2019年02月12日

熟年超人の日 stage4 04

ジムの中にいる、全員の眼つきが変わった。それまでの少し私を下に見ていたような視線が、食い付くような肉食動物の目になっている
「スパーリングは、ジムの会員で、一定レベルに達していると認定されてからやれるんだ。だから、まず入会手続きをしてもらわないと…」無理に自らに言い聞かせるように、インストラクターのO木が声を絞り出す
「ですから、ここがその入会に見合っているのか、そこを確かめさせて…」言いかけている最中に、スパーリングをしていた二人の、背の高い方がリングの上から大声を出した
「O木イントラ、俺その人のお相手しますよ!そこのAさんっていう人、スパーリングするなら、最低限ルール知っててもらわんといかんけど、大丈夫なんだよねぇ、その辺りはー」

「ああ、大丈夫ですよ。キックボクシングのルールは詳しくは知らないけど、相手に殴らせずにこちらのパンチやキックを入れられればいいんですよね」随分偉そうな物言いになったけど、こうでもしないと初対面でスパーリングなんてさせてもらえないだろうと、せいぜい演技する
「いいのか、T沢、来週試合あるんだろ」そう言いながら、O木氏はT沢という選手を止める気はないようだ
「じゃあ、上がって」相手をしていたスパーリングパートナーをリングから下りるよう促しながら、私をリング上に招き入れる
「どうもすみません、お相手よろしく。この格好で大丈夫ですか」O木氏に確認する(手には、さっきはめてもらった12オンスの練習用グローブ、足元はキックボクシングなので裸足だ)

「ええ、いいと思いますよ。さっきのお宅のパンチが打てるなら問題ないよ」ということなので、私はリングに上がった
O木インストラクターが、レフリーを務めてくれるようで、練習スパー用のヘッドギアもくれたが、とっても汗臭くて、着ける気にならない
「これ要らないんで」と言って断ると、相手のT沢選手もヘッドギアを外して、リングの下にいる後輩らしき人物に放り投げた。一気に雰囲気が険悪になった
O木氏が試合の注意をいくつかすると、ゴングが鳴り、はいっと私とT沢選手を試合わせる

T沢選手は、オーソドックスにグローブで顔をガードしながら、前かがみに私に迫って来る
一方、私と言えば、格闘技マンガからヒントを得たノーガードスタイルで、リング中央に突っ立っている
シュッと右足が私の左足を狙って蹴り出され、ほとんど同時に左ジャブが私の顔面に3発繰り出される
なかなかのスピードと迫力だが、超人の私にはさほどのスピードには見えなかったが、その攻撃をどう捌くかが難しい
いっそここは、老人の屋敷でB東さんに対したときのように、その足と手を払いのけようか、とも思ったが、それではわざわざキックボクシングジムに来た甲斐がない。そんなこんなで、ちょっと迷いながらの応戦になってしまった
それが良くなかった。一撃必殺の空手系のB東とは違い、キックボクシングは手数足数が多くて、どんどんくるから避けるのに手一杯になってしまい、試合の流れをリードできない。一、二発もらってみるのもアリかとも思ったが、なんとなく踏ん切りがつかない。そんなことを考えながら捌いているうちに、流した左足キックの後から、くるりと廻った相手の裏拳が飛んできて、右側頭部に被弾した

そのとき私の超人力が全開になり、この打撃を受け止めるべきか、受け流すべきかを判断する余裕が生まれて、一般人が観戦している中で、普通なら吹っ飛ぶほどの打撃を平然と跳ね返すのは不自然なので、受け流す方を選択、裏拳がヒットする寸前に頭を逃がして、後ろに重心を移動、結果、私は裏拳で後ろに大きく跳ばされた形になった
その手応えの無さは、相手のT沢選手だけが分かるが、周りで見ている者たちには分からなかっただろう
とにかく、これは良い経験になった。一定のルールに則って闘うスポーツ格闘技に、まともに付き合うには、ちゃんとした練習をしておくべきだが、その必要はない(競技を極めたい訳ではないので)
そもそも今回のチャレンジも、P連合をつぶしにかかる際に、暴力系の連中と渡り合うのに、うっかり相手を死なせないような手加減を覚えるために、というのがテーマだったのだから

ということで、ちょうど2分のゴングが鳴ったのでコーナーで小休止、相手のT沢選手を観察すると、いわゆる攻め疲れ状態で、呼吸が荒く、心拍数も相当上がっている
特に聴力感度を上げなくても、コーチ役の後輩が「最後のバックハンドブローは効いてますよ」と言っているのも、それに対して「いや、スウェーされてる」と返事を返しているのも聴こえてしまう
昔、格闘技マンガを読んでいた頃、こうした道場破りみたいなものに憧れていたが、そもそも超人と、鍛えているとは言え普通の人間との闘いなんてフェアじゃない、そう思うともうここはさっさと終わらせてしまうのが得策だと思った
次のラウンドが始まってすぐ、今度はこちらからささっと動いて、相手の顎先を狙って(ここに衝撃を加えると、脳が激しく振動して脳震盪を起こす、とマンガにあった)素早く右フックを放つと、的確にヒットし、相手は一瞬なにがあったんだ、と目を剥いてそのまますとんと後ろに倒れてしまった

その後、インストラクターのO木氏が懇願するのを何度もお断りして、ジムを後にした私は、真正面から真剣に闘おうとしていたT沢選手に申し訳なく、かなり気持ちが落ち込んでいた
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2019年02月08日

熟年超人の日 stage4 03

そうそう、こんな雰囲気だよな格闘マンガの出だしは…などと思い出し、ふっと口元が緩んだ
それが火を点けたのか、先輩格の男が私をじっくり眺めると「じゃぁ試したろか」と言う
若い方の男が先輩を見て「用意しますか」と答えた。リングの二人もサンドバッグとパンチングボールもこちらを興味津々で見ている
「お宅、なにか格闘技やってるの?」
「まあ、グレーシー柔術を少々」以前見た格闘技マンガの知識から答える
「ほぉ、そりゃ素人じゃないってことだ」眼つきが少し険しくなるが、私の外観からの印象がまだ作用している

「リングの上の方と、スパーリングできるんですか」すっとぼけてみる
「いやいや、そんなこと急には出来ないよ。まあ、やってみたいんなら、あそこのサンドバッグを叩くか蹴るかしてみてくれや」大分態度が横柄だが、怒らせたのがこっちだから文句は言えない
「じゃあ、この格好でいいんでしょうか」ちなみにその日の私は、秋らしさが増したその日の季節感を反映して、ダークグリーンのコーヂュロイパンツに、イエローオーカーの薄手のセーター、こげ茶のツイードジャケット(実のところ気温は全然気にならないので、服なんてどうでも良いのだが、大都会のN市に合せてちょっとお洒落したのだ)といういでたち
そして手にしたダッフルバッグに、着慣れた紺のジャージの上下が入っている

「その格好で?」先輩のあきれたような顔
「いやいや、持ってますよ、ほら、これに着替えますから」
「なら、さっさと着替えて。それと、これでお宅のレベルに納得いったら入会手続きの説明があるから」おいおい、まだ入会するなんて言ってないんだが、まあいいか、とその時の私は自分の超人力の調節を、どう乗りこなすかに気がいっていた
若い方がロッカールームを教えてくれたので、そこでジャージに着替え、皆のいるトレーニングルームに戻る
「自分は、インストラクターのO木です。お宅さんは?」客になるかも、と気付いたのかやや丁寧な応対になった
「Aです。Aと申します」簡潔に答える

「じゃあ、そっちのぶら下がってるサンドバッグを、Aさんが思うように叩くか蹴るかしてみて」そう言うと、若い方が持って来たクリップボードに鉛筆でなにやら書き込む
サンドバッグは、天井のレールから5本、太い鎖で吊り下げられていて、黒い表皮は革なのかビニールなのか、とにかくずっしりぶら下がっている
一応、後で古武道をやっていた、という種明かしをしたいので、サンドバッグを前にして、ちょっと腰を落とした格好で、それらしく構えてみる
それを見ても、インストラクターのO木氏は特に関心を示さず、じっと見ている(格闘技好きの中年のおっさんに見えているのだろう)

すっと息を吸って詰め、腰をきれいに回しながら右足で、かなり思い切り(超人力60%解放で)サンドバッグを蹴った。バシッと破裂音が響いて、サンドバッグが大きく揺れた
見ていたジムの全員が息を飲んだのが判った
続いて、左足で同じようにサンドバッグを蹴ると、前の衝撃と揺れるタイミングが合って、さらに振幅が増す
「ちょっ、…すみません、貴方、経験者ですね。キックじゃないと思うけど」思いがけないものを見て、O木氏が思わず、といった風で弾んだ声を出した
「古武道を少々学びました」そう、こういう応答を、してみたかったのだ
「今度は、リズミカルにやってもらえますか」古武道、には、さして関心を示さず、O木氏が真顔で言う

「フットワークをからめて、ということですね」こちらも一応調べてはきたので、そう答えてステップを踏みながら、サンドバッグに立ち向かう
動きながらとなると、ちゃんと練習してないのが分かってしまいそうなので、スピードも超人力開放度60%くらいで動きながら(残念ながらリズミカルにはできないが)、シュパッ、シュパッという感じで、左右のキックをサンドバッグに浴びせる
ピシッピシッという音が響いて、サンドバッグの表皮が弾けるように打撃が加えられているのが、その場にいた者の目にも見える。そして、動いている私のスピードが並大抵のものでないのが、誰にも判ったようだ

「すごいなぁ、お宅さん。こりゃ、こっちのレベルが知りたい、って言うの分かるわぁ」O木氏が心底驚いたという表情で声を出した
「スパーリングって、今やれるんですか?」誘いをかけてみる
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2019年02月05日

熟年超人の日 stage4 02

私の心の中の若返っている部分が、それを聞いて敏感に反応する
この国で、やっつけても問題が無さそうなのは(や)関係だろう。まして、外国人のギャング組織なら、後でどうだこうだと言う連中なんてのは、ほぼ皆無だろう
ちょっと世間様を気にし過ぎな超人だなと思うが、ま、仕方ないだろ。なんってったって、妻子がいる間は、いろいろ気にかけてやらなくっちゃぁいけない
任期は100年だとか言っていたから、妻があの世に逝ったらどこかに姿を隠して、息子と娘が亡くなったら、もっと遠くに行って、本当になにかあったとき以外は、全く自由に活動できるだろう。そう50年くらいかな
(そう考えを進めていると、不意に寂寞感が私を包み込む)

