2019年05月16日

熟年超人の日 stage4 09

体当たりで窓をぶち破って、外に飛び出した直後に反転して20mばかり上昇して、再び倉庫の屋根に取り着くと、身を伏せて下の様子に聴き耳を立てる
「俺は見たんだ、忍者だ。忍者がO島を襲った後、俺からアレをひったくってったんだ」屋根材越しに透視すると、がちっとした中年の日本人が、受話器の向こうの相手にがなっている
声の調子から、相手は目下の者のように感じたが、途中で相手が替わったようで、今度はやや哀願調を帯びた声で同じような内容を説明し始めたので、相手が目上の者だと知れた

部屋の中には、隣室から戻った男達が四人、電話のやり取りに緊張した様子で、雀卓の周りに立ち尽くしているのが透える
そこに、さらにもう一人が駆け込んで来て早口の(恐らく)C国語で、なにかまくし立て始めた
その声に雀卓の近くにいた男の一人が、似たような言葉で応答し、今度は日本語でこの場の最上位者らしき日本人に話しかける
「支部長、ソンも取引用のPCを持っていかれた、と言っている」声音は支部長と呼ばれた男に比べると冷静で、この状況を、自分の上位者の失点と捉えている様子が垣間見える

「なんだとぉ、取引用のPCもやられたぁ、ばかやろう、なんでそんなドジ踏む羽目になったんだぁ!」声の調子に、明らかに電話の向こうにいる上位者に聴かせて、自分のミスをどさくさに紛らせようという意図が透けて見える
この会話を聴いている私は、例えはおかしいが、やりなれないひったくりに成功したチンピラのごとく、心の中の若くなっている部分が興奮しているのが分かる(今回は、K刑事にいい土産が出来たようだ)
しかし、例によって本来の私が囁きかけてくる(…影バージョンの存在をこの際、連中に印象付けておくのには、いいタイミングかも知れない)

外階段をガンガン響かせながら、下に行っていた連中が戻って来る
こっちは空を飛んで逃げればいいんだから、別に気にすることもないのだが、折角なら現在の状況を今後に役立つようにする手はないものだろうか、と考える
思いついたのは、例のムササビ飛行をレベルダウンして、倉庫の屋根から屋根に飛び移りながらサヨナラすることだった。さすれば、ここの連中に忍者の侵入と思い込ませられる
それが、いずれ連鎖的に警察に伝わり、私とグリーンマンを地球人と宇宙人の関係に設定してしまったことで、Gスーツの出番は非常に限られたものになっている現状を打開できるに違いない

いざというとき、私や私の家族の危機を救ってくれる、使い勝手の良いガーディアン的な“影”という存在を、公権力、アウトロー勢力のどちらにも知らしめておくべきだ
そう考えた私は、このままここを立ち去るのことを翻意し、再度、連中の前に姿を現してもおかしくない理由を考えてみたのだが、折角逃げた“忍者”が、再び舞い戻る不自然さが、どうにも気に入らない

考えあぐねていると、日本語が耳に飛び込んで来た
「大丈夫だ、コードはわかりっこない。パソコンだってメモリーだって、それだけじゃどうにもならんさ。こいつは金庫に入れておくから、お前らしっかり見張ってるんだぞ」どうやら支部長、と呼ばれていた男だ
それで考えが決まった。じゃあ、皆さんの前にお出ましといこうか

支部長のK松は、いったいどこの組織が裏にいるのか考えを巡らせていた
対抗組織のT組と考えるのがスジだが、案外内輪の誰かが、自分の失脚を計って、あんな奴を寄こしたのかも知れない、と思うと別の筋書きも浮かんでくる
身のこなしと黒ずくめの姿から、反射的に“忍者”と言ってしまったが、中身が何国人かわかりはしない
新興勢力であるC国マフィアと、強圧派の大統領の締め付けから逃れて日本に拠点確保をしたいF国ギャング、そこにT組との抗争で敗色濃厚になっていた独立武闘派のR会が、利害の一致を太平洋圏の覇権奪取に見い出して作ったP(パシフィック)連合は、暴力によるこの国の暗黒街制覇の共通点はあるものの、三つの言語と国民性の違いが、意思の疎通を妨げるネックになっていたのだ

T組勢力圏であるN市の海岸に近い今の場所に、わざわざ設けられたこの支部が、三つの勢力の末端組織の融合化を図りつつ、同時に敵の勢力圏内に楔を打ち込む“橋頭堡”の役割を担っていることを、肝に銘じていたK松だから、今回のトラブルの重みが痛いほどわかっていた
内部の反発勢力にせよ、T組の先制攻撃であるにせよ、たとえ警察の手先であっても、こんなことで躓く訳にはいかないと、自らに叱咤する
そのK松の視界を黒い影が過ぎった
posted by ミスターK at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説
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