2018年03月02日

熟年超人の日 stage3 32

本を読み進めて、気付いた。この内容は知っている。奥付けを確かめると、4年前の出版だ
なぜ、N絵がこの本を書斎のデスクに置いたのか、そこに興味が湧いて、更に読み進める
英国の経済紙らしく、近未来を多岐に渡って予測した体裁の編集だが、その起源を19世紀半ばの大英帝国をバックボーンに生まれた経済紙らしく、アジアの脅威、アフリカへの危惧を滲ませつつ、最終的には人類の未来を、リベラルで序列に捉われない欧米の科学開発が救うだろう、という楽観論を展開している

その内容の中核を成す、インタネットによるグローバリゼーションという“まやかし”と、高齢化による国民力の低下現象については、なかなか侮れないものと理解していたが、基本、一種国民が住む、適切な広さと自然環境を持つ日本こそ、人類未来の希望の砦であるとの確信は、微塵も揺るぐことはなかった
そのようなことは、賢いN絵ならばとうに理解しているものと思っていたので、その真意を改めて測ってみようと考え、尋ね方について思考を巡らすことで、今日の退屈から逃れられそうだな、と微笑みが浮かぶ

N絵は、父の経営する会社の倒産に端を発する家族崩壊によって、T大法学部第三類の卒業間近での中退を覚悟したが、卒論テーマに選んだ“日本を動かす力”の取材過程で知己を得た、老人の執事T堂の紹介から、この屋敷に勤める道を選んでいた
静謐が支配するこの屋敷においては、無駄な会話など生まれる余地も無く、この屋敷に住まう五人の関係性は必要なだけの同居感と、世俗を超越しながら、政治の裏舞台で能を舞うがごとき老人の生き様に、感化された者同士の連帯感に満たされているものであった
ごくたまに、月に一度か二度ほど、老人がN絵を抱きしめることもあったが、それは若い男のそれとは違い、まことに静かに、抱きついているだけのものであり、身長170pのN絵に、160pを少々超えるだけの老人が寄りそう様は、母子の抱き合う姿にも似ている
己が相貌が、老人が15才の春、別れた切りの母に瓜二つだということを、N絵は知らなかった

老人の屋敷を、取り囲むように配置されている小山に模した砦の警護隊は、隊長、副長と8名の隊員で構成されており、東を青龍荘・南を朱雀楼・西は白虎舎・北が玄武館と称している
各砦の10名は、2名ずつが週に1日の休暇を与えられ、各棟毎の週2日の全員待機日もシフトすることによって、手薄になる特定日が発生しないよう、また、1日の勤務も時間をずらすことにより、24時間の警備態勢を取っていた
これほどまでの警護体制を取っているのは、それだけ老人に敵が多いことの証左でもあるし、いかに老人が過酷な成り上がり人生を歩んで来たのかが、物語られているようだった

読書の後の応接を終え、一人食事を摂る老人に話しかける隙を見つけたN絵が可愛く問うた
「あのお客さまは、お食事のご相伴がしたかったようなのに、お返しになったんですね」
「あの男は、自分の考えもまとめられないのだ。私が動くのを見極めてから、自分の進む道を決めれば良いと、高を括っているのだ。超人がこの国に現れたことの本来の意味を、分かっておらんのだ」そこまで、一気に喋ると、急に口をつぐみ、N絵の話すのを待つ
「防衛大臣には、御国を守る役割があるので、枠外の力には慎重になってしまうのではないですか」
「ふふん、そこまで考えての上ならいいがなぁ。お前だったら、どうする?」防衛大臣のM崎が、例の超人がイチエフに現れた際の、偵察隊の分析評価と、録画データを持参して老人に報告している時、老人の後ろで一部始終聞いているN絵は、その明晰な頭脳と直感的分析力により、老人の知恵袋として、来客にも執事のT堂にも一目置かれる存在だった
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2018年02月24日

熟年超人の日 stage3 31

老人の朝は早く、四季を通して朝5時に起床し、冬季は12畳ほどの鍛錬の間で、それ以外の季節は中庭に出て、旧日本陸軍の兵式体操の後、木刀素振り100回を2回繰り返してから、朝餉の間に移動して質素な朝食を摂る。その後、書斎に移動して秘書のN絵が用意してくれる話題本を読書、9時から11時までを来客との応対時間とし、11時30分には食堂で、気に入りの料理人の作る栄養バランスに優れた昼食をたっぷり摂る