それでも、ジュブブに心配(?)されるほど仕事をしていない私は、K刑事からP連合について情報を聞き出した(Kは「俺の仕事をあんまり増やさないでくれよ」と言いながら、N市の隣りの市にある彼らのヤサを教えてくれた)。察するに、KとしてはP連合にS会事務所と同じ運命を辿らしたい、と思っているようだ
それで、P連合のアジトを片付けに行く気になったのだが、私としては影スーツや、素の私で暴れる際には、もう少し格闘技を習っておくべきではないか、と考えた
かの老人邸で、武術を極めた者が超人に対しても侮れない力量を示したことが、心に引っかかっていたからだ
それに、相手が素人だったり、血気盛んな乱暴者だったりしたときこそ、格闘技の技が活きるのではないかと考えていたからだ

早速PCの蓋を開けて『N市 格闘技ジム』でググってみる
いろいろあるが、ここは“総合格闘技”を謳っている道場と決めた。なんだかわくわくしてくる自分がいる
ところが、行ってみるとブラジリアン柔術という関節技主体(キックボクシングもあったが)の健康的なジムで、格闘技マンガに出てくる凄味のある門下生や師範と言うより、あくまで明るい接客だったので、道場破りなんて出来ないとあきらめた
続いてもうひとつの候補[SDキックボクシングジム]を訪ねると、こちらはビシビシいけそうな雰囲気で、若くて強そうな(以前だったら目を合わせたくないような)のが5〜6人、激しく体を動かしている

そこで、普通に「ごめんください」と声を掛けたのだが、ちらっと私を見て、なんだ中年(最近は40代くらいに見えるようだ)のおっさんか、といった感じで、木で鼻をくくったような返事が返ってきた
「今、コーチ居ないし、ウチはエクササイズ系じゃないから」
「すみません、入門するかどうか、この事務のレベルを知りたくて伺ったんで…」ちょっと刺激してみる(新規訪問の会社でよく使った手だ)
「はぁ?なに言ってるの。お宅さん、言ってる意味分かって言ってるの」俄然ピリピリムードが、その若い男から発散され始めた

「いや、だからこちらさんのレベルがどれくらいか、試させてもらってですね…」
「あんたぁ、いくら格闘技マニアさんかも知らんけど、そんな口きいてると、思いっきし痛い目みるよぉ」随分怒り易い奴だ
「あなたは、こういった場合、レベル見せてくれられるレベルなの?」すっとぼけて、もっと煽ってみる
「おいおい、なに揉めてんだよ」目の前の若いのより年上(30手前?)の男が、こちらに歩み寄ってくる。リングの上でスパーリングしていた二人も、動きを止めてこちらを見ているし、サンドバッグを蹴っていたのと、パンチングボールらしきものを、叩いていたのも手を止めている

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2019年01月27日

熟年超人の日 stage4 01

あの時から、7ヶ月が経っていた
巷のクリスマス音楽に促されるように、私も妻の巧妙な根回しと息子夫婦のお誘いで、Y市にある息子のマンションでイブの夜を祝っている
ほんの2日前には日本海側の地方都市で、大規模な昼間火災事件があって、私もK市のアパートからGスーツ装着で飛んで行ったのだが、街の上空には何機も報道ヘリや消防ヘリが飛んでいるし、そもそも火事になっている場所では、消防関係者が果敢に火災と闘っていて、どこをどう手伝えば良いのか戸惑うばかりだった
そして私は未だに、衆人環視の中で超人として活躍することに、躊躇するものを覚えていた

その大火災の前にも、二度ばかりGスーツ向きの出動のチャンスがあるにはあったのだが。一度目は、近県で開催されたG7会議に出席している、各国指導者を狙ったテロに備えて、会場近くでスタンバイしてはみたが、別に何も起こりはしなかった(まあ、広範に展開される警備体制の実態を観察できたことは、今後の役に立つかも、くらいの微小な成果はあった)
二度目は8月に日本に接近して来た台風に備えて、あらかじめ予想コースを先回りしてみたときで、強大な自然の猛威の中に身を置いていては、いかな超人と言えども、至る処で同時に発生している種々の破壊状況を、ただ傍観するのみでしかなかった
結局こういった自然災害には、私の超人力では対処できないと悟った(仮に、なんでもありだとしても、超人力が発揮できるところに居合せようがないではないか)

それでも、なにか超人として人助けをしなければならないと、影スーツで夜のパトロールなど始めてみたのだが、そうそう事件にぶつかるものではない
かと言って、以前知り合ったマスコミ関係者のDという男も、あれからなんの連絡もない
そうなると、なにかこちらからアクションを起こさねばと、人の心理としてはそうなってしまう
それで思い出したのがあのぼったくりバーのことだ
あの店は、どうなっているのだろうと、素の私が思いついた

夏の頃は昼間、普通人のAとして不動産屋が送って来る中古別荘情報を元に、現地まで車(購入したばかりのスバルの中古車)で出かけて、別荘周りの環境(なるべく周囲に人が住んでいないこと)や、シェルター設置の改造に適した物件かどうかを、チェックするのに意外に時間がかかり(超人なので疲労はしないものの)、精神的な切迫感をひしひしと感じていた
いっそ国外の紛争地にでも出かければ、超人的らしい働きも出来ようが、そこから波及していくであろうトラブルの連鎖に、自分が耐えられるか(仮に、一般市民を独裁者や暴力組織から救ったとしても、それでことは済まないことは、これまでの経験で熟知している)、常識人としては気が重い

それから、週3のペースでN市の飲み屋街に出向いたが、酔っ払いの喧嘩を2〜3回収めたくらいで、そうそう(や)にも出くわさず、まして凶悪事件にも遭遇しないまま、夜の街にもいつしか秋風が吹き始める
それでも、K市から50q程度の山間地に、格好の別荘が見つかったので、斡旋してくれた不動産屋の紹介してくれた地元の建設業者と、シェルタールーム設置の交渉に入ってはいた

そんな頃、久しぶりに県警のK刑事から電話があって、S会の上部組織のT組の対抗勢力のP連合(パシフィック連合=中国+東南アジアギャングの連合マフィア)が、私を探しているらしいと告げて来た
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2019年01月07日

熟年超人の日 stage3 65

老人の屋敷から帰って2週間ほど経った
私はまだアパートに居たが、大家には夏が終わる頃に引っ越そうと思っていると根回しをしていたし、不動産屋に頼んで、今住んでいるK市の北の、山間地にある中古の別荘を何軒かリストアップしてもらっていた
妻には、T電から一部振込みがあったから、家を探していると言ってある(本当は老人からもらった金だが、通帳に振り込まれた額に、妻は上機嫌になり貴方の好きなように考えて、と言っていた)

また、T電のH本部長から昨日連絡があって、取り敢えず1億の半分は用意できたので、会社の口座に来週にでも振り込むことになっていると伝えてきた(老人の援護射撃があったからかも知れないが…)
様々な懸案が、やっと良い方向に向かい始めている感触に、私は少々楽観的になり過ぎていたらしい
その夜、久しぶりにジュブブの睡眠通信があった
前回の通信は、なんとなく私の行動に釘を刺していたような印象だったので、私としてはもしやご機嫌を損ねたのかと、ずっと心に屈託したものが澱のように沈んでいた

『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である』お馴染みのご挨拶とともに夢に現れた姿(夢が覚めた後には決して思い出せない姿)は、いつもの通りに感じられる
*お久しぶりです、ジュブブさん
『今回の通信は、この惑星における君の現在までの行動が、承認されたことの連絡である。すなわち、現在進行しているこの惑星固有の地域主義を受け入れつつ、超人活動を行おうという君の主張が承認されたということだ。ただし、君は当初我々が予定していた、この惑星における超人活動を極一部のみ履行すれば良いという訳ではない』
*ということは、F原発以外の事案にも積極的に関与せよ、ということでしょうか?
『その際忘れてはいけないことは、この惑星の特定勢力との連携活動は禁止されているということだ。当然、特定の人種、宗教、政治的配慮は、極力回避すべき活動と判断される』判断、とは誰が判断するのだ

*おっしゃっていることは、漠然とは理解している積りですが…、そもそもジュブブさん以外のどなたかが、私が超人になったことを把握しているということですか?
『それは当然である。官が名乗っている官職名からも、この件が当該宇宙を管轄している組織の一員であることが用意に推察できるはずである』…やっぱり
*では、承認して下さったのはジュブブさんの上位者ということでしょうか
『君の言う上位者という概念は我々の組織にはない。例えば官のみが、この太陽系を含む100光年ほどの球状域を観察していて、なおかつ現時点で活動している超人は2体で、候補体が8体であり、その管理観察記録は、官のみの職務になっている』
*その宇宙を管轄している組織って、どのくらいの規模なんですか?

『君が理解できるレベルでは数千体だが、この惑星の支配種族のカウントの方法なら数百億と認識してよい。それは、この惑星の生命体のように、分裂―結合-分裂型と異なり、宇宙文明種族の大多数が、融合―分裂―融合型か、純融合積層型であるところからきていると理解せよ』私のSF的思考が、かろうじてジュブブの意識を理解する
*ということは、私たちが珍しいタイプなので、観察してみようか的なことなんでしょうか
『その理解は、56.7%の問題把握力を示している。さらに付け加えるのなら、君がその理解力を持つことを、我々が認識したことが、今回の決定に繋がったと示しておこう』その意識を最後に、ジュブブの睡眠通信は消えた

なにやらお墨付きのようなものが与えられた気がするが、要は、このまま様子見だけしていれば良いのではなく、もっと超人らしい表立った働きもしなさい、それができなきゃライセンス返上になるよ、と伝えていたんだろうと、このところとみに柔軟度を増した私の頭脳が、そう解釈した
と言っても、普通に超人活動をするとなると、あの会社やらあの組織やら、あの国やらに対して、曲がりなりにも取り繕ってきた、私が有料受付の唯一の代理人である、という設定に齟齬をきたす恐れがある
なにせ、普通にスーパーマンが人助けするなら、無料活動に決まっているではないか
有料と無料の違いを設定してなければ、今後の超人活動によっては、一般人である私が世間の評価の対象にされるだろうし、場合によっては家族や親類縁者にまで、累が及ぶかもしれない
そう考え始めると、一気に私のテンションは下がってしまう
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2018年12月20日

