2019年08月14日

熟年超人の日 stage4 15

「Kさんは、なんだかどっしりしてきましたねぇ」
「いやぁ、もうじき親父になるんで、貫録アップ中なんだわ」
「そうか、そう言えば以前お会いしたときに、年内くらいにパパになるっておっしゃってましたよね」如才なく話を続けるDの面持ちにも、なにやら余裕が垣間見えることにKは気付く
「Dさんも、いいことあるんじゃないの?」さらっと、カマをかけてみる
「いやぁ、分かっちゃいます?僕も、そろそろ幸せになっても良いかな、なぁ〜んて思っちゃったりしまして、ですね」

「そうか、ご結婚のお相手を絞り込んだ、ってとこかな」
「ピンポーン、当りです。さっすが、推理力も半端ないっすね」会話でじゃれあうばかりで、お互い本題に入れない二人ではあった
「ところで、どうですか最近のA氏とグリーンマン氏の動向は?メールの行間から読み解くと、進展があったと判断したんですが」
「当りだわ、それ。新顔、と言うか、また出たんだ『夜露』事件の忍者野郎が。しかも、今度はAの用心棒役ってことなんだわ」一気に結論まで喋ったK刑事の様子に、Dは驚いた。
なぜ、秘密じゃないんだ、そんな重要な話が

「そうなんだ、あのときのなんとかレンジャーのことでしょ、忍者って」
「本人が“忍者”って、言ってるんだよ、にんじゃだって」
「本人のネーミングか。ちょっと古いな、語感が…」
「そりゃ、定年退職者の言うことなんだから、いま風のネーミングって訳にもいかんだろう」
「しょうがないっすよね、本人曰くなんだから。それで、その忍者が…」
「今度は、外人マル暴の事務所をひとつ、ぶっつぶしてくれたんだわ」
「そりゃすごい。県警、大助かりってとこですね」

「まあな。その忍者さんが気が効いていて、いろいろ大事なモノを、持って来てくれたんで、ウチらも助かったことは事実だよ」
「で、その忍者さんは、Aの相棒ですか、家来なんですか?」
「その辺はよく分からんが、ご本人さん曰く、Gが寄こしてくれたボディガードなんだそうだ」
「ボディガード?宇宙人がボディガードを付けてくれたって!…それ、ホントですか」
「まあ、本人はそう言ってたよ。なんだか話が、変になってる気がするけどな」目の前のコーヒーを見つめて、そう言うKの声が少し沈んでいる

「それは、Aさんが話を作ってる、ってことですか」
「う…ん、じゃないかと俺には思えるんだ。だってそうなると、宇宙人のGが事故ってたとこを、Aが助けてやったから、Gがその恩を返そうとAの頼みを聞いてくれるという話も、裏があるんじゃないかと…」
「…疑いたくなる、ってことですね」
「まあ、嘘は吐いてないにしても、後出しだってことが、引っかかるんだな、どうも」
「すると、A氏の話も若干、か多めか分からないけど、その忍者さんが一体どこから湧いて出たのか、そいつが問題なんですね」

「じゃあ、いい手があります。今度、ウチの局で“巷のウワサを掘り下げろ!”って番組がスタートするんで、そこにAさん、呼んじゃいましょう」Dの語り口が熱っぽくなった
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2019年08月03日

熟年超人の日 stage4 14

メールは、TテレビのリポーターDからのものだった
〈おひさしぶりです 今日の企画会議で久々に黒レンジャー(N市の飲み屋街で暴れた怪人)を取り上げることになりましたので お伺いしたいのですが、ご都合はいかがですか?〉
背の高い、快活なDの笑顔が思い浮かび、明日の夜ならOK、と返信しようとして、ふと指先が止まった
Dに教えたいことがあるにはあるが、今のタイミングでマスコミ関係者にリークするようなことになって良いのか。公安のD田警視とAのことが脳裏を過ぎる

マスコミの連中は、一旦知りたいネタの匂いが嗅げれば、すぐに走り出す習性があることは、Kも先刻承知だったが、グリーンマンがエフワンで大きな力を見せたことを知っているKから見ると、その後すっかり立ち往生している現状に、憤懣やるかた無いところでもあった
恐らく、政治やカネやの利権争いで、にっちもさっちもいかなくなっているのだろうが、困っている現地の人たちのことを思うと腹が立つ。所詮一地方公務員の、それもぺいぺいの自分にはどうすることもできないと、このところ切歯扼腕状態になっていたKにとって、Dからのメールは天の啓示にも思えるものだった

このタイミングで、グリーンマンとの連絡役のAに“忍者”というもうひとつの影の力があることが判明すれば、今回の原発廃炉の一挙解消を妨げている複雑な利害のベクトルに、なんらかの変化が起きるのではないか
ただ、このことをD田の耳に入れれば、間違いなく極秘扱いにするようにと、命じられてしまうだろう。いやそれより、Aとマスクマン(黒レンジャーはないな…)のつながりについて、より詳しい報告を求められるのは必至だ
そのことと、俺から“忍者”の存在が漏れたと知ったら、Aはどう思うかも気がかりだった
いや、なぜAは俺に“忍者”というガーディアンがいることを教えたのかも、ひっかかっている

もしやAも、進まぬ現状に苛立ち、新たな突破口を与えるべく、その役を俺に振ったのだろうか
すると、“忍者”がP連合の存亡に関わる重要機密の奪取を、いとも簡単にやってのけたことこそが、F原発の廃炉をめぐる様々な組織や黒幕の存在についても、好きなときに白日の下に晒し得るぞ、というAからの警告なのではないだろうか
もし、そうでないとしても、脛に傷持つ者たちには、大いに脅威として受け止めるに違いない。と、そこまで考えを巡らせたKは、もう躊躇することなく、Dのメールに返信すべく、スマホに『明日の夜8時、例のマンガ喫茶で…』と打ち込み始めた

DがKからの返信メールに気付いたのは、翌週の『昼報ですよ…』の企画会議が終わってからの、ノミニケーション(メインMCのO倉がこの呼び方をする)会場・焼き鳥屋『こけ結構』で、トイレに立ったときだった
文面を読んで、よし!と思わず声が出た
急いで番組スタッフが飲んでいる小部屋に戻り、2杯目のチューハイに手を伸ばしかけたO倉に耳打ちをする
「そうか」と言って、Dのスマホのメール画面に目を通すと「うまくやれよ」と言って、Dの肩を叩いた
この仕草は、O倉が機嫌の良いときにしか出て来ない動作だと知っているDは、嬉しそうに頭を下げ、テーブルの向かい側に座っていたサブキャスのT場絹代も、さりげなくその様子をチェックしていた

K刑事が漫画喫茶と呼んでいるネットカフェ『It's-ZUKE』にDが着いたのは、約束の時刻の8時より10分ほど早目ではあったが、Kはもう先に待っていた
「お久しぶりです」挨拶して、向かいの席に腰を下ろす
「おお、この前会ってから、半年ぶりくらいになるんだなぁ。こっちは、テレビでときどきあんたを見てるけど、なんだかカッコよくなったなぁ」
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2019年07月20日

熟年超人の日 stage4 13

A県警捜査第四課第二係刑事のKは、4階の廊下の窓の外にふと目をやり、秋の日差しに敷地内の樹木が紅葉していることに気付いて、心が和むのを感じた
あと1ト月もすれば、俺も親父になるんだなぁ、と思わず笑みが浮かぶ
その笑みを確かなものにしてくれたAには、借りができちまったなとも思考が走ってから、その裏に感じたある疑いが膨らむのを、押さえるように打ち切って、自分の席に戻って行った

Aから携帯に連絡が入ったのが、13日の昼休み時。カップヌードルが伸びるのも気にせず、携帯で話し込んでいるKを、上司のM野が気にしていると、やっと会話を終えたKは「係長、Aからタレコミがあったんで、ちょっと行って来ます」と言い残すと、返事を待たずに上着を持って飛び出した
AにP連合のアジトの話をしていたので、きっとその件だろうと思ったが、署内的には本庁重要人物Aとの接触は禁じられていたので、個人的な裏のつながりについては、公安2課のD田警視だけの報告に留め、あとは自分一人で対応する積りであった。それに、Aのグリーンマンとのコネクションは、きっと今後も自分の役に立つだろうという打算も生まれていた

Aとは、以前も利用したN駅ビルのカフェレストランで逢ったが、その時のAの醸し出していた違和感が忘れられない。なにが、と言えば根拠もないのだが、以前のAに比べて明らかに若くなっているような気がしてならないのだ
単に若づくりというのではなく、もっと“若い活力”が綻び出ているような、(や)の下っ端というより、売出し中の若頭が発散しているような、妙な活気が身体から立ち昇っているような感じなのだ
そのことはそれ以上Kの関心を惹かなかった、それよりAが持って来た物のインパクトが大きかったからだ
持って来たPCバッグを開け、自分を守ってくれている忍者が居て、その男がKの教えたP連合のアジトに潜入して、持ち帰ったラップトップと、その場に居たボスらしき人物が、大事に持っていたというUSBメモリーと、なんらかの方法でアジトのボスから訊き出したという、パスワードをメモった紙を渡してくれたのだ

この場で、それらのブツを調べたくなる気持ちを押さえて、Aに礼を言いながら一言付け加えた
「P連合の支部を襲ったのは、忍者だって言うんだな。そいつも、なぜかあんたを守ってくれている…」
「まあ、忍者ってのは不確かですけど、なにしろ私がいろいろめんどうに巻き込まれてるってグリーンマンに話したら、その忍者みたいなボディガードを寄こしてくれたんです」
ボディガードを宇宙人が寄こしただと…このAという男は、何を言ってるんだ、とKは思った。その忍者という奴は、あのぼったくりバーで、このAとからんでS会の連中と揉め事を起こした、あのマスクマンのことなんじゃないか(俺がそのことを知らないと思っている?話の前後も合っていないし)
ますます膨らんでくる猜疑心を隠すように、コーヒーの残りを一気に飲み干して、それじゃ出ようかとAを促してN駅ビルのカフェレウトランを出た(なんと言っても今は、パソコンとメモリーのチェックが最優先だ!)

