2018年06月10日

熟年超人の日 stage3 44

「それなんですが、実はうまくいっていないんです。つまり、社内の意見統一がまだ出来ていないようでして…」本当のところ私は困っているから、つい本音が出てしまう
「そうか、T電の今の社長はN見山だったな。あいつは収束派だったと思うが、このまま金を遣っていてもらいたい連中も多いようだからなぁ。そこへ持って来て、政府内でも今回の件では、意見が分かれているから、Aさん、これはこのままだと、時間が掛かるな」前半はT堂に確認するように話しかけながら、後半は私に言い聞かせている
「そうですか…。まあ、そうだろうな、とは思っているんですが」とにかく、大きな案件を推進しようとすると、大会社ってやつは、その案件の良否より、その賛否が自分にどう跳ね返って来るかの、判断を優先するから、必ず組織内でもめる。これは、人間社会の宿命みたいなもんだな、と思いながら、自分がそんな風に考え方をしていることに少なからず驚いてもいる

「お困りなら、わしから一言いってあげても良いのだが、Aさん、あんたはそれを望むかな?」気が付くと、老人は眼を伏せて、なにか考え事をしているような調子で、ぼそぼそそう言う
「は、そうですね、どちらにしても、進展してくれないと。いつまでもグリーンマンさんを待たせておくのもなんですからねぇ」どうやら政財界に影響力のありそうな人物だと確信した私は、ここが突破口だと判断し、お願いしてみることにする
「なら、あんたを信用させて頂こう。どうかな、そのグリーンマンやらいう宇宙人を、わしに逢わせてくれんかな」おっと、そう来たか、と私は緊張する。この話しの流れでは、今、ここに呼んでくれ、と言われかねないし、そうなると一人二役が露呈してしまう

「ええ、そうですねぇ、お逢い頂けるように計らうことは可能なんですが…。なんでも彼は、第13星系区管理官とか言って…、いやこれはテレパシーと言うんですか、頭の中に浮かんだ彼の説明ですが。そもそも、その任務中にこの地球でトラブルにあったところを私が…」ちょっとしどろもどろになる私
「それで、あんたが助けてやって、その宇宙人が恩義を感じた、という訳なんだな。では、そのテレパシーであんたは今ここで、その宇宙人と連絡が取れるのかな?」見た目、80才くらいに見える痩せた小柄な老人が、驚くべき頭の回転を披露して、私を追い込んで来る
「え、ええ、やれますけど、今、地球に近いところにいるかどうかは、分かりませんけど。いいですよ、やってみます」テレパシー中を他人に見せたことは、ない(って、できないし)ので、どんな風にすればいいのか一瞬迷ったが、要は心ここに非ず的なところを見せればいいだろう、と腹を括った私は、どうせならこの老人の屋敷を周囲偵察で存分に視ることにする

そこで分かったのが、この屋敷の四方に配置されているトーチカのような建物は、地上3階地下3階の構造で、地下2階同士はそれぞれ通路があり、いずれもこの屋敷と通路で結ばれていること。この屋敷も純日本風建築の外見ではあるが、やはり地下2階まである構造になっていること。4つのトーチカの地下3階は、発電機や空調などのそれぞれ独立したライフラインを構成していて、この屋敷が相当強大な軍事力で攻撃されても、かなりな時間耐え得ることなどである
その間の私は多分、虚ろな表情をしていたのだろう、周囲偵察を終えて意識をこの場に戻すと、興味深そうに私を眺めている老人と、T堂氏、そして例の和服のきれいな女性の少し心配そうな眼差しがあった