熟年超人の日 stage3 64

I倉さんが店主と話をしている間、私は日本人同士の会話に入れず、店主が出してくれたYAKITORIを食べていたが、これがなかなか旨い。酔わないようにビールをちびちび飲っていると、I倉が話しかけてきた
『ここのマスターは、夜露のやり方が嫌いで、いつか警察に挙げられればいいのに、と思っていたらしいから、1軒おいた隣りの夜露で、物が壊れる音やら(や)のチンピラの喚き声が聞こえたとき、様子次第で警察にタレ込もうと耳を澄ませてたらしいんだ。じきに店の騒ぎは収まったみたいで、なぁんだと思っていたら、ドアが開いた音がしたんで、どんな奴が出て来たんだと思って、店の戸をちょっと開けて覗いてみたら、背格好は全く普通のおっさん(日本では中年以上の、ぱっとしない男性をこう呼ぶ)が出て来たそうだ』
『そこにYAKUZAの援軍到着で、その男は闘ったんだな』

『いいや、そうではない。その男は薄暗い路地に逃げ込んで、代わりに全身黒タイツの男が現れて、(や)達と闘い始めたそうだ。ここのマスターが言うには、喧嘩は割とよく見てるが、あんなに手際よく一方的に相手をやっつけるのは、初めてだそうだ』ワンサイドゲームか。それにしても、ある程度は喧嘩慣れしているはずのYAKUZA相手に、その手の訓練をした俺でも素手では、ちょっと難しいぞ、と思った
『日本には、そうした忍者がまだいるのか?』真顔で私が訊くと、I倉はいいや、という風に首を横に振った
『我々がよく知っている忍者は、もういません。しかし、どこかに隠れ住みながら、シュギョーしている者がいたとしても、おかしくはありません。この国には長い歴史がありますから』歴史ある国だということを、ことさら強調しているのはなぜだ

『そんなことはどうでもよい。それよりそのキーパーソンは、今どこに居るのか、君は知っているのか』肝心の質問の矢を放った
『K市に住んでいるらしいのですが、場所までは把握していません。ただ、県警内に親しくしている刑事がいるとか。県警でも夜露の件で、その人物を呼んだらしいのですが、上の方から指示があって、今では野放し状態らしいです』県警に親しい刑事がいるという重要情報が手に入った
『その刑事さんの名前とか、分かっているのですか?』単刀直入に訊ねてみる
『どうも、私に話をしてくれた人の部下のようですが、教えてはもらえませんでした。ところで、あなたは今回の事件を誌面でどう扱う積りなのですか』逆に質問された

『それについては、社の方針もあるので私の一存では答えられない。ただ、いろいろ親切に情報提供して頂いたので、私の個人的見解を明かすなら、どうやら日本人のある人物が、スーパーマンと忍者のコネクションを持っていて、そのことを把握している日本政府が、なにごとかを画策して、隠ぺいしているように思う』話しているうちに、それは確信に変わったが、そのことをそのまま本国に報告すれば、どのような事態に発展するかも知れないので、確証を得るまで、私の中に伏せておくべきだと、目の前の生真面目な日本人を見ながら、そう心の中で思った
『やはり、あなたは雑誌記者ではなく、A国の調査員なのですね。私も、同じような懸念に基づいて取材をしているので、本当の政府の狙いと、その日本のキーマンについてのより詳しい情報を集めますので、お国への報告は、今しばらくお待ち頂けないでしょうか。これは、お国のあの機関の庁舎の近くで学んだことのある、私のお願いです』なんと、このローカルペーパーの記者の見立ては、ほぼ正鵠を得ている。私は改めて、I倉という男の顔をまじまじと見た

『なるほど、あなたが言うように、もう少し詳しく調べたいのだが、あいにく私は、そろそろ帰国しないといけないことになっている。もし、あなたが私を信頼できるなら(…そして私もこの男を信頼するなら)、この件は今後お互いに連絡を取り合う、ということにしたらどうだろう』そう言って、私は右手を差し出した
彼は、その私の手を握り締めると『もちろんです!』と、きっぱり言ったのだ
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2018年12月16日

熟年超人の日 stage3 63

明らかに私が警戒心を顕わにしたのを見て、男(I倉)は屈託のない笑顔でさらに話しかけてきた
『私はK市で起きたある事件を追っています。そこで起きたことに関わる人物が、もしかするとこの辺りで起きた事件にも関わっているのではないかと、そんな予感に従ってこの辺りを調べているのです。あなたの雑誌社は、なにかオカルト的な事象を扱われているのですか?』なるほど、関わりがありそうな人物が向こうからやって来た訳か
『私がここの警察から聴き込んだ話では、ある人物が宇宙人のYAKUZA事務所襲撃に関わっているとか』まずは、魚が隠れていそうな辺りにルアーを放り込んでみた

『そうですか。実は私は、あのスーパーマンが県警本部にS会の金庫とデスクを運び込んだ時、あの現場に居合わせたのです。しかし残念ながら、スーパーマンが飛び去るところで、カメラを使う間もなかったのですが、何人かの目撃者から取材することはできました。ただ、KOANだと名乗る人物に口止めされたので、社にも報告できてない状態です』KOANがなんなのか、そのときは分からなかったが、後で調べると、日本のFBIのような性格を持った警察組織のようであった
『そのような重要なことを、なぜ私に伝えようとしているのですか』なにかのトラップだといけないので、自制して話しかけた

『そうですねぇ、なんで外国人の貴方に話したのかなぁ。王様の耳はロバの耳ってやつですかね』童話を引用して話すローカルペーパーの日本人記者とは!そこで、こちらから誘いをかけてみた
『英語がお上手なんですね。どちらで学ばれたのですか』
『若い時、A国に留学したことがあるんですよ。V州です』
『V、V州のどこの学校?僕もV州に住んでるんで。どこの大学?』
『ティームズ・マディソン大学、アリソンバーグの』思わずひゅ〜っと口笛が出てしまった。こんな異郷の地で近くの大学で学んだ人物に出会うなんて!
身長は6フィートに足らないが、体重は恐らく187、8ポンドくらいのその男が、急に好人物に見えて来た

『そうか、あそこはなかなかレベルが高いんだろう。なにを学んだんだい』親しみを込めて、そう尋ねた
『主に政治とマスコミの関係性ですが、こちらに帰って来てから、大手の新聞社やテレビ局を訪ねて就職を頼んだんだけど、結果は今の地方新聞社ですよ。でも、今回の事件に公安がからんだということで、僕は逆にファイトが湧いたんです』なかなか熱い男のようだ
『ということは、例のスーパーマンについて、日本政府は国民に隠しておくべきと判断したと思ったんだね』いいぞ、こんな男と出逢えるなんて、俺はついてる、と思った
『そこに、貴方も言っていた男が、スーパーマンと懇意らしいという話を4課の係長から聞いて、その上、以前この辺りであった、暴力バーで起きた事件とも関わっていそうだという話も匂わせていたんですよ』
ビンゴ!だっ。この記者からもっと大事な話が聴けそうだ

当然、このI倉と名乗った男もジャーナリストだから、ただでそんな情報を外国人の私に漏らす訳はないだろう。その隠された意図を探るべく、私は店主が持って来たスナックを食べ、もっとなにか料理を出してくれとオーダーし、ビールをI倉のグラスに注ぎ、続いてチューハイという酒を店主にオーダーした
『その男がからんだ事件、というのはYOTSUYUという店で暴れた話しかい。なんでも店をぶち壊して、その後応援に来たYAKUZAを、忍者みたいな男と一緒に撃退したとか聴いているが』ルアーを投げる
『そうらしいんだけど、忍者みたいな奴が現れたときには、その男は姿をくらませていたらしいんですよ』チューハイのジョッキを見つめながら、I倉が声を低めてそう言った
「俺も見てたけど、すごい奴でしたよ。黒装束で、ホント、ディスイズニンジャって感じで、S会の連中を、ぽんぽん放り投げたり、すっ飛ばしてね」店主が興奮した口調で、話に割って入って来た(もちろん、その時は話の内容はわからなかったが、I倉さんが後で教えてくれたのだ)
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2018年12月12日

熟年超人の日 stage3 62

L.C.から教えてもらっていた日本語は「YOTSUYUというバーを知っていますか?私はA国の科学誌の記者です。英語を話せますか?」の3つと、「スミマセン」「ドウモ」という言葉だけだった
随分心許ない話だが、その日私が探索する地区は、治安の良いこの国でも、相当YABAI(この日本語は応用性が高いということで、私のお気に入りだ)目に遭いそうな場所だと、L.C.が言っていたから、反って私の本来のやり方で情報を得られるだろうと、判断しての行動だった
もし重要な人物を見つけたら、L.C.に連絡して至急合流してもらい、件の人物からAという男の情報を入手するという、どう考えても乱暴なやり方だが、離日期限が間近に迫る中では、これしか打つ手が無かったのだ

酒を飲む人間でなければ酒を飲む場所を知らないのは、A国でも日本でも一緒だろう。まして、怪しげなバーで起きた喧嘩沙汰なら、この辺りで飲み屋を経営している者なら見てもいるだろうと、そう踏んでまだ薄明るいこの時刻に開けている店に飛び込んだ
「スミマセン、YOTSUYUというバーを知っていますか?」早速習った日本語を使ってみた
「よつゆ?知らんなぁ」カウンターの奥で、なにやら店を開ける準備をしていた男がぶっきらぼうに答えた
「英語を話せますか?」と訊ねてみると、首を横に振った後、ビール瓶を手に持って「飲む?」のジェスチャーをしてきた(ある程度英語は聞き取れているらしい)ので、うなづいてみせた

「YOTUYU知ってますか?」カウンター席に腰を掛けて、運ばれてきたビールをぐっと飲み干してから、もう一度訊いてみた
すると、なんだか分からない日本語で答えたが、こちらが分からないと両手を広げてジェスチャーすると、今度はものすごく聞き取りにくい英語が返ってきた
『知らない。そのバーこわれた。わたし、知らない』こんな感じだ
『こわれた、って破壊されたのか、それともつぶれた、と言っているのか』と英語で訊ねると、男(恐らく店のマスターだ)は『私、分からない』と英語で返事をした
そして、逆に『あんた、どこから来た。あんた誰?』と、たどたどしく質問を返して来た。これは分ったので
「私はA国の科学誌の記者です」と日本語で答える(これで覚えている日本語は出し尽くしてしまった)