結局Aから提供されたパソコンとUSBメモリーはビンゴ!で、その資料の解析によりA県警捜査四課は、新興勢力のP連合A県支部を一斉検挙でき、その成果は本部長表彰ものだゾ、という課内の評価に胸が膨らむのを押さえられなかった
同時にそれは、来春の警部補への昇任試験に明るい道筋を示すものであり、同時に生まれてくる子の未来も、自分たち夫婦の将来にも有難いことであった
そのことは、Aとマスクマンの関係をこれ以上追及できない、という刑事魂に束縛を強いるものでもあった

そんなときKのスマホに、このところすっかり忘れていた男からのメールが着信した
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2019年07月03日

熟年超人の日 stage4 12

連中が手に持っているのは、ライフルではなさそうだ。そんなに大きくはない
しかし、ピストルより大きめなサイズに見える。そうだ、ハリウッド映画でよく出て来る小型の機関銃、ウジーとかいうやつか
となると機関銃並みに、ばりばり乱射して来る可能性がある。どのみち、あんな弾には当たらない自信がある(富士の老人の屋敷で狙撃された銃に比べれば、なんてことはない)が、流れ弾がここにいる連中に当たれば、命に係わる場合もあるだろう
…ということで、こちらから打って出てやることにした

普通の人間は、どうしても入口からの侵入になることを避けられない(当たり前だ)
従って、アクション映画でお馴染みの、ドアに誰かが貼り付いて中の様子を窺い、しかる後にドアを蹴破るかして、室内になだれ込むあのシーンになる
ところがあいにく、こっちは透視眼のお蔭で、壁の向こう側の廊下に展開している連中の様子は、丸見えである。ただ、めんどうなのは、外階段に待機して、中に飛び込む機会を窺っている奴の方だ
まずいことに扉は外に向かって開いた状態のままなので、廊下組をやっつけている間に、挟撃される可能性がある

そんなことを言っている間にも、廊下の奴らはじわじわ接近中だし、さっきノシた連中だってもぞもぞし始めている。…となれば、くよくよ考えるのはやめて、まずは先手必勝、廊下に面している壁をぶち抜いて、一気に廊下を制圧することに決めた
安普請の倉庫のことだから、壁はどうせ石膏ボードみたいなものだろう。まさか防弾構造なんてありえない
それでも慎重を期して(というより、影バージョンの想定能力からすれば、Gスーツみたいなパワーは発揮できない)、壁内部を透視して見ると、軽量鉄骨の間柱が沢山入っていて、そう簡単に突き破る訳にはいかなそうだ
やむを得ず、連中が扉に達する前に扉を開けて、廊下に飛び出す作戦とする。それなら、外階段組が飛び込んで来ても、束の間視界から消えることになる
そうと決めたら素早く行動、とばかりにまず、さっき跳ね飛ばしたダガーナイフの男の腕を捻って、骨折させる。動けないのを確認して、素早くドアを引き開けて、廊下に飛び出す(ありえないくらい低い姿勢で!)

その少し前のこと、黒い影がものすごい速さで、部屋に居た皆を片付けていく様を見て、もっと強力な武器と援軍を求めるべく廊下に出たミゲルは、寝室から出て来た日本人ギャング二人に、武器庫に行こうと手振りで伝えることに成功した
日頃は、言葉も通じず、自分たちをあからさまに見下す態度の日本人どもとは、一線を画しているミゲルだったが、この時はありがたい援軍に思えた

自分が持っている武器庫の鍵を使って、扉を開けると日本人たちは我先に中に飛び込んでいって、銃器を物色し始める。何丁か手に取って結果、弾は沢山出るが命中率の悪いウジーを両手に持って、廊下に出て行く
ミゲルは、この連中は銃器の扱いに慣れていないと見て、援軍としての期待ランクを一段下げることにした。それどころか味方に銃弾をぶちまけるのではないかと危ぶんだが、緊急事態だから、と首を振り方をすくめる
自分もこうした荒事には慣れていないが、それでも命中率が高いとカルロが言っていたコルトガバメントを選んで、二人に続いて廊下に出た

そのときミゲルが見たものは、後に仲間に語ったように、廊下を滑って来た(スケートボードかと見えた)黒い影が、二人の日本ギャングの足元を払い、転倒したところを正拳突きで仕留めていく姿だった
軍隊経験のあるミゲルには、黒い影は匍匐前進のように腕を使って這って進んでいるようにも見えたが、それにしても、まるで腹部にローラーでもあるかのような、滑らかさで滑っているそのスピードに驚愕した
そして、さらに印象深かったのが、腹這いの姿勢を保ったまま、左右に立っている日本人の脚を払った技であり、流れるように転倒した二人の男にとどめを刺した突き技だった

その脅威が自分に迫ったとき、かろうじて構えたコルトが一瞬で弾き飛んで、低い体勢から素早く伸びあがった黒い影の頭部が、自分の顎に炸裂したところで、ミゲルの記憶は途切れてしまった
翌朝、やってきたP連合の仲間が、廊下で気絶していたミゲルと日本人二人を蘇生させるまで、自分が気絶させられていた間に、残ったメンバーが、階下で一人待機していたガルシアに至るまで、全員が戦闘力を奪われ、支部長のK松以下の幹部連も、重傷を負って動けないか或いは、失神させられていたことは、後で知ることになり、さらに数日後、A県警の捜査が入って、P連合のA県組織は壊滅した
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2019年06月09日

熟年超人の日 stage4 11

大声でその場をけん制しておいて、影スーツの自分と背丈の変わらない支部長(K松)の背後に回り込み、肩越しに左腕を巻き付け、顎の先を持って、ぐいっと軽く捻ってみる
「痛っ、いた、た、たーっ。やめろ、やめるんだー」強がって言ってる積りでも、周りにはそうは聞こえていないのが私にもわかる。心配そうな表情は、やっと起き上がった日本人らしいボディガードだけで、東南アジア系の連中とC国人らしい連中は、ボスが苦痛にもがいているのを見ても、少しも意に介ず殺気を放っている

日本語と英語で威嚇しても、そもそもこの連中に通じているかどうか分からないが、とりあえず警告はしたということで、次の行動に移った
つまり、人質として大して役に立ちそうもないこの男は放り出して、残りの連中を全員のしてから、改めてパスワードを訊くことに決めたのだ(こういう連中なら、骨折くらいさせられても文句は言ってこないだろう)
方針が決まったので、押さえていた首根っこを掴むようにして、さっきは顎にヒットさせたのに、気絶しなかった大男(一番強そうな)に直接ぶつけるという乱暴にでる。で、間を置かずに、跳ね飛ばしたナイフの代わりに腰ベルトから拳銃を引き抜きかかっている男の鳩尾に、右ストレートを叩き込んだ

ううっ、と息を吐き出してかがみこんでしまった男はそのままに、その後ろで拳銃を両手で構えようとしている男の足元に滑り込んで、腿の付け根辺りに手をかけて、思いっ切り上に跳ね上げる
天井にぶつかった男が、その衝撃で銃を暴発させたが、天井の蛍光灯が爆発したくらいで、人には当たらなかったようだ(銃は男の手から吹っ飛んでしまい、男は床に激突して動かなくなる)
このあたりまでは、私も慣れないアクションの連続で、かなり大慌て状態だったが、受話器を持ったまま硬直している男の間抜け面を見て、一気に緊張がほぐれる
そうだ、ほぼ100%の力で動いてしまったので、多少訓練しているとは言え、常人である連中には、とてもこのスピードには付いていけないのは当然なのだ

とりあえず、全員のしてしまう、という方針に立ち返って、受話器を持って放心状態に陥っているメガネの男の顎先を、素早く擦り打って失神させる
と、その束の間の動きの停滞を見てとったか、大男が再度大型ナイフで私の脇腹目がけて、鋭い突きを繰り出して来た
影スーツの様々な機能を把握し切れていなかった私だが、このナイフ攻撃の直前にハッと感じるものがあった
恐らく攻撃される予感のようなものだろが、私自身が反応するより早く、スーツが反応してくれて、大男の必殺の刺突は、虚しく流れ、私の目の前でほんの一瞬静止する

今度こそ遠慮なく、その手首に手刀をお見舞いすると、ビシッという感じでナイフを持った手首が、千切れかけてぶらんとぶら下がった(その画にびっくり!)
大男は茫然として、その手首を見ていたが(時間にして1秒くらいの間か)、うわぉー!と吠えると、残った左手で左腰のホルスターに収まっている大型拳銃を、取り出そうとする
その敢闘精神には驚いたが、わざわざ相手に銃を抜かせる危険を冒す訳にはいかない私は、素早くその手を押さえて、そこを支点に自身の体をぐるりと回転させるようにして、相手を投げ飛ばした(教則本で知った合気道の技のバリエーションだ)

大男が会議テーブルに激突して、天板にぶち当って跳ね返り、失神しているメガネ男の上に落ちる
そういったひとつひとつの事象を認識しながら、私は流れるように行動し、最初に失神してやっと起き上がり、まだふらついている脚で、懸命に態勢を立て直そうとしている、比較的若く見えるボディガードらしき黒服の男の胸もとを掌底で強く突く
これも力の加減をしなかったので、黒服は大きく吹っ飛んで、さっきぶっ飛ばした支部長のデスクにぶつかって、そのまま動きを止めてしまう
これで一通り片付いたか、と一瞬動きを止めたとき、ナイフを跳ね飛ばした際、手首を骨折したらしく戦闘から身を引いていたダガーナイフの男が、背後から私に抱きついてなにやら外国語で喚き始めた

多分「掴まえたぞー!」みたいなことを叫んでいるんだろうが、そんなのに付き合ってはいられない。肩をすぼめるようにしてすっと体を下に滑らせると、簡単に身は自由になる
しゃがみこんだ態勢から、素早く立ち上がりながら相手の顎に頭突きをくらわせる。ゲフッとうめき声を発して、20pくらい跳ね上がって、床に落ちて、私を見上げる凶暴な表情が、みるみる恐怖に変わった
今度は緊張を解かずに、再び室内を見渡すと、外階段から一人、横の部屋から何人かこの部屋に駆け付けて来るのが透けて見える(やれやれ…)
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2019年05月26日

熟年超人の日 stage4 10

黒い影は、外階段の出入口からふいに室内に入って来たかのように、K松の視界に現れた
本当に、外階段の方から現れたのか正確には分からなかったが、壊れた窓を背にしてデスクの前に立つK松からは、下を見に行って今戻って来た戦闘隊のオリバーと、ドラッグ販売ルート担当のミゲルの後ろに、ふわっと黒い影が立っているのが見えた
「そ、そこだ!忍者がそこにいる!」外階段の出入口を指さしながら、K松が喚いた
その切迫した声と仕草に、その場にいた全員が出入り口を振り返ったが、開けっ放しのドアの向こうは暗闇でなにも見えない

「支部長、忍者、見たのか」たどたどしい日本語で、戦闘隊副隊長のカルロが問いただす
『見た。さっき俺からメモリーを盗っていった忍者だ』なんとか英語で喋りながら、忍者というより息子の好きな戦隊もののブラックレンジャーのようだったな、と頭に浮かんだ場違いな印象に当惑する
『下の連中は見ていないか、確認しろ』戦闘隊隊長のタオが落ち着いた声で指示を出す
同国人のソンがその言葉に反応して、食卓テーブル上の内線電話で、1階の詰所にいるはずの二人を呼ぶ
まさにその時、突然黒い影が現れると、戦闘隊副隊長のカルロのそばに、すすすっと近づいて顎の辺りをジャブで払うような動きを見せた