「すみません、随分遠くにいるみたいで、今やっていることを中断して地球に来ることにしても、明日になってしまうということですが…」と、適当に答える
「ふーん。あんたがテレパシーをするというのは、本当なんだな。確か以前会った、ワイなんとかいう科学雑誌の編集長の、話の通りだった」老人の瞳が活気を帯びて輝く
「では、明日ということで。N絵、Aさんに夜食とお泊りの支度を」それだけ言うと、老人は組んでいた胡坐を解いて、いとも静かに立ち上がると、部屋の横手から出て行ってしまう(よいしょも、どっこいしょの掛け声も無くである。なんだかこの老人の方が超人だな、と感じ入る)
「それではAさま、こちらにどうぞ」若く美しい女性の声に、素直に従って廊下に出る。入って来た玄関側に戻りながら、左側に立派な日本庭園があることに気付く。二間ほど過ぎて通された部屋は、畳敷きに食卓と椅子がセットされた和様折衷な設えで、ここが食堂の間なのか、と思う
その時、部屋の壁の柱時計がボーン、ボーンと鳴り始めた。見ると長針と短針が重なり12時を告げている
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2018年06月08日

熟年超人の日 stage3 43

T堂氏はその場に立ったまま動かないので、私は靴を脱ぎ、いかにも銘木でございみたいな“上がり框”に、屋敷内への一歩を印す(素人目にも金のかかっていそうな屋敷の設えに、呑まれないようにしないと、と気を取り直した)
着物の女性がしとやかに誘う後姿に付いて、長い廊下を進んで行く間、それでも周囲偵察は怠らず、そうすることでこれから会う御館様とかいう大物(多分)との面談に、気構える。その結果、邸外の守りが過剰なほどの厚かったことに比べると、屋敷内は拍子抜けするほどがらんとしていることが判明する
どうやらSPらしき人物が、一人待機している部屋の隣の部屋に、先に入った女性が正座して、躊躇している私に、どうぞというように頭を下げる

「ご足労をかけましたな、どうぞお入り下さい」部屋の中から鉄錆びた声がかかる(きっと御館様だな)
失礼します、と言って部屋に入ると、紫檀とか黒檀と見える立派で重そうな座卓の向こうに、痩せてはいるが、なんだか活気のある年寄りが座っている
こうした、相手が初対面の社長級の人物に会う場合、こちらはそう張り合う気持ちを持たなくてもいいが、なにか見どころがあるところは、感じさせないといけない。しかも、相手の本丸(社長室とか)に通される場合、畏れ入っている雰囲気も見せつつ、呑まれていないところも見せるのだから、大変である
ただそれ以上に、本来的に相手が発しているオーラみたいなものがあるので、用意された分厚い座布団に腰を下ろしながら、私は位負けして、へへーっとなりそうなところで踏みとどまる

「貴方がAさんですか。今般のF原発事故の収束について、お力をお貸し頂いたようで、感謝してます」のっけから、こう来た
「あ、いや、私がやったという訳でもありませんので…」つい、しどろもどろになりそうになる。これはいかんと、態勢を立て直そうと顔を上げ、正面から相手を見返す
「ほほ、そうなのかね。貴方がやってくれた訳ではないと、そうおっしゃる」細めた眼がきらっと光る。そごい迫力だ
「そうなんです、彼はとても義理堅い宇宙人でして、私が彼の窮地を救ったことを、ずっと恩義に感じているようで、テレパシーでお願いすると、都合がつくときには私の頼みを聞いてくれるんです」あまり自信満々にならないよう、注意しながらそう説明する

「そうらしいですな。それで、あそこは、どうやって片付けるのか、貴方はご存知なのかな?」再び穏やかな、慈愛に満ちた目の色に戻っている。こういう人は、怖いということですね
「なんでも、タンカーの船倉に放射能汚染された一切合財を詰め込んで、太陽に捨てに行くと言ってましたが」
「ほほう、太陽に、ですか。そりゃいい。T堂、それが本当にできたら、廃炉問題どころか、核兵器処分だって簡単に片付いてしまうな」いつのまにか部屋に入っていたT堂氏が、大きくうなづく(それにしても、気が付かなかったなぁ…)
「それで、貴方がT電に出している仲介手数料の条件は、いかほどなのですかな」急に話が核心に急接近だ!