「記者さん?ほんと記者さん。A国のマスコミの人?」これは、なんとか理解できたので、うなづいて「イエス」とやったら、それで勢いのついたマスターが喋り始めたので、話の内容は全く分からなくなった
困っていると、新たな来客があった
店のマスターが、その客(顔見知りのようだ)に、なにか話しかけてから、カウンター内の小さなキッチンで(恐らく)スナックを作りにかかった
『A国の雑誌社の方ですか』かなり聞き取り易い英語で、新参の客が私に声をかけてきた
『はい、そうです。私はパラノーマル・ライジング誌のレグマンをやっています』少しほっとして、思わず警戒心を解いてその客に返答をしてしまった
『そうですか、私はローカルペーパー西三新聞の、I倉と言います』よりによって、新聞社の者だと、その男は名乗ったのだ
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2018年11月18日

熟年超人の日 stage3 61

日本では、いろいろあったな、と飲みかけのマグカップをぼんやり眺めながらマシューは、あえて報告書に記載しなかった出来事の回想に浸っていた

あのビルの管理人に会った翌日、キーマンのAを探すため、L.C.は彼が住んでいた(いる?)というK市に向かい、私は、昨日警察本部の廊下ですれ違った二人の刑事が交わしていた会話(むろん日本語の)からL.C.が聞き取ったAについての不確かな情報を検証すべく、N市の歓楽街の調査に向かった
二手に分かれたのは、我々の調査日程が本局の都合で短縮されたことにあった。本国では、いよいよ大統領選もたけなわになってきていて、人手が足りないというのがその理由だった

キャッスルという名のホテルは、その名の通り日本的な大きな城(しかしコンクリート製だ)の近くにある。朝食を済ませた我々(どちらも自制していて、相変わらず別室だった)が、今日の調査の段取りを確認していたところに、大使館のジョナサンから連絡が入った
『こちらで入手した情報によると、Aという男はあの事件の前に、N市のYOTSUYUという暴力バーで騒ぎを起こしていたそうだ。そのバーの経営には、例のS会が関わっていたそうだ。重要なのはこの後だ。その騒動の途中から、忍者が現れてS会の増援部隊を蹴散らかしたそうだ。ネットに上がっていた動画があったんで、君のスマートフォンに送っておくから見てくれ』
そして、我々はAを救うために(そうとしか思えなかった)、忍者が現れたことを知った

Aという男(ジョナサンの報告では60才を過ぎた5フィート半くらいの小男らしい)が、キーマンなのは確かになったが、日本のマフィア・YAKUZA連中とことを構えているとなると、その調査をする我々にもなんらかのトラブルが生じることは避けられそうもない
L.C.は、わたしも結構強いのよ、と言っていたが、やはり彼女には昼間K市に行ってもらい、私もできるだけ日中にN市のYOTSUYUという店と、その周辺を探索することに決めた
その後、各々の部屋で報告書を作成して時間をつぶし、ホテルのレストランで早目の昼食を摂ってから、それぞれの目的地に向かった

L.C.が地下鉄JRを乗り継ぎ、K駅からタクシーでAの住むアパートメントに着いたのは、14時過ぎだったという。Aが昔A国で女性と付き合ったことがあって、その時出来た子が、はるばる父を訪ねて来たというストーリーで、まずアパートの周辺から聴き込み、少したどたどしい日本語を話す彼女は、親切心と好奇心がミックスしている地方都市の住民に大いにアピールしたのだが、肝心の詳細な情報はなかなか得られなかった
それでも、Aがよく近くのMANGAカフェ「It's-ZUKE」に行くという聴き込みを得て、訪ねたその店のスタッフからAと警察の人間がときどき会っていたという重要な情報を得た
その店を出たL.C.は、もう一度アパートメントに向かったところ、途中で二人の男に尾行されていることに気付く。歩調を変えた途端、もう一人別の男が前方を塞いだ

「ちょっとお待ちを、外人のお嬢さん」前方の男の、日本語の問いかけを無視してすり抜けようとすると
『待ってくれと、言ってるんだ』今度は流ちょうなA国語が後ろの人物から発せられた
『わたしには、あなた達に用は無いわ』と言っておきながら、バッグの中のベレッタを指先に感じたとき、別の一人が仲間をたしなめた
「おいおい、お前たちが物騒なムードを出すから、お嬢さんがテンパってるじゃないか」…『すみません、貴方がどなたかなんて気にしてはいないのです、我々は。恐らくA国の情報局の方なんでしょうが、あの人はここに居ませんよ。我々は命を受け、あの人を陰ながらお守りしている者で、まだ外国の方との接触は避けるように命じられておりますので、どうか、お引き取り下さい』丁寧ではあるが、有無を言わせない口振りは、決してYAKUZAなどではなく、ちゃんとした組織の一員であることが明白だった

『そうなの、あなた達は日本の公安の人たちね。なにを言っているのか分からないけど、わたしはA国の科学情報誌の記者なの、わたしはただ信じられないものを見たという人から、話を聞きたいだけなのよ』
『そういうことならそれで結構ですから、とにかくお引き取りを』その迫力に押され、L.C.はその場を離れた
友好国の官憲とはトラブルを起こさないのが鉄則だから(この時は日本の警察の人間だと思い込んでいた)

一方、私の方と言えば、夕暮れを待ってそれまで時間をつぶしていたデパートメントを出て、N駅の西側に散在する酒場の中から問題のバーを探し始めていた
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2018年11月04日

熟年超人の日 stage3 60

「お宅ら、本当にA国の雑誌の記者さん?名刺かなんか持って無いの?」背が低いので下から上目づかいに見上げる目は、臆病そうではあるが油断のならないイタチの目だ
「そうです。わたしは、A国の科学情報誌パラノーマル・ライジングの通訳助手のアリス・デイヴィスと言います。彼は、取材記者のロジャーで、日本語が話せないので、わたしが代わりに質問したり、答えたりしてます。そして今日は、少し前にこのビルであった事件のことを調べに来ています」

そこまで聞くと、管理人の男は「はぁーん、こないだの事件って、上の階の?」と言うと、「お宅ら、ホントP連合から来た人じゃないだよね」と言って「ここじゃなんだで、まぁ中に入ってちょ」と手招きして、室内に招き入れてくれた(一部L.C.も分からない言葉だったが、録音音声に忠実に再現します)
部屋に入ると、ダイニングテーブルの椅子を我々に勧め、管理人自らヤカンに湯を沸かし、日本の茶を淹れてくれた。案外、好い人物のように思えてきた
「で、お宅らはA国のマスコミの人?」マ、ス、コ、ミ…ってなんのことだ
「そうね、マガジンリポーターは、マスメディアの一員ですね。わたしたちは、あの夜になにが起きたのかを調べています。貴方は、あの夜、その事件を目撃されましたか?」

「この取材は、謝礼があるのかね。なにも無いんじゃあ、話すことも出てこないんだなぁ」お茶を入れた持ち手のないカップを我々二人の前に置きながら、にまっと笑ってL.C.の顔を見る。私の方には視線が来ない
『この男は、金をくれと言っているのか』思わずL.C.に訊いてしまった
「イエス、わかってるわ、取材費の中に謝礼金も含まれているから。貴方のお望み通り、とはいかないかも知れないけど、話の内容によっては充分お支払する積りよ」L.C.が答えた
「あの晩、俺はこの部屋でビールを飲みながらテレビのくだらない番組を観てたんだ。そのうち、揺れを感じたんで地震だ、って思って廊下から外に逃げたんだ」

「外に出たのね」それじゃあ部屋で起きたことは見ていないんだ。当然、中の奴らとGの話も聞けてない訳だ
「それで、外に出て周りを見ても地震があったように見えなかったんで、部屋に戻ろうとしたら、3階辺りで大きな音がしたんだ。俺はてっきりP連合のカチコミだと思って、警察に電話しようと思ったんだが、ケータイを置いて来ちまってた。仕方ないんで、部屋に戻ろうとしたら階段の方から、なんだとー!なんだぁ!ってどなる声が聞こえてきたんだ。耳を澄ますと、あのおっさん知ってるのか、とか聴こえて、それからまた物がぶち壊されたようなどえらい音が響いて、なんかぼそぼそ喋る声がして、それからハジキ(拳銃)の音がして、ちょっとしてまたどえらく物がぶっ壊される音がしたんだ」
「それで、貴方は部屋に戻って警察に電話したのね」
「いんや違う、俺は少しだけ聞こえてくる話し声が気になったんで、こわごわ階段を上ったんだ」

「3階に着いたところで、通路廊下に顔だけ出して、耳を澄ましたらS会の兄貴分の奴の声と、もう一人声のいい奴の話し声が聴こえてきた。びびってたんだが、それでも気になってしょうがなかったんで、廊下通路に出ると、S会の若い衆が二人、部屋の方を見てるのが見えた。俺はあいつらに気付かれたくなかったんで、慌てて階段の方に戻ったら、ふっ飛ばされるみたいな音がして、それからメキメキっと物を壊す音が聴こえて来たんで、もう一度廊下通路を覗いたら、若い衆が二人でよろよろ逃げてくとこだった。部屋の中からは、音は聞こえてなくなったんで、恐る恐る部屋の方に歩いて行ったんだけど、部屋の中はぐっしゃぐしゃで、窓の所がぽかっと空いていて、S会の兄貴分のTとかいう奴が日本刀持って、ぼやっと立って窓の抜けたとこを眺めてやがった。あいつに見つかるとおっかないんで、俺は慌てて階段に戻ると、パトカーのサイレンが聴こえてきた、っというのが俺の体験談だ」

「ありがとう、じゃこれ謝礼ね」L.C.がバッグから封筒を出して管理人に渡すと「おっありがと。なんだ、これだけか、まあいいや」という声が聞こえた
「じゃ、部屋の方を見せてもらいたんだけど」とL.C.が言うと、「ああいいよ」と管理人は我々をエレベーターに案内して、3階に移動した
「あの部屋も随分ぶっ壊れちまって、S会の組本部も知らん顔かと思っていたら、どうやらオーナーんとこにその上の超大物から連絡があったそうで、近々修理が入るらしいんだが、今はご覧の通りだよ」
鉄製のドアは蝶番の部分で引きちぎられていて、ドア枠に立てかけられていて、我々はその隙間を通り抜けて室内に入った

室内は、3日前の夜に壊された状態のままで(警察からできるだけそのままに、と言われているそうだ)、ガラスの破片やきゃしゃな応接机が転がったままになっていて、日本刀や拳銃が落ちていたところには、テープで印が付けられていた
『こいつはすごいな』
『相当な力持ちみたいね』二人がA国語で喋っていると、管理人が気を揉んで話に加わって来た
「ひどいことになってるけど、結構丁寧に壊してるんだ」
「ていねい…、ああポライトリィね、ブロークンポライトリィと言ってるのね」この男にはそう見えるのか、と私は改めて破壊された室内を見廻した