185pはある巨漢のカルロは、一瞬ぐらっとよろめいたが、なんとか持ち堪えて脚を踏ん張ると、ホルスターのトカレフTT‐33には手をやらず、腰に着けているコンバットナイフをさっと引き抜くと、そのままの勢いで黒い影の喉元目がけて素早く振り払う
一連の攻防を茫然と眺めていたK松の目には、黒い影が一瞬動きを止めたように見えたが、喉元から吹き出すはずの血しぶきは無く、手にしたナイフを見つめて立ち尽くしているカルロの姿があった
副隊長のそんな姿には目もくれず、戦闘隊員のオリバーが影の背中にダガーナイフを突き立てる…、が素晴らしい速さで振り返った影の手がナイフを払いのけ、飛ばされたナイフは天井に突き刺さった
立て続きに起こったアクションは、室内側に顔を向けているK松だけが一部始終を見ていたが、他のメンバーはそれぞれの位置から、部分的にしか見えていなかった

カルロより少し遅れ、オリバーとほぼ同時に侵入者に反応していた戦闘隊長のタオは、二人のF国人戦闘員の動きをフォローできる位置に身を置き、常に体から離さないグロッグ17を引き抜き、両手撃ちの構えを取ろうとしているところだった
食卓の内線電話で下の二人に様子を訊こうとしていたソンは、自分の傍らを風のようにすり抜けた(のであろう)影が、いつのまにか支部長K松の間近にまで接近し、戦闘隊副長のカルロを襲い、そこにもう一人の男が飛びかかったのを見て言葉を失い、受話器を持ったまま動けなくなっていた
一度下に様子を見に行き、上の騒ぎに慌てて戻って来たミゲルは、自分より先に戻ったオリバーが黒い影に向かっていって、ナイフを跳ね飛ばされたところを目撃して、自分も武器を取りに行かなければ、と判断して、廊下を隔てた先にある武器庫に向かうべく、その廊下に出るドアに向かう

副支部長のヤンは、K松が重要な物を盗られたことの、失点の評価に気を取られていたが、続いて起こったこの騒動から距離を置いて、後の本部への報告を意識して、傍観者になろうと、できるだけ目立たないように部屋の隅に移動する
先の襲撃で気絶させられていたO島は、ちょうど蘇生したところで、目の前に繰り広げられている光景が理解できず、ソファから半身を起こした状態でぼんやりしている
下の詰所に待機していたハオとガルシアは、内線をかけてきたソンの通話が不自然に途切れ、後ろで異様な物音が続いていることに危機感を覚え、外部からの襲撃に備えガルシアを詰所に残し、ハオが非常階段から2階に向かう

その時、影である私は、大男の脳震盪を狙った打撃が功を奏せず、相手の反撃をくらったことに束の間驚いたが、続いて背後に迫ったナイフ攻撃を、すんでのところで防ぎ切って、大分落ち着きを取り戻していた
以前の、ぼったくりバーに駆け付けた(や)の連中との立ち回りが、なんというか楽勝だったことで、この手の連中との闘いを気楽に考えていた自分に対し、なんであれ暴力組織との闘いには、油断は禁物ということを猛省していた
などと、のんびり戦局の分析などしている間もなく、拳銃を構えた男の射線から外れながら、一番上位者であろう日本人の首根っこを捕らえて、大音声を発した

「さあー、皆んなストップだ。動くとこいつの首をへし折るぞ!」と脅す。日本語では全員に通じないだろうと『動くな!』と、英語で付け加えながら、大音量で命じた
本当に大きな音を浴びせられると、人は動けなくなるものだと、なにかで読んだ気がしたが、その通りで、その場に居合わせた皆が、ぴたりと動きを止めた
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2019年05月16日

熟年超人の日 stage4 09

体当たりで窓をぶち破って、外に飛び出した直後に反転して20mばかり上昇して、再び倉庫の屋根に取り着くと、身を伏せて下の様子に聴き耳を立てる
「俺は見たんだ、忍者だ。忍者がO島を襲った後、俺からアレをひったくってったんだ」屋根材越しに透視すると、がちっとした中年の日本人が、受話器の向こうの相手にがなっている
声の調子から、相手は目下の者のように感じたが、途中で相手が替わったようで、今度はやや哀願調を帯びた声で同じような内容を説明し始めたので、相手が目上の者だと知れた

部屋の中には、隣室から戻った男達が四人、電話のやり取りに緊張した様子で、雀卓の周りに立ち尽くしているのが透える
そこに、さらにもう一人が駆け込んで来て早口の(恐らく)C国語で、なにかまくし立て始めた
その声に雀卓の近くにいた男の一人が、似たような言葉で応答し、今度は日本語でこの場の最上位者らしき日本人に話しかける
「支部長、ソンも取引用のPCを持っていかれた、と言っている」声音は支部長と呼ばれた男に比べると冷静で、この状況を、自分の上位者の失点と捉えている様子が垣間見える

「なんだとぉ、取引用のPCもやられたぁ、ばかやろう、なんでそんなドジ踏む羽目になったんだぁ!」声の調子に、明らかに電話の向こうにいる上位者に聴かせて、自分のミスをどさくさに紛らせようという意図が透けて見える
この会話を聴いている私は、例えはおかしいが、やりなれないひったくりに成功したチンピラのごとく、心の中の若くなっている部分が興奮しているのが分かる(今回は、K刑事にいい土産が出来たようだ)
しかし、例によって本来の私が囁きかけてくる(…影バージョンの存在をこの際、連中に印象付けておくのには、いいタイミングかも知れない)

外階段をガンガン響かせながら、下に行っていた連中が戻って来る
こっちは空を飛んで逃げればいいんだから、別に気にすることもないのだが、折角なら現在の状況を今後に役立つようにする手はないものだろうか、と考える
思いついたのは、例のムササビ飛行をレベルダウンして、倉庫の屋根から屋根に飛び移りながらサヨナラすることだった。さすれば、ここの連中に忍者の侵入と思い込ませられる
それが、いずれ連鎖的に警察に伝わり、私とグリーンマンを地球人と宇宙人の関係に設定してしまったことで、Gスーツの出番は非常に限られたものになっている現状を打開できるに違いない

いざというとき、私や私の家族の危機を救ってくれる、使い勝手の良いガーディアン的な“影”という存在を、公権力、アウトロー勢力のどちらにも知らしめておくべきだ
そう考えた私は、このままここを立ち去るのことを翻意し、再度、連中の前に姿を現してもおかしくない理由を考えてみたのだが、折角逃げた“忍者”が、再び舞い戻る不自然さが、どうにも気に入らない

考えあぐねていると、日本語が耳に飛び込んで来た
「大丈夫だ、コードはわかりっこない。パソコンだってメモリーだって、それだけじゃどうにもならんさ。こいつは金庫に入れておくから、お前らしっかり見張ってるんだぞ」どうやら支部長、と呼ばれていた男だ
それで考えが決まった。じゃあ、皆さんの前にお出ましといこうか

支部長のK松は、いったいどこの組織が裏にいるのか考えを巡らせていた
対抗組織のT組と考えるのがスジだが、案外内輪の誰かが、自分の失脚を計って、あんな奴を寄こしたのかも知れない、と思うと別の筋書きも浮かんでくる
身のこなしと黒ずくめの姿から、反射的に“忍者”と言ってしまったが、中身が何国人かわかりはしない
新興勢力であるC国マフィアと、強圧派の大統領の締め付けから逃れて日本に拠点確保をしたいF国ギャング、そこにT組との抗争で敗色濃厚になっていた独立武闘派のR会が、利害の一致を太平洋圏の覇権奪取に見い出して作ったP(パシフィック)連合は、暴力によるこの国の暗黒街制覇の共通点はあるものの、三つの言語と国民性の違いが、意思の疎通を妨げるネックになっていたのだ

T組勢力圏であるN市の海岸に近い今の場所に、わざわざ設けられたこの支部が、三つの勢力の末端組織の融合化を図りつつ、同時に敵の勢力圏内に楔を打ち込む“橋頭堡”の役割を担っていることを、肝に銘じていたK松だから、今回のトラブルの重みが痛いほどわかっていた
内部の反発勢力にせよ、T組の先制攻撃であるにせよ、たとえ警察の手先であっても、こんなことで躓く訳にはいかないと、自らに叱咤する
そのK松の視界を黒い影が過ぎった
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2019年04月19日

熟年超人の日 stage4 08

こいつはなにか武器を持っているようだ。周囲偵察能力が一気に活発化し、倉庫全域に散在する人間の位置が脳裏に浮かぶ(下の階にいる者はぼんやりしたものだが)
反応は電子機器と武器の二通り(武器も携帯などの電子機器も反応は過去体験している)感じるが、武器を持っている者は今のところごく僅かだ

2階出口の上には、壁からひさしが付き出しているので、そっとその上に移動する
すぐ目の前に2階の部屋から出て来た男がいる。こいつをなんとかしようか、と一瞬考えが浮かんだが、残念ながらその先の展開が見えない
私が逡巡しているうちに、男はなにか大声を出しながら、鉄階段を慌ただしく下りて行った
壁越しに部屋の中を窺うと、12〜13あるモニター画面を二人の男が分担して注視しているのが見える。その奥の部屋だろうか、ややぼんやりしてはいるが、四人は変わらず麻雀に熱中しているし、部屋の仕切りの影にテレビを観ている男が一人

誰もこの2階の出入り口に注意を払っていないことを確認して、ゆっくりドアが閉まる前に素早く、するりと部屋の天井に滑り込む
体色は一瞬で天井の石膏ボードの色と模様に変わっている
超人になる前、68sあった私が、天井に張り付いていられるのが不思議だが、重力を操る感覚には慣れている
ただ、いくら保護色でも目の前で動いたら、分かってしまうだろう、と判断した私はじっと天井からモニターを眺めている二人に神経を集中して、次の動き出しのタイミングを計ることにした

ふと、いい考えが浮かんだ
あまり練習してはいなかったが、例の腹話術をやってみる気になった
『△◆☆‖ДИ〇↑ー!』言葉は分からなかったが、さっきの男が叫んだ声色で、少し開いた状態のドア辺りから聞こえるように呼んでみた
その声にモニターを見ている二人が、びくっと反応した
上司らしい方が口早に、もうひとりの男になにか言いつけると、戸口に向かった部下をおいて、自分は隣室に何事か注意喚起の声をかける(視線は幾つもあるモニターを素早く巡回させつつ)
テレビ画面を観ている大男は私の腹話術にも反応せず、相変わらず画面の進行に夢中だ

その瞬間、よし今だ、と即断
最大速度で、天井からモニター画面のある壁面から離れたデスク上のノートパソコンを引っ掴み、電源コードを引き抜いて腹部にあてがって、再び天井に跳び付いてそのまま貼り付く(その間およそ0.7秒)
こんな急激な運動をしても、ほとんど心拍呼吸に変化は起きないのが超人の超人たる所以だ
だが、その微かな空気の動きを感じたか、モニターを眺め廻していた男の動きが止まった

なにか空気のそよぎを感じたソンは、その感覚をたぐるように視線をモニターから室内に移す
なんの変化もないように見える室内の光景を眺めていく視線が止まり、なにか神経に引っかかったものを探す
ソン専用のデスク上のPCが消えている
一瞬、自分がどこかに移動させたのか、と自問自答し、デスク上にだらしなく延びている電源コードに気付いて、心臓の血が一気に脳に吹き上がった
『おい、誰か侵入者がいるぞ!』そう隣室に声をかけながら、デスクの引き出しから拳銃を取り出し、改めて室内を見廻す