「もちろん、G、いやグリーンマンと言うんですが、彼が代償を求めている訳ではなく、この案件を仲介するに当って、以降の私や家族の身の安全を対価しようとなると、当面要るものはお金、ということでして…」
「いやいや、それはよく分かっております。貴方はこの仲介料で一儲けしようとされる方ではないようだ」
「そうなんです。ただ、すでに公安が私の身辺を守ってくれているというか、それなのに(や)の組織が、私の家族を拉致して、私をコントロールしようとしている動きもありました(ちらっと老人を見ると素知らぬ顔をしている)。
飛躍しているかも知れませんが、外国の諜報機関が、家族を人質に取ったりすれば、私としてはGに頼むことの内容が、必ずしも日本のためばかりとはならなくなりそうで、御館様ですか、御館様のようとは言えないまでも、家族を守る砦のようなものを至急用意したいと思っているんです」言いたいことを言ってやった

「それはそうでしょうな。ところで、S会の者にはきつく言っておきましたので、そちらはご心配なく。ただ、A国がすでにこの件で、政府にも正面切って申し入れをしてきておるようだし、C国もR国も、いやいや世界中が、ただならぬ関心を寄せているという話は既にわしのところにも入っておるのでな。それで、T電は素直に必要資金を出すと、言っておるのかな?」
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2018年06月03日

熟年超人の日 stage3 42

「いや、これは恐れ入ります。申し遅れました、私、倭(ヤマト)の国浄化財団の、事務局長を務めさせて頂いておりますT堂と申します」そう言って下げた頭を上げると、微笑みを貼りつけた顔の中で、細まった眼が私の瞳の奥まで探るような眼光を放った。ほかの5人の男たちは、手を後ろで組んで、害意の無いことを示している
“倭・浄化”そうか、こいつは右翼の人間だな、と私は直感した。ならば、ここは丁寧な喋り方と、怖気ていない態度が大切になるはずだ(…と、小説や漫画で見たような知識が、たじろぎそうな私を支える)
「その浄化財団の事務局長さんが、私になんのご用でしょう」いざとなったら、ここを突破して帰ることもできると確信しているから、我ながら落ち着いた応対が出来ている
「あ、その前に、その男の手当てをしてやっても宜しいでしょうか」相変わらず微笑みながら、奥底にどすを効かせた声で、表面は穏やかに話しかけてくる

「ああ、これは失礼。手を折ってしまって、すみませんね」前半部分は事務局長と名乗った男T堂に、後半はナイフ男(…以前、組の事務所を襲撃したときに、Gだった私と真正面から渡り合った奴だ)に声掛けする
鋭い目つきでこちらを睨みながらも、一応頭を軽く下げたナイフ男に、SUVに乗っていた若い男が駆け寄ると、それは手で制して、案外しっかりした足取りでSUVに向かう
「あ、あのぅ、私は、もう失礼して、良いんでしょうか…」この場に居ながら、蚊帳の外に置かれていた探偵屋が、おずおずと口を挟む。T堂が軽くうなづくと、男たちの中の一人が、かなり厚みのある封筒を内ポケットから出して、探偵Sに渡す
「お分かりでしょうが、この場のことは県警のご友人には、お話しになりませんよう。些少ですが、しばらくお仕事をお休み頂けるよう、金額を用意しましたので」有無を言わせない口調で、T堂が念を押し、封筒を出した男に、車で探偵屋の事務所に送るよう指示をする

「お宅さまは、こちらの車にお乗り下さい」T堂がそう言うと、私の左右に男が二人で挟むように寄り、さらにもう一人が鋭い眼差しで、こちらの動きを注視している
正直、こんな連中を蹴散らすのは簡単だが、ちょっと時代離れした“御館様”とやらに、逢ってみるのも今後の役に立ちそう、と思った私は、(意識的に)緊張感を漂わしながら、あくまで一般人らしく、ランクルらしき大型車に乗り込んだ
隣りにはT堂と名乗る男が乗り込み、その場に居た全員がさっと3台の乗り込む。驚いたことに、無関係かと見えた4台目の車にいた人物が、無線機のレシーバーに向かって「撤収します」と報告する
この組織の統率度と、報告先がさらにある訳だから、その規模が知れなくなり、こりゃただの右翼さんじゃないぞ、と気が重くなる