引きちぎられかかっている鉄扉、そして室内を間仕切っている薄い壁に付いている、きゃしゃなガラス扉、その先にある安物の応接セット、までが一直線に破壊されている
応接セットのある方の部屋の壁は、他の部屋とは段違いに頑丈そうな造りになっているのだが、それにぽっかり四角な穴が残っている状態だ
警察本部にスーパーマンそっくりに、この部屋にあった大型金庫と執務デスクを運んだそうだが、その跡なのだろう。デスクの方は当然無くなっていて、その後ろの窓ガラスが枠ごと外されて、部屋の中に置かれている。そう、丁寧に、だ

ここまでのGについての調査を、以下にまとめてみた
1)Gは空が飛べる→方法は不明
2)Gは怪力である→N市の事件では非常に限定的
3)Gは日本語を話す→他国語については不明
4)Gは丁寧に物を壊す→繊細と言える
5)Gは人を殺さないようにしている→YAKUZAの攻撃を封じつつ負傷する程度に反撃している
6)Gは日本人のAという男を守ろうとしているかのようである→YAKUZAとの会話に登場している
7)Gは非常に冷静である→この事件全体を通しての印象
8)Gは拳銃の弾丸を跳ね返す→つぶれた弾丸が日本の警察に保管されている
9)Gは緑色に見える(それ故かグリーンマンと呼ばれている)
10)Gはフルフェイスのマスクをしているように見える(顔を見た者はいない)
補足→木製の大型デスクと金属製の大型金庫の運び方が、微妙に異なっていたという日本警察官の印象が我々の注意をひいた(詳細調査の必要を認む)

結論として、N市の事件ではGはマーヴェルコミックのスーパーヒーローそのものに思える
ただし、その行動はA国製でなく日本製と言えよう
デスモンド・ブライト調査官のF原発におけるGの行動軌跡とのコンシステンシーを至急図る必要を認む
以上
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2018年10月21日

熟年超人の日 stage3 59

L.C.と話し合って、Aという人物について知っていることを話してもらうため、再度県警本部のK刑事を訪ねると、Kは捜査で外出してしまったということで、代わりにD田という東京警視庁の男が現れた(その男はKよりも若く背も高く、階級も数段上のようだった)
『お二人は、パラノーマル・ライジング誌の記者さんとレグマン…、このレグマンというのは?』東部訛りの流ちょうなアメリカ英語を操るその男は、簡単な挨拶を交わした後、そんな質問を向けてきた
『レグマン(Leg man)は、取材記者、もしくは情報収集者です。彼女が日本語で取材し、私がその結果を整理して記事にします』英語が通じる相手だったし、どうやらただの警察官ではなさそうなので、私が答えた

『そうですか。お宅の雑誌を拝見しましたが、超常現象を専門に扱っているようで、本件のような話がそんな観点の記事になり得るとは思いにくいのですが…?』
『はい、今回の事件は大変面白い事象を含んでいると思います。更に、我々A国人が大好きなスーパーマン…おっとグリーンマンですか。ウチの読者が喜びそうな、超人が大暴れしたという話ですからね』
『そうですか。それで、いいネタは採れましたか?』微笑みながらだが、眼光は鋭い。それを隠さずに見せているのは、こちらの正体に気付いているからだろう
『そうねえ、Aという人物を守るために、YAKUZAの事務所を襲ったんだと、Gは言っていたそうよ』L.C.が会話に加わり、核心に迫る人物名をD田にぶつけた

『A、ですか。その人物は我々も把握しています。でも彼は一般人で、貴方方のお好きな“超人”ではありませんよ』平然と答えるD田の表情の奥に、微かにゆらぐものが見えた
『もちろん、そんなことは思っていません。ただ、Gにとってのミズ.ロイスだったら、面白いな、と思ったんです。
そう、なぜGが特定の個人名をあげて、YAKUZAに警告したのか、大いに興味深いお話だと、わたしたちは思ってるんです。D田さん、貴方はそのAという人物と、Gとの結びつきの根源が何かご存知なのですか?』L.C.が女性である特権を活かして、ずばり核心を突く

『およそは。そう、Aという人物は、グリーンマンの窮地を救ったので、その恩を返してもらう約束をしたようなのです』なるほど
『では、Aという人物が望めば、グリーンマンは、Gはなんでも叶えてくれるというのですか。アラジンの魔王のように』
『どこまで適えられるかは分りませんが、まあそういうことだと我々は判断しています。YAKUZAの末端組織を壊滅できる以上の能力を有しているであろうことは、想定しております』歯に衣着せぬという答えだ

『分かりました。それではぜひ、私たちがミスターAに会えるよう、お取り計らいをお願いできませんでしょうか』今度は私がD田氏にお願いしてみる
『それは、残念ながら適えられません。そもそもA氏は民間人なので、我々も任意の事情聴取くらいしかできていないのです。そして、彼は今、どこかに姿をくらましています』慇懃ではあるが、きっぱり協力を断る返答がD田氏の締めくくりの言葉であった
もちろん、それは充分予測された態度ではあったし、こちらも所属をあいまいにしての問いかけだったので、さほどがっかりはしなかった

警察本部を出て、今度はS会の事務所が入っていたビルの管理人(L.C.がインターネットでチェックした)に会うため、SHINKANSEN駅近くのTOWAという、あまり美しくないビルを訪ねた
管理人の部屋は1階にあるだろうと見当をつけ、L.G.が何軒かドアベルを押して廻った。3軒目で中から返事が聞こえ、住人の女性が顔を出した
「すみません。私たち、このビルの管理人に会いたいのですが」L.C.が丁寧(多分日本語としては丁寧なんだろう)に訊ねると、いかにも夜の商売をやっていそうな顔色の悪い女性が「通路の端の100号室だよ」みたいな素っ気ない返事をすると、すぐドアを閉めて引っ込んだ

100号室のドアベル(日本語ではチャイム)は、鳴っているのか鳴っていないのか分からい状態で、3度押してL.C.が手を広げて、どうしよう、という風に私を振り返ったとき、急に中から外に鉄製のドアが開いた
管理人のK谷氏は、おどおどした感じの不健康そうな小男(5′2″くらい)で、上目づかいにL.C.と私を見ていたが、意を決したと言う風に、日本語で話しかけてきた
「なんだね、あんたたちは。外人さんみたいだけど、どっかのキャバクラで働くんで、ここに住みたい、って言うの?」
「いいえ、突然で驚かせてすみません。わたしたちはA国の科学雑誌の記者で、先日このビルで起きた事件のことで、管理人さんのお話を訊きたくて、お訪ねしました。わたしはアリスで、こちらは記者のロジャースと言います」L.C.の見事な日本語の応対に、管理人が驚いた顔になった
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2018年10月07日

熟年超人の日 stage3 58

かのスーパーマンと一戦交えたという日本の若きギャング(全くのチンピラだが)は、訪ねてきた我々がA国人だったことで緊張していたが、L.C.が若く美しく、おまけに日本語が話せることに気を良くして、多弁だった(もちろん私には何を言っているのか分からなかったが、L.C.が後で話してくれた)
彼は肋骨を3本折って救急車で外科病院に運ばれ、それからこちらの警察病院に転院したということだった
以下は、彼の語った言葉の要点をまとめたものである(L.C.に私的に語りかけた言葉を省略)

[俺はガラス戸の陰にいたんだ。ヤスコー(この男は警官たちが現場に駆けつけた時には姿を消していて、その後の消息は知れていない)が、ドアと一緒に引き出されて吹っ飛ばされちゃいやがったんで、びっくりした俺は、思わず勢いでバットで殴りつけたんだ。そしたら、次の瞬間には、もう廊下まで吹っ飛ばされちまってるんだよぅ、あっという間にだぜ]
「殴りつけたとき、どんな感じがしたの?そう、手の感触、というか…」とL.C.
[それが、よくわからないんだよ。確かに肩んとこに当ったんだが、手応え、っつぅの、それが無くって…でも空振りじゃなかった、確かに当ったんだ]
(その後、スーパーマンの見た目の特徴や、事務所の中で起きたことなど質問したが、大した証言は得られなかった)

次に、同じ警察病院の別室に収容されているE田という男に会った。E田は、30才前の組ランク4番手ということだが、左肩をやられた上に、吹き飛ばされた先にあったガラスの応接テーブルで、尻の辺りを大きく損傷していて、ケンコーに比べれば重症で、ぽつりぽつりではあったが、行方をくらましているナンバー2のT野とスーパーマンのやりとりを、かなり鮮明に喋ってくれた

[兄貴は最初、P連合の鉄砲玉か?と訊ねたんだ。そしたらそいつは、自分のことをグリーンマンとか言ってたと思う。俺は肩と応接テーブルにはまっちまった尻が痛くて、聞いてるどころじゃなかったんだが、それでも兄貴が度胸決めて話してるんで、そこに感心してやりとりを聞いてたんだ。
そいつは、Aって奴に手を出すな、みたいなことを言ったが、そのときS原が日本刀で切りつけやがったんだが、あいつのマントが動いて刀が取られたかと思ったら、俺と一緒で吹っ飛ばされて休憩室のドアにめり込んじまった。
その後、T野の兄貴とあいつがなにか話していたんだが、俺は肩の痛さで気が遠くなりやがって、兄貴がチャカ(拳銃のこと)をぶっ放した音は聞いた気がするが、もうその先は覚えてないんだ]
以上がE田の供述だ

さらに続けて、休憩室のドアに突っ込んだというS原という男が収容されている部屋にも行ってみたが、この男はドアに突っ込んだときに気を失っていて、ただ一言だけのコメントが取れただけだ
[Aに害を及ぼす者は許さない、って言ってました]
また、Aという人物の名が出て来た。
注目すべきは、YAKUZA連中がそれぞれ武器を持って、グリーンマンというスーパーマンを殺傷する気で襲ったにも拘らず、いずれも吹き飛ばされて戦線を離脱させられている、ということ
さらに、Aという人物こそが、グリーンマンなる者を差し向けた者に間違いない、ということだろう
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2018年09月23日

熟年超人の日 stage3 57

N市(*シカゴ、ヒュストンと似た人口・産業バックを持つ大都市)に着いた我々二人は、まずN市にある県警本部を訪ねた…事前に大使館のCIA局員グスタボ・ステァリングから、宇宙人の2度目の出現がN市のYAKUZAの事務所だったこと、そこでひと暴れしたこと、巨大な金庫とデスクを県警本部に持ち込んだ、という情報を得た上での訪問だった。そして、2つの現場には何人もの目撃者がいたことも把握しての訪問だった