戸口で聞こえたミゲルの声と、ソンの最初の警戒の声を聞いた時は、DVDの画面から目を離さなかった巨漢カルロは、ソンが発した二度目の声に瞬発的に反応して、ショルダーホルスターから拳銃を引き抜くとモニタールームに飛び込み、猟犬の目で室内を捜索する
影は、ソンのかけた声に隣室が反応して、どやどやっと人が動き出すのを見て、一瞬天井に張り付いたまま静止したが、すぐに部屋の隅のやや薄暗くなっている壁に移動すると、その後大胆にも、各国語で喚きながら次々に男たちが出てきた後の、隣室に移動した

その幹部室では支部長のK松が、腹心のO島を従えて支部長専用デスクの引き出しから何かを取り出しているところだった
支部長席の後ろが窓になっていることを確認した影は、一瞬でボディガードのO島に近寄り、鳩尾(ミゾオチ)を強く突く。続いて、うっ、と呻いて前かがみになるO島の顎を、素早いフックでかすめるように撃っておいて、脳震盪を起こしたO島が崩れ落ちる様に、声もなく立ち尽くすK松の手の内から、その手に握りしめている物をひったくる
驚愕の表情のK松が、すぐ我に返って引き出しの奥の拳銃を取り出した時には、影は体当たりでぶち破った窓ガラスの向こうの闇の中に、飛び出した後だった
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2019年04月04日

熟年超人の日 stage4 07

当初考えていた通り、これは最初に、邪魔な全体監視カメラを排除することにした。取りあえず向こうの倉庫に飛び移り、こちら側を監視している、隣りの大きな倉庫の屋根上にあるカメラを片付けよう
この暗闇なら、まず見えないはずとは思ったが、念のため超人眼を凝らして件のカメラを精査するとカメラの横に赤く光っている茶筒状の器具が見える。試しに、感知波長を変えて視てみると、そいつからかなり強力な赤外線が放射されている
赤外線LED暗視カメラというやつだ。恐らく、倉庫の周囲を含めての全域を撮っているのだろう。もし、襲撃があった場合、倉庫側からの画像だけでは把握しきれないような、襲撃者グループ全体的の動きや、装備、構成人数などまで把握監視し、もし敵に倉庫を奪取された際には報復資料して活用、反撃するのに使うのだろう

ならば先ほど、この倉庫の屋根に降り立ったところも、録画されていたか思ったが、カメラの向いている角度からすれば、今いる位置は視界に入っていないはずだと判断
そこで、一旦上空に飛び上がってから滑空して、隣りの倉庫の屋根のカメラの死角にそっと着地する

まず赤外線LEDを故障させることにしたが、直接赤外線LEDを破壊してしまうのは、短絡的すぎるから、できるだけ、故障と思わせたい
ふと思いついたので、赤外線LEDと監視カメラの後部から出ている電源コードを摘んで、重力波を意識しながら、くっくっくっと指先の摘む力を強めたり弱めたりしてみる
…と、案の定と言うべきか、思いのほか簡単に赤外線LEDの放射が止まった。やはり、電流と重力波はなんらかの干渉作用を起こすようだ

まあそれはそれとして、じゃあ登場と行きましょうか、と心で呟いて行動を起こそうとしたその時『いいのか』と、誰かが囁いた気がした
その囁いたのが誰か、ということよりも、確かにここは考えるべきだぞ、と本来の熟年の私が影スーツの私を諭す
今夜、このP連合のアジトを襲撃すると決めた理由がいまいち確立できていない。なにか、腕試しに来た感が大きいのだ
目的がはっきりしない広告キャンペーンが、上手くいったためしはない。そもそも、K刑事からの情報でやってきただけなので、まずはP連合という(や)組織がどんなものなのか、目で見て確かめてやろう程度じゃないのか。じゃあ、どうしたものか

こんなところで迷っている自分が、急に馬鹿馬鹿しく思えて、影マスクの裏で思わず笑ってしまった
そもそもP連合という組織は、パシフィック連合を略した名前で、日本の新興(や)とC国マフィアの連合に、最近ドラッグ売買で闇の勢力争いに参入して来たP国ギャング、さらにその背後にいる北米のM国ギャングが、日本の裏社会の覇権争いに参戦してきたんだと、K刑事が教えてくれた
A県警としては、首都圏で抗争を活発化しつつあるP連合は、ただでさえ手を焼く丸暴対策が、A県にも拡大し兼ねないことが、頭痛のタネのようだ

それに乗ってしまった私も、お人よしの極みだが、結局正義の味方の超人(と繋がりのある)いち日本人としては、なんらかの働きも見せておいた方が、後々良いのでは、という判断を下した
そこまで考えを進め、納得しての行動をとなった。
そして、折角の影スーツの本格デビューなので、今回の目標は、このアジトにあるパソコンと、金庫の中にある(であろう)P連合の活動内容の奪取と、なにか証拠的な物があったら、それを頂いてK刑事にプレゼントするとしよう(できたら、ここの連中が気付かないうちにそれができるとさらに良し、としよう)

*

倉庫の2階は、12人分の2段ベッドがある部屋、武器庫とその奥に監禁室、真ん中の通路を挟んでモニター類をチェックできるコントロールルーム、その隣に幹部の部屋、1階はトラックが入ることが出来る倉庫スペースと、荷受け用の事務所区画になっている。この時刻、ベッドで寝ている夜中から明け方までの見張り役の二名を除く、十名が活動していた
幹部室では支部長のK松と副支部長のヤン、戦闘隊長のタオ、K松の護衛役のO島の四人が麻雀をしている
その横の食堂テーブル兼会議テーブルの周りの椅子に、戦闘隊の副長カルロと、戦闘隊員の二名が備え付けのテレビで洋物DVDを観ている

幹部室には、幹部用のベッドが4台あって、その権利者のもう一人、データ管理担当のソンはコンピュータエキスパートのミゲルと隣室のコントロールルームで、それぞれの上部組織の上位幹部の噂話をしながら、モニターチェックに目を光らせていた
2階の残った1室、武器庫とその奥の監禁室には人気はなく、残りのC国、P国の二人は1階の倉庫事務所でビールを飲んでいる

ミゲルが極秘メールの着信を確認して、暗号照合をしている間、ソンはそれとなくその画面を視界に収めていたが、ふと視野の片隅に、12台あるモニター画面の中に変化を感じた気がした
改めて注意を向けると、この倉庫全体をモニターしている隣りの倉庫の屋根上のカメラが機能していない
即、卓上の内線で副支部長のヤンに一報を入れるため、幹部室をコールする
ヤンは、自分の手牌の中から中(チュン)を2枚落としするか、順子(シュンツ)を崩すかの難問に遭遇していたため、食堂テーブルにいた部下が、副支部長席の受話器を取って自分を呼んだことに微かな苛立ちを覚えた

他の三人に合図して手牌を倒すと、自席に行ってやや不機嫌な声音でソンの電話に出る
『なにかL番カメラが故障したようだ』広東なまりの英語で、他の三人に言うと、念のため下の誰かに、隣りの倉庫の屋根を確かめるように言え、と言って受話器を置くと、思い直したように副長のカルロに、目で合図する
DVDを観ていたカルロは、電話を取ってヤンに渡した男に、F国訛りの強い英語で『下の奴がちゃんと見に行っているか確認しろ』と命じて、そのまま佳境に入った画面から目を離さない

その時、私はアジトになっている倉庫の屋根に移って、どこから中に入るか迷っていた
なまじ簡単な造りの倉庫の建物は、壊して入るならお茶の子だが、中の人間に気付かれないように侵入するのはかえって困難に思えた
影スーツがあっても、空き巣狙いのような侵入方法には疎いことは、中身の私のクオリティだから仕方がない
迷っていると、中でなにやら動きがあり、恐らく故障したかも知れぬ外のカメラの具合を、確認しろという連絡を大声でしている(妙な外国語だが、英語交じりなので見当がついた)

倉庫の1階のシャッター脇の扉が開いて、男が一人顔を突き出した。同時に、屋根の上の四隅のカメラと、鉄条網の柵の四隅にあるカメラが活発に動き始めた
柵の四隅のカメラは、外に向かって10度ほどの角度で首振り運動をしているだけだが、屋根の四隅のカメラはほぼ270度の可動域があるようで、うっかりすると撮られてしまうかも知れない
こちらにカメラが向く前に、屋根の端から2階への入口の上の壁に、吸い付くように移動する(やもりのように)

そのとき、その2階出入り口の扉が開いて、非常階段に人影が現れた
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2019年03月11日

熟年超人の日 stage4 06

破裂した水銀灯は計6個、監視カメラの排除には使えないかもしれないが、なにかの役に立つかもしれない
それにしても、両の掌に感じた衝撃は、超人になって初めてのもので、今後この技を使う時には、その点を留意しておかないといかんなぁ、と心に留め置いた私であった
まあ、テストはこれくらいにしてそろそろ出かけないと。腕時計を見る(影スーツも透視可)と、いつしか10時過ぎになっている

それからは、N市方向に向かって、飛び上がってはグライダー的な飛行を繰り返しながらの進行。そんな飛行では、当然スピードが出ない(時速100q程度か)
ただし、ぐんぐん飛ぶ感じのGスーツに比べると、すぃ〜っと滑空するこちらは、なかなかいい気分で飛行できる。その間、結構暇なのでGスーツと影スーツの違いを、つらつら考えを巡らせながらのお気楽飛行

なにせ、宇宙に飛び出せるし、マッハ4でも5でもスピードアップが可能なGスーツに比べると、この影スーツのアナログ感は半端ない。まるで、ジェット戦闘機と複葉の戦闘機だ。同じ宇宙人が用意してくれたとは、思えないような性能の差である。きっと、耐熱性や耐衝撃性も劣っているに違いない
二つのスーツのこれほどの違いは、一体なんのためなのだろう(あれほど合理的な考え方をするジュブブや、その上部組織が、ただの無駄をするとは思えない)いずれ、その用途の違いに思い当たることがあるのかも

Gスーツで飛行する場合は、地を蹴って飛び上がった次の瞬間には、安定した飛行が可能になる。対して、影スーツがムササビ的な滑空以外、そのまま強引に超人力で飛行すると、軌道が安定しないのは、慣れとかではなくスーツの根本的特性によるものだろう

超人になった今では、スーツなしでも宙に浮けるし、そこそこの早さで飛ぶこともできるのだが、初期の頃はともかく、この頃はスーツなしはなにか心許なく、まして宇宙になど行く気にはならない
というより、スーツなしではいかに超人と言えども、宇宙空間に飛び出せないだろう
…などと考えているうちに、下方の状況は灯りの少ない住宅地から、工場や倉庫の暗い影が並ぶT市の工業地帯に変わっている(遠くにひときわ明るく輝いているのがN市の中心部だ)

監視カメラの件にしても、P連合を潰しに行く積極的な理由の有無にしても、グリーンマンと私の関係に影忍者までからませたら、この先の私と私の家族の一般人の生活に、支障を及ぼすであろうことも、全て解決せぬまま、こうして無軌道に行動している私
定年を迎えた60才になる自分が、ブレーキをかけることができない現状に、なかばあきれ、そしてそれ以上に興奮している私もいるのも事実だ(超人化による若返り現象なのか!)