今朝も同じように朝が訪れる。4月下旬ともなると、そろそろ日の出の時刻だが、あいにく陽が上る方向に1300mほどの山があるので、日の光はまだ届いていない。それでも、辺りは大分明るくなっていて、小鳥たちのさえずりが賑やかだ
むくっと、起き上がると、傍に控えていた秘書のN絵が用意している下着を差し出す、続いて作務衣を用意して待つ間に、老人は寝間着と着ていた下着を脱ぎ捨て、真新しい下着を身に着け、作務衣をN絵が着せてくれるがままに立っている

作務衣姿になると、内庭に降り兵式体操をし終え、見ていたN絵が木刀を手渡す。枯れてはいても、鋭さを秘めた気合を一振りごとに込めながら、100回の素振りをし終える。軽く汗ばんだ額をN絵がタオルで軽く拭き、富士の湧水を入れたコップを老人に渡す
その水を飲み干すと、再び木刀を振り百を数えて、木刀をN絵に渡すと、さっさと部屋に上がり、隣りの朝餉の間に移動すると、執事のT堂がぴたりのタイミングでよそってくれる、朝粥の入った飯茶碗に手を伸ばす
その間、老人も屋敷の者も、誰一人口を利かず、朝の静寂を彩っているのは小鳥の声のみ

朝粥を咀嚼しながら老人は、重ねた時の向こうに在りながら、このところ身近に感じている、過去の時間に身を浸した
粥も食べられなかった子供の頃、怖くて無口な父親を恐れずに済むよう、陸軍の少年飛行兵に応募し、貧しい故郷を出た日、大刀洗飛行学校で訓練に励んだ日、志望した特攻隊が終戦という言葉で消え去った日
その後の激動の日々と、運と度胸と身のこなしでのし上がっていった日々は、さほど脳裏に浮かんで来ず、唯一の青春時代とも言える飛行学校の記憶が、美しい思い出になっていた
敗戦後の日本で味わった激動の人生は、今こうして静寂の日々に洗い流され、ただ終戦のラジオ放送で終止符を打たれたこの国への愛が、憎しみに似た心情に変わり、その後の人生を切り開く原動力になったことが、老人の心の奥底に、澱となって沈んでいる

「で?」朝食を終えた老人が、ぽつりと尋ねる
「10時30分に、防衛大臣がおみえになります」T堂が簡潔に応える
「M崎だな。例の話に進展があったとみえる。第二応接に通せ」はっ、と頭を下げて、T堂がN絵に頷く。N絵は、老人とT堂に会釈をして部屋を出て行く
「私は書斎に居る」そう言い残して、老人も部屋を出て行く。残ったT堂は、老人の使った食器を片づけ始める

書斎の読書机に用意されていたのは、英国のエコノミスト誌編集の『2050年の世界』という本だった
一体、なにをこの私に読ませたいのかと、そのことに興味を持った老人は、斜め読みの速読で、その本を読み始めた
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2018年02月16日

熟年超人の日 stage3 30

そんなことが、知らぬ間に進展しているなどとはつゆ知らず、私は私でT電に告げる金額を1億にするか、5千万くらいにしておいた方が良いのか、そわそわしながら考えていたのだが、そのうち憂鬱がたれこめる
しかし、お金のやり取りをしたその瞬間から、私と超人グリーンマンの立場は変質するはずだ
取り敢えず、宇宙人設定のGは立場など気にしない存在で済むだろうが、お金を受け取った仲介人の私の方は、その後、世間という詮索好きで批評好き、おまけに非難好きの大衆から、打ち付けられる荒波と闘わねばならないだろうし、下手をすると(いや間違いなく)家族にも、その累が及ぶであろうと考えると、気が重くなる(善意は有償であってはならない、というのが日本人の反応だろうな)
*
*