県警の広報担当者に、A国の超常現象専門誌『パラノーマル・ライジング』誌の記者とカメラマンだと名乗って、今回の宇宙人騒動の関係者にコンタクトを取りたい旨を告げた(*L.C.が日本語堪能)
代わって出て来たのは、捜査第四課(*YAKUZA対応部署)のKという刑事で、互いに自己紹介の後、質問に入る(*会話の余分な部分は省略)
《L.C.》「その宇宙人の破壊行為で、死者が出なかったというのは、本当ですか?」
「はあ、出ませんでした。負傷者は重症の者が何名か出ましたが、命に別状はありませんでした」
「その負傷者は、YAKUZAでしたか?一般人でまきこまれた者はありませんでしたか?」

その時、刑事が笑ったような気がしたのだが、日本人の表情が見分けにくく、確証は持てない
「グリーンマンはそのあたりを大変気を遣っているように思います。ええ、一般市民は全く巻き込まれていません。奴らの事務所から、でかい金庫とデスクを持ち出したときにも、窓の落下を気にして枠ごとそっと外して、室内に置いてから、飛び出しています」
「ええっ、YAKUZAの事務所をぶち壊しておきながら、窓枠はそっと取り外して出て行ったと言うんですか?」L.C.が驚いて聞き返す
「そうですねぇ、窓ガラスの破片が、下を通りかかった人を傷つけるのを恐れたんでしょう」(この国ではスーパーマンさえも礼儀正しくふるまおうとするのか!)

「それからこの警察署に、YAKUZAの悪事の証拠になる資料の入った“金庫”と“大型デスク”を持ち込んだのですね。それを貴方も見ていらしたのですか?」
「いいや、私はその現場を見てはいません。署内の人間が何人か目撃したようですが、その後の署内の調査によると、金庫と机を持って降りて来たところを見た者が二名、それらを駐車場に置いて飛び去って行ったのを見た者も二名、ただ特にA国の雑誌さんにご紹介できるような、面白い目撃談はなかったです」確かに、その調書の写しなるものは、この国の公安警察を経由して、我々にも開示されており、この刑事の言うように、特段面白いものではなかった

ただ、警官の一人の証言に宇宙人が運んできた金庫と大型デスク(木製)について、運んで来た様子から、デスクの方が重そうに感じられた、という印象を語っている部分が、我々の注意を惹いていた
「その警官の方たちから、お話を訊くことはできるでしょうか」丁寧な(日本語は分らないが)口調で、L.C.が刑事に訊ねる
「いやぁ、今日は内勤の二名は非番なんで…、外勤の二名は巡回に出てるはずだし」非協力的な刑事の態度に、L.C.の表情が硬くなったのが分かる
「じゃあ、もう伺えることは無いのかしら。それでは、怪我をしたというYAKUZAたちの、入院している病院を教えて頂けますか?」若干鼻白んだ口調になるL.C.
「それは…、いいでしょう構いませんよ。警察病院ですから。ただし、面会して話を聞けるかは、そちらで判断してもらってください」素っ気なさでは負けていない刑事

そんな訳で、我々はその刑事にタクシーを呼んでもらって(A国政府の人間だとは名乗っていないから、警察の車は出してもらえない)警察病院に向かってくれと頼む
「警察病院ですか、どこの?」タクシーの運転手が怪訝そうに言うので、L.C.がこのN市のよ、と言うと、なら歩いて行った方が、早いよと言う
なんのことはない、県警本部から歩いて5分もしない距離だった。あの刑事が、これほど不親切なのは、この国の警察組織の上層部からの指示があるからだろうか
警察病院の受付で案内を乞うと、特別病棟というフロアに案内してくれた
その605号室に収容されているYAKUZAの名は、ケンコーと呼ばれている20歳くらいの若造だった
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2018年09月09日

熟年超人の日 stage3 56

『私の方と言えば、NRC(原子力規制委員会)の調査員という触れ込みで、F原発の関係者から事情聴取していただけだから、さほどの困難はなかったんだが、彼らは民間のオカルト誌の記者とライターという肩書だけで、日本警察はおろか、YAKUZAや歓楽街の怪しげな連中から、情報らしいものを刈り集めなければならなかったんだから、随分と大変だっただろう』カップに注いだコーヒーを見つめながら、静かに話し出すデスモントの口元を、ジョナサンとオーウェンは興味深く注視している

『私の調査は終わり、日本の原子力発電システムの建設から、今回の廃棄作業まで、文字通りゆりかごも墓場も作る羽目になった様々な立場の連中が見て、判断した宇宙人の話をまとめて国に報告書を送る前に、ちょうどN市から一旦戻って来た二人と、どうせならポイントだけでも情報交換しておかないか、と、こっちから持ち掛けてみたんだ。つまり、私もひっかかるところがあったんだ
もちろん、そんなことはすべきでないことは分っていたんだが、あまりにも私がまとめた報告書が現実離れをしているように思えたんで、論調を確認しておきたかったんだ。この件は我が国にとって、さほど重要なことではないという論調をね』

『彼らも用心しながらではあるが、同じような気分になっていたんだろう。じゃあ、ちょっとだけ情報交換しようか、ということになって、大使館から大分離れたSHIBUYAのIZAKAYAに行ったんだ』ここで一口コーヒーを飲む
『彼らの収集してきた話しは驚くべきもので、かけ離れた存在に思えていた宇宙人が、日本人の特定の人物を守るような行動を取っていたという事実。さらに原発への介入も、その日本人の指示あるいは依頼で動いていたということだったんだ。つまり、宇宙人と言いながらも、著しくこの国寄りな行動をするスーパーマンってとこなんじゃないのか、という疑惑に満ちていた、というのが彼らの印象だった』ジョナサンとオーウェンは、思わず顔を見合わせる

『詳しいことまでは打ち明けてくれなかったが、大体そういうことで、今度は私が彼らにネタを披露する番だ。まず、1万トンもある鉄製のフロートタンクを持って、空を飛び回ったことについて、日本人技術者たちは魅了され、そう文字通り魅了されたってこと。その宇宙人が話の分かっている奴で、そうどこか大手代理店の企画売込みみたいだったってこと。それから、物を大事に取扱い、周りの、つまりあの日原発作業所にいたみんなのことを気遣い、クレーンカーなども大切に移動させ、放射能まみれの破損した原子炉の中に入って、なにも壊さず、デブリを取り出してくれたことに、日本人を感じるって思った奴が何人も居たってことを話してやったら、顔色変えて、もう一度N市に行って来るって言って、また情報収集に戻って行ったんだ。それで私も、報告書の見直しと追記が必要になったて訳さ』そう言うことかと、大使館員と資源担当オフィサーはうなづき合い、それから週末に行くゴルフ場の話題に興味を転じた

*
*
[ 作戦本部東アジア部エージェント1208 トーマス・グラース 04ランクレポート ]同行者:情報本部東アジア分析部/ラトゥーヤ・コーカー

主題:同盟国日本に出現したグリーンマン(以下G)と呼称される地球外生命体、及び、Gと連携した場合の日本が包括する“我が国への脅威”の考察

20160421(Japan Time)日本入国後、大使館員のジョナサン・ハドソンと接触。以後、超常現象誌『パラノーマル・ライジング』の記者(L.C)とレグマン(T.G)のデイヴィス夫妻として調査行動開始
20160422(JT…以下略)東京よりN市に移動するためSHINKANSENに乗車した
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2018年08月28日

熟年超人の日 stage3 55

Aの妻M代は、引き落としばかりが記載された通帳を眺め、ため息をついた。夫が、それまで勤めていた会社を定年退職してから、次の就職も決まらないままもう3月が経っている
頼みの年金は、65才にならないともらえないから、どこかに再就職すると言っていたが、もう夫の年になると企画系の仕事は見つからず、と言って飲食店の手伝いや交通整理や新聞配達は体がもたないと、応募もしないし、今更タクシー免許を取りに行くのもなあ…などと言って、いっかな腰を上げようともしない
そのうち自分は超人になった、とか、F原発の問題を解決して、東京の電力会社からお金をもらえるようになったと、自慢そうに話していたが、いつになってもそんなお金が入ったという話はない

今こうして、長男のマンションの居間で、孫のT哉の寝顔を眺めながら、思い返すと二人が知り合い職場結婚した大手旅行会社を、夫が突然辞めて音楽出版会社に移った時は、結婚して2年、長男のT彦が生まれて、まだ1年もしない頃だった
これからは音楽が人生を輝かせるんだ、と言って目を輝かせていた夫は、関西で大きな地震があってしばらくした頃、その音楽出版社に突然辞表を出すと、仕事で付き合いのあった印刷会社に籍を移した
その時は、考えがあって印刷会社の仕事を覚えたいんだ、と言っていた夫だったが、事実3年もしたら、もう仕事は覚えたと言って、出資者を見つけてタウン誌を出版することになっていた
その時も、これからは身近にある情報がお金になるんだ、と興奮してわたしを説き伏せたっけ…。そのタウン誌経営の3年間は、特に休刊に至る2年目と、会社をたたむ最後の1年は大変だった

それまで、普通の中堅企業のサラリーマンの家庭で育ったM代にとって、お金が無い、ということの意味を、思い知らされる2年間だったが、それも今となっては笑い話になりそうなエピソードが散りばめられた思い出でもあった
いつも安定している状態が続くと、思いつきの実践に向かう夫の性癖に、悩まされはしたが、根が明るい自分であり夫であり、素直に育ってくれた二人の子どもに恵まれたこともあって、最近はこのまま夫婦で年を重ねられそうな気がしていたのだが、どうやらまた波乱の展開になりそうな予感がするM代だった

その時ぐずり始めたT哉の、オムツを取りに立ち上がったM代は、生来のポジティブさで、今度こそ夫がうまくやってくれるだろうと思い込むことにして、保育園待機中の孫の世話に神経を集中させた

同じ頃、T哉の母親であり、息子T彦の嫁のK子は、大都市のY市に洒落たオフィスを構えているIT企業で、顧客からの質問に答えるという役割を果たしていたし、息子のT彦はこの海に囲まれた方のY市にある、N電子の研究所の会議室で、部下の研究成果発表のサポート役を務めていた