そんなことを考えながらも、目指すP連合のアジトがあるという灯りの無い2階建ての倉庫があったので、その屋根にふわっと降りる
倉庫の屋根と言えば、雨風だけ防げれば良いようなレベルの簡易な強度だが、影スーツは重力コントロールが得意らしく、みしっともいわない

耳を澄ませると、中にいる人物が観ているらしきテレビドラマの声が聴こえる
他には、いびきをかいて寝ている者が二人、麻雀らしきじゃらじゃらさせている音(つまり四人か)がする
監視カメラは、倉庫屋根の四隅と、1階のメイン入口と裏口、鉄製の非常階段で上がれる2階入り口の上、鉄条網で囲われている柵の四隅、そして隣接している別の倉庫の屋根から、この倉庫を監視・録画していると思われる1台。合計12台と、大盤振る舞いの設置数だ(それだけ警戒していないと、具合の悪いなにかがあるのだろう)
posted by ミスターK at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説

2019年03月06日

熟年超人の日 stage4 05

キックボクシングジムを訪ねてから1週間ほど、ブックオブで購入した格闘技関連本(ボクシング、空手、ジークンドー、合気道等)を読破して、街の腕力自慢たちと同レベルくらいには格闘技を理解できた(ジムでの実戦が大いに役立った)
これで、格闘技を多少齧っていそうな連中を、できるだけ安全に倒すことができそうだと確信できたので、いよいよK刑事が教えてくれた、N市中区のP連合の隠れ事務所訪問(襲撃かな)の決行日と、影スーツ着用を決めた

このところずっとアパート近辺は平穏至極と認識していたが、念のための周囲偵察で、張込みらしき反応が皆無なことを確認した上での作戦開始であった

最近は影スーツの着用にも慣れてきて、二、三新しい機能も見つけていたのも、決行決定の一因だった
まず、ムササビのような滑空グライダー機能がスーツにあったこと(Gスーツに比べると飛行能力は劣るが、隠密性に優れている)と、着用時に体が触れている物体の表面と、視覚的に一体化(材質感もあるカメレオン的な能力)できること、もうひとつは腹話術のように、手近な場所から声を出すことが出来ることだ
どうやら私がスーツを使いこなせるレベルになったからなのか、明らかにGスーツに比べると、一般社会での汎用性が高い

今回は、車を移動手段とはせず(そもそも移動速度が遅すぎる)、在室のカモフラージュも兼ねて駐車場にそのまま置いておくことにした
電車での移動も有り得ないので、影スーツで地上を走るのかと思ったが、どこで誰に見られるか(走行中は、ぼやっとした影のように見えると思うが、路上の監視カメラを精査されれば、発見されるリスクがある)、分からないので、100mほどの高さにジャンプするか、高層ビルを利用して、その高さから滑空を繰り返しながらN市に向かうことにした

そのうち、夜も9時を過ぎたので、さあ出かけよう、とダイニングの椅子から腰を浮かせたとたん、携帯が鳴った。電話は妻からだった
「パパ、家に居るの?明日か明後日、パパの都合が良かったら一緒に“山の別荘”見に行こうかと思うんだけど」声の調子からは、機嫌が良くてかけて来たのか、意に染まなくて電話をくれたのか、どうも分からない
「あ…、うん、明日は用事が入るかも。だから、明後日がいいかな…」
「明後日は、お天気悪くなるって天気予報、出てたわよ」例によって、結論は出ているのだ
「そうか、それなら明日行けるように、調整してみるよ」…調整はP連合次第なんだが

妻にはほとんど相談せず、購入を決めてしまい、さらに非常時(どんな時に必要になるのか分からないが、富士の老人は熱心に勧めてくれた)の退避シェルター工事に取り掛かろうとしている今ではあったが、やはり妻には見せておかないと思っていたところでもあった
電話が切れた後、ちょっと出鼻をくじかれてしまったので、ついでに今夜のP連合襲撃の手筈をもう一度検証してみることにした(どうも最近、深く考えもせず行動してしまう…若返っているからか)

今回の動機は、やはり超人活動が思うに任せていないので、そろそろ成果を出したいというのが第一。そして、外国人の犯罪組織なら、手荒にぶっつぶしても、そんなに物議を醸さないだろうというのが二点目
もうひとつ引っかかっているのが、P連合が私を探している、というK刑事の話で、もしかするとこれは彼の作り話で、私経由でグリーンマンを動かして、P連合を潰してしまいたいから、なのではという疑念がある

そうなると、影スーツで動くのはどんなものか。どっちみち誰も死なせないようにやるからには、影が対戦している目撃情報が警察に伝わるだろう。すると、私とGマンと影という関係が明らかになってしまう。
それでは、今後の超人活動に差し障りはないか?いやいや、それよりむしろ一般人Aとその家族の社会生活になんらかの支障が生じるのではないか
と、考えると、今回の影は、あくまで影のごとき存在でなければならない。そこに注意して行動しよう、要は目撃情報を残さなければ良いのだから

襲撃相手の方は、超人力全開で素早くやれば、分からないうちに片付けることは可能だろう。そうなると後は、各所に設置されているであろう様々な監視カメラだ。それを無力化する方法がないか、私は改めてこの問題に、真剣に取り組むことにした

いずれにせよ、電気で動かしている監視(防犯)カメラは、どのようなタイプでも私の周囲偵察で感知できるから、位置の特定は簡単だ。問題は、P連合が設置している監視カメラのほかにも、市内の至る処にある防犯カメラと、最近多くなった車載カメラに映ってしまう可能性があることだ

そう言えば、なにかの本で読んだが、高高度で核爆発があるとかなりな範囲の通信・情報機器が機能停止するらしい。また、GPSの位置測定の誤作動の一因に、重力波の異常で起きたプラズマバブルが影響しているという記事も読んだ覚えがある
私の超人力には、重力のコントロール力が関わっているようだから、その力を応用して、監視カメラの無力化ができないものだろうか

これまでの超人力を発揮できた場面を顧みると、鉄属製品には大小問わず、力が発揮できていた。逆に、海の中や、地面に直接埋め込まれている物体や、木製のデスクなどを持ち上げたりする場合は、腕力勝負で切り抜けざるを得なかったことが、印象に残っている
エフワンの原子炉にもぐり込んだときには、ジュブブの助けもあって指先を高温にしたり、重力波を振動させて破損した扉を開けることが出来たが、あれはGスーツだけの特性だったのか、検証してみようと思いついた
と言って、この安普請のアパートで試してみる訳にもいかないだろう。N市に向かう途中にある、川べりでやってみることにした

夜のA川には、堤防道路を走る車が数台いるだけで、当然人影は無かったが、ムササビ滑空をしながらの周囲偵察と、超人眼に、カップルらしき人影が見える車が2台、河川敷に停まっているのが視える
それを避けて、少し下流に向かうと今度は完全に人けが無い場所があった
いっそ、と思ってさらに河口ちかくまで行くと、波消しのテトラポッドがあるので、これでなにか試してみるか、という気になった
まずは、指先に気を込めて、発熱を試みたがこれは変化なし。続いてテトラポッドを振動させてみたら、ピシッと深い亀裂が入った

超人眼で透視してみると、鉄製の型枠が入っているようで、コンクリートはその型枠からはがれるように、崩れ落ちている
コンクリート製の建物や、塀を破壊するのには役立ちそうだが、監視カメラの機能排除には結び付きそうもない
続いて、想像力を逞しくして、掌に重力波を集めるイメージをして、その両掌を激しく打ち合わせてみた。パーンという強い音が川面に響き渡り、川に架かっている橋の水銀灯が、ポンと破裂した
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2019年02月12日

熟年超人の日 stage4 04

ジムの中にいる、全員の眼つきが変わった。それまでの少し私を下に見ていたような視線が、食い付くような肉食動物の目になっている
「スパーリングは、ジムの会員で、一定レベルに達していると認定されてからやれるんだ。だから、まず入会手続きをしてもらわないと…」無理に自らに言い聞かせるように、インストラクターのO木が声を絞り出す
「ですから、ここがその入会に見合っているのか、そこを確かめさせて…」言いかけている最中に、スパーリングをしていた二人の、背の高い方がリングの上から大声を出した
「O木イントラ、俺その人のお相手しますよ!そこのAさんっていう人、スパーリングするなら、最低限ルール知っててもらわんといかんけど、大丈夫なんだよねぇ、その辺りはー」

「ああ、大丈夫ですよ。キックボクシングのルールは詳しくは知らないけど、相手に殴らせずにこちらのパンチやキックを入れられればいいんですよね」随分偉そうな物言いになったけど、こうでもしないと初対面でスパーリングなんてさせてもらえないだろうと、せいぜい演技する
「いいのか、T沢、来週試合あるんだろ」そう言いながら、O木氏はT沢という選手を止める気はないようだ
「じゃあ、上がって」相手をしていたスパーリングパートナーをリングから下りるよう促しながら、私をリング上に招き入れる
「どうもすみません、お相手よろしく。この格好で大丈夫ですか」O木氏に確認する(手には、さっきはめてもらった12オンスの練習用グローブ、足元はキックボクシングなので裸足だ)

「ええ、いいと思いますよ。さっきのお宅のパンチが打てるなら問題ないよ」ということなので、私はリングに上がった
O木インストラクターが、レフリーを務めてくれるようで、練習スパー用のヘッドギアもくれたが、とっても汗臭くて、着ける気にならない
「これ要らないんで」と言って断ると、相手のT沢選手もヘッドギアを外して、リングの下にいる後輩らしき人物に放り投げた。一気に雰囲気が険悪になった
O木氏が試合の注意をいくつかすると、ゴングが鳴り、はいっと私とT沢選手を試合わせる

T沢選手は、オーソドックスにグローブで顔をガードしながら、前かがみに私に迫って来る
一方、私と言えば、格闘技マンガからヒントを得たノーガードスタイルで、リング中央に突っ立っている
シュッと右足が私の左足を狙って蹴り出され、ほとんど同時に左ジャブが私の顔面に3発繰り出される
なかなかのスピードと迫力だが、超人の私にはさほどのスピードには見えなかったが、その攻撃をどう捌くかが難しい
いっそここは、老人の屋敷でB東さんに対したときのように、その足と手を払いのけようか、とも思ったが、それではわざわざキックボクシングジムに来た甲斐がない。そんなこんなで、ちょっと迷いながらの応戦になってしまった
それが良くなかった。一撃必殺の空手系のB東とは違い、キックボクシングは手数足数が多くて、どんどんくるから避けるのに手一杯になってしまい、試合の流れをリードできない。一、二発もらってみるのもアリかとも思ったが、なんとなく踏ん切りがつかない。そんなことを考えながら捌いているうちに、流した左足キックの後から、くるりと廻った相手の裏拳が飛んできて、右側頭部に被弾した