都心に建つTテレビ本社ビル16階にある中会議室のドアを開け、今朝も一番にやって来たO倉は、まだ誰も居ない楕円形のミーティングテーブルを眺めた後、いつもの通りいつもの席に腰を下ろすと、皆の集まる前に昨夜のことを再チェックし始める
そもそもの発端は4日前の月曜日、“昼報ですよ”の終了後に、大学時代からの友人S西からメールが入っていたので、てっきり“飲み”の誘いだと思って、気楽に電話をかけたことから始まった
その時、総理補佐官を務めているS西(民自党4年生議員、宮城選挙区)は、イチエフであったスーパーマンの飛翔動画が、即ネットから削除されたことは総理も了承していることと、にも関わらずA国が関心を持ったこと、そしてそれ以外にも、彼のご老人が動き始めているみたいだぞ、という一報だった

スーパーマンなどというものには、さほど興味が向かなかったが(どうせ動画は手の込んだ悪戯だと確信していた)、政府もA国も、おまけに政治の闇に蠢くフィクサーまでが動き出したとすれば、これはでかいネタになるはずだと、O倉の大衆感覚が反応した

O倉という男は、大学を出て広告会社に3年ほど勤めて、そのうちツテを得てテレAに中途入社、アナウンサーの技量を磨きつつ、持って生まれた大衆感覚で、ニュースの中から問題になりそうな火口(ホクチ)を見い出し、独自に調べた資料を、当時ニュースワイドショーとして登場した『ニューススクェア』の番組スタッフに持ち込むという、アナウンス部の上司の心証を損ねる行為を繰り返した

半年ほどそんなことを続けていたが、そんなO倉を無視し続ける人気キャスターのK谷に腹を立て、居心地の悪くなったテレAを飛び出し、昭和61年7月、32才でフリーランスのアナウンサーに転身する
フリーになってしばらくは日の目を見ない日々を過ごしたが、めげることなく公営ギャンブルの実況中継や、スポーツもの、バラエティの番組などでサブMCをこなして評判をあげ、とうとう46才にしてTテレで、自分の仕切る報道番組『昼報ですよ』のメインキャスターとして地位を確立した
以来16年間、大衆の求めている情報を嗅ぎ分ける嗅覚と、国や大企業のつく嘘を見抜く直感で、事件の奥底にある問題箇所を陽光の下に曝してきた(…と本人は確信している)
そんなO倉だったから、先日の企画会議でフリーのリポーターDを抜擢して、この件の裏に潜んでいる事実を手繰ってみようと思ったのである

それが、昨夜馴染みのショットバーで待ち合わせ、一杯飲りながらS西から聞いた直近の話では、大いに進展していて、原発廃炉をも商売のネタにすべく動いている“現状維持派”、この際宇宙人でもなんでも使って、早急にイチエフ問題を決着させたい“東北復興派”、そこにA国の干渉までもが、からんで来たらしい
どうやらスーパーマンは宇宙人らしいが、仲介をする人物がいるらしく、それも日本人だということで、新たに国粋派の連中まで色めき立っているらしいのだ
ならば、ほかのマスコミ他社に抜かれる前に、この国を救ってくれる宇宙人と、その宇宙人と意志を交わせる人物との接点をできるだけ早く、確立させるのが最優先課題だとO倉は考えていた
それこそがマスコミとして、間違いのない国民世論を創出させるための、使命ではないか!と、O倉は久々にたぎる想いを感じながら、入りの遅いスタッフ連中に少々苛立ちを覚え始めていた
*
*

山中湖と富士山の見える森の奥に、老人の住まいはあった。住まいと言っても、広大な屋敷の敷地の中にぽつんと建つ、数寄屋造りの100坪ほどの屋敷である
屋敷の四方、100mほど距離を置いて、ハイテク機器を装備したコンクリート2階建てビルが、その上に土や木々を載せて、ちょっとした小山(或いは古墳)のように存在し、中には訓練された男たちが10名ずつ待機し、老人の警護にあたっている
当の老人は、執事と身の回りを世話をしてくれる30代の女性、お気に入りの料理人、ボディガードを兼ねる運転手との五人で、その屋敷で暮らしている
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2018年02月04日

熟年超人の日 stage3 29

一般の職員は、5時45分の終業時刻に合わせてほぼ退庁していて、庁内に残っているのは、1課課長のM原や2課長のK川、広報室のM浦のようなキャリア組管理職と、Y岡を始めとする十何人かの調査官たちだけだった
特徴のある呼び出し音と振動が、残って仕事をしている者の大部分のスマホから、持ち主に緊急呼集を伝えられ、受け取った者は無言で立ち上がると、さっと部屋を出て行き、ごく僅か残っている職員はそっと集まり、何事が起きたのか推論を交わすことになった

