかの干渉作用を起こすようだ

まあそれはそれとして、じゃあ登場と行きましょうか、と心で呟いて行動を起こそうとしたその時『いいのか』と、誰かが囁いた気がした
その囁いたのが誰か、ということよりも、確かにここは考えるべきだぞ、と本来の熟年の私が影スーツの私を諭す
今夜、このP連合のアジトを襲撃すると決めた理由がいまいち確立できていない。なにか、腕試しに来た感が大きいのだ
目的がはっきりしない広告キャンペーンが、上手くいったためしはない。そもそも、K刑事からの情報でやってきただけなので、まずはP連合という(や)組織がどんなものなのか、目で見て確かめてやろう程度じゃないのか。じゃあ、どうしたものか

こんなところで迷っている自分が、急に馬鹿馬鹿しく思えて、影マスクの裏で思わず笑ってしまった
そもそもP連合という組織は、パシフィック連合を略した名前で、日本の新興(や)とC国マフィアの連合に、最近ドラッグ売買で闇の勢力争いに参入して来たF国ギャング、さらにその背後にいる北米のM国ギャングが、日本の裏社会の覇権争いに参戦してきたんだと、K刑事が教えてくれた
A県警としては、首都圏で抗争を活発化しつつあるP連合は、ただでさえ手を焼く丸暴対策が、A県にも拡大し兼ねないことが、頭痛のタネのようだ

それに乗ってしまった私も、お人よしの極みだが、結局正義の味方の超人(と繋がりのある)いち日本人としては、なんらかの働きも見せておいた方が、後々良いのでは、という判断を下した
そこまで考えを進め、納得しての行動をとなった。
そして、折角の影スーツの本格デビューなので、今回の目標は、このアジトにあるパソコンと、金庫の中にある(であろう)P連合の活動内容の奪取と、なにか証拠的な物があったら、それを頂いてK刑事にプレゼントするとしよう(できたら、ここの連中が気付かないうちにそれができるとさらに良し、としよう)

*

倉庫の2階は、12人分の2段ベッドがある部屋、武器庫とその奥に監禁室、真ん中の通路を挟んでモニター類をチェックできるコントロールルーム、その隣に幹部の部屋、1階はトラックが入ることが出来る倉庫スペースと、荷受け用の事務所区画になっている。この時刻、ベッドで寝ている夜中から明け方までの見張り役の二名を除く、十名が活動していた
幹部室では支部長のK松と副支部長のヤン、戦闘隊長のタオ、K松の護衛役のO島の四人が麻雀をしている
その横の食堂テーブル兼会議テーブルの周りの椅子に、戦闘隊の副長カルロと、戦闘隊員の二名が備え付けのテレビで洋物DVDを観ている

幹部室には、幹部用のベッドが4台あって、その権利者のもう一人、データ管理担当のソンはコンピュータエキスパートのミゲルと隣室のコントロールルームで、それぞれの上部組織の上位幹部の噂話をしながら、モニターチェックに目を光らせていた
2階の残った1室、武器庫とその奥の監禁室には人気はなく、残りのC国、F国の二人は1階の倉庫事務所でビールを飲んでいる

ミゲルが極秘メールの着信を確認して、暗号照合をしている間、ソンはそれとなくその画面を視界に収めていたが、ふと視野の片隅に、12台あるモニター画面の中に変化を感じた気がした
改めて注意を向けると、この倉庫全体をモニターしている隣りの倉庫の屋根上のカメラが機能していない
即、卓上の内線で副支部長のヤンに一報を入れるため、幹部室をコールする
ヤンは、自分の手牌の中から中(チュン)を2枚落としするか、順子(シュンツ)を崩すかの難問に遭遇していたため、食堂テーブルにいた部下が、副支部長席の受話器を取って自分を呼んだことに微かな苛立ちを覚えた

他の三人に合図して手牌を倒すと、自席に行ってやや不機嫌な声音でソンの電話に出る
『なにかL番カメラが故障したようだ』広東なまりの英語で、他の三人に言うと、念のため下の誰かに、隣りの倉庫の屋根を確かめるように言え、と言って受話器を置くと、思い直したように副長のカルロに、目で合図する
DVDを観ていたカルロは、電話を取ってヤンに渡した男に、F国訛りの強い英語で『下の奴がちゃんと見に行っているか確認しろ』と命じて、そのまま佳境に入った画面から目を離さない

その時、私はアジトになっている倉庫の屋根に移って、どこから中に入るか迷っていた
なまじ簡単な造りの倉庫の建物は、壊して入るならお茶の子だが、中の人間に気付かれないように侵入するのはかえって困難に思えた
影スーツがあっても、空き巣狙いのような侵入方法には疎いことは、中身の私のクオリティだから仕方がない
迷っていると、中でなにやら動きがあり、恐らく故障したかも知れぬ外のカメラの具合を、確認しろという連絡を大声でしている(妙な外国語だが、英語交じりなので見当がついた)

倉庫の1階のシャッター脇の扉が開いて、男が一人顔を突き出した。同時に、屋根の上の四隅のカメラと、鉄条網の柵の四隅にあるカメラが活発に動き始めた
柵の四隅のカメラは、外に向かって10度ほどの角度で首振り運動をしているだけだが、屋根の四隅のカメラはほぼ270度の可動域があるようで、うっかりすると撮られてしまうかも知れない
こちらにカメラが向く前に、屋根の端から2階への入口の上の壁に、吸い付くように移動する(やもりのように)

そのとき、その2階出入り口の扉が開いて、非常階段に人影が現れた
posted by ミスターK at 17:47| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説
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