そのとき私の超人力が全開になり、この打撃を受け止めるべきか、受け流すべきかを判断する余裕が生まれて、一般人が観戦している中で、普通なら吹っ飛ぶほどの打撃を平然と跳ね返すのは不自然なので、受け流す方を選択、裏拳がヒットする寸前に頭を逃がして、後ろに重心を移動、結果、私は裏拳で後ろに大きく跳ばされた形になった
その手応えの無さは、相手のT沢選手だけが分かるが、周りで見ている者たちには分からなかっただろう
とにかく、これは良い経験になった。一定のルールに則って闘うスポーツ格闘技に、まともに付き合うには、ちゃんとした練習をしておくべきだが、その必要はない(競技を極めたい訳ではないので)
そもそも今回のチャレンジも、P連合をつぶしにかかる際に、暴力系の連中と渡り合うのに、うっかり相手を死なせないような手加減を覚えるために、というのがテーマだったのだから

ということで、ちょうど2分のゴングが鳴ったのでコーナーで小休止、相手のT沢選手を観察すると、いわゆる攻め疲れ状態で、呼吸が荒く、心拍数も相当上がっている
特に聴力感度を上げなくても、コーチ役の後輩が「最後のバックハンドブローは効いてますよ」と言っているのも、それに対して「いや、スウェーされてる」と返事を返しているのも聴こえてしまう
昔、格闘技マンガを読んでいた頃、こうした道場破りみたいなものに憧れていたが、そもそも超人と、鍛えているとは言え普通の人間との闘いなんてフェアじゃない、そう思うともうここはさっさと終わらせてしまうのが得策だと思った
次のラウンドが始まってすぐ、今度はこちらからささっと動いて、相手の顎先を狙って(ここに衝撃を加えると、脳が激しく振動して脳震盪を起こす、とマンガにあった)素早く右フックを放つと、的確にヒットし、相手は一瞬なにがあったんだ、と目を剥いてそのまますとんと後ろに倒れてしまった

その後、インストラクターのO木氏が懇願するのを何度もお断りして、ジムを後にした私は、真正面から真剣に闘おうとしていたT沢選手に申し訳なく、かなり気持ちが落ち込んでいた
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2019年02月08日

熟年超人の日 stage4 03

そうそう、こんな雰囲気だよな格闘マンガの出だしは…などと思い出し、ふっと口元が緩んだ
それが火を点けたのか、先輩格の男が私をじっくり眺めると「じゃぁ試したろか」と言う
若い方の男が先輩を見て「用意しますか」と答えた。リングの二人もサンドバッグとパンチングボールもこちらを興味津々で見ている
「お宅、なにか格闘技やってるの?」
「まあ、グレーシー柔術を少々」以前見た格闘技マンガの知識から答える
「ほぉ、そりゃ素人じゃないってことだ」眼つきが少し険しくなるが、私の外観からの印象がまだ作用している

「リングの上の方と、スパーリングできるんですか」すっとぼけてみる
「いやいや、そんなこと急には出来ないよ。まあ、やってみたいんなら、あそこのサンドバッグを叩くか蹴るかしてみてくれや」大分態度が横柄だが、怒らせたのがこっちだから文句は言えない
「じゃあ、この格好でいいんでしょうか」ちなみにその日の私は、秋らしさが増したその日の季節感を反映して、ダークグリーンのコーヂュロイパンツに、イエローオーカーの薄手のセーター、こげ茶のツイードジャケット(実のところ気温は全然気にならないので、服なんてどうでも良いのだが、大都会のN市に合せてちょっとお洒落したのだ)といういでたち
そして手にしたダッフルバッグに、着慣れた紺のジャージの上下が入っている

「その格好で?」先輩のあきれたような顔
「いやいや、持ってますよ、ほら、これに着替えますから」
「なら、さっさと着替えて。それと、これでお宅のレベルに納得いったら入会手続きの説明があるから」おいおい、まだ入会するなんて言ってないんだが、まあいいか、とその時の私は自分の超人力の調節を、どう乗りこなすかに気がいっていた
若い方がロッカールームを教えてくれたので、そこでジャージに着替え、皆のいるトレーニングルームに戻る
「自分は、インストラクターのO木です。お宅さんは?」客になるかも、と気付いたのかやや丁寧な応対になった
「Aです。Aと申します」簡潔に答える

「じゃあ、そっちのぶら下がってるサンドバッグを、Aさんが思うように叩くか蹴るかしてみて」そう言うと、若い方が持って来たクリップボードに鉛筆でなにやら書き込む
サンドバッグは、天井のレールから5本、太い鎖で吊り下げられていて、黒い表皮は革なのかビニールなのか、とにかくずっしりぶら下がっている
一応、後で古武道をやっていた、という種明かしをしたいので、サンドバッグを前にして、ちょっと腰を落とした格好で、それらしく構えてみる
それを見ても、インストラクターのO木氏は特に関心を示さず、じっと見ている(格闘技好きの中年のおっさんに見えているのだろう)

すっと息を吸って詰め、腰をきれいに回しながら右足で、かなり思い切り(超人力60%解放で)サンドバッグを蹴った。バシッと破裂音が響いて、サンドバッグが大きく揺れた
見ていたジムの全員が息を飲んだのが判った
続いて、左足で同じようにサンドバッグを蹴ると、前の衝撃と揺れるタイミングが合って、さらに振幅が増す
「ちょっ、…すみません、貴方、経験者ですね。キックじゃないと思うけど」思いがけないものを見て、O木氏が思わず、といった風で弾んだ声を出した
「古武道を少々学びました」そう、こういう応答を、してみたかったのだ
「今度は、リズミカルにやってもらえますか」古武道、には、さして関心を示さず、O木氏が真顔で言う

「フットワークをからめて、ということですね」こちらも一応調べてはきたので、そう答えてステップを踏みながら、サンドバッグに立ち向かう
動きながらとなると、ちゃんと練習してないのが分かってしまいそうなので、スピードも超人力開放度60%くらいで動きながら(残念ながらリズミカルにはできないが)、シュパッ、シュパッという感じで、左右のキックをサンドバッグに浴びせる
ピシッピシッという音が響いて、サンドバッグの表皮が弾けるように打撃が加えられているのが、その場にいた者の目にも見える。そして、動いている私のスピードが並大抵のものでないのが、誰にも判ったようだ

「すごいなぁ、お宅さん。こりゃ、こっちのレベルが知りたい、って言うの分かるわぁ」O木氏が心底驚いたという表情で声を出した
「スパーリングって、今やれるんですか?」誘いをかけてみる
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2019年02月05日

熟年超人の日 stage4 02

私の心の中の若返っている部分が、それを聞いて敏感に反応する
この国で、やっつけても問題が無さそうなのは(や)関係だろう。まして、外国人のギャング組織なら、後でどうだこうだと言う連中なんてのは、ほぼ皆無だろう
ちょっと世間様を気にし過ぎな超人だなと思うが、ま、仕方ないだろ。なんってったって、妻子がいる間は、いろいろ気にかけてやらなくっちゃぁいけない
任期は100年だとか言っていたから、妻があの世に逝ったらどこかに姿を隠して、息子と娘が亡くなったら、もっと遠くに行って、本当になにかあったとき以外は、全く自由に活動できるだろう。そう50年くらいかな
(そう考えを進めていると、不意に寂寞感が私を包み込む)

それでも、ジュブブに心配(?)されるほど仕事をしていない私は、K刑事からP連合について情報を聞き出した(Kは「俺の仕事をあんまり増やさないでくれよ」と言いながら、N市の隣りの市にある彼らのヤサを教えてくれた)。察するに、KとしてはP連合にS会事務所と同じ運命を辿らしたい、と思っているようだ
それで、P連合のアジトを片付けに行く気になったのだが、私としては影スーツや、素の私で暴れる際には、もう少し格闘技を習っておくべきではないか、と考えた
かの老人邸で、武術を極めた者が超人に対しても侮れない力量を示したことが、心に引っかかっていたからだ
それに、相手が素人だったり、血気盛んな乱暴者だったりしたときこそ、格闘技の技が活きるのではないかと考えていたからだ

早速PCの蓋を開けて『N市 格闘技ジム』でググってみる
いろいろあるが、ここは“総合格闘技”を謳っている道場と決めた。なんだかわくわくしてくる自分がいる
ところが、行ってみるとブラジリアン柔術という関節技主体(キックボクシングもあったが)の健康的なジムで、格闘技マンガに出てくる凄味のある門下生や師範と言うより、あくまで明るい接客だったので、道場破りなんて出来ないとあきらめた
続いてもうひとつの候補[SDキックボクシングジム]を訪ねると、こちらはビシビシいけそうな雰囲気で、若くて強そうな(以前だったら目を合わせたくないような)のが5〜6人、激しく体を動かしている

そこで、普通に「ごめんください」と声を掛けたのだが、ちらっと私を見て、なんだ中年(最近は40代くらいに見えるようだ)のおっさんか、といった感じで、木で鼻をくくったような返事が返ってきた
「今、コーチ居ないし、ウチはエクササイズ系じゃないから」
「すみません、入門するかどうか、この事務のレベルを知りたくて伺ったんで…」ちょっと刺激してみる(新規訪問の会社でよく使った手だ)
「はぁ?なに言ってるの。お宅さん、言ってる意味分かって言ってるの」俄然ピリピリムードが、その若い男から発散され始めた

「いや、だからこちらさんのレベルがどれくらいか、試させてもらってですね…」
「あんたぁ、いくら格闘技マニアさんかも知らんけど、そんな口きいてると、思いっきし痛い目みるよぉ」随分怒り易い奴だ
「あなたは、こういった場合、レベル見せてくれられるレベルなの?」すっとぼけて、もっと煽ってみる
「おいおい、なに揉めてんだよ」目の前の若いのより年上(30手前?)の男が、こちらに歩み寄ってくる。リングの上でスパーリングしていた二人も、動きを止めてこちらを見ているし、サンドバッグを蹴っていたのと、パンチングボールらしきものを、叩いていたのも手を止めている

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2019年01月27日

熟年超人の日 stage4 01

あの時から、7ヶ月が経っていた
巷のクリスマス音楽に促されるように、私も妻の巧妙な根回しと息子夫婦のお誘いで、Y市にある息子のマンションでイブの夜を祝っている
ほんの2日前には日本海側の地方都市で、大規模な昼間火災事件があって、私もK市のアパートからGスーツ装着で飛んで行ったのだが、街の上空には何機も報道ヘリや消防ヘリが飛んでいるし、そもそも火事になっている場所では、消防関係者が果敢に火災と闘っていて、どこをどう手伝えば良いのか戸惑うばかりだった
そして私は未だに、衆人環視の中で超人として活躍することに、躊躇するものを覚えていた

その大火災の前にも、二度ばかりGスーツ向きの出動のチャンスがあるにはあったのだが。一度目は、近県で開催されたG7会議に出席している、各国指導者を狙ったテロに備えて、会場近くでスタンバイしてはみたが、別に何も起こりはしなかった(まあ、広範に展開される警備体制の実態を観察できたことは、今後の役に立つかも、くらいの微小な成果はあった)
二度目は8月に日本に接近して来た台風に備えて、あらかじめ予想コースを先回りしてみたときで、強大な自然の猛威の中に身を置いていては、いかな超人と言えども、至る処で同時に発生している種々の破壊状況を、ただ傍観するのみでしかなかった
結局こういった自然災害には、私の超人力では対処できないと悟った(仮に、なんでもありだとしても、超人力が発揮できるところに居合せようがないではないか)