会議は、この後招集をかけられることになっている国家安全保障会議に、官房長官のK渡が内閣官房として意見具申するための資料の最終案の作成に関するものだった。ただ、会議の冒頭にあたり、官房副長官のW田の発言が、会議出席者の緊張度を一気に引き上げた
「緊急の呼び出しで失礼した。本会議の案件は、このところ衆議を集めているGのことであるが、我々の検討している“イチエフG作戦”について、A国より内容調査をしたき要望が内閣に寄せられたことによる、政府の対応方針の一元化が喫緊の課題になったことによるものである」一瞬、声にならないざわつきが場に流れる

「内閣においても、Gの活用に対して積極利用すべきという意見と、個の存在であり、また地球外勢力との接触への慎重派、さらには我が国の防衛力強化への貢献を意識すべきと主張している国防派など、論を待たない紛糾状態となっているのは、諸君も漏れ聞かれていると思う
すでに、現地にA国原子力委員会から訪問打診も寄せられており、加えて恐らく中央情報局の調査員数名が、既に入国しているであろうという情報もある
我が国としては、痛くもない腹を探られるとともに、その結果報告が我々の想像の及ばないA国政府の過剰反応を引き起こすことは断じて避けたい
以上を勘案して、内閣官房庁として意見統一の上、対応方針案を今夜中に取りまとめたい」強い口調が事案の緊急性と重要性を物語っている

その後、夜を徹して現在の状況確認、Gの能力の再確認、仲介人物であるA氏の人物分析、T電社内の意志不統一の現状、A国情報機関の行動原則確認と、我が国の主権護持範囲の確認が行われ、かろうじて統一意見にまとめられたのは、日付も変わって午前4時になろうとする時刻だった
「それでは、統一具申案の要点を再確認いたします。まず、A国のGに関する調査には基本全面協力をすること。また、早晩A国が知ることになる仲介人A氏へのA国調査員の接触は、これを妨げないこと。それに伴い、A氏身辺警護の公安職員は守備任務の解除、また周辺観察はA氏認可による室内監視システムの設置とし、A氏居住アパートの対面監視班も撤去、代わって同アパート隣室の住民を退出させ、公安職員を入居させること。さらに、A氏の妻および長男家族の身辺警護を隠密に行うものとする
以上は警視庁公安部の管轄とし、内閣調査室は主にA国調査員および工作員の動向を把握、公安と連携してGの扱いが閣議決定されるまで、極力我が国の主権護持を図るものとする」一気呵成に、長時間検討した結果を参会者全員に宣言する内閣審議官のS木であった

年齢的にも精神的にも疲れを覚えた警視庁公安部部長のY之原は、公安参事官のO原とE間と廊下に出ると、ちょっと喫煙室に寄って行こうと二人を誘う
「大変なことになったな」Y之原が、取り出した煙草に火を点けながらぼぞっと言う
「そうですね。しかし、A国諜報員の監視が公安(ウチ)でないのはおかしいですね」Y之原の吸っている銘柄と同じ煙草を吸いながらノンキャリア参事官のE間がおもねるように言葉を発する
「これは、K渡官房長官の思惑ではないでしょうか。どのみち、公安とA国中央情報局との間は、切っても切れない訳ですから」日頃煙草は吸わないキャリア参事官のO原が、漂う紫煙を気にしながら意見を開帳する
そこに、もう一人喫煙室に入って来た者がいる

「おお副長官。一服ですか」Y之原が侵入者に声を掛け、O原とE間は黙礼する
「いやぁ、皆さんお疲れさまです。いい案を出して頂けて、助かります」ぱっと輝くような笑顔を披露したのは、W田官房副長官その人だった
「なにやら慌ただしい空気の流れになってきているようですが、やはりあの方がなにか言い出されているのですか?」Y之原が、部下の二人に情報量の差を意識させるかのように、そう語りかける