車は、この場から一般道を南下して、やがて湾岸高速道のインターを入り、高速道路を乗り継いで東に向かう
スピードを上げて走る車内で、私はややうつむき加減に顔を伏せ、周囲偵察でこの集団の戦力を把握しようと試みている
「ご心配なさらずとも、御館様はA様に伺ってみたいことがお有りなだけで、なにも危害も加えることなど、お考えではありませんから」T堂氏は、私を安心させようとしているのか、威嚇しようとしているのか、よく分からないが、とにかくこういう場数を数々経験しているという、空気感がある
ここは相手に組し易し、と判断させておくのが上策と踏んで、ただ無言でうなづくだけにしておいて、周囲偵察に専念する。結果、前を走る車に2名乗車、いずれも拳銃携帯。この車の運転手と助手席は拳銃携帯、T堂氏は丸腰。後ろに続く2台のうち1台は拳銃を携帯した男2名、最後尾の車は丸腰の運転手1名のみ、といったところだ

東名御殿場インターで高速を下りて、今度は北に向かう。どうやら富士山の東側に向かっているようだ
こういった展開でよくある目隠しもなければ、脅しもない。とにかく、T堂氏は話し好きではないようで、ただひたすら、ランクルの後部座席に座っているだけなので、手持ち無沙汰の私としては、超人眼で車内をくまなく観察して、座席の下のボックスに、折りたたまれた自動小銃らしきものがあるのを見つけたり、車の二人の男は防弾チョッキらしきものを身に着けているとか、隣りのT堂氏の携帯は、一風変わった形をしていることなどを確認していた
やがて、富士山の裾野の森らしき道から、大きな鉄柵の門(車が近付くと、自動で開いた)を車のまま入り、恐らく敷地内の道をしばらく走った後、土塀と大きな門のある屋敷の前に停車した
ここまで入って来る前に、小山のような(或いはトーチカのような)ものが、ひとつふたつ見え、周囲偵察で調べると、目の前の大きな屋敷の四方に、そのような陣地(というのが正しいだろう)が在り、電気を多く使う設備と要員が、それぞれに配置されているのがわかった

助手席の男に先導され、先を行くT堂氏の後に続いて、門から玄関に続く飛び石(伝石だっけ?)を踏んで歩きながら、その規模の大きさに圧倒されている、庶民の私
玄関に着くと、開け放たれた玄関座敷に着物の女性が、いわゆる三つ指をついたお辞儀をしているではないか。こんな礼儀をするような処に、行ったことがない私としてはつい、どぎまぎ状態に陥ってしまい、相手のペースに乗ってしまいそう、である
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2018年05月30日

熟年超人の日 stage3 41

言葉を交わしつつ、さっきの銃声で警備員やら、警察なんぞがやってくるんじゃないかと気になり、さーっと周囲偵察を試みる。すると、この駐車場に新たにやって来る車は無いようだが、前から停まっている車がどうも怪しい
私の周囲偵察能力は、動いている人間と電波を発する物に強く反応するようで、どうやら4台の車に、そのような反応がある。となると、このナイフ男はただの囮で、もっと厄介な連中がこの私をターゲットにしているのかも知れない(こんなストーリー、映画しか無いと思っていたが…)

このおっさん、とんでもない野郎だ、とT野は折られた左手首の痛みと、まだ感覚が戻り切っていない右手に気を取られながらも、冷静に考えを巡らせていた
ヤスコーが、二人の隠れ家に二人の男を連れて(というより連行されて)戻って来たのは、先月の25日のことだった。
てっきりサツが一緒だと思い込んだT野が、逃げようとする間もなく、素早く逃げ道を塞いだ男の一人に「御館様のお呼び出しだ」と告げられた。その言葉を聞いて、何年か前に若頭に取り立てられたときに、W木組長と行った本家のT組で、俺たちは御館様に守られてるから、なにかあったら本家を頼れ、と言われていたことを思い出した
そこで、大人しくその男の言うことを聞いて、でかい外車にヤスコーと二人乗せられて、随分走って森の中にある大きな屋敷に連れて行かれたのだ

