2019年04月19日

熟年超人の日 stage4 08

こいつはなにか武器を持っているようだ。周囲偵察能力が一気に活発化し、倉庫全域に散在する人間の位置が脳裏に浮かぶ(下の階にいる者はぼんやりしたものだが)
反応は電子機器と武器の二通り(武器も携帯などの電子機器も反応は過去体験している)感じるが、武器を持っている者は今のところごく僅かだ

2階出口の上には、壁からひさしが付き出しているので、そっとその上に移動する
すぐ目の前に2階の部屋から出て来た男がいる。こいつをなんとかしようか、と一瞬考えが浮かんだが、残念ながらその先の展開が見えない
私が逡巡しているうちに、男はなにか大声を出しながら、鉄階段を慌ただしく下りて行った
壁越しに部屋の中を窺うと、12〜13あるモニター画面を二人の男が分担して注視しているのが見える。その奥の部屋だろうか、ややぼんやりしてはいるが、四人は変わらず麻雀に熱中しているし、部屋の仕切りの影にテレビを観ている男が一人

誰もこの2階の出入り口に注意を払っていないことを確認して、ゆっくりドアが閉まる前に素早く、するりと部屋の天井に滑り込む
体色は一瞬で天井の石膏ボードの色と模様に変わっている
超人になる前、68sあった私が、天井に張り付いていられるのが不思議だが、重力を操る感覚には慣れている
ただ、いくら保護色でも目の前で動いたら、分かってしまうだろう、と判断した私はじっと天井からモニターを眺めている二人に神経を集中して、次の動き出しのタイミングを計ることにした

ふと、いい考えが浮かんだ
あまり練習してはいなかったが、例の腹話術をやってみる気になった
『△◆☆‖ДИ〇↑ー!』言葉は分からなかったが、さっきの男が叫んだ声色で、少し開いた状態のドア辺りから聞こえるように呼んでみた
その声にモニターを見ている二人が、びくっと反応した
上司らしい方が口早に、もうひとりの男になにか言いつけると、戸口に向かった部下をおいて、自分は隣室に何事か注意喚起の声をかける(視線は幾つもあるモニターを素早く巡回させつつ)
テレビ画面を観ている大男は私の腹話術にも反応せず、相変わらず画面の進行に夢中だ

その瞬間、よし今だ、と即断
最大速度で、天井からモニター画面のある壁面から離れたデスク上のノートパソコンを引っ掴み、電源コードを引き抜いて腹部にあてがって、再び天井に跳び付いてそのまま貼り付く(その間およそ0.7秒)
こんな急激な運動をしても、ほとんど心拍呼吸に変化は起きないのが超人の超人たる所以だ
だが、その微かな空気の動きを感じたか、モニターを眺め廻していた男の動きが止まった

なにか空気のそよぎを感じたソンは、その感覚をたぐるように視線をモニターから室内に移す
なんの変化もないように見える室内の光景を眺めていく視線が止まり、なにか神経に引っかかったものを探す
ソン専用のデスク上のPCが消えている
一瞬、自分がどこかに移動させたのか、と自問自答し、デスク上にだらしなく延びている電源コードに気付いて、心臓の血が一気に脳に吹き上がった
『おい、誰か侵入者がいるぞ!』そう隣室に声をかけながら、デスクの引き出しから拳銃を取り出し、改めて室内を見廻す

戸口で聞こえたミゲルの声と、ソンの最初の警戒の声を聞いた時は、DVDの画面から目を離さなかった巨漢カルロは、ソンが発した二度目の声に瞬発的に反応して、ショルダーホルスターから拳銃を引き抜くとモニタールームに飛び込み、猟犬の目で室内を捜索する
影は、ソンのかけた声に隣室が反応して、どやどやっと人が動き出すのを見て、一瞬天井に張り付いたまま静止したが、すぐに部屋の隅のやや薄暗くなっている壁に移動すると、その後大胆にも、各国語で喚きながら次々に男たちが出てきた後の、隣室に移動した

その幹部室では支部長のK松が、腹心のO島を従えて支部長専用デスクの引き出しから何かを取り出しているところだった
支部長席の後ろが窓になっていることを確認した影は、一瞬でボディガードのO島に近寄り、鳩尾(ミゾオチ)を強く突く。続いて、うっ、と呻いて前かがみになるO島の顎を、素早いフックでかすめるように撃っておいて、脳震盪を起こしたO島が崩れ落ちる様に、声もなく立ち尽くすK松の手の内から、その手に握りしめている物をひったくる
驚愕の表情のK松が、すぐ我に返って引き出しの奥の拳銃を取り出した時には、影は体当たりでぶち破った窓ガラスの向こうの闇の中に、飛び出した後だった
posted by ミスターK at 12:02| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説
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