「いやいや、それもあるんですけどね、もっと悩ましい方もこの件に興味を持たれたようで、悩ましいですよ。総理もそこもあちらも気に掛けながら、ご自身の信ずる策も確定させていきたいしで、ね」茫洋とした人懐こい面相のW田は、眼差しも穏やかにそう言うと、自身の内ポケットから煙草を取り出し、指先に挟む。そこに間髪を入れず、という感じでE間が火を点したダンヒルを差し出す。日頃煙草を吸わないO原は、その様子を見ないよう、窓の外の東京の目覚め前のぼんやりした姿に目をやり、あからさまな部下の追従に少々気を損ねたY之原と、一瞬アイコンタクトを交わした
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2018年02月02日

熟年超人の日 stage3 28

[ 全てが、急速に動き始める4月22日金曜日 am5:40 ]
『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である』お馴染みのジュブブの睡眠通信だ
『この通信は官の管轄事項外の私的勧告と受け取って欲しい。その理由は、君が超人職務を受理してからの超人活動時間の少なさと今後の上昇についても、些少である可能性が大で、次回判定の際の職責移管条件に抵触する可能性が75%を超える予測値を記録したことにある』
*それは、超人になっている時間が少な過ぎる、ということでしょうか

『その推論は的を得ている』
*ですが、今の世の中の出来事で、災害や偶然の事故にでも出くわさない限り、私個人の正義感だけで超人力を発揮できることなんて、ほとんどないんです。国同士の争いや、宗教がらみのテロとかは首を突っ込まない方が良いと思いますし、ジュブブさんもそんなニュアンスのアドバイスをしてくれていたと思うんですけど(と、反論を試みてみる)
『その視点では正論だが、君は超人として活動していく中で、その行動軌跡と思考力の変遷を示すことこそが最重要課題になっているのだ』
*最重要課題?ですか。そう言えば、なぜ私が超人に選ばれたのか、前任の方もその辺りはぼやかしていましたし、ジュブブさんもまだ教えて下さってませんよね。私は、平均的な日本人で、SFものが好きだから選ばれたんだ、と思ってましたけど、そうなんですよね

『選定要件を大胆に概略すれば、その観点は87%の照合確率を有すると言える。しかし、官が問題視しているのは、その結果超人力を得た君が、第1任期の50公転さえ全うできない確率が上昇しているからなのだ』
(突然、ジュブブの伝えようとしている思念の中の、50公転=50年という言葉の意味が深く私の胸に刺さる)
*それは、超人になってなんらかの活動をすれば、問題が解決するということなんでしょうか?
『レベル1ではその通りだ。地球人として埋もれたままで経過する時間は、なんら成果を生まないということだ。今回は、官の私的勧告として通信回線を開いたのであるから、そのことを丁寧に考察して、君のこれからの行動に反映されることを望んで通信を終える』そのまま、ジュブブの思念は消えてしまった

このアパートの、1階隅の部屋(101号室)のポストに投げ入れられた新聞のぽとりと落ちた音で、目が覚めた。なんだか感覚が研ぎ澄まされているようで、新聞の音がした部屋まで分かってしまう。ベッドに横たわったまま、周囲偵察を働かせると、お馴染みの場所に停まっている筈の、公安さんの張込み車がいない
ふいっと体が動いて、どうしたんだろうと、戸惑いながら私は起き上がった
ジュブブの思念が頭の中にしっかりと残っている。もっと超人になれ、だ
そう言えば、現状のままでも私は超人なので、あれもこれも出来たのに、せいぜい透視や周囲偵察くらいの使用で、この間建設現場でちょっと試してはみたものの、Gスーツ着用時との差別化を意識していて、素のままでは空を飛んでいない
じゃあ、ちょっと試してみようと、念のため周囲偵察をして監視されていないことを確認した上で、部屋の中で体を浮かせてみる。なんの問題も無く、あぐらをかいた状態で体は宙に浮く。そのままくるりと、宙返りしてみる。簡単にやれる
こんなことを、あの新興宗教の教祖もやっていたな、と自分で苦笑してしまう

その後、影スーツの素早い着脱を、想定した動きをしつつ(歩きながら、とか、物陰にしゃがみ込みながら)、それらがスムーズにできるか試す
影スーツをケースに戻して、素早くGスーツを着装することもやってみて、結果自己満足
気分が高揚してきて、ちょっと外に出かけてこようか、という気になる(若い頃はこうだったなぁ…)。その気になりかけたが、今日あたり会社の登記ができたという連絡も入りそうだし、そうなればまた忙しくなる
会社の口座を作り、T電のH本部長に手付金の交渉をしないといけない
時計を見ると6時30を過ぎている