応接間のような部屋に、T野だけ通され、品の良さそうな初老の男から、S会事務所が空を飛ぶ緑色の怪人に、壊滅させられた経緯を聞かれた
その時、そのグリーンマンと名乗った怪人が、自分たちが追っていたAという男に害をなす者は許さない、と言っていたことを告げると、初老の男はうんうんとうなづいて、壁に掛けられている大きな鏡にちらっと視線を走らせた(その視線の動きから、T野はその鏡の向こうに誰かが居て、こちらをじっと見ているのだと直感した)
その夜はその屋敷に泊められ、翌日、今度は若いきれいな女がT野達の部屋に入って来て、封筒に入った札束と携帯電話を渡しながら「御館様の連絡があるまで、都内のホテルに部屋が取ってあるので、そこで待機するように」と伝えた

ヤスコーは、その女がとてもきれいで「あれはきっと昨夜の御館様の情婦(いろ)ですよね」、などと言っていたが、T野は、昨夜の初老の男は多分御館ではなく、鏡の奥で見ていたのがそうだと思っていたが、その場は「ああ、そうかもな」とだけ返事をした
屋敷の別棟にある床屋で、二人はさっぱりさせられ、部屋に戻るとこぎれいな服も用意されていた。
それから、ここに連れてきた無口な男が、今度は別のワンボックスカーで送ってくれたのは、東京都とは名ばかりの、M市の駅前のビジネスホテルだった
「このホテルからは出るな。食事は館内のレストランで摂ること。警察がお前たちを探しているが、公開捜査はストップをかけてあるから、目立つ真似だけはしないように」と言い残して帰って行った

それから2週間ほど経った後、ついに携帯が鳴り、あの初老の男と思わしき人物から、N市に行き、探偵Sを脅して、Aと接触せよと指令があったのだ
N市に戻ったT野とヤスコーは、例のアパートに戻ると、隠しておいた拳銃とナイフを取り出して、御館の部下が用意してくれたSUVに、探偵屋を呼び出して、Aに連絡するよう脅したのだった
御館からは、間違いなくA本人を御館の屋敷に連れて来るよう、それだけを命じられていたのだが、組事務所を潰されるきっかけになり、関わりあるぼったくりバー「夜露」で暴れたAへの、T野の気持ちは収まらず、得意のナイフ技で肝を冷やしてやろうと試みたのだが、文字通りあっさり捻られてしまい、このAという男を、いつかきっと泣き言を言わせてやると、心に誓っていたのだった

そんなことを、妙に下手に出て来た目の前の男が、考えているとはつゆ知らず、むしろ私は3台の車から降りてきた6人の男たちに気を配っていた(どうやら4台目の車はただの買い物待ちの旦那のようだ)
「恐れ入ります。Aさんでいらっしゃいますね」見たところ50代と思しき男が、丁寧な口調で訊ねてきた
「そうですが、そちらは、どなたでしょう?この乱暴な方のお知り合いかな?」超人になる前だったら、こんな度胸の据わった応対は、とってもできなかっただろうが、今はへっちゃらだ。アドレナリンが出ているせいか、矢でも鉄砲でも持って来い、ってなもんだ
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2018年05月08日

熟年超人の日 stage3 40

SUVの方も気になったが、それより目の前の男の連続攻撃が、なかなか厳しい
超人速度で動いて良いのなら、今、鼻先すれすれをかすめていったナイフなど、叩き落とせるのだが、ここは普通人Aとして、これくらいの危険は捌けなければ意味がない
二度三度と顔面をかすめる刃をかわすうち、ふっと相手の狙いが理解できた。そう、理解できたのだ
身体の方が、自動的に男の攻撃に対処している間に、このところよく出て来る客観的な自分、年相応の私が、今の状況を分析し対応策を示してくるような感覚
SUVにいる奴の飛び道具は、目の前の男の攻撃が止むか、私が男を倒した瞬間に発射されるだろう(当たるか当らないかはともかく)
逆に言えば、目の前の男の動きを封じて、体をぴたりと寄せてしまえば撃てない、ということだ