それでも、なにか超人として人助けをしなければならないと、影スーツで夜のパトロールなど始めてみたのだが、そうそう事件にぶつかるものではない
かと言って、以前知り合ったマスコミ関係者のDという男も、あれからなんの連絡もない
そうなると、なにかこちらからアクションを起こさねばと、人の心理としてはそうなってしまう
それで思い出したのがあのぼったくりバーのことだ
あの店は、どうなっているのだろうと、素の私が思いついた

夏の頃は昼間、普通人のAとして不動産屋が送って来る中古別荘情報を元に、現地まで車(購入したばかりのスバルの中古車)で出かけて、別荘周りの環境(なるべく周囲に人が住んでいないこと)や、シェルター設置の改造に適した物件かどうかを、チェックするのに意外に時間がかかり(超人なので疲労はしないものの)、精神的な切迫感をひしひしと感じていた
いっそ国外の紛争地にでも出かければ、超人的らしい働きも出来ようが、そこから波及していくであろうトラブルの連鎖に、自分が耐えられるか(仮に、一般市民を独裁者や暴力組織から救ったとしても、それでことは済まないことは、これまでの経験で熟知している)、常識人としては気が重い

それから、週3のペースでN市の飲み屋街に出向いたが、酔っ払いの喧嘩を2〜3回収めたくらいで、そうそう(や)にも出くわさず、まして凶悪事件にも遭遇しないまま、夜の街にもいつしか秋風が吹き始める
それでも、K市から50q程度の山間地に、格好の別荘が見つかったので、斡旋してくれた不動産屋の紹介してくれた地元の建設業者と、シェルタールーム設置の交渉に入ってはいた

そんな頃、久しぶりに県警のK刑事から電話があって、S会の上部組織のT組の対抗勢力のP連合(パシフィック連合=中国+東南アジアギャングの連合マフィア)が、私を探しているらしいと告げて来た
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2019年01月07日

熟年超人の日 stage3 65

老人の屋敷から帰って2週間ほど経った
私はまだアパートに居たが、大家には夏が終わる頃に引っ越そうと思っていると根回しをしていたし、不動産屋に頼んで、今住んでいるK市の北の、山間地にある中古の別荘を何軒かリストアップしてもらっていた
妻には、T電から一部振込みがあったから、家を探していると言ってある(本当は老人からもらった金だが、通帳に振り込まれた額に、妻は上機嫌になり貴方の好きなように考えて、と言っていた)

また、T電のH本部長から昨日連絡があって、取り敢えず1億の半分は用意できたので、会社の口座に来週にでも振り込むことになっていると伝えてきた(老人の援護射撃があったからかも知れないが…)
様々な懸案が、やっと良い方向に向かい始めている感触に、私は少々楽観的になり過ぎていたらしい
その夜、久しぶりにジュブブの睡眠通信があった
前回の通信は、なんとなく私の行動に釘を刺していたような印象だったので、私としてはもしやご機嫌を損ねたのかと、ずっと心に屈託したものが澱のように沈んでいた

『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である』お馴染みのご挨拶とともに夢に現れた姿(夢が覚めた後には決して思い出せない姿)は、いつもの通りに感じられる
*お久しぶりです、ジュブブさん
『今回の通信は、この惑星における君の現在までの行動が、承認されたことの連絡である。すなわち、現在進行しているこの惑星固有の地域主義を受け入れつつ、超人活動を行おうという君の主張が承認されたということだ。ただし、君は当初我々が予定していた、この惑星における超人活動を極一部のみ履行すれば良いという訳ではない』
*ということは、F原発以外の事案にも積極的に関与せよ、ということでしょうか?
『その際忘れてはいけないことは、この惑星の特定勢力との連携活動は禁止されているということだ。当然、特定の人種、宗教、政治的配慮は、極力回避すべき活動と判断される』判断、とは誰が判断するのだ

*おっしゃっていることは、漠然とは理解している積りですが…、そもそもジュブブさん以外のどなたかが、私が超人になったことを把握しているということですか?
『それは当然である。官が名乗っている官職名からも、この件が当該宇宙を管轄している組織の一員であることが用意に推察できるはずである』…やっぱり
*では、承認して下さったのはジュブブさんの上位者ということでしょうか
『君の言う上位者という概念は我々の組織にはない。例えば官のみが、この太陽系を含む100光年ほどの球状域を観察していて、なおかつ現時点で活動している超人は2体で、候補体が8体であり、その管理観察記録は、官のみの職務になっている』
*その宇宙を管轄している組織って、どのくらいの規模なんですか?

『君が理解できるレベルでは数千体だが、この惑星の支配種族のカウントの方法なら数百億と認識してよい。それは、この惑星の生命体のように、分裂―結合-分裂型と異なり、宇宙文明種族の大多数が、融合―分裂―融合型か、純融合積層型であるところからきていると理解せよ』私のSF的思考が、かろうじてジュブブの意識を理解する
*ということは、私たちが珍しいタイプなので、観察してみようか的なことなんでしょうか
『その理解は、56.7%の問題把握力を示している。さらに付け加えるのなら、君がその理解力を持つことを、我々が認識したことが、今回の決定に繋がったと示しておこう』その意識を最後に、ジュブブの睡眠通信は消えた

なにやらお墨付きのようなものが与えられた気がするが、要は、このまま様子見だけしていれば良いのではなく、もっと超人らしい表立った働きもしなさい、それができなきゃライセンス返上になるよ、と伝えていたんだろうと、このところとみに柔軟度を増した私の頭脳が、そう解釈した
と言っても、普通に超人活動をするとなると、あの会社やらあの組織やら、あの国やらに対して、曲がりなりにも取り繕ってきた、私が有料受付の唯一の代理人である、という設定に齟齬をきたす恐れがある
なにせ、普通にスーパーマンが人助けするなら、無料活動に決まっているではないか
有料と無料の違いを設定してなければ、今後の超人活動によっては、一般人である私が世間の評価の対象にされるだろうし、場合によっては家族や親類縁者にまで、累が及ぶかもしれない
そう考え始めると、一気に私のテンションは下がってしまう
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2018年12月20日

熟年超人の日 stage3 64

I倉さんが店主と話をしている間、私は日本人同士の会話に入れず、店主が出してくれたYAKITORIを食べていたが、これがなかなか旨い。酔わないようにビールをちびちび飲っていると、I倉が話しかけてきた
『ここのマスターは、夜露のやり方が嫌いで、いつか警察に挙げられればいいのに、と思っていたらしいから、1軒おいた隣りの夜露で、物が壊れる音やら(や)のチンピラの喚き声が聞こえたとき、様子次第で警察にタレ込もうと耳を澄ませてたらしいんだ。じきに店の騒ぎは収まったみたいで、なぁんだと思っていたら、ドアが開いた音がしたんで、どんな奴が出て来たんだと思って、店の戸をちょっと開けて覗いてみたら、背格好は全く普通のおっさん(日本では中年以上の、ぱっとしない男性をこう呼ぶ)が出て来たそうだ』
『そこにYAKUZAの援軍到着で、その男は闘ったんだな』

『いいや、そうではない。その男は薄暗い路地に逃げ込んで、代わりに全身黒タイツの男が現れて、(や)達と闘い始めたそうだ。ここのマスターが言うには、喧嘩は割とよく見てるが、あんなに手際よく一方的に相手をやっつけるのは、初めてだそうだ』ワンサイドゲームか。それにしても、ある程度は喧嘩慣れしているはずのYAKUZA相手に、その手の訓練をした俺でも素手では、ちょっと難しいぞ、と思った
『日本には、そうした忍者がまだいるのか?』真顔で私が訊くと、I倉はいいや、という風に首を横に振った
『我々がよく知っている忍者は、もういません。しかし、どこかに隠れ住みながら、シュギョーしている者がいたとしても、おかしくはありません。この国には長い歴史がありますから』歴史ある国だということを、ことさら強調しているのはなぜだ

『そんなことはどうでもよい。それよりそのキーパーソンは、今どこに居るのか、君は知っているのか』肝心の質問の矢を放った
『K市に住んでいるらしいのですが、場所までは把握していません。ただ、県警内に親しくしている刑事がいるとか。県警でも夜露の件で、その人物を呼んだらしいのですが、上の方から指示があって、今では野放し状態らしいです』県警に親しい刑事がいるという重要情報が手に入った
『その刑事さんの名前とか、分かっているのですか?』単刀直入に訊ねてみる
『どうも、私に話をしてくれた人の部下のようですが、教えてはもらえませんでした。ところで、あなたは今回の事件を誌面でどう扱う積りなのですか』逆に質問された

『それについては、社の方針もあるので私の一存では答えられない。ただ、いろいろ親切に情報提供して頂いたので、私の個人的見解を明かすなら、どうやら日本人のある人物が、スーパーマンと忍者のコネクションを持っていて、そのことを把握している日本政府が、なにごとかを画策して、隠ぺいしているように思う』話しているうちに、それは確信に変わったが、そのことをそのまま本国に報告すれば、どのような事態に発展するかも知れないので、確証を得るまで、私の中に伏せておくべきだと、目の前の生真面目な日本人を見ながら、そう心の中で思った
『やはり、あなたは雑誌記者ではなく、A国の調査員なのですね。私も、同じような懸念に基づいて取材をしているので、本当の政府の狙いと、その日本のキーマンについてのより詳しい情報を集めますので、お国への報告は、今しばらくお待ち頂けないでしょうか。これは、お国のあの機関の庁舎の近くで学んだことのある、私のお願いです』なんと、このローカルペーパーの記者の見立ては、ほぼ正鵠を得ている。私は改めて、I倉という男の顔をまじまじと見た

『なるほど、あなたが言うように、もう少し詳しく調べたいのだが、あいにく私は、そろそろ帰国しないといけないことになっている。もし、あなたが私を信頼できるなら(…そして私もこの男を信頼するなら)、この件は今後お互いに連絡を取り合う、ということにしたらどうだろう』そう言って、私は右手を差し出した
彼は、その私の手を握り締めると『もちろんです!』と、きっぱり言ったのだ
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2018年12月16日

熟年超人の日 stage3 63

明らかに私が警戒心を顕わにしたのを見て、男(I倉)は屈託のない笑顔でさらに話しかけてきた
『私はK市で起きたある事件を追っています。そこで起きたことに関わる人物が、もしかするとこの辺りで起きた事件にも関わっているのではないかと、そんな予感に従ってこの辺りを調べているのです。あなたの雑誌社は、なにかオカルト的な事象を扱われているのですか?』なるほど、関わりがありそうな人物が向こうからやって来た訳か
『私がここの警察から聴き込んだ話では、ある人物が宇宙人のYAKUZA事務所襲撃に関わっているとか』まずは、魚が隠れていそうな辺りにルアーを放り込んでみた