その前夜、4月21日木曜日の18時、内閣官房国家安全保障局局長より情報調査室及び内閣広報室の参事官以上に緊急会議の招集連絡が入っていた
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2018年01月20日

熟年超人の日 stage3 27

リポーターDは、東京に戻る“のぞみ”の車中で、今日の刺激的なインタビューを思い起こしながら、なにか心に引っ掛かるものを感じていた。それは、らしくないスーパーマンのことなのだと感じていた
つまり、あれほど望んでいた、ヒーローであるはずのグリーンマンが、意外にも輪郭のはっきりしない存在だったという想いだ
Aの話す通りなら、本当の危機に遭遇しても、まずAに連絡して、Aがグリーンマンにテレパシーを送って、運良く地球の近くを通りかかるついでに、片付けてもらうことくらいにしか、ならないのではないか
テレビ的に言えば、全然キャッチーでないのだ。いやそれは不謹慎な表現かも知れないが、大衆はどんぴしゃのタイミングでヒーローが活躍しなければ、許さないのだ
例えば、何年か前の外国のフェリーが遭難したとき、そこに現れて陸にそっと置いて、中から助かった遭難者がぞろぞろ出て来るような、そんな絵を望んでいるということだ

ただ、今分かっているAが説明したグリーンマンだったら、そんなタイムリーな活躍なんて期待できない
となると、番組的には以前F原発で飛び回ったGの動画を手に入れ、その動画を流しつつ、各方面の専門家の先生方から、いかにすごいことをGがやってのけたのかを視聴者に強調しておいて、その後、唯一の(念のため裏を取る要あり)仲介人としてAさん登場、となるだろう
Aさんの立ち位置は、見かけどおりの一般人で、Gとの接点を本人の口で喋ってもらい…となると、どうもインパクトが薄い。たまたまGを助けたAさんが、日頃気にしていたF原発問題の解決をGに頼んだだけでは、話に膨らみがない
しかもAさんは、東北の出身でもないし、大きなくくりで日本人、というだけだ。いや、ここはそれを強調して、日本人全体の問題だから、とすればいいのか。あれやこれや、考えているうちに新横浜を過ぎている
そのときふと、今回のことを考えるきっかけになったN市の飲み屋街での、黒いヒーローのことが脳裏に浮かんだ。あの怪人のことにも、確かAは関わっていたはずだ

同じ頃、刑事Kも、あれから署に戻って、やり残していた報告書類を片付けながら、結局Aという人物は一体何なんだと、自問自答していた
話しは筋が通っているし、オチもない。なにか他の企みがあるとは思えない。いや、ひとつあるとすれば、Gを動かすことで、なんらかの謝礼をT電に要求していると、公安のD田警視が言っていたことが心に引っ掛かりを生じさせている
むろん、AにはAの家庭の事情もあるのだろうし、自分がAの立場だったら、生まれてくるこのために、なにか頂けるものなら、それが法外な要求でないのなら、やむを得ないと思う
ただ、子供のころとは言え、出身がF県のKには、Aが損得勘定無しで、F県を救ってくれようとしていると、思っていたかったのだろう
どっちにしても、自分が果たせる役目がこのことならば、Aを助け、結果グリーンマンだろうが、宇宙人だろうが、彼の地をきれいな大地に戻せる力があるのなら、なるべく早く実現させるのだ、と決意していた

公安警視のD田は、内調の知人から気になるメールを受け取っていた
『例の合コン、相手の趣味が変わったようで、取り敢えず様子見になった。また予定入ったら連絡する』とある。内閣の誰かが、Gの扱いを違う面から考え始めたということのようだ

そして、当のご本人、キーパーソンである私は、夕方にはアパートに戻り、明日T電のH本部長と連絡がついたら、1億円のことを言ってみる気になっていた。
これから、マスコミのDさんから、いろいろ頼まれることも多くなりそうだし、今のうちに家族を守れる城を手に入れておいた方が、いいぞ、と虫の知らせがしきりにするから…
posted by ミスターK at 21:55| Comment(0) | TrackBack(0) | SF小説