[ 5月10日pm2:20 A国大使館7階談話室 ]
『で、どうなんだ、本国(アチラ)の様子は?』コーヒーの最後の一口をゆっくり空けながら、ジョナサン・ハドソンが訊く
『共和党の候補があの男に決まったようだから、現大統領や民主党の重鎮たちは、これで彼女に一本化できれば、もう勝ったようなものだと言っているらしい』エネルギー省から資源担当オフィサーとして着任したばかりのオーウェン・コンレーが、コーヒーカップの中を見つめながら答える
現大統領と同じ民主党の有力大統領候補、初の女性大統領が誕生すれば、政府の陣容にさほど変化はないはずで、なんとなく様子見的になっている日本政府の原発廃炉対策については、大筋容認の動きになるだろうと二人とも読んでいる

『おっ、なにを話し込んでいるのかな、お二人さん』陽気な声を掛けてきたのは、デスモンド・ブライト調査官だった
『いやぁ〜、なんとなくこのところの本国の有り様をだね、俺たちで評価していたんだよ』ブライトとは顔なじみのジョナサンが、軽口を叩く
『本国の有り様、と言えば、あのお二人さんのレポートは、なかなかのものだったらしいよ』コーヒーサーバーからカップにコーヒーを注ぎながら、軽い口調でブライトが喋り出す
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2018年08月11日

熟年超人の日 stage3 54

「おぬしなら、この日の本の命運を預けても大丈夫そうだ。きっと、宇宙人と上手くやりながら、この国を守ってくれるだろう」真顔になるとそう言い、T堂氏に軽く合図をする。はっ、と頭を下げて、T堂氏が高価そうな黒のビジネスバッグを、私の目の前に差し出す
「なんでしょうか、これは」まさか、札束が入っている?慌てて透視してみると、案の定札束だ。恐らく、2千万円くらい
「御察しの通り、軍資金だ。持って行ってくれ」と、言われても、はいそうですか、とはいかない
「いやぁ、こんな大金、持って行ってくれ、とおっしゃられてもねぇ」もらってしまったら、もうこの老人に頭が上がらなくなるに決まってる

「そうか、だが、おぬしがT電からもらう金だって、同じだろう。それに、税金で半分近く持ってかれるから、たいして残らんぞ」…そうか、税金がかかるか。そうすると1億振り込んでもらっても、実質5千万くらいしか使えない。それから先も、なにやかやと詮索されたり、恩に着せられたりもするだろうし、原発デブリを片付けてから後も、Gを使う話が持ち込まれそうな気がする
「そんな顔をするな。おぬしは、口利き屋として大きな顔をしていればいいんだ。ただ、これからおぬしを利用しようと寄ってくる輩に迷わず、日本のためになることだけを、あの宇宙人に頼むとして欲しいのだ。この金は、そんなおぬしが目先の金で動かなくて済むよう、わしからの寄付金だ。どうか受け取っておいてくれ」とは言っても、この金を受け取ればこの老人には借りが出来るが…
結局Gを別人格にして、家族を守る金を得ようとした私が、背負わなければならない宿命なのか

「私個人は、これまでお金を得るために働いてきた人間です。別にそのことを、引け目にも思っていませんし、お金で私が引き受けてしまったことでも、Gの基準に照らしたとき、出来ないと断られることがあるかも知れません。そうなったら、私は依頼主にどう対応すれば良いのでしょう」このところ、胸につかえている疑問を老人にぶつけてみた
「別にどうということはない。おぬしの役目は宇宙人に伝えればよいだけだ。気になるなら、口利き料と成功報酬を分ければ良いだけだ」…なるほど
「まさかおぬし、金をもらうことに気が咎めてはいないだろな。金は、遣い方で値打ちが決まるものだ。遣い主の値打ちもな。おぬしが、後顧の憂いを出来るだけ少なくせんが為に要る金なら、活き金になる。さすれば、外国から茶々を入れられても、安心して信じることができる、というものだ」…少し勘違いがあるのかも知れないが、老人の言うことは筋が通っているように思える

「分かりました。これからは、そう考えるようにします」で、この金はどうしよう
「そろそろ帰らねばならぬ頃合いだな。T堂、車の用意を。それから、この金は持って行ってくれ。無税の金は便利だが、気はつかってな」もう、もらうことは、決まってしまったようだ。まあ、いいか
「では、折角ですので頂いて帰ります」と、頭を下げてから、バッグを掴んで立ち上がる。まったく軽いのだが、札束入りの革製バッグならそこそこの重さになるはずなので、そこは演技力でカバーする
「その金は、わしからの寄付だから、気にせず使ってくれ」…、と補足するところをみると、気に留めておいてくれ、という意味なんだろうな

心底無口な若い男の運転する日産センチュリーで、新幹線の三島駅に送ってもらう。1時間ちょっとのドライブの間、頂いたバッグをチェックさせてもらう。もちろん、爆弾などは仕掛けられてはいなかったが、超小型のGPS発信機が付いている
外してしまおうかと思ったが、こうして大金を預かり、今後もなにかと気にかけてもらった方が良さそうなので(どのみち帰る先も分かっているだろうし、別にこのバッグの所在地など秘密にする必要もないし)、そのままにしておく
これからは、どこに出没するにも一般人らしいアシが欲しいのだから、この金の一部で車でも買おうか(以前持っていた車は、タウン誌の会社をたたんだ時に売り払って、それ以来マイカーはない)。そう考えると、なんだかわくわくするが、金のことを妻にはどう説明したらよいものか…
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2018年08月04日

熟年超人の日 stage3 53

「お待たせいたしました」N絵が細身の小ぶりな脇差をうやうやしく老人に差し出した。老人はそれを受け取ると、すらりと刀身を抜き放ち、刃紋に目をやると、頷いて再び鞘に収める
「では、手合わせを願おうかの。わしも最近は力が弱ってなぁ、この軽い奴で居合い抜きの真似事くらいしかできんのだよ。悪いが、これでやらせてもらうよ」と、こいつはどう見ても真剣だ
「本物の刀ですよね、それは」ホント、私が超人でなかったら、びびってしまって大変ですよ
「ああ、そうだよ。構わんだろう、こいつで」老人の嬉しそうな顔を見るのは初めてだ

では、と老人が腰に脇差を差し、すっと立ち上がる。少し前かがみだった姿勢が真直ぐに伸びる。それから部屋の真ん中にすすっと進み出ると、腰を少し落として軽く捻り半身に構える
私も部屋の中央に出て、老人が半身に構えたのと同時に、少し腰を落として身構える。別に、同構えてもほとんど同じかと思うのだが、こっちの方が本物っぽいし、老人の動きに対応し易そうだから
老人が真剣の居合いで挑んできたので、私としては老人が動きかかった瞬間に懐に飛び込んで、遺愛抜きをしようとする、その手を押さえて、勝負あったにするつもりだ
しかし、こうして見合ってみると、習練を積んでいるその道の達人の気迫というものはもの凄く、超人のスピードをもってしても、老人の手が動く瞬間に間合いを詰めて、刀の柄にかかった手元を、押さえることが出来るのか、不安になってくる

そこで、作戦を変えることにする。手の動きの前に、呼吸や脈拍に変化があるはず、と注意点を変更した
しかし、老人の呼吸も脈拍も穏やかで、変化の予兆が掴めない
そこで、B東氏に倣って気合をかけてみる
「ぃやあー!!!」超人になってから、大声を出してみたことがなかったが、我ながらとんでもなく大きい声が出た。護衛役の若い隊員がびくっと身震いして、思わず身構える。心拍数も上昇、呼吸も早くなる。それは、T堂氏もN絵さんもやや抑え気味とはいえ、緊張感が増しているのが分かる
ただ老人は、それでもなんの変化もなく、そこに立っているだけ…と、見えた瞬間、呼吸がぐっとつまった
その瞬間、迷いなく老人の腹の辺り目がけて、超人力全開で接近する
そんなに早く動いたことがなかったので、どうやってその動きを止めて、老人の手を押さえるのか、考えは付いていかなかった

ただ、老人の体の動きにゆらぐ空気を感じるのと、老人の捻られた腰が更に深く捻られて、押さえようとした老人の手が、私の手から逃げるようにしながら、素早く刀の柄を握り、裂ぱくの気合と共に、白い刀身を引き抜くところが見えた
そこからは私のスピードが勝り、手ではなく右肘を私の手が押さえる形で、勝負が着いた
老人は刀を抜きかけの状態で動きが止まり、私は抑えた右肘から手を離すタイミングを計りかねていた
しばし、と言っても2秒間ほどして、老人の力が抜け、私も離した手を攻守どちらでも対応できそうな形に戻せた(この緊迫感からすると、次の攻撃があることも考えられると判断)

「はっ、いや、素早いなぁおぬしは。わしが、もう少し若かったら、もうちょっと先まで見せられたものを」と、老人が笑いながら完全に刀身を鞘に収めた後、左手で腰から抜き出して寄って来たN絵に渡す
「いやぁ〜、どっきりしましたよ。すぱっと切られてしまうのかと思いました」思わず、本音の言葉が出てしまう
「なんのなんの、おぬしの手加減がなかったら、わしなんぞすっ飛ばされておったわ」楽しそうに笑う老人を、N絵とT堂氏が嬉しそうに見ている
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2018年08月02日

熟年超人の日 stage3 52

「それで、おぬしはこれからどうしたいんだ」ズバッと来た
「昨夜もお話ししました通り、T電さんから頂いたお金で、家族の避難先を山の中にでも造ったら、グリーンマンに連絡して、F原発の廃炉に向けて放射能ゴミを片付けてもらいます」話しているうちに、根拠がぐらついているのが自分でも分かる
「その後は、どうする?また、どこかの企業か国の手助けをするか。その時の報酬はもらうのか、次はタダでやるのか、それともこの一回限りだとするか」真顔の老人の眼の奥に、何かがある
「それは…」そうだ、あそこを片付けて、その先の超人活動をどう続けたらいいんだ

「A国がかの守護神の来訪について、既に我が国政府に探り入れていることは、昨日話した通りだ。いずれは、おぬしのことを探り当て、接触を試みるだろう。その時、おぬしはどうする。金をもらって、今度はA国の頼みを聞くのか」
「い、いやぁ、お金をもらってやるっていうのは、どうも…」そこまでは考えていなかった
「だが、おぬしは口利き屋として、今回の仕事をあの宇宙人に頼むのだろう?宇宙人が、いつまでおぬしへの恩義を覚えていてくれるのかは知らぬが、おぬし自身は金で請け負ったことを、宇宙人に引き受けてもらう、そんな役目を背負いこんでしまったのだからな」う〜ん、その通りだ。ジュブブが心配していたのも、そこだったか