では、そのように、と決めたそのとき、男の左の手が動くのが見えた。しかも手品のようにその手の中から光る物が飛び出している
先ほどから激しく動かしているナイフは、大ぶりな片刃のやつで、軍隊で持つものに似た形(そこまで大きくはないが)をしているが、こんど出て来たやつは両刃の小さいやつで、昔飛出しナイフと言ってたやつだ
それがストレートに私の腹を目指して繰り出されているのだ
普通人でも習練すると、これほどのスピードが出るのか!と驚きつつも、そこは超人なので、それ以上の早さでその手首に手刀を見舞う
うっ、と声が出たが、続いて右手のナイフで、薙ぎ払うような一閃が私の首筋を襲ってきたが、大きなモーションなので、今度はその手にこちらの左手をからませるようにして、男の動きを封じてしまう

先ほど手刀を見舞った左手首は骨折したのか、だらりとなっていて、掌の中にあった小さなナイフは駐車場の床に落ちている。そして、形勢が有利に展開していると見て、今まで傍観していた小柄な男が、そのナイフを取り上げようとして、動き出す
「危ない!動くな!」私が叫ぶとほぼ同時に、SUVの運転席のドアが開いて、人影が飛び出したかと思うと、バンと銃声が響いた
私はナイフ男を押さえ込んでいるので、その弾がどこに行ったのかは確認できなかったが、どうやら小柄な男(多分探偵業のS)に当たってはいないようだ
「やめろ、やめろー!、ヤスコーやめろ」抑え込まれている格好のまま、ナイフ男がSUVに向かって大声で制止する
相変わらず眩しいヘッドライトの光の中に、背の高い男が両手で拳銃を構えた状態で現れ、じわじわこちらに向かって来る

「お、おっさん。いや、先生。先生、手を、手を放してくださいよ」かなりな超人力で抑え込んでいるナイフ男が、いやに下手に出た物言いで私に話しかけてくる
「なんだ、ナイフを振り回しておいてから俺に話か?」こういう輩は、相手が強いと見れば下手に出て、あわよくば隙をついて反撃してくることぐらい、アクションものも好きな私は先刻ご承知。とにかく油断はせず、上から目線で対応する
「い、いやぁすみません。先生がどんなお方か、そこも調べて来いと、さるお方に言われておりますもんで、いやホント、失礼いたしました」どうやら本気で謝っているようなので、締め付けている手を少々緩めてやる
ただ、SUVの男がまだ拳銃を構えているので、なにか動きがあれば、このナイフ男をぶつけてやろうかと思っている
「お、おい。チャカを下ろしてこっちに来い。先生にご挨拶せんか」私の情況を読んで、手下らしいSUVの男に命じ、SUVの男は素直に拳銃を下ろすと、少し不服そうな面持ちで、傍までやって来る

「どうも、ありがとうございます」ちょっと意識外だった電話の男、探偵屋のSが私のすぐ傍まで近付いていて(これは今後の反省事項だ。被害者を装った敵だったら不意を突かれるところだった)礼の言葉をかけてきた
とにかく場が落ち着いたようなので、もう少しナイフ男への締め付けを緩めてやると、手からナイフがガチャンと落ちる
「一体、なんのまねだったんだ、これは」声の調子は、あくまで強いままで、そう尋ねてから、今度はすっかり手を離してやる。
「どうも申し訳ございません。今回の所業は、私らのずっと上のお方の命があったのを、私なりに先生を試させて頂いたような次第でして」痺れた右手を軽く振りながらも、折れてしまった左手はだらりとさせたまま、ナイフ男が歯を食いしばるようにして話を続ける
「申し遅れました。私、T組直系S会若頭のT野信治と申します。実は、先刻私らの事務所にカチコミをかけられたお方が、先生のご命令で私らを懲らしめに参られたとおっしゃられたことを、上の上のお方にお話ししたところ、ぜひお会いしたいと…。それでこの探偵屋に、渡りをつけてもらった、という訳でして」

なんと、この(や)の上の上の人物が、私に用があるって訳か。そうか、ああいう事務所をああすると、こういう風になるのか。そうだよな、ああいう稼業の人たちは、なめられちゃあいけないらしいもんな
一般人として存在するってことは、いろんな世間と関係を持っていることなんだなぁ
「それで、その上のお方がどうしたいって話しなんだ」…ここは強気強気!
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2018年05月06日