『そうですか。実は私は、あのスーパーマンが県警本部にS会の金庫とデスクを運び込んだ時、あの現場に居合わせたのです。しかし残念ながら、スーパーマンが飛び去るところで、カメラを使う間もなかったのですが、何人かの目撃者から取材することはできました。ただ、KOANだと名乗る人物に口止めされたので、社にも報告できてない状態です』KOANがなんなのか、そのときは分からなかったが、後で調べると、日本のFBIのような性格を持った警察組織のようであった
『そのような重要なことを、なぜ私に伝えようとしているのですか』なにかのトラップだといけないので、自制して話しかけた

『そうですねぇ、なんで外国人の貴方に話したのかなぁ。王様の耳はロバの耳ってやつですかね』童話を引用して話すローカルペーパーの日本人記者とは!そこで、こちらから誘いをかけてみた
『英語がお上手なんですね。どちらで学ばれたのですか』
『若い時、A国に留学したことがあるんですよ。V州です』
『V、V州のどこの学校?僕もV州に住んでるんで。どこの大学?』
『ティームズ・マディソン大学、アリソンバーグの』思わずひゅ〜っと口笛が出てしまった。こんな異郷の地で近くの大学で学んだ人物に出会うなんて!
身長は6フィートに足らないが、体重は恐らく187、8ポンドくらいのその男が、急に好人物に見えて来た

『そうか、あそこはなかなかレベルが高いんだろう。なにを学んだんだい』親しみを込めて、そう尋ねた
『主に政治とマスコミの関係性ですが、こちらに帰って来てから、大手の新聞社やテレビ局を訪ねて就職を頼んだんだけど、結果は今の地方新聞社ですよ。でも、今回の事件に公安がからんだということで、僕は逆にファイトが湧いたんです』なかなか熱い男のようだ
『ということは、例のスーパーマンについて、日本政府は国民に隠しておくべきと判断したと思ったんだね』いいぞ、こんな男と出逢えるなんて、俺はついてる、と思った
『そこに、貴方も言っていた男が、スーパーマンと懇意らしいという話を4課の係長から聞いて、その上、以前この辺りであった、暴力バーで起きた事件とも関わっていそうだという話も匂わせていたんですよ』
ビンゴ!だっ。この記者からもっと大事な話が聴けそうだ

当然、このI倉と名乗った男もジャーナリストだから、ただでそんな情報を外国人の私に漏らす訳はないだろう。その隠された意図を探るべく、私は店主が持って来たスナックを食べ、もっとなにか料理を出してくれとオーダーし、ビールをI倉のグラスに注ぎ、続いてチューハイという酒を店主にオーダーした
『その男がからんだ事件、というのはYOTSUYUという店で暴れた話しかい。なんでも店をぶち壊して、その後応援に来たYAKUZAを、忍者みたいな男と一緒に撃退したとか聴いているが』ルアーを投げる
『そうらしいんだけど、忍者みたいな奴が現れたときには、その男は姿をくらませていたらしいんですよ』チューハイのジョッキを見つめながら、I倉が声を低めてそう言った
「俺も見てたけど、すごい奴でしたよ。黒装束で、ホント、ディスイズニンジャって感じで、S会の連中を、ぽんぽん放り投げたり、すっ飛ばしてね」店主が興奮した口調で、話に割って入って来た(もちろん、その時は話の内容はわからなかったが、I倉さんが後で教えてくれたのだ)
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2018年12月12日

熟年超人の日 stage3 62

L.C.から教えてもらっていた日本語は「YOTSUYUというバーを知っていますか?私はA国の科学誌の記者です。英語を話せますか?」の3つと、「スミマセン」「ドウモ」という言葉だけだった
随分心許ない話だが、その日私が探索する地区は、治安の良いこの国でも、相当YABAI(この日本語は応用性が高いということで、私のお気に入りだ)目に遭いそうな場所だと、L.C.が言っていたから、反って私の本来のやり方で情報を得られるだろうと、判断しての行動だった
もし重要な人物を見つけたら、L.C.に連絡して至急合流してもらい、件の人物からAという男の情報を入手するという、どう考えても乱暴なやり方だが、離日期限が間近に迫る中では、これしか打つ手が無かったのだ

酒を飲む人間でなければ酒を飲む場所を知らないのは、A国でも日本でも一緒だろう。まして、怪しげなバーで起きた喧嘩沙汰なら、この辺りで飲み屋を経営している者なら見てもいるだろうと、そう踏んでまだ薄明るいこの時刻に開けている店に飛び込んだ
「スミマセン、YOTSUYUというバーを知っていますか?」早速習った日本語を使ってみた
「よつゆ?知らんなぁ」カウンターの奥で、なにやら店を開ける準備をしていた男がぶっきらぼうに答えた
「英語を話せますか?」と訊ねてみると、首を横に振った後、ビール瓶を手に持って「飲む?」のジェスチャーをしてきた(ある程度英語は聞き取れているらしい)ので、うなづいてみせた

「YOTUYU知ってますか?」カウンター席に腰を掛けて、運ばれてきたビールをぐっと飲み干してから、もう一度訊いてみた
すると、なんだか分からない日本語で答えたが、こちらが分からないと両手を広げてジェスチャーすると、今度はものすごく聞き取りにくい英語が返ってきた
『知らない。そのバーこわれた。わたし、知らない』こんな感じだ
『こわれた、って破壊されたのか、それともつぶれた、と言っているのか』と英語で訊ねると、男(恐らく店のマスターだ)は『私、分からない』と英語で返事をした
そして、逆に『あんた、どこから来た。あんた誰?』と、たどたどしく質問を返して来た。これは分ったので
「私はA国の科学誌の記者です」と日本語で答える(これで覚えている日本語は出し尽くしてしまった)

「記者さん?ほんと記者さん。A国のマスコミの人?」これは、なんとか理解できたので、うなづいて「イエス」とやったら、それで勢いのついたマスターが喋り始めたので、話の内容は全く分からなくなった
困っていると、新たな来客があった
店のマスターが、その客(顔見知りのようだ)に、なにか話しかけてから、カウンター内の小さなキッチンで(恐らく)スナックを作りにかかった
『A国の雑誌社の方ですか』かなり聞き取り易い英語で、新参の客が私に声をかけてきた
『はい、そうです。私はパラノーマル・ライジング誌のレグマンをやっています』少しほっとして、思わず警戒心を解いてその客に返答をしてしまった
『そうですか、私はローカルペーパー西三新聞の、I倉と言います』よりによって、新聞社の者だと、その男は名乗ったのだ
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2018年11月18日

熟年超人の日 stage3 61

日本では、いろいろあったな、と飲みかけのマグカップをぼんやり眺めながらマシューは、あえて報告書に記載しなかった出来事の回想に浸っていた

あのビルの管理人に会った翌日、キーマンのAを探すため、L.C.は彼が住んでいた(いる?)というK市に向かい、私は、昨日警察本部の廊下ですれ違った二人の刑事が交わしていた会話(むろん日本語の)からL.C.が聞き取ったAについての不確かな情報を検証すべく、N市の歓楽街の調査に向かった
二手に分かれたのは、我々の調査日程が本局の都合で短縮されたことにあった。本国では、いよいよ大統領選もたけなわになってきていて、人手が足りないというのがその理由だった

キャッスルという名のホテルは、その名の通り日本的な大きな城(しかしコンクリート製だ)の近くにある。朝食を済ませた我々(どちらも自制していて、相変わらず別室だった)が、今日の調査の段取りを確認していたところに、大使館のジョナサンから連絡が入った
『こちらで入手した情報によると、Aという男はあの事件の前に、N市のYOTSUYUという暴力バーで騒ぎを起こしていたそうだ。そのバーの経営には、例のS会が関わっていたそうだ。重要なのはこの後だ。その騒動の途中から、忍者が現れてS会の増援部隊を蹴散らかしたそうだ。ネットに上がっていた動画があったんで、君のスマートフォンに送っておくから見てくれ』
そして、我々はAを救うために(そうとしか思えなかった)、忍者が現れたことを知った

Aという男(ジョナサンの報告では60才を過ぎた5フィート半くらいの小男らしい)が、キーマンなのは確かになったが、日本のマフィア・YAKUZA連中とことを構えているとなると、その調査をする我々にもなんらかのトラブルが生じることは避けられそうもない
L.C.は、わたしも結構強いのよ、と言っていたが、やはり彼女には昼間K市に行ってもらい、私もできるだけ日中にN市のYOTSUYUという店と、その周辺を探索することに決めた
その後、各々の部屋で報告書を作成して時間をつぶし、ホテルのレストランで早目の昼食を摂ってから、それぞれの目的地に向かった

L.C.が地下鉄JRを乗り継ぎ、K駅からタクシーでAの住むアパートメントに着いたのは、14時過ぎだったという。Aが昔A国で女性と付き合ったことがあって、その時出来た子が、はるばる父を訪ねて来たというストーリーで、まずアパートの周辺から聴き込み、少したどたどしい日本語を話す彼女は、親切心と好奇心がミックスしている地方都市の住民に大いにアピールしたのだが、肝心の詳細な情報はなかなか得られなかった
それでも、Aがよく近くのMANGAカフェ「It's-ZUKE」に行くという聴き込みを得て、訪ねたその店のスタッフからAと警察の人間がときどき会っていたという重要な情報を得た
その店を出たL.C.は、もう一度アパートメントに向かったところ、途中で二人の男に尾行されていることに気付く。歩調を変えた途端、もう一人別の男が前方を塞いだ

「ちょっとお待ちを、外人のお嬢さん」前方の男の、日本語の問いかけを無視してすり抜けようとすると
『待ってくれと、言ってるんだ』今度は流ちょうなA国語が後ろの人物から発せられた
『わたしには、あなた達に用は無いわ』と言っておきながら、バッグの中のベレッタを指先に感じたとき、別の一人が仲間をたしなめた
「おいおい、お前たちが物騒なムードを出すから、お嬢さんがテンパってるじゃないか」…『すみません、貴方がどなたかなんて気にしてはいないのです、我々は。恐らくA国の情報局の方なんでしょうが、あの人はここに居ませんよ。我々は命を受け、あの人を陰ながらお守りしている者で、まだ外国の方との接触は避けるように命じられておりますので、どうか、お引き取り下さい』丁寧ではあるが、有無を言わせない口振りは、決してYAKUZAなどではなく、ちゃんとした組織の一員であることが明白だった

『そうなの、あなた達は日本の公安の人たちね。なにを言っているのか分からないけど、わたしはA国の科学情報誌の記者なの、わたしはただ信じられないものを見たという人から、話を聞きたいだけなのよ』
『そういうことならそれで結構ですから、とにかくお引き取りを』その迫力に押され、L.C.はその場を離れた
友好国の官憲とはトラブルを起こさないのが鉄則だから(この時は日本の警察の人間だと思い込んでいた)

一方、私の方と言えば、夕暮れを待ってそれまで時間をつぶしていたデパートメントを出て、N駅の西側に散在する酒場の中から問題のバーを探し始めていた
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