「グリーンマンは、私の願いなら、できることはなんでもしてくれると言っていました」
「そうか、ならばことはもっと厄介になるぞ。あの力だ、なんでもということは、世界の政治家にとっては“最悪”を意味しているからなあ」
「最悪、なんですか」正直、意味がわからない
「そうだ、政治家というのは、何だ。人々の、民衆の、国民の代表であらねばならないと言う連中だ。おぬしも知っての通り、なにやかにやのグループの利益誘引代表だ。それが、なんでもやってくれそうな宇宙人がこの世に居たら、どんな立場を採らねばならなくなるか、想像がつかんか」そうか、なんでもという言葉から、悪いことしか思いつけない人間もいるよなぁ

「ところでおぬし、歳は幾つだったかな」突然話題が飛んだ
「はあ、今年の春60才になりましたが」
「そうだったな、定年で広告会社を退職したんだったな。だが、若いなおぬしは。50にもいっておらんように見えるぞ。なにか、宇宙人から若返りの処方でもしてもらったのかな?」
「いや、そんなことはありませんが、そうですか、若く見えますか。そりゃありがとうございます」ここはとぼけておく
「しかし、あのB東をいとも簡単にあしらうことが出来、T堂の話ではS会の若頭も形なしだったとか、これはぜひ、わしも立ち会ってみたいものだな。どうです、わしの冥土の土産に」そう言う言葉を聞いたT堂氏が、N絵に視線をやると、すっと立ち上がったN絵は部屋を出て行く

「いやあ、なんだか変な方にお話しが行っているようですが、私にはその気はございませんので」と、ここは一応遠慮申し上げておくことにする。ただ、この道場然とした部屋の、上座に座っている老人を見るにつけ、いかにも江戸時代の剣術道場主らしい佇まいは、本気で私と一試合手合わせしないと、済まない空気になっているのが、武術素人の私にもわかるのだ
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2018年08月01日

熟年超人の日 stage3 51

「まだ、彼のテレパシーはつながっているのかね」老人の語りかけが、とても穏やかな声音になっている
「ここから彼が飛び去る際、物体を衝突させて相手の体組織を破壊する攻撃方法は、原始的な文明レベルである、という想念が伝わって来た後、今はもう何も感じません」と伝える
「そうか、折角来てもらったのに、直接会えなんだな」心底残念、といった表情で嘆いている老人を見ると、なにやら騙しているようで気が引けてくる
「でも銃で撃ったことについては、なにも気にしていなかったようですよ」などと、言わずもがなのことを口にしてしまった

そうしているところに、T堂氏の携帯が鳴る
「はい、そうだ、…そうか、…そうなのか、分かった。私から報告する」と、例によって小声で、てきぱきと応答して、携帯をオフにする(…が、私の超人耳にはちゃんと聞こえている)
「はい、そうだ(T堂だ、発射した弾丸の幾つかが、庭で見つかったと)そうか、(現時点で2発回収できた7.62o弾丸の弾頭には、なんの傷も付いていなかったと)そうなのか、分かった。(その件については)私から報告する」てな具合にちゃんと聴こえている
携帯を胸ポケットに収めたT堂氏が、今度は老人の耳元に今の報告内容を囁く。ほぼ先ほどの携帯でのやり取りを繰り返したものだったが、最後に補足として、あの距離ならば外すはずがない銃弾が、無傷で落ちていたということは、怪人には弾丸をそらす能力があるものと思われると言って、報告を締めくくった

「おぬしは、あのグリーンマンとやらが、銃弾をそらす力を持っていることは知っておったのかな」私の呼び方が、あんたからおぬしに変わったことに気付いたが、それがなにを意味しているのか分からなかったので、とりあえず「いいえ」と短く答えておく
「しかし、あのグリーンマンの力はすごいな。あれで、エフワンでは1万トンもあるメガフロートを持って宙を飛びまわったというじゃないか」老人の眼が輝いている。頬もなにやら紅潮して、興奮が見て取れる
「なんでも、この惑星の爆発力で殺傷物体を相手にぶつける攻撃方法は、文明レベルがまだまだ低い証拠だと、以前言ってましたから」老人の高揚感が伝染して、ついつい言わなくても良いようなことを言ってしまう

「そうかそうか。ええのう、そうかそうか。ならば、大砲でも爆弾でも平気のへい、だということか。そうかそうか」ますます上機嫌になる老人の脳裏になにが浮かんでいるのか、基本小市民でしかない私は不安になる
「ところで、あのグリーンマンは、いつまでこの地球にいられるのか、おぬしは聞いておるかな」突然の老人の質問に、慌てた私は思わず本音を吐露してしまう
「こちらの任期は、地球時間で50年はあるそうです」言ってしまって、老人の眼がぎらっと光るのを見て、私の心は言い得ぬ不安に襲われる
「T堂、やはりわしの読んだ通りだったな」と、傍らに立っているT堂氏に語りかける
「ははっ、御館様のご推察通りでありましたな」しゃちほこばって答えるT堂氏の態度に、私の中で警戒ベルが鳴る
「T堂さん、それはどんなお考えなんでしょうか?」どうも老人には話しかけにくい

「グリーンマンは、この日の本を救ってくれようと、天が遣わした守護神だということだ」T堂氏ではなく、老人が応える
「はあ?」思いがけない話の展開に、つい素の馬鹿げた声が出てしまう
「分からんか、そもそもおぬしが、かの天のお使いに出会ったのも、大いなる御心のなせる業であったということだ」なんで、話がそうなっていくのか…
「今や、この国は諸外国の権謀術策にはまって、己が国の未来のための施策も、自由になせない状態になっておるのは、おぬしにも薄々分かっておるのだろう」そうか、そう言えば、日本の原子力利用のエネルギー計画は、A国の原子力開発計画の一環に組み込まれていて、廃絶の自由はないんだと、ネットにあったのを見たことがある
「それを、うむを言わさず、超人の力技で克服させようと、日本の神様が遣わした、と」ついつい偉そうな相手に迎合してしまうのは、企画マンであった私の癖

「そうだ、おぬしにも見えているな」やはり大物に褒められると、悪い気はしない、…ってこれで良いのか!?
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2018年07月17日

熟年超人の日 stage3 50

「そんなつもりは毛頭無い、と伝えてくれんか」今までずっと、神社のご神木のように静かな佇まいを見せていた老人の声音が、少しだけ人間味を帯びている
「分かりました」と答えて、再び瞑想ポーズをとって周囲偵察を試みる。その反応に空中待機しているGスーツの視野を重ねると、庭園内に散らばっている20人のうち、樹木の陰で長い銃器(ライフル?狙撃銃?)を構えている者が七人、指揮を執っている者が三人、撮影機材を扱っている者が八人、建物内に入ってPCを操作しているらしき者が二人いるのが分かる
「庭に配置されている者のうち、明らかな敵対行動を取っている者が七名いる、と伝えわってきました」と伝えると、老人の心拍数が上がる

「T堂、銃を下ろさせろ!」固い凛とした声が、老人からほとばしる
T堂氏が襟元のピンマイクに小声で命じる。私の超人耳には「銃を下ろせ!」と聞こえてはいるが
「ここに来たのだから目的は達しているから、立ち去ってもよいか、と伝えて来ました」と、私が伝える。どうもめんどうだが、このやり方しかないようにしてしまったのは、私だ
早朝にこの辺りを覆っていた霧は、もうすっかり晴れている。中庭の真上の空中で、軽く脚を開いて腰に両手をおく、スーパーマンポーズを取っているGスーツは、私が見てもなかなか格好いい
「ここに降りて来て、わしと話ができんか、そう訊いてくれ」老人が私にそうねだる。これが一番の難関なのだ。空スーツでは、降りて来て話をする訳にはいかない
「惑星住民と交流することは、彼、あ、私のことですが、のような緊急時接触以外、銀河規約で禁じられている、と伝えて来ました」苦しい言い訳だが、こんな言い方しか思いつかない

庭園に散開しているこの屋敷の護衛隊は、植え込みや樹木の陰に潜んでいたが、各班の隊長から射撃解除の命令を受けて、銃口を下に向けているが、眼は屋敷の中庭上空の緑色の怪人から放していなかった
屋敷の玄関口前の、楡の大木の陰に潜んでいる東の守り『青竜隊』のスナイパーS原は、その時急に吹いた一陣の風に、緑色の怪人がふわっと横にずれたように感じた
もう一度、視力2.0の目で宙に浮いている怪人を凝視すると、時折り吹く強い風に、ゆらゆらしているように見える
「班長、奴はもしかするとバルーンかも知れません。確認のため、発砲しても良いでしょうか」その報告を受けた青竜隊隊長のR崎は、同時通話で聞いているT堂にお伺いを立てる

T堂が老人の耳元に口を寄せて、なにごとか囁いている(が、私の超人耳には「部下が上空の怪人が風船ではないかと言っています。確かめるため、狙撃の許可を申し出ています」と聞こえている)
「Aさん、あの空飛ぶ超人が風船細工ではないかと、部下が申している。で、穴が開いて空気が漏れるか、跳ね返してしまうか、試してみてもよろしいかな」なんとドスの利いている物言いだ
「分かりました、今訊ねてみましょう」Gスーツなら中身があろうが無かろうが、銃弾などへっちゃらだろう
「やってみよ、と伝えて来ました。ただし、それが済んだらこの場を離れる、ということです」まっすぐ老人の眼を見て、そう返答した。一瞬、老人の眼に力が宿り、すぐ瞼が閉じられ
「では、T堂、やらせてもらいなさい」T堂氏は「はっ」と言って、頭を下げると襟元のピンマイクに向かって「射撃開始」と、抑えた声で指示を送る

私はと言えば、テレパシーを装いながら、メガネのテンプルを、トト、トトと二連打の連続打ちで、GスーツにK市のアパートへの帰投を指示して、この後のセリフを考える
バスッ、バスッ、バスッ、とサプレサーで抑えられた銃声が十数発聴こえ、じきに静かになる
「全弾命中すれど、怪人は腰に当てていた手を頭上に伸ばして、始めはゆっくり上昇して、その後もの凄いスピードで飛び去ったとのことです」常に落ち着いた物腰のT堂氏には似つかわしくない、やや慌てたかすれ声の報告に、少し前に部屋に到着して老人の両脇を固めている二人のSPも、部屋の入口に控えているN絵も、沈黙に浸されている
posted by ミスターK at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説