熟年超人の日 stage3 39

N駅から、指定場所の大型ショッピングセンター・イオスみなと店まで、どこで誰が見張っていてもいいように、JRと電車を乗り継いで移動することにする。(折角超人なのに…T電から入金があったら車を買おう)
臨海鉄道のA駅に着いたのは、約束の8時の20分前だった。駅から徒歩で1〜2分で、イオスの入口に到達。Sとの待ち合わせ場所の4階の屋上駐車場までエスカレーターで上ると、連休明けではあっても、暗い駐車場には、20台くらいの車が散在している
もちろん、すぐ駐車場内には入らず、館内側から場内を中心に周囲偵察をすると、案の定何台かの車に反応がある
これはと思う車を透視して見ると、どうも伏兵という感じではなく、シートをリクライニングして休んでいたり、スマホを操作している風である
どうやら、お買物中の家族を待っている、といったところか。いずれにせよ、そんなに大規模な待ち伏せなどは無さそうだ

まあ、なにがあってもなんとかなるだろうと、影スーツが変身した黒ぶちメガネをして、駐車場内に足を踏み入れる
と、前方に停まっているSUVのヘッドライトが点いて、誰かが降りてこちらにやって来る
HIDランプとか言う、白くてとても明るいライトが、こちらを真直ぐ照らしているので、普通の人間だったら、眩しくて相手の姿を見ることは出来ないだろう。が、おあいにく、こちらは超人さまなので、私よりも小柄な男と、それよりずっと背の高い男(超人眼で拡大してみると、どうも見覚えのある男だ)の二人が、こちらに向かってゆっくり歩いて来る
「Sさん、ですかね?」一応、一般人らしい反応を見せるため、少し間抜けな声音で声をかける
「はい、どうも、Sです。そちらに行きますから」って、こちらに来るのは分かっているが、その応答に若干んの震えが混じっているのが分かる

「お一人ですか?どなたか、ご一緒ですか?」敢えてとぼけた呼びかけをする(むろん、Sの後ろにぴったり付いている人物に、少しでも油断してもらいたいが故だが)
「Aさんも、お一人ですか?」語尾がかすれがちだが、一応、警察でも連れて来てはいないかの確認のようだ
「はい、一人ですよ」(ですから安心して下さい、と言い足しそうになって、危うく止める)そして、いかにもそちらが眩しくて見えないという風に、小手をかざしてみたりしてみる
そんなやりとりをしている間にも、歩を進めているあちらと、経ったままのこちらとの距離は、当然縮まっていく
「実は…」と、Sがすぐそばまで来て、話しかけてきた直後に、その後ろから男が飛び出して来た
手に持っているやばいモノが、きらっと光る

普通の人間にしては、相当素早い動きで、もし不意を突かれていたら、今の私でもびっくりしてしまって、彼の手のナイフで、一太刀浴びせられていたかも知れないが、残念ながら分かっていた私は、武術の心得のある者らしく、その手首を摘んでぐいっと上に捻り上げる
が、この男は場数を踏んでいるらしく、おまけに身長167pの私より背が高いので、捻り上げられた手に執着しないで、先の尖った革靴で、私の脛を蹴ろうとする
そんなもの当っても、別にどうってことはないのだが、あくまで一般人のやや強い程度でいく積りなので、その蹴りを危うく、といった感じでかわしてあげる
当然、手の力が緩んで、相手は再びナイフを構えることができた

さっと周りを確かめると、場内で停まっている車の中の人間は、まだ誰も変わった動きをしていない
Sと思しき人物は、後ろの男が前に出る際に突き飛ばされた形で、転んだままこの刃傷沙汰に巻き込まれまいと、身を固くしている
ちょっと厄介そうなのは、相変わらずヘッドライトでこちらを照らしているSUVの中の人間で、闘争中でやや精度が落ちている周囲偵察の感知内に、拳銃のような飛び道具の反